近年のITおよびデジタル技術の急速な進化に伴い、「DX推進」という言葉を耳にする機会が増えています。ビジネスのあらゆる分野でDX推進の重要性が高まっていますが、その具体的な内容や意義を理解している人はまだ少ないかもしれません。この記事では、DX推進がなぜこれほどまでに大きく注目されているのか、そのメリットを解説します。また、DX推進に伴うデメリットや課題についてもまとめました。DX推進に効果的に取り組むためのポイントを知るための一助として、ぜひご活用ください。DX推進のメリットとは?DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義はさまざまありますが、簡単に言うと以下のとおりです。企業が外部環境の変化やビジネス要求に迅速に対応し、データやデジタル技術を活用して製品・サービス・事業モデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革すること上記の取り組みを通じて、企業は競争力を強化し、持続可能な成長につなげられます。次章では、DX推進によって得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。DX推進の9つのメリットDX推進によって得られる代表的なメリットは、以下の9つです。業務効率化と生産性向上レガシーシステムからの脱却蓄積データの有効活用市場変化への柔軟な対応新しいビジネスモデルの創出働き方改革の実現顧客エンゲージメントの強化BCP(事業継続計画)の強化環境負荷の軽減このように、DX推進には、単純な業務改善から経営戦略上の優位性に至るまで多種多様なメリットが期待できます。それぞれのメリットについて、順番に詳しく解説します。DX推進のメリット1:業務効率化と生産性向上DX推進によってデジタル技術を積極的に取り入れることで、これまで紙や手作業で行っていた多くの業務を効率的に進められるようになります。例えば、クラウドシステムを活用してデータを一元管理したり、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して一部のパソコン業務を自動化したりすることが挙げられます。さらに、DX推進では、単に従来の業務をデジタル化するだけでなく、ビジネスプロセス全体の見直しも行います。組織全体の無駄を洗い出して排除し、より効率的な業務体制を構築することが可能です。その結果、DXの効果は特定の部門にとどまらず、企業全体の生産性向上につながることが期待されます。DXによる生産性向上の具体的なメリットについて、詳しくは以下の記事で解説しています。DXで生産性向上!目的やメリット、改善の4つのポイントを解説DX推進のメリット2:レガシーシステムからの脱却DX推進にあたって長年使用してきたレガシーシステムを最新システムに置き換えることで、システムの柔軟性が飛躍的に向上します。最新システムはスケーラビリティが高く、事業の成長に応じて容易に拡張できます。また、クラウドベースのソリューションを導入すれば、保守・運用コストの削減が可能となり、セキュリティの強化も期待できます。レガシーシステムから脱却することで、新しい技術・ツールを迅速に導入できるようになる点もメリットの一つです。レガシーシステムは長年にわたり部分的なメンテナンスを繰り返したことで、システムがパッチワーク状になり複雑化しています。レガシーシステムの中には、単独業務を管理していて、他のシステムとのスムーズなデータ連携ができないものが多いです。運用が非効率的なうえに、搭載機能が時代にそぐわなくなってきているという問題も抱えています。レガシーシステムの抱える問題が原因の一つとなり、2025年以降に最大約12兆円/年の経済損失が生じるおそれがあると警鐘が鳴らされているのが、「2025年の崖」の問題です。使用中のレガシーシステムを放置すれば、以下のような問題に直面してしまうことが予想されています。爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争に敗れる多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・継承が難しくなるサイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクが高まるその結果、企業を存続させられなくなる事態に陥るおそれがあります。「2025年の崖」問題を克服するためにも、レガシーシステムからの脱却が不可欠です。「2025年の崖」の詳細は、以下の記事で取り上げています。2025年の崖とは?経済産業省のDXレポートを解説DX推進のメリット3:蓄積データの有効活用多くの企業は、これまでに蓄積したデータを効果的に活用できていません。顧客リストやWebサイトのアクセス解析結果など一部のデータを利用する企業はありますが、これらを部門ごとに分散して管理しているケースが多いです。そのため、本来ビジネスに役立つはずのデータが、各部署のサーバー内で活用されずに放置されている状況が見受けられます。DXを推進する際に、ビッグデータ(※)の一元管理システムを構築し、AI技術を活用することで、企業は膨大なデータから有益な洞察(パターン、相関関係など)を得られます。これにより、市場のトレンドや顧客の行動、財務パフォーマンスなどの情報を基に、客観的で正確な意思決定が可能です。※「典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータ」などと定義されるデータのこと。DXを推進する企業において、ビッグデータの活用によって、新たな製品・サービス・ビジネスモデルを構築することは、競争力を強化するために不可欠です。ビジネス戦略や計画の策定、リスク管理の面でも、ビッグデータは重要な役割を果たします。また、ビッグデータを用いた顧客データの詳細な分析により、個々の顧客のニーズ・好みを深く理解できます。これをもとにマーケティング戦略を展開すれば、顧客に合わせた製品・サービスを提供でき、顧客満足度を向上させることが可能です。顧客の行動パターン分析をもとに将来のトレンド・ニーズを予測し、市場での先行者利益を得るチャンスも広がるでしょう。こうしたメリットがあるため、DX推進にあたって顧客満足度の向上を目指す企業の多くは、ビッグデータの活用に力を入れている状況です。DX推進におけるビッグデータの活用について、詳しくは以下の記事で解説しています。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリットDX推進のメリット4:市場変化への柔軟な対応近年、ライフスタイルのデジタル化が急速に進展しています。新しいデジタル技術を採用したスタートアップやベンチャー企業が、既存の市場に大きな影響を与えるケースも珍しくありません。顧客ニーズの急速な変化を実感する企業は少なくないはずです。DX推進にあたってデジタル技術を活用すれば、迅速な市場分析と戦略の見直しが可能になり、変わり続ける市場ニーズに対する適応力が向上します。市場のトレンドや顧客の嗜好の変化をリアルタイムで把握し、それをもとに製品・サービスを迅速に改良できるのです。結果として、市場の変動に柔軟に適応し、競合他社よりも早く対応できるため、市場シェアの拡大が期待できます。また、デジタルマーケティングツール(※)を活用すれば、ターゲットとなる顧客へのアプローチ精度が飛躍的に向上するでしょう。(※)デジタル広告やオンラインプロモーションなどを効率的に行うためのソフトウェアやプラットフォームのこと。例えば、MAツール(マーケティング活動やマーケティング施策を自動化させるツール)やCRMツール(顧客管理ツール)などがある。DX推進のメリット5:新しいビジネスモデルの創出DX推進にあたってデジタルプラットフォーム(例:人材マッチングサービス、シェアリングサービスなど)を活用すれば、新たなサービス・製品の開発が容易になり、新規収益源の創出につながります。ときには既存事業の延長線上にないような、まったく新しい顧客体験を提供できるようになることもあるでしょう。デジタルの力で実現可能になったアイデアが、これまでとは異なる方法で顧客に喜んでもらえる付加価値を創出する可能性があるのです。また、IoTやブロックチェーンなどの先進技術を取り入れることでも、新しいビジネスモデルが生まれて従来のビジネスを革新する可能性があります。例えば、製品・デジタルサービスのサブスクリプションモデルを提供すれば、顧客との長期的な関係を構築し、安定した収益を確保することが可能です。DX推進によって新しいビジネスモデルを創出できれば、新しい市場への参入が容易になり、ビジネスの多角化も図れるでしょう。DX推進のメリット6:働き方改革の実現DX推進の過程でビジネスプロセスを見直すことで、現場の働き方改革を実現できる可能性があります。リモートワーク・テレワークの促進や柔軟な勤務制度(例:フレックスタイム制度)の導入により、従業員の満足度や生産性が向上します。また、デジタルツールの活用により、場所に縛られない働き方が可能となり、通勤時間の削減やワークライフバランスの向上が期待できます。さらに、オンラインコラボレーションツールやプロジェクト管理ツールを導入することで、チーム内のコミュニケーションや協力がスムーズになり、業務の効率が向上します。こうした働き方改善の取り組みによって、業務の無駄を省き、プロセスを合理化することで、長時間労働の削減が見込まれます。その結果、従業員のエンゲージメントが高まり、離職率の低下にもつながるでしょう。そのほか、余剰となった人員を新規事業や主要業務に振り向けることで、さらなる生産性の向上を図ることも可能です。DX推進と働き方改革の関係について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説しています。働き方改革の一環としてDX推進を検討している場合は、併せてご覧いただくことをおすすめします。DX推進で働き方改革を実現する方法とは?関係と流れを解説DX推進のメリット7:顧客エンゲージメントの強化DX推進にあたって顧客データを詳細に分析し、一人ひとりのニーズ・好みに応じたサービスを展開することで、顧客エンゲージメントが強化されます。その結果、リピート購入が増えたり、口コミによる新規顧客の獲得も促進されたりして、売上の増加が期待できます。加えて、顧客からのフィードバックを迅速に収集し、サービス改善に反映させることで、顧客エンゲージメントのさらなる強化につながります。DX推進のメリット8:BCP(事業継続計画)の強化DXを通じた働き方改革の推進は、BCP(事業継続計画)の強化にもつながります。地震や火災など予期しない事態が発生した際にも、重要な業務が停止するリスクを低減できるのです。例えば、クラウドベースのシステムを導入することで、自然災害時のデータ保護や業務の迅速な復旧が可能になります。データのバックアップやリカバリープランを整備することで、自然災害やサイバー攻撃などのリスクに迅速に対応できる体制が整います。また、リモートワーク環境を整えることで、オフィスが何らかの被害を受けた場合でも業務を継続することが可能です。さらに、IoTや5Gの技術を活用し、遠隔地から業務を遂行できる環境を構築したり、AIチャットを導入してユーザーサポートの一次対応を自動化したりすることも、BCPの強化に寄与します。これらの対策を実施することで、事業の継続性を確保し、企業の信頼性を向上させることが可能です。DX推進のメリット9:環境負荷の軽減DXの導入に伴うペーパーレス化やエネルギー効率の向上を進めることで、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが加速します。カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。例えば、デジタルドキュメント管理システムを活用すれば、紙の使用を大幅に減らし、印刷や保管にかかるコストも削減できます。さらに、エネルギー効率の高いデジタル機器を利用することで、電力消費を抑え、CO2の排出量を減らすことが可能です。こうした取り組みにより、企業の環境負荷が軽減され、持続可能なビジネス運営が実現します。また、カーボンニュートラルの取り組みを積極的に行う企業では、「環境保護やSDGsに積極的な企業」としての良いイメージを社内外にアピールできます。企業イメージの向上は、同じ志を持つ他社とのビジネスチャンスの創出や新しい顧客の獲得にもつながるでしょう。DX推進の4つのデメリット前章で説明したように、DXの推進は企業に多くのメリットをもたらしますが、同時にデメリットも存在します。DX推進にあたっては、メリットとデメリットの双方をしっかりと把握しておき、実施を検討することが大切です。DX推進にあたって特に問題となりやすいデメリットは、以下の4つです。デジタル技術に明るい人材の確保と育成の困難さレガシーシステムからの移行の困難さデータセキュリティとプライバシーのリスク継続的なコストとリソースの負担各デメリットの内容について順番に詳しく解説しますので、実際にDXを推進する前に確認しておきましょう。DX推進のデメリット1:デジタル技術に明るい人材の確保と育成の困難さDX推進では、デジタル技術に精通した人材の確保と育成が大きな課題となります。組織全体で一貫したDXを進めるためには、現場の協力を得ることが不可欠です。そのためには、DXの意義を理解し推進できる人材を各部門に配置することが重要です。さらに、企業のDX基盤を構築するためには、最新のデジタル技術に関する十分な知識を持ったエンジニアの確保が必要です。しかし、こうした人材の確保は、決して容易ではありません。昨今、高度なデジタルスキルを持つ人材の市場は競争が激しくなっており、優秀な人材を獲得するには高額な報酬や魅力的な福利厚生が求められます。一時的に外部ベンダーの力を借りて乗り切る選択肢もありますが、長期的には自社でデジタル人材をどのように確保していくかが重要な課題となるでしょう。なお、デジタル人材を確保するうえでは、社内での育成も一つの方法です。デジタル人材の育成は、基本的に以下の流れで進めていきます。適正のある人材を選ぶ座学でデジタル人材に必要なスキル・知識を学ばせるOJTを通じて実務で生かせるよう訓練する社内外でネットワークを広げるただし、デジタル人材の育成には、そのためのノウハウが求められる点に注意が必要です。弊社ではデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォーム『SIGNATE Cloud』を運営しています。『SIGNATE Cloud』はデジタル人材の発掘から育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちらDX推進のデメリット2:レガシーシステムからの移行の困難さデジタル技術の活用を目指して社内システムを一新する必要性を感じていても、実際に行動に移すのは容易ではありません。特に、長年使用してきてブラックボックス化しているレガシーシステムの改修は非常に困難です。多くの企業は、こうしたレガシーシステムを新しいデジタルプラットフォームに移行する際、互換性の問題やデータ移行に伴うリスクに直面します。また、移行中には業務の中断や混乱が避けられないこともあります。例えば、ある企業では、レガシーシステムからクラウドベースのシステムに移行する際、データの一部が失われ、業務が一時的に停止したというケースがありました。このケースでは、追加の復旧費用や業務の再調整が必要になっています。現行の業務に使っているシステムの改修にはリスクが伴います。システムの入れ替え時には、業務やサービスを一時的に停止しなければならない場合もあるでしょう。現場の従業員が慣れた業務プロセスの変更に抵抗を示すことも予想されます。ただし、DXを推進するためには、レガシーシステムの制約から脱却しなければなりません。ときには、現行システムの一部を捨てるという決断も求められるでしょう。DX推進のデメリット3:データセキュリティとプライバシーのリスクDX推進による企業のデジタル化が進むと、データ管理や保護に関するセキュリティ問題が顕在化します。クラウドサービスの利用やデータの集中管理が進むことで、データ漏洩やサイバー攻撃のリスクが高まります。このため、DXを推進する企業では強固なセキュリティ対策を講じ、万が一の事態に備えた対応策を整える必要があります。DX推進のデメリット4:継続的なコストとリソースの負担DXは一度推進して終わるものではなく、持続的な改善と変化への対応が必要です。例えば、新しいツールやシステムの更新、セキュリティ強化、従業員のスキル向上などを続けて行う必要がありますが、これらに対して多くのコストとリソースを投入しなければなりません。DX推進の初期段階で成功を収めたものの、継続的な投資が不足したために新技術への対応が遅れ、競争力が低下したという企業の事例があります。この事例では、その後に追加投資が必要となり、経営資源の再配分を迫られました。また、DX推進を専門部門に任せきりにするのは、成功を妨げる要因の一つです。DXの取り組みと経営戦略が一致していないと、最終的な成果につながらないためです。DXを一時的な流行で終わらせないためには、経営層と実行部隊が一体となり、全社的に継続して取り組む体制を整えることが求められます。まとめ企業にとってDX推進には多くのメリットがありますが、その成功には適切な計画と実行が必要不可欠です。デメリットを考慮しつつ、全社的な協力と継続的な改善を図ることで、企業はDXの恩恵を最大限に享受できます。DXは一時的な流行ではなく、企業が今後も成長し続けるための重要な要素です。DX推進のメリット・デメリットの双方をしっかり把握したうえで、変化を恐れず全社で積極的に推進することで、新たなビジネスチャンスを掴み、持続可能な成長を実現しましょう。企業の未来を見据えたDXの推進が、競争力を高めるカギを握っています。