今や、業界や職種を問わず、ビジネスのあらゆる場面にAIが根付き始めている。ともすると、技術職だけでなくどんなビジネスパーソンにおいても、AIスキルを身に付けておくことは有益な時代である。国としてもAI教育に力を入れる姿勢を示しており、一部の大学ではデータサイエンスやAIに関する授業を必修にする動きもある。こうした流れに沿った教育を行うべく、津山工業高等専門学校ではSIGNATEの提供するeラーニング「SIGNATE Cloud」の導入を決定した。他にも、地元企業の株式会社マルイによるAIに関する出張授業も取り入れている。決してAI教育が進んでいるわけではないという岡山県北において、その先駆けとなるような教育に舵を切った理由は、果たしてどこにあったのか。岡山県にある津山工業高等専門学校にて教務主事(副校長)を務めながら、技術部長も兼務している薮木さんにお話を伺った。AIには、本校の教育方針や既存のシラバスとの親和性を感じていた—— AI教育の導入を検討した背景を教えてください。本校は総合理工学科の1学科体制をとっており、その中で先進科学系、機械システム系、電気電子システム系、情報システム系の4つの分野に分かれています。いずれの分野でも工業に特化した教育を行っていますが、学びの特徴として「融合教育」を掲げています。これは、複雑化が進んだ現代社会において、専門分野だけを学んでも応用させることが難しく、領域を横断した知識が必要であるとの考えに基づいたものです。実際に、専門分野に特化していく高学年においても、専門以外の分野の教育を受けるようなシラバスを設計しています。こうした「融合教育」を行う本校にとって、AIは非常に親和性が高い分野でした。AIは理工学の分野でも広く用いられており、学科内の4分野全てと有機的に関連づけて学ぶことができます。各所でDXの推進が急がれているように、社会に出た後に知識を活かせる場は今後ますます増えていくはずです。こうした背景もあってAI教育の導入を以前から検討していました。株式会社マルイの出張授業を機に、多くの学生への教育が必要だということに気付いた—— AI教育に取り組むなかで、どのような課題がありましたか?AI教育の必要性を感じ始めていた頃、普段よりお世話になっている株式会社マルイから「AIに関する出張授業をさせてくれないか」とお話をいただきました。まさに渡りに船の申し出でしたので、すぐに実施を決定しました。現在、3、4年生を対象に志望者を募って演習系科目の扱いで第1期を実施していますが、皆モチベーション高く参加しています。株式会社マルイの保有するデータを扱いながら予測モデルを作成するワークもあり、実践的な学びが得られる内容となっており、手応えを感じています。こうした取り組みは、地域の活性化にも繋がると考えています。授業を通して、地元企業が抱えている課題を解決していくこともできますし、そうした経験を持った学生が地元企業に就職してくれれば、将来的には岡山県としての生産性向上にも繋がります。しかし、そのためには多くの学生がAI教育を受けられなければなりません。演習系科目であること、専任講師がついているわけではないこともあり、出張授業では7名に教えるのがやっとという状況でした。どうにか、もっと多くの学生にAI教育を受けさせられないかと考える中、見つけたのがSIGNATEさんのeラーニング「SIGNATE Cloud」でした。学生が自分のペースで幅広く学べるので、学校教育にも取り入れやすい—— 「SIGNATE Cloud」を導入した決め手は何でしたか?「SIGNATE Cloud」は、出張授業をしてくださっている株式会社マルイの方に教えていただいて初めて存在を知ったのですが、導入を決めた理由はいくつかあります。まず一番の決め手は、eラーニングという点です。講師を立てることなく受講対象を広げられるので、一度に多くの学生に教育を提供できます。また、「SIGNATE Cloud」のシステムが、学生一人ひとり、自分のペースで進められるようになっていますので、教育理念の一つに「自律」を掲げる本校との親和性が非常に高かった。さらに、学生の受講進捗状況を管理者側で把握できるので、学習進度に沿ったアドバイスや学生への声がけができ、大変使いやすい教材だと思っています。加えて、教育内容がAIだけにとどまらないことも「融合教育」に相応しいと考えています。ディープラーニングはもとより、pythonをはじめとした基礎的なプログラミング知識や、性能評価など、AIだけでなくデータサイエンス領域のスキルセットを幅広く学ぶことができます。プログラム自体が“実践的”であることも大きなポイントでした。「SIGNATE Cloud」は座学をオンライン形式に仕立て直したような単純なものではなく、基礎知識を自習、習得した後、本校では取りそろえることができない豊富なデータを使用しながら実際にアルゴリズムやモデルを組んでいくワークも盛り込まれています。AIやデータ分析領域のまさに実践的なオンライン教材であり、データサイエンス領域の実学的な学びを学生に提供できることも導入の大きな決め手になりました。いつか、岡山県がAI教育を先導するような存在になれたら—— 薮木さんの今後の展望を教えてください。現在はまだ導入を決めたところで、運用方針は本格導入後に学生の反応も見ながら調整していく予定です。ただ、学生の負荷を考慮する必要はあるだろうとは考えています。学生にとっては、既存科目を学ぶだけでも大変な状況の中、それに加えての受講になるため、学習にかける時間は自ずと多くならざるを得ません。それが学生にとって負担とならないよう、1、2年次に行う4分野共通科目に組み込むなど、シラバスの調整を進めようと考えているところです。運用方法も含め、検討課題はありますが、AI教育が学生にとって有益なのは間違いありません。「SIGNATE Cloud」を用いた授業や、株式会社マルイの出張授業は継続させていく予定ですし、地元就職やUターンを増やすべく、地元と連携しながら岡山県北にAI人材の活躍の場を増やせればとも考えています。今後も、学生と岡山県北の発展に貢献できるようにAI教育を進化させていきたいです。まずは技術のあるプロの手を借りるのがいい—— ありがとうございました。最後に「SIGNATE Cloud」を検討している企業・団体へのメッセージをお願いします。AI教育について検討しているのでしたら、まずは技術のあるプロの手を借りるのがいいと思います。そこから知見を蓄積していき、いずれ専門でない人でも指導できるようにしていくなど、少しずつ前進していけばいいと思います。そうは言っても、まだ私たちも一歩踏み出したばかりです。よい教育方法があれば、ぜひ情報交換したいですね。※掲載内容は取材当時のものです。