2019年1月1日、アルプス電気株式会社とアルパイン株式会社の2社は経営統合し、アルプスアルパイン株式会社として産声を上げた。Society 5.0や100年に一度の技術革新が進む、自動車産業の急速な変化に対応するため、人財や技術、ノウハウを融合・活用することで、競争力を強化するためである。しかし、経営統合すれば万事順調になるというほど、簡単な話ではない。これを機に、組織として市場や消費者のニーズに最適化していく必要がある。その一つが、AI人財の育成だった。車の電装化やDX推進といった社会の流れに適応するため、ソフトの開発力向上は急務。AI人財を育成するために、どのような教育プログラムを組んでいくべきか。検討を重ねた結果採択したのが、SIGNATEが提供するeラーニング「SIGNATE Cloud」だった。果たして、どんな魅力を感じて採択を決めたのか、そして導入後の現在、どのような手応えを感じているのか。人事部にて社員教育を担う野崎さんと志賀さんに率直な話を伺った。経営統合を機に、AI教育に本格着手—— AI教育に取り組み始めたきっかけを教えてください。野崎:以前よりAIに関連する前線の職場では、業務の中でそれぞれ取り組みを行っていましたが、会社全体の動きとして本格的にAI教育に着手し始めたのは、アルプス電気とアルパインの統合後からです。2019年に経営統合し、2020年4月から全社員がアルプスアルパインに所属する形になり、そのタイミングで社長から「会社としてAI人財が必要なのだ」というメッセージが発せられました。志賀:昔ながらのものづくり企業という意識が、社内には強く根付いています。それは決して悪いことではないですが、どうしてもハードウェアに意識が向いてしまう弊害もあります。しかし実際には、さまざまな現場や製品で多種多様なソフトウェアがハードウェアに組み込まれて使用されていて、ソフトウェアの影響力はとても大きいのです。電動車椅子に埋め込む自動障害物検知ユニットなど、AIを活用したソリューション開発も動き出しており、AI人財育成の重要性は明らかでした。野崎:そこで、AI人財育成の第一歩として、ソフトウェア教育を全社的に行うことに決めたのが2019年末のこと。ちょうど、2020年の新入社員教育を策定するタイミングでした。志賀:2020年は初年度ということもあり、AI教育は実施せずに新入社員研修の中で全職種向けのソフトウェア研修を行うにとどまりました。2021年ではAI教育を実施すべく、その企画を練っていたのですが、これが一筋縄ではいきませんでした。eラーニングであれば、職種ごとのレベルに合わせて教育可能—— さまざまな選択肢があるなか、「SIGNATE Cloud」を導入した決め手は何でしたか?野崎:AI教育を設計するにあたって、まず初めに考えたのはどのような形式で実施するかということです。社内の有識者を集めて内製化するのか。それとも外部のプロに力を借りるのか。外部にお願いするなら、講師を呼んで講義や集合研修を行うのか、eラーニング形式が良いのか。慎重に議論を重ねました。志賀:その際に参考になったのが、2020年度に導入したソフトウェア教育での学びです。全職種を対象に実施していたのですが、職種により理解度に違いが出ていたんです。おそらくAI教育でも同じようなことが想定されるはず。それなら、それぞれの知識やレベルに合わせた教育を行った方が効率的ではないかと考えました。野崎:eラーニングに一番魅力を感じたのは、その受講者への最適化という部分でした。講義形式でも、都度内容を変えることはできますが、工数や費用も嵩んでしまいます。一方、eラーニングであれば、既存コンテンツの取捨選択で、容易にレベル別のコースを作成することができますから。志賀:特にSIGNATEさんは、初回の打ち合わせで職種間の知識レベルの差について相談した際、その場ですぐにレベル別のコース作成を提案してくれました。こちらの意図や悩みを適切に汲み取り、それを解決できる提案をしてくれたので「SIGNATE Cloud」の導入を決めました。全くの未経験でも、意欲高く学べるような工夫を—— 運用していくうえで、どのような点を工夫されましたか?野崎:導入を決めた後、各コースの詳細なコンテンツ内容や、運用の設計等をしていくのですが、ここは特に問題もなくスムーズに進められました。まず、コースに関してはソフトウェア関連職種の理系、それ以外の理系、文系という3コースに分けました。この分類の分け方としては、弊社はものつくりの会社で機械・電気専攻の新入社員が多くいます。その他の専攻というと情報系、化学、材料等です。その専攻割合を把握し、①情報専攻又は自信のある人用コース(経験者)、②初めてAI、IoTに触れるコース(初心者)、③文系コースと決めていきました。志賀:各コースの内容は、SIGNATEさんのアドバイスを受けながら決めていきました。特に工夫したのが文系出身者向けのコースでした。文系出身者は一般的にAIやデータサイエンスの知見が高くなく、また、業務ともそこまで関連していないのでモチベーションが保てないのではと危惧したのです。そこで、AIに関するものだけではなく、表計算ソフトでの評価分析コンテンツ等、普段の業務で使えそうなものも織り交ぜながら設計していきました。野崎:運用についても、あまり悩む部分はありませんでした。各コース別に受講対象者は決めていましたし、コース別に必修とするコンテンツも決めていました。オンラインで実施できるので、受講場所や日時の調整も必要なく、とてもスムーズでした。志賀:企画を設計していた2020年秋頃の時点では、実際に教育を開始する2021年の新型コロナウィルスへの状況やその対応も全く読めませんでした。そうした意味では、もし講義形式を選択していた場合は、さまざまな可能性を考慮しながら周到に準備する必要があったと思います。これもeラーニングを選んでよかったと思うポイントの一つです。知識のインプットから知識の活用へ、教育を進化させていきたい—— 「SIGNATE Cloud」を導入いただいた効果はいかがでしょうか?野崎:新入社員研修後、受講者の新入社員にアンケートを取りましたが、ポジティブなフィードバックが多かったです。懸念していた文系出身の社員からも、eラーニングに織り交ぜられていた表計算ソフトでの評価分析コンテンツ等の講義がとても役に立ったという声があり、モチベーション高く学んでくれていたと思います。また、新人教育への「SIGNATE Cloud」の導入と並行して、他社員への教育についても技術の教育担当部門と連携、主管を取ってもらい導入へと進めました。現在(2021年7月)は全ての職種の社員へ展開がされており、ソフトウェア・DX・AIに関心があったり、興味を持っている多くの在籍社員がコース別のeラーニングに取り組んでいます。志賀:コンテンツ内容だけでなく、受講開始前にSIGNATEさんから一コマ講義をしてもらったのですが、これも好評でした。AIを学ぶ重要性や意義をインプットしてもらう内容だったのですが、ただ受け身でプログラムをこなすのではなく、その先の目的まで意識して学ぶスタンスを醸成してくれたと感じています。—— 今後、取り組んでいきたいことは何ですか?野崎:第一歩としてのAI教育としての手応えは感じていますが、これで終わりではありません。現在行っているのは、AIに関する基礎知識のインプットです。その知識を仕事で活かし、ソリューション開発へと反映させていくことが目的です。知識の現場活用という観点で、次のステップのAI教育にも取り組んでいきたいです。志賀:全職種の新入社員へのAI教育は今年から実施しましたが、営業等の職種では配属先の先輩社員が、AIの知見をあまり持ちあわせていないということもあり得ます。そうした環境でも、自主的に学び続けてくれるような環境を作りたいです。そして、若手社員が先輩社員にAIについて教える。そんな光景を社内で見られるようになったら素敵だなと思っています。豊富なコンテンツで各社のニーズに合わせた教育が実現できる—— ありがとうございました。最後に「SIGNATE Cloud」を検討している企業へのメッセージをお願いします。野崎:「SIGNATE Cloud」はコンテンツの種類が非常に幅広いのが特徴だと思います。当社でレベル別に3コース開設できたのも、それが理由の一つ。また、AIやプログラミングだけでなく、その周辺知識を学べるコンテンツも揃っているため、各社のニーズに合わせた教育が実現できると思います。志賀:当社もそうですが、教育や研修を考えるのは人事という会社が多いと思います。そして、人事は文系の方が多いのではないでしょうか。そうなると、開発現場のニーズを正確に理解して、それに応える教育プログラムを完全内製化するのは難しいはず。そんな時は、外部のプロの知見を頼ることをおすすめしたいです。※掲載内容は取材当時のものです。