研究開発戦略として、AIを活用した創薬や異分野融合によるイノベーションの創出、DXによる最先端の研究拠点の整備などを通じて、国内外における研究領域および事業領域の拡大を進めているクミアイ化学工業株式会社。「情報システムや情報セキュリティに関して苦手意識を持っている社員が非常に多い」と話す浜口さん。DXを推進していく中で情報セキュリティも学べるSIGNATE Cloudは、その課題解決につながると考えて導入に踏み切ったそうだ。今回、総務部ICT推進課の浜口さん、芹澤さんの2名にSIGNATE Cloudをセレクトした理由や活用方法、導入によって実感できた効果などをお聞きした。多様な背景の社員が集まる総務部ICT推進課—— まずは一人ひとり簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか?芹澤:情報処理の専門学校を卒業後に当社の情報システム子会社「ケイアイ情報システム」に入社し、主に親会社含めグループ会社のシステムの開発、保守、運用に従事していました。2017年のイハラケミカル工業との合併をきっかけに、両社の基幹業務システムを担当していたこともありITシステム推進部(当時)に転籍しました。主な業務は基幹業務システムの開発・保守や、ネットワーク・インフラ・セキュリティの管理業務などです。浜口:私は総務部ICT推進課の課長を務めています。様々な部署を経験後、クミアイ化学の情シス担当をしていました。2017年のイハラケミカル工業との合併時にシステム担当から一時的に外れましたが、その1年後に基幹業務システムのリリースプロジェクトに参画し、2021年にICT推進課が創設されてからは現職に就いています。ICT推進課は社内の情報システムや情報セキュリティの統括を担っており、私はマネジメントや教育の分野を担当しています。ICT推進課には、子会社にいた頃からこの分野に従事していた芹澤のようなメンバーや、全く関係のない分野から異動してきた方、もともと他社で情報システムを担当していたキャリア採用の方など、さまざまなバックグラウンドの人間が在籍していて、ある意味で「偏っていない」のが強みと感じています。情報システム、情報セキュリティの重要性を理解してほしい—— 「SIGNATE Cloud」導入前のDX・データ人材の育成に関する課題感や、導入にあたっての目的がありましたら教えてください。浜口:農業分野において、デジタル化がなかなか進んでいかない社内文化に課題感を持っていました。非常にアナログなやり方で仕事を進めている部署もあって、どうしても情報システムに関して苦手意識を持っている方が非常に多かったですね。「システムやセキュリティに関しては、その分野の人間に任せればいいよね」という風潮がどうしても抜けず、「苦手だから任せるよ」というような人が非常に多いのが課題としてありました。その一方で、テレビCMをはじめさまざまなメディアでDXに関して大々的に取り上げられていて、その情報に踊らされてしまい、情報セキュリティの問題を検討しないでサービスの開始を求めてくるような声も多く挙がっておりました。芹澤:以前は情報セキュリティ研修として各事業所に訪問していたのですが、コロナ禍の影響で訪問する機会が減ってしまい、人材育成の方法についても課題感を持っていました。そんな頃に、SIGNATE Cloudのサービスを知りました。浜口:コロナ禍でテレワークやWeb会議の需要が急速に広がっていき、自社でもセキュリティ面よりも、迅速なサービス導入を強く求める時期がありました。「なぜ導入できないのか?」「他社はできているのに」というような意見が多くあがり、セキュリティの重要性を理解してもらうのが難しかったです。「DXリテラシーを学ぶ中で情報セキュリティも学べるツール」として導入—— そうした中、「SIGNATE Cloud」を導入した背景はどんなものでしたか?浜口:SIGNATEさんとは、2022年4月にデジタル変革カンファレンスでの講演を聴講したのがきっかけで知り合いました。そこでSIGNATEさんの取り組みなどを説明いただき、当時コンペティションの仕組みをとても面白く感じたのを記憶しています。当時、弊社ではさまざまな教育コンテンツを比較検討していたタイミングでしたが、社内のリテラシーを考慮すると「コンペティションの開催はまだ早いな」と考えていました。そこから約1年後、2023年4月にDXリテラシー標準準拠コースのキャンペーンのご案内をいただいた際、「まずは試しに導入してみよう」と半ば軽い気持ちで人事部も巻き込みながら、全社員向けの教育コンテンツとして採用させていただいた経緯があります。当時の説明資料で、リテラシー標準における「How(データ・技術の利活用)」の箇所に留意点としてセキュリティの項目がありました。単純に情報セキュリティの注意点を学ぶというよりも、「DXに関するリテラシーを身につける中で、留意点として情報セキュリティも学べる」という視点で導入すれば社内の浸透がしやすいのではないかと考えて、社内説明資料もその点をアピールしましたね。DXに関する危機感の上昇、苦手意識の低下—— 導入から間もないですが、「SIGNATE Cloud」の導入によって効果は表れ始めていますか?浜口:まだ目に見えて大きな成果は感じられていませんが、各社員のeラーニングのモチベーションに関して積極性が出てきた感じはあります。社内の各部門から、「DX」「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」といった単語がよく聞かれるようになり、DXに関する危機感が高まったり、苦手意識が低下したりといった印象を受けています。DXについてよく分からなくても、「最近流行っているから触れなきゃいけない」という意識を持つ社員が増えてきているように感じますね。芹澤:今回、全役職員が受講し、97%の社員が最後まで修了しました。その後の追加のスキル計測テストも多くの社員が実施してくれ、さらにスキルアップをしていきたいという意欲のある社員も各部門に多くいることがわかりました。導入前には本気で取り組んでくれるのか不安に感じていた中で、多くの社員が実施してくれた点については、大きな成果であると感じています。浜口:まずは「DXリテラシー標準」の入り口に立てたのかな、というイメージです。想定よりも80人ほど多い応募が集まった—— その中で、ネクストステップとして「AI・データ活用実践スキル認定プログラム」を公募しているということですが、すでに多くの人数が集まっているとお聞きしました。浜口:我々が想定していた人数よりも多くの応募がありましたので、それだけ皆さんのモチベーションやスキルアップしたい気持ちが高まっているのだと感じています。もともと多くても200人ほどを想定していましたが、すでに280人程度の応募を受けています。一方で、課題点も浮かび上がってきています。講座を受けることでステップアップしていく中で、学んだことを活かすべく、社内の様々なデータを実際に自由に使いたいという話が出てくると思います。その際にデータ活用に関するセキュリティへの意識をおざなりにしないよう、受講者の皆さんにどのように伝えていくべきかを検討しているところです。生成AIであれ、Pythonのような言語であれ、現場で活用していくことが非常に重要であることは理解しておりますが、弊社では環境整備の側面で遅れをとっていると感じています。適切な環境を提供することで、今後受けることになる講座での学びがより活きてくるのだと思いますし、SIGNATE Cloudで提供されているようなコンペティションも将来的には実施できるようになれば良いなと考えています。—— 今回、新入社員にも「SIGNATE Cloud」を受講してもらう予定なのですよね?浜口:もちろん、受講していただく予定です。但し、いきなりネクストステップの位置付けではなく、DXリテラシー標準入門をはじめに必ず受けてもらうようにしています。その後、希望者にはネクストステップまで受講してもらうという流れはあります。受講を通じて新入社員がめきめき成長し、それを見た先輩社員が危機感をもち、切磋琢磨出来るようになると理想的です。—— 社員に「SIGNATE Cloud」を受講してもらう上で工夫した点はありましたでしょうか?芹澤:プレッシャーを感じていただくためにも、こまめに進捗率を社内にアナウンスしていました。浜口:特に部門長から組織内に指示していただくように働きかけはしました。部門ごとに進捗率を提示することで、たとえば支店単位でも「他の支店は全体で8割進んでいるのに、その支店は2割しか進んでいない」といった状態が継続していると、本社販売部門の部長から状況確認の連絡が行くようなこともあったようです。どちらかというと部門長に向けて、周囲の部門に遅れを取っていることをアナウンスさせていただきました。立場上、部門長の方々からは煙たがられる事が多いですので、それをうまく活用しながらアナウンスさせていただいたイメージですね。システムの力で会社全体を引っ張っていけるような人材が育ってくれると嬉しい—— 「SIGNATE Cloud」は御社の社員にとってどのような位置づけになっていますか?浜口:「システム教育ツール」として広く認識されるようになってきていますが、まだ1回しか実施しておらず、位置づけは今後明確になってくると思っています。せっかく導入させていただいていますので、私たちとしても成績優秀者を呼び寄せて、システム部門に取り込んでいけるとありがたいです。いつになるか分かりませんが、このような教育ツールが人事評価にもつながっていけば良いと思っています。—— 学習が深まっていく中で、今後の社内の変化について期待することはありますか?芹澤:社内の各部門でDX推進の方針を掲げて、デジタル化を進めていく中で、自分たちでさまざまなソリューションの導入を検討できるようになってくれると嬉しいですね。ただ、先ほど浜口が言ったように、ソリューションの導入で利便性や効率化を優先する一方で、セキュリティや運用ルールなどの観点で考えが及んでないといった課題が残されていますので、我々システム部門と協議しながら導入を進めるようになればと思っています。—— DX全般の視点から、今後取り組んでいきたいことはありますか?浜口:我々の農薬業界では、Dの部分(デジタル技術を使いこなす)は進めやすい一方で、Xの部分(企業構造・ビジネスモデルの継続的な変革)は新たなビジネス形態を簡単に構築できるわけではないと言う点で非常に難しいと考えています。そういう意味では、DXの実現はなかなか難しいですが、業務効率化などでDの部分を推進した結果、DXに近づける可能性はあると思っています。芹澤:依然として紙ベースでのやりとりが根強く残っている業界ではありますが、可能な範囲でコンテンツのデジタル化や、データ共有の方法・ルールの整備などを推進していく必要性は感じています。デジタル化の可否は別にしても、「この資料って、紙である必要あるか?」といった議論が積極的に交わされるような現場であってほしいですね。パソコン推進者のスキルアップで現場のレベルを上げたい—— 最後に、今後の人材教育・育成について進めていきたいことはありますか?浜口:弊社は本社が東京ですが、研究所が静岡に2拠点、工場が全国に3拠点、支店が7拠点あります。これらすべての拠点に対して、きめ細かな対応が可能かというと非常に難しいです。そのため、各部署・各事業所には我々との窓口も担ってくれる「パソコン推進者」と呼ばれる役割をもつ方がいます。この「パソコン推進者」は決して専門スタッフではありません。中にはパソコンに詳しくない方が役割を担う場合もあります。こうした「パソコン推進者」のスキルアップをしていくことで、全体のレベルの底上げが図れるのではないかと考えています。たとえば、我々の部門との間で人事交流を行うといった施策も面白いと思いますが、人員の問題からなかなか実現できずにいます。各現場においてSIGNATE Cloudのようなコンテンツ受講によってスキルアップしていくことにより、我々システム部門と共通言語として話をすることが可能となってきます。そうすることで私たちが意図している事を現場に伝えることも容易になる環境が出来てきます。複数の事業所を持つ比較的規模の大きい会社だからこそ、各事業所との目線合わせが大切であると痛感しているところです。芹澤:eラーニングなど、今まで弊社で導入してこなかった施策を活用して、特に積極的にスキルアップをしていきたい従業員を中心に、そのスキルを各業務で活かせるようになってほしいです。※掲載内容は取材当時のものです。