2020年3月に、NTTドコモ・KDDI(au)・ソフトバンクの携帯電話大手3社が5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスを開始しました。このことから、2020年を日本における「5G元年」と呼ぶ人もいます。5Gは通信技術の発展を象徴するのみならず、それを利用するインターネットサービスやビジネスにも大きなインパクトを与え、昨今話題となっているDXの推進を加速させる要素としても捉えられています。そこで本記事では、5Gの意味や特徴、5Gの活用で可能になることを分かりやすく解説します。5GとともにDXに関係する他の技術(ビッグデータ、IoT、AI)との関係性や5Gが普及するうえで立ちはだかる課題についても紹介していますので、今後のDX推進にお役立てください。5Gとは?5G(5th Generation)とは、高速・大容量の通信を実現する第5世代移動通信システムのことです。これまでの4Gと比べて、速度や通信容量、基地局からの接続数など、さまざまな面でメリットがあります。1980年代に始まった第1世代(1G)から約10年ごとに大きく進化し、2010年代に普及し始めた第4世代(4G)では、スマートフォンの普及と併せて動画コンテンツや音楽ストリーミング、ゲームといった大容量コンテンツを気軽にスマートフォンやタブレットなどで利用できるようになりました。第5世代(5G)では、スマートフォンの利用体験を向上させる一方で、IoTやビックデータといった側面からビジネスへの活用も期待されています。パブリック5G、ローカル5G、プライベート5G5Gの利用形態には、一般的に5Gと呼ばれている「パブリック5G」のほかに、個別に5Gのプライベートネットワークを構築する「ローカル5G」や、パブリック5Gを部分的に個別占有する「プライベート5G」といった3つの形態があります。パブリック5Gとは、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった通信キャリアが展開しているネットワークのことです。2020年3月から5Gの商用利用が始まり、以降は全国各地でネットワークの整備が進められており、利用エリアが拡大を続けています。パブリック5Gは環境整備の整ったエリアでしか利用できませんが、通信の遅延を4Gの約10分の1に抑えられるため、リアルタイムに近い通信が必要とされる場面(例:自動運転)での活用が見込まれています。さらに、4Gよりも多数の端末を同時に接続できるという特徴もあります。次にローカル5Gとは、企業・自治体などが専用の5Gネットワークを構築し、データを送受信する通信のことです。パブリック5Gの場合、他のエリアで通信トラブルが起きるとネットワーク全体に影響が出てしまいます。これに対して、ローカル5Gには、他のエリアで通信トラブルが起きたりネットワークが混雑したりしても影響を受けにくいという特徴があります。外部のネットワークから遮断された環境でデータを送受信できるため、セキュリティ面が強固である点も特徴的です。そしてプライベート5Gとは、キャリアの5Gネットワークを使って、企業・自治体が特定エリアをカバーした専用ネットワークの提供を受けることです。ローカル5Gを利用する場合は通信事業者としての免許を取得しなければなりませんが、プライベート5Gでは免許の取得は不要です。プライベート5Gは、パブリック5Gとローカル5Gの間に位置付けられます。5Gの3つの特徴と可能になること5Gには、主に以下3つの特徴があります。5Gの特徴補足(4G/LTE※との比較)高速大容量通信下り10〜20Gbps(4G/LTEの約10倍)、上り最大10Gbps(4G/LTEの約100倍)高信頼・低遅延通信遅延1ms以下(4G/LTEの約10分の1)多数同時接続100万台/k㎡(4G/LTEの約30〜40倍)※LTE(Long Term Evolution):携帯電話における通信規格で、3Gと4Gの中間に位置する規格のこと。それぞれの特徴を深掘りしつつ、それによって可能になることを順番に詳しく解説します。高速大容量通信4Gの通信速度は、大まかに100Mbps〜1Gbps程度です。しかし、昨今はユーザー数や送受信されるデータ容量が急増したことにより、大都市を中心に時間帯によって遅延が発生し、つながりにくい事案が発生しています。これに対して、5Gでは高周波帯を用いることで広帯域が確保され、従来の100倍ほどの超高速通信が可能です。これまで処理しきれなかったような大容量データでも、超高速でやり取りできるようになります。これにより、4Kや8Kで届けられる映像コンテンツの配信が可能になります。精細な映像によって、ユーザーにリアリティのある映像体験を提供することが可能です。超高解像度のビデオストリーミングにおいて、大容量データのダウンロードが数秒で完了し、ユーザー体験が大幅に向上するでしょう。高信頼・低遅延通信無線の最小送信単位を短くすることで、送信・復号などの時間を抑え、通信時の遅延が減少していることも5Gの大きな特徴です。総務省の資料によると、5Gは1ミリ秒(1ms:1/1000秒)程度の低遅延とされており、これは4Gにおける遅延の10分の1以下です。5Gに期待される用途には、リアルタイム性・信頼性が高いレベルで求められるものも多くあります。こういった用途では、遅延(要求したあとサーバーから応答がくるまでの待ち時間)を限りなく少なくすることが重要です。高信頼・低遅延通信によって、ロボット操作による遠隔手術や自動運転など、極めて精密な動作が可能になります。高速かつ安定したデータ転送により、手術中や運転中の刻一刻と変化する状況に応じて即座に反応でき、より正確・安全な動作が実現します。参考:総務省「令和2年版 情報通信白書|5Gの利用シナリオと主な要求条件」多数同時接続1台の基地局で同時に接続できるデバイス数が大幅に増えることも、5Gの大きな特徴です。1k㎡あたりの同時接続は、4Gの約30〜40倍にあたる100万台もの端末が接続できます。これにより、従来はインターネットに接続されていなかったモノをネットワークにつなげるIoTの浸透につながっています。IoTは、スマートフォンだけでなくホームスピーカー・テレビ・冷蔵庫・玄関ドアといったさまざまな家電・家具がネットワーク接続に対応する技術です。また、地域レベルのIoTから、政府が推進するスマートシティ構想の実現にもつながります。スマートシティは、地方自治体の取り組みが5Gによって統括・相互通信できる仕組みです。5Gの多数同時接続の特徴を活用すれば、ネットワークを使った廃棄物の管理や交通の監視、公共施設や街灯の整備などを一括管理できます。DXに関係する他の技術との関係性DXに関係するデジタル技術としては、5GだけでなくビッグデータやIoT、AIなども挙げられます。DXを効果的に推進していくためには、5G・ビッグデータ・IoT・AIといった技術を併せて活用していかなければなりません。本章では、5Gとビッグデータ・IoT・AIそれぞれの関係性について順番に解説します。ビッグデータ総務省の資料によると、ビッグデータは以下のとおり定義されています。事業に役立つ知見を導出するためのデータ典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータ5Gが普及すれば、IoTデバイスの受発信に基づく膨大なデータ通信にも耐えられるようになります。その結果、後述する「AI」開発に欠かせないビッグデータを効率良く収集することが可能です。収集したビッグデータの活用事例を挙げると、交通安全のためのデータとしての利用や、渋滞予測としての活用などです。交通事故の低減を実現しつつ、利便性の向上を図っていくうえでも、5Gは欠かせない技術だと言えます。ビッグデータについて理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説しています。ビッグデータの詳しい定義やDX推進における活用メリットについて取り上げていますので、ぜひご覧ください。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリット参考:総務省「平成24年版 情報通信白書」IoTIoT(Internet of Things)とは、日本語で「モノのインターネット」と訳される言葉です。「デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること」を意味します。IoTはモノが直接インターネットにつながっているため、センサーから得た情報を常にクラウドに送信し、データを蓄積していく技術だと言えます。蓄積されるデータの代表例は、スマートフォンが送信するデータや、農業用センサーから取得される天候データ、カメラから把握される人の動きのデータなどです。5Gを利用して、多数同時接続や遠隔地からのリアルタイム通信が可能になれば、企業のIoT化が促進されます。5GとIoTを組み合わせて、遠隔地からのリアルタイムな操作・監視などが実現すれば、業務の効率化につながるでしょう。5GとIoTの組み合わせ事例としては、スマートシティが挙げられます。スマートシティとは、一つの街全体でエネルギーや交通網などのインフラを管理、効率化し、生活の質を向上させる構想のことです。例えば、日中は住宅の電気の消費量が少ないので公共交通機関を優先的に利用するほか、太陽光発電による電力の蓄電を行います。その代わり、帰宅時間以降は住宅へ優先的に電力供給するなど、街全体で効率化を図ることで無駄なエネルギー消費を抑えることが可能です。スマートシティ実現には、エネルギー消費量や交通量、温度や湿度などの環境情報のモニタリングが不可欠で、センサーを内蔵したIoTデバイスが求められます。収集したビッグデータを活用するためにも、超高速、低遅延、同時多数接続が可能な5G技術が役立ちます。IoTについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で取り上げています。併せてお読みいただくと、DXとの関係性や活用メリットをより深く理解いただけます。DXとIoTの関係とは?違いや活用のメリット、事例を紹介AIAI(Artificial Intelligence)とは、日本語で「人工知能」と訳されます。AI技術の主流とされる機械学習は、コンピュータ自身が膨大なデータを学習し、特定のタスクを高精度で処理することを目指した技術です。その中でも、ディープラーニング(深層学習)は、人為的なミスを減らし、高速の処理能力を発揮できる技術として重視されています。精度の高い解析に必要な膨大なデータを収集するためには、IoTが欠かせません。カメラやセンサーとの通信といったIoTの活用により、リアルタイムでより多くのデータ収集が可能となります。5Gの特性によって、多数の端末からビッグデータを効率良く収集できれば、AIシステムの精度向上が期待できるでしょう。つまり、5G・ビッグデータ・IoT・AIは、相互に関係しながらDX推進に貢献する技術なのです。5GとAIの組み合わせ事例としては、診断の高精度化や遠隔医療が挙げられます。例えば、ベテランの医師でも診断を誤ることがあるような難しい症例について、AIを用いた画像分析により誤診断数を低下させるといった活用ケースです。5Gにより高精細な画像を高速通信できれば、さまざまな医療現場で医師がAIを活用し、より高精度な医療を提供できるようになるでしょう。また、高度な医療を受けるためには、多くの場合で主要都市圏に行かなくてはならないのが現状ですが、5Gの超低遅延を生かしたAR技術によって、遠隔からでも医師による直接診断を受けられるホログラムの実証研究も進んでいます。近い将来、距離に関わらず、全ての人により高度な医療を提供していくための努力が重ねられている真っ只中です。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】5Gの普及の課題DX推進にあたってさまざまなメリットをもたらす5Gですが、その普及には以下のような課題が立ちはだかっています。5G向けコンテンツが少ないミリ波帯の端末が普及していないいずれも2024年5月時点で深刻な課題として認識されているものなので、DX推進にあたって把握しておきましょう。それぞれ順番に解説します。5G向けコンテンツが少ない日本における5Gの人口カバー率は、2023年3月末時点で96.6%です。5G対応端末でなければ体感できませんが、広範なエリアで5Gをすでに利用できる状況にはなっています。確かに、5Gは従来の4Gと比較すると圧倒的に超高速で低遅延な通信規格ですが、大多数のユーザーにとっては必須なテクノロジーではないという意見があるのも事実です。4Kや8Kといった超高画質の映像をスマートフォンで視聴する場合、4Gではスムーズに表示されずストレスを感じやすいです。しかし、屋内であれば多くのケースでWi-Fi環境があり、屋外で大容量の通信を望むケースは多くありません。スマートフォンの通信では、Webサイトのチェックやゲーム、SNSでのテキスト中心のメッセージなどが主流であり、現状の4Gの通信速度でも不満を感じにくいです。そのため、5Gが普及したとしても、そこまでの性能は不要であると考えるユーザーが少なからずいます。その結果、5Gに対する設備投資の判断が難しく、投資が滞っています。日本では低価格競争の激化が進んでおり、各通信事業者に対する積極的な投資判断が難しいという事情もあります。これらが要因となって5Gの普及が円滑に進んでいない状況です。参考:総務省「5Gの整備状況(令和4年度末(2022年度末))」ミリ波帯の端末が普及していないミリ波とは、5Gに割り当てられた周波数帯の中で最も高い周波数となっているものです。周波数が高い電波ほど波長は短くなるので、ミリ波の場合は周波数が非常に高い電波となります。周波数が高いほど、多くの情報を載せられます。帯域幅も400Mhz幅と非常に広いため、超高速通信が可能です。しかし、日本ではミリ波帯を用いた5Gの展開が難しく、これが5Gの普及を妨げる要因となっています。実際に、ミリ波帯で処理されているトラフィック量がゼロに近く、ほとんど使われていない実態が明らかになっている状況です。ミリ波帯の5Gがほとんど使用されていない理由の一つに、日本におけるミリ波帯対応の端末がごく一部に限られている点が挙げられます。日本で大きなシェアを持つ米Apple(アップル)の「iPhone」でも、国内販売されているモデルは最新型「iPhoneシリーズ」を含めてミリ波帯非対応です(2024年5月現在)。ミリ波帯に対応した端末がユーザーに普及しなければ、どれほど5Gネットワークを展開してもミリ波帯の活用は増えません。そのため、現在の日本では携帯電話の事業者が積極的にミリ波帯を展開するモチベーションを持てないサイクルに陥っており、これに伴い5Gの積極的な展開も妨げられている状況です。参考:総務省「5GMF白書ミリ波普及による5Gの高度化」まとめ5Gとは、高速・大容量の通信を実現する第5世代移動通信システムのことです。4Gと比べて通信技術が向上しているため、日々の生活やビジネス環境においても大きな変化が見込まれています。企業においては、IoT化や働き方改革の促進、新たな製品・サービスの開発などに役立てられるといったメリットがあります。また、DX推進においても、5Gが大きな役割を果たすと期待されています。5Gによってリアルタイムに膨大なデータを取得し、その分析・活用によって生産性向上につながります。ローカル5Gの実現によって、近い将来には現在のLANのように、容易に5Gのネットワークを構築・利用できるようになるでしょう。5Gの普及には依然として課題が残されているものの、ビジネスのゲームチェンジャーになる可能性とともに、DX推進の追い風にもなる5Gの動向に今後も注視していきましょう。