SMBCグループにおけるIT戦略の中核を担う株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)。同社では、専門人材だけでなく、あらゆる社員がデータに基づいて価値を創造できる組織を目指し、その施策の柱として社内データ分析コンペを継続的に実施しています。当初、専門部署が主催するイベントとして始まったこの取り組みは、全社的な育成施策へと進化する中で、参加者の学習体験とエンゲージメントを一層向上させるべく、プラットフォームを「SIGNATE Cloud」へと切り替えました。その結果、参加者満足度は飛躍的に向上し、リピート率約4割という高いエンゲージメントを生み出す、重要な施策へと成長を遂げています。なぜ同社は「コンペ」という手法を選び、「SIGNATE Cloud」導入によって何が変わったのか。施策を推進する人事部の齊藤様、データサイエンスグループの村上様にお話を伺いました。すべては「挑戦の場」から始まった。育成だけでない、コンペ形式を選んだ理由―― まず、データ分析コンペというユニークな取り組みを始められた背景について、詳しくお聞かせください。齊藤:データ分析コンペを開始した当初は、先端技術ラボというAI、ブロックチェーンなどの先端技術の調査・研究、実装を行う専門組織が主催していました。明確な「育成施策」というより、「イベント」としての色合いが濃かったと記憶しています。当時、社内ではデータ分析に限らず、セキュリティ分野のCTF(Capture The Flag)など、社員が自主的に参加してスキルを競い合うイベントが盛り上がりを見せていました。コンペもその文脈の中で、「社員が自ら挑戦する場を増やしていこう」という機運から生まれました。当社はSMBCグループのIT戦略を担う企業として、専門分野の人材強化を進めていますが、どうしても専門知識が一部の組織に所属する人材に集中してしまうという構造的な課題がありました。多様な人材が活躍できる強い組織を作るためには、この「裾野」を広げていくことが不可欠です。そこで、最初から「研修」として構えるのではなく、誰もが気軽に参加できるイベントとして間口を広げ、データ分析への関心を高めることから始めようと考えたのです。村上:私はデータサイエンスグループに所属しており、コンペの運営にも携わっています。当時から感じていたのは、データ分析はリスキリングのテーマとして非常に親和性が高いということです。環境構築が比較的容易であり、テーマが分かりやすく、かつ自身の成果がスコアとして明確に見える。これは専門部署以外の社員にとっても「はじめの一歩」を踏み出しやすい点が大きな魅力です。今後、データ利活用の領域はさらに広がり、AIモデルが組み込まれたアプリケーションを構築するなど、業務システムを企画する機会は確実に増えていきます。その時、機械学習の知識がゼロの状態から始めるのではなく、コンペで1度でも触れたことがある、という経験は非常に大きなアドバンテージになります。そうした意味でも、このコンペは非常に価値のある取り組みだと感じています。「イベント」として始まったコンペが、全社的な施策へと発展する中で、どのような課題に直面されたのでしょうか。―― さまざまな選択肢があるなか、最終的にSIGNATE Cloudを選んだ決め手は何でしたか?齊藤:施策の目的が「裾野の拡大」へとシフトし、参加者が増えるにつれて、利用していたプラットフォームの課題が浮き彫りになってきました。特に大きかったのは、初学者にとって操作があまり直感的でなく、参加への心理的なハードルが高かった点です。また、初めてデータ分析に取り組む方に向けた学習機能が不十分だったため、学びと実践に隔たりがありました。これでは、参加者にとっては「スキルを身につける」というより「ただタスクをこなす」体験になりがちで、さらなる学びに向けたモチベーションは生まれづらいと感じていました。村上:学習環境が整っていない点は大きな課題でした。PCのスペックに左右されてしまっては、誰もが公平に挑戦できるとは言えません。また、コンペで成果を出すには、ツールの使い方だけでなく、背景にある理論の理解も不可欠です。学習機会が十分に提供されていないと、一部の意欲の高い社員しかついていけず、結果として育成施策としての効果が限定的になってしまう。そんな強い懸念がありました。「学びと実践の好循環」を生んだ「SIGNATE Cloud」という選択―― プラットフォームを切り替えるにあたり、「SIGNATE Cloud」を選ばれた決め手は何だったのでしょうか。齊藤:いくつかの要素がありますが、最大の決め手は、私たちが抱えていた課題をすべて解決してくれるものだった、という点に尽きます。第一に、SMBCグループ内での活用実績があり、安心して導入できるという信頼感。第二に、直感的なUI/UXです。私たち自身も研修で利用した経験があり、これなら初学者でも迷わず使えると確信していました。そして何より重要だったのが、eラーニングと実践の場であるコンペが、一つのプラットフォーム上でシームレスに連携している点です。インプットからアウトプットまでをサイクルとして回せる環境は、参加者が自身の成長を実感しながら学べる、理想的な学習体験を提供してくれると考えました。村上:データサイエンスグループとしても、「SIGNATE Cloud」の導入は非常にポジティブでした。私の所属部署には、普段からSIGNATEの公開コンペに参加しているメンバーが数多く在籍しています。そのため、導入後の参加者への技術的なフォローや質問対応など、社内のサポート体制をスムーズに構築できる点は大きなメリットでした。運営側がプラットフォームを熟知していることは、参加者にとっても大きな安心材料になったと思います。データ分析組織の企画運営や人材育成を担う立場として、学習から実践までが一気通貫している環境は、参加者のスキルアップを効率的に後押しできる、非常に優れたソリューションだと評価しています。―― 実際に「SIGNATE Cloud」を導入されて、どのような成果がありましたか。齊藤:成果は、参加者の反応に明確に表れました。導入後に実施したアンケートでは、システムの使用感に関する満足度が5段階評価で0.5ポイントも向上したのです。これは非常に大きな変化です。「UIが直感的で迷わず使えた」「学習の進捗状況が見えるのでモチベーションが維持できた」といった、まさに私たちが期待していた通りのポジティブな声が多数寄せられました。エンゲージメントの面でも、確かな手応えを感じています。現在開催中のコンペでは約140名が参加していますが、驚くべきことに、そのうち約50名が昨年度からのリピーターなのです。一度参加した方が「また挑戦したい」と思ってくれる。これは施策を継続する上で非常に大きな成果であり、参加者がコンペに価値を感じてくれていることの何よりの証左だと感じています。若手社員の学習意欲をより多くの社員に浸透させたい。全社でのデータ活用に向けた次なる挑戦―― 多くの参加者を集め、高いリピート率を誇るコンペですが、参加者の層に特徴はありますか。齊藤:昨年度の実績では、参加者の6割以上が20代でした。やはり若手社員はデータサイエンスへの関心や学習意欲が非常に高い傾向にあります。彼らが積極的に参加してくれることは、施策の活性化につながるため大変喜ばしいことです。――一方で、参加者の層をさらに広げていく上での課題は感じていらっしゃいますか。齊藤:中堅層や管理職層へのアプローチは、今後の大きな課題だと認識しています。30代、40代になると、日々の業務もより一層忙しくなり、新しいことを学ぶ時間を確保すること自体が難しくなります。また、「データ分析」という言葉に対して、どこか心理的な抵抗感を持ってしまう方も少なくないのが現状です。村上:若手社員の提案に対し、上長がデータ分析の価値や可能性を理解しているかどうかは、組織全体のパフォーマンスに大きく影響します。若手の意欲を最大限に生かすためにも、幅広い層がデータドリブンな考え方を身につけ、それを歓迎するカルチャーを全社的に醸成していく必要があります。――そうした課題に対し、どのような工夫をされていますか。齊藤:広報活動には力を入れていますが、新人若手に対する施策が中心です。今年は新人研修の会場に私たち自身が出向き、「ぜひ参加してほしい!」と直接呼びかける、といった泥臭い活動も行いました。社内のポータルサイトやオフィス内のデジタルサイネージでの告知は行っていますが、今後はより幅広い層に向けた発信や表彰制度なども検討していきたいと思います。村上:年次の近い先輩社員から後輩へ、といった口コミでの広がりも大切にしています。また、私のようなキャリア入社者向けのコミュニティーがあり、そこでの情報発信も行っています。ただ、年次が上がるにつれて、一様なアプローチが難しくなるのは事実です。今後は、各層に響くような、より多角的な情報発信や仕掛けが必要だと感じています。コンペが組織にもたらすもの。自律的な学習文化と、その先の未来へ――プラットフォームの改善だけでなく、「コンペ」という形式そのものにも高い育成効果を感じられているそうですね。村上:通常の研修とコンペが決定的に違うのは、「明確なアウトプットの場」があることです。自分の実力がスコアという客観的な指標でリアルタイムに見えるので、参加者も主体的に学びを進めやすい。参加者自身が成長を実感できることが、モチベーションの維持・向上に不可欠です。その点で、コンペは非常に優れた仕組みだと考えています。齊藤:コンペのテーマと業務との関連はなくとも、「データに基づいて仮説を立て、検証し、改善する」という一連の思考プロセスは、あらゆる業務に応用できるという声が参加者から多く挙がっています。ランキングやスコアといったゲーミフィケーション要素が、参加者の「もっと上を目指したい」という健全な競争心や探求心を刺激し、主体的な学びを促進してくれている面も大きいですね。――最後に、この取り組みを通じて目指す今後の展望についてお聞かせください。村上:一人で黙々と勉強を続けるのは、どんな分野でも大変なことです。後はこのコンペを通して参加者同士が教え合い、学び合うコミュニティーへと発展させていきたいと考えています。その一環として、私たちデータサイエンスグループが参加者の質問に直接答える相談会のような場も設けています。こうした取り組みを通じて、社員一人ひとりが自らキャリアを描き、主体的に学び続ける、そうした自律的な学習文化を醸成していきたいです。最終的には、ここで得た知見やスキルをビジネス価値の創造につなげていくことが私たちのミッションです。そのための土壌を、このコンペを通じて今、まさに耕している段階だと考えています。齊藤:コンペという「挑戦の場」があることで、社員の意識は確実に変わってきています。今後はPythonを用いたデータ分析だけでなく、より多くの社員が参加できるようなコンペ形式も検討していきたいですね。単に精度を競うだけでなく、ビジネス課題への提案を問うような、より実践的なテーマにも挑戦できればと考えています。イベントとして始まった一つの挑戦は、今やデータ利活用カルチャーを全社に浸透させるための、力強いエンジンとなっています。社員一人ひとりの「やってみたい」という思いを成長につなげるための取り組みをこれからも続けていきます。——今回のインタビューを通じて、人事部とデータサイエンス部門という二つの専門組織が強力なタッグを組むことで、いかにして企業の「カルチャー」を醸成していくか、その貴重な一例を伺うことができました。「社員に挑戦の機会を提供したい」という齊藤様の思いと、「データ活用の価値をビジネスにつなげたい」という村上様の思い。その二つが重なり合い、相乗効果を生んでいるからこそ、日本総研様のコンペは多くの参加者を引きつけ、高いエンゲージメントを生み出しているのだと感じました。今後、この取り組みがさらに進化し、日本総研様がこれまで以上に業界をリードしていく存在になることを、心から期待しています。齊藤様、村上様、この度はインタビューへのご協力、誠にありがとうございました!※掲載内容は取材当時のものです。