ビッグデータは、ビジネスシーンでのトレンドワードとなっている言葉です。近年、企業におけるDX推進の重要性が高まっていることを受けて、IT業界だけでなくあらゆる業界でビッグデータが活用されるようになってきています。しかし、ビッグデータとは何かを理解している人は、それほど多くないのが実情です。ビッグデータがどのようなものなのか、ビッグデータの活用によって何が実現するのかなどは、広くは知られていません。そこで本記事では、ビックデータの定義を改めてご紹介します。ビッグデータを活用するメリット・デメリットについても分かりやすく解説していますので、今後のDX推進にお役立てください。ビッグデータとは?ビッグデータはさまざまな定義付けがなされている言葉ですが、総務省の「平成24年版 情報通信白書」では「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」と目的的側面から定義されています。また、量的側面における定義付けの例を挙げると、ビッグデータとは「典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータ」のことです。なお、同資料では、「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」のことをビッグデータビジネスと定義付けています。そのほか、「平成29年版情報通信白書」では、ビッグデータを以下のとおり定義しています。デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、また、スマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ参考:総務省「平成24年版 情報通信白書」 総務省「平成29年版 情報通信白書」ビッグデータの4つのV総務省の「令和元年版 情報通信白書」では、ビッグデータを特徴付けるものとして、「4V」という概念があることを紹介しています。具体的には、以下の4つが4Vに該当します。概要Volume情報の量のこと。例えば、たった一人の購入記録だけでは社会全体の人気商品のトレンドを把握することはできないものの、たくさんの人々の購入記録を集めて分析することで、特定の条件下でどんな商品がよく売れるかの傾向を見つけ出せる。Variety情報の多様性のこと。データに偏りがある場合、全体のトレンドを正確に把握することは難しくなる。例えば、10代と20代の購入データだけを分析しても、すべての年代の人気商品の傾向を見つけ出せない。年齢、性別、居住地、家庭環境、所属するコミュニティの種類、趣味や興味など、さまざまな角度から集めた多様なデータをもとに分析を行えば、より精密な結果を得ることが可能。Velocity情報の速度のこと。古い情報は必ずしも有用ではなく、常に変化する状況に対応するためには、分析する情報が最新であることが必要。例えば、感染症の流行状況は日々変わるため、感染者数を正確に把握するためには、リアルタイムで更新されるデータが必要となる。Veracity情報の正確性のこと。データには間違いや異常値が含まれることもあるため、特に全体のデータから一部を選んで分析する場合には、選ばれたサンプルが全体を正確に反映しているかが重要。精度の高い分析を行うためには、正確で信頼性のあるデータを選ぶことが欠かせない。これら4つのVは、「データが価値創出の源泉となるための仕組み」として位置付けられています。参考:総務省「令和元年版 情報通信白書」ビッグデータをDX推進に活用するメリット・デメリットDXには確立した定義はありませんが、世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画によると以下のとおり定義されています。企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること上記の定義を踏まえて、本章では企業がDX推進にあたってビッグデータを活用するメリット・デメリットを順番に解説していきます。引用:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(令和2年7月17日閣議決定)ビッグデータをDX推進に活用するメリットまずは、ビッグデータをDX推進に活用するメリットの中から代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。①客観的で高精度な意思決定が下せるビッグデータを活用することで、企業は膨大な量のデータから有益な洞察(例:規則性や相関関係など)を得られるようになります。例えば、市場のトレンドや顧客の行動、財務パフォーマンスなどの情報をもとに、客観的で正確な意思決定ができるでしょう。DXを推進する企業において、ビッグデータを活用して新たな製品・サービス・ビジネスモデルを構築することは、競争優位性を高めていくうえで必要不可欠です。ビジネス上の戦略・計画の策定やリスク管理の側面でも、ビッグデータは重要な役割を果たすでしょう。②顧客を深く理解し満足度を向上させられる顧客データを詳しく分析することで、個々の顧客のニーズや好みをより深く理解できるようになります。これをもとにマーケティング戦略を展開すれば、顧客一人ひとりに合わせた製品・サービスの提供が可能となるでしょう。結果として、顧客満足度の向上につながります。また、顧客の行動パターンを分析することで、将来のトレンドやニーズを予測し、市場で先行者利益を得る機会も生まれるでしょう。そのため、DX推進にあたって顧客満足度の向上を目指す企業の多くが、ビッグデータの活用を進めています。③業務の効率化・コスト削減やイノベーションにつながるビッグデータの活用は、業務プロセスの効率化やコスト削減にも大きく貢献します。データ分析を通じて、業務上の非効率性やコストの無駄を特定し、改善策の考案・実行につなげられます。また、ビッグデータを利用して新たなビジネスモデルの検討や、既存の製品・サービスのイノベーションなどの実現も可能です。新しい製品・サービスやビジネスモデルの創出は、DX推進において非常に重要な施策とされています。DX推進を通じて市場の変化に迅速に対応し、持続可能な成長を実現していく重要性が叫ばれる中、多くの企業がビッグデータ活用に取り組んでいる状況です。ビッグデータをDX推進に活用するデメリット企業のDX推進にあたってビッグデータを活用することには、メリットだけでなくデメリットも存在するため、事前に双方を知っておくことが大切です。ここからは代表的なデメリットを3つピックアップし、順番に解説します。①プライバシーやセキュリティ面の課題ビッグデータには個人情報も含まれており、その取り扱いには、プライバシー保護やセキュリティに関して厳格な対策が必要不可欠です。データ漏えいや不正アクセスのリスクに対処するためには、高度なセキュリティ技術とプライバシー保護のプロトコルの構築が欠かせません。法規制の遵守やデータ暗号化、アクセス管理など、包括的な対策が求められるでしょう。②必ずしもビッグデータを有効活用できるとは限らないビッグデータを活用するうえで大きな課題の一つに、データの品質と整合性の維持が挙げられます。不正確なデータや不完全なデータセットは誤った分析結果をもたらすおそれがあり、このことがDX推進において誤った意思決定につながるリスクがあるのです。また、ビッグデータを活用するためには複雑なデータセットを処理・分析する能力が求められます。DX推進にあたってビッグデータの活用を検討する企業では、これらのスキルを備える人材を確保しなければなりません。③コストとリソースの制約DX推進にあたってビッグデータの活用を行う企業では、データストレージのインフラストラクチャや分析ツールの導入のほか、専門知識を備えた人材の採用・研修などで大きな初期投資が必要となる場合があります。ビッグデータの活用では継続的なデータ管理と分析が求められますが、これを行うためには継続的に人的リソースを割く必要があります。特に中小企業にとっては、大きな負担を強いられるおそれがあるでしょう。ビッグデータとDX推進に欠かせない技術との関係DX推進にあたってビッグデータを活用する際は、AIやIoT、5Gといった先端技術の存在が欠かせません。ここからは、AIやIoT、5Gとビッグデータの関係性について、順番に解説します。ビッグデータとAIビッグデータとAIについて解説する前に、まずAIとDXの関係性を整理します。AI(Artificial Intelligence)は日本語で「人工知能」と訳される言葉で、機械学習を含むAI関連技術の総称です。具体的に言うと、AIとは「人間の知能を人工的に再現し、さまざまな判断や振る舞いを可能にするシステム」を意味します。AIはデジタル技術領域の一つであり、DXを推進するうえで有効なツールの一つとして広く認識されています。そしてビッグデータも、AIと同様にDX推進を支えるデジタル技術として位置付けられています。AIとDXの関係性について、さらに詳しく知りたい場合は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】ここからは、ビッグデータとAIの関係性を整理します。一般的に、AIが高精度な判断を下すためには、ビッグデータを通じて学習する過程が欠かせないと考えられています。例えば、顔認証システムでは、AIは多数の顔写真データを分析することで、人の顔の特徴やパターンを把握します。この学習を経て、AIはさまざまな人の顔を正確に識別できるようになるのです。一方で、AIができることの例として以下が挙げられますが、これらがビッグデータの解析にも役立っています。学習過程でデータの中から規則性・特徴を見つけられるその規則性や特徴を使ってデータについて判断を行えるつまり、AIとビッグデータは、相互に依存する関係にあります。さまざま形式・種類のデータが日々大量に生産される現代において、この膨大なビッグデータを効果的に解析するにはAI技術が必要です。逆に、AIがより正確な判断を下すためには、学習するための豊富なビッグデータが欠かせません。ビッグデータとIoTビッグデータとIoTについて解説する前に、まずIoTとDXの関係性を整理します。IoT(Internet of Things)は、日本語で「モノのインターネット」と訳される言葉です。一般的に、「デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること」を意味します。IoTはデジタル技術の一種であるのに対して、DXはIoTをはじめとしたデジタル技術を活用することで事業・経営・業務プロセス・サービスの変革を行うことだと定義付けられます。上記を踏まえると、「IoTの活用は、DXを実現するための方法の一つである」という関係性にあると言えます。IoTの活用はDX推進につながり、DXの主な目的である「変化する環境への適応」や「競争力の向上」などを目指すことが可能です。AIとIoTの関係性について、さらに詳しく知りたい場合は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXとIoTの関係とは?違いや活用のメリット、事例を紹介ここからは、ビッグデータとIoTの関係性を整理します。一般的に、ビッグデータを収集・蓄積するために、IoTの仕組みは欠かせないと考えられています。なぜなら、あらゆるモノに搭載されたセンサーで大量にデータを収集し、ネットワークを介してクラウド上にデータが蓄積され、蓄積されたデータがビッグデータになるためです。従来はデータを蓄積する仕組みが未発達であったため、データを収集できても、その蓄積・活用はスムーズに進みませんでした。しかし、近年はクラウド技術が発展したために、データの蓄積・活用が円滑に進むようになりました。企業のDX推進にあたって、業務効率化や新たな製品・サービス・ビジネスモデルにつながる発見をするためには、IoTの仕組みを用いて収集したビッグデータの解析が重要であると考えられています。ビッグデータと5G5G(5th Generation)とは、高速・大容量の通信を実現する第5世代移動通信システムを意味する言葉です。従来の4Gと比較して、速度や通信容量、基地局からの接続数など、さまざまな面でメリットがあります。5Gが普及すれば、IoTデバイスの受発信に基づく膨大なデータ通信にも耐えられるようになります。その結果、AI開発に欠かせないビッグデータを効率良く収集することが可能です。以上のことから、DX推進にあたってビッグデータを最大限に活用していくためにも、5Gは欠かせない技術だと言えます。5Gについて理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説しています。5Gに見られる特徴や、実現可能になることなどについて取り上げていますので、企業のDX推進にあたってぜひご覧ください。DXは5Gで加速!3つの特徴や可能になること、普及への課題まとめ今回は、ビッグデータについて、定義やDX推進にあたって活用するメリット・デメリットなどを中心に解説しました。ビッグデータは単なる大量のデータ群ではなく、Volume(量)、Variety(多様性)、Velocity(速度)、Veracity(正確性)といった4つのVから構成されています。AIやIoTの活用により、これまで取得できていなかったデータ取得が可能になりました。ビッグデータを正しく有効に活用することで、ビジネス・社会全体におけるさまざまな場面に生かせるようになり、DX推進において大切な「新たな価値の創出」が期待できます。その一方で、AIやIoT、5Gの導入やビッグデータの活用が目的化してしまうと、DX推進にあたって投資に応じた効果が得られないおそれもあります。こうしたことを避けるためにも、「何のためにAIやIoTを活用するのか」「何のためにビッグデータを活用するのか」を事前に十分検討することが重要です。