近年のIT化・DX推進の傾向を受けて、多くの日本企業がデジタル化に前向きに取り組むようになりました。このような変化のなかで、CDO(最高デジタル責任者)という役職に注目が集まっています。CDOは、経営の観点から組織のDXを推進する役職です。近年の新型コロナウイルス感染拡大の影響で業界を問わずデジタル化やオンライン化が加速していくなか、特に重視されています。そこで本記事では、CDOとはどのような役職なのか、DX推進における役割、CIOやCTOなどのポジションとの違いも含めて解説します。CDO(最高デジタル責任者)とは?CDOとは「Chief Digital Officer」の略であり、日本語で「最高デジタル責任者」と訳される役職のことです。具体的にいうと、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進における執行責任と権限を持つ統括責任者をさします。DXの概要や推進する必要性など、基本的な情報について理解を深めたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説CDOは、企業全体におけるDXの推進状況を把握したり、DX推進をきっかけとした組織改革を担ったりする存在です。昨今、DX推進が急務とされる日本企業が増えているなかで、トップダウン式で組織改革を進めていくためにも、今後もCDOのポジションを導入する企業が増えていくと推測されています。CDOが必要とされる理由DX実現を目指す企業において、CDOのポジション導入が求められる理由はさまざまありますが、代表的なものは以下の3つです。全社でDXを推進できるリーダーの必要性デジタル・データを活かした新規事業、サービスの開発が求められているセキュリティ対策が必須事項になってきたそれぞれの理由を順番に詳しく解説します。全社でDXを推進できるリーダーの必要性全社でDXを推進できるリーダーを強く求めていることを理由に、CDOのポジション設置を決める企業は多くあります。DXを進めるためには、新しいビジネスを立ち上げたり、組織全体でデータを活用したりなど、企業の組織体制やビジネスの仕組み自体を変えていく必要があります。こうした大きな変革を成功させるためには、DX推進に対して強い権限を持つリーダーの存在が欠かせません。この役割をCDOが担い、企業の既存の枠組みを変えていくことで、DXを効果的に推進できるでしょう。デジタル・データを活かした新規事業、サービスの開発が求められているデジタル技術の進化により、新しいサービスが次々と登場しています。最新技術を使って新しい事業やサービスを生み出すことが、ビジネス成功の鍵を握っている状況です。ただし、デジタル技術を使ってビジネスの成功を収めるためには、デジタル分野に関する技術面での知見だけでなく、「顧客はどのようなデジタルサービスを求めているのか」という経営者的な視点も不可欠です。そこで、これら2つの視点を兼ね備える存在として、CDOが必要とされるようになっています。また、新しい事業やサービスを開発する際、企業全体でのデータの活用がますます重要になっています。新しい事業やサービスを成功させるためには、最新の情報技術を駆使して、データに基づいた意思決定を行う必要があるでしょう。この役割を担わせるため、最近では多くの企業でデータを管理し活用する責任者として、CDOをCEO直下に配置しています。CDOをCEOの直下に置くことで、データ活用を促していける全社的・組織横断的な環境づくりを強力に推し進めていくことが可能です。セキュリティ対策が必須事項になってきたDXの推進にあたっては、機密情報の漏洩やサイバー攻撃を受けるリスクなど特有のリスクが伴います。クラウドサービスやIoT機器の使用が増加し、テレワークが普及している昨今、デジタルデータを内外から守ることが以前にも増して重視されています。セキュリティ対策を軽視することで、企業の評判が落ち込んだり、大きな損害を受けたりする事例は少なくありません。このような被害を避けるためには、CDOのもとで全社で強固なセキュリティ体制を構築していくことが求められます。DX推進におけるCDOの役割ここまで定義や必要性について解説してきましたが、具体的にCDOはどのような役割を果たすのでしょうか。DX推進におけるCDOの役割は、以下の3つです。DX推進チームを率いてDXを推進する社内で抱えるデータを探索・蓄積・保管するデジタルマーケティングを推進するそれぞれの役割について、順番にわかりやすく解説します。DX推進チームを率いてDXを推進するCDOの大きな役割は、全社的なDX戦略を策定するとともに、DXの目標を明確化することです。また、明確にした目標について、社内外のステークホルダーの理解を得るために適切なメッセージを発信することもCDOの役割の一つです。CDOがその企業のDXをリーダーとして統括すれば、指示系統がシンプルになり、トップダウン方式で社内のDX化を効率的に推進できるようになります。また、経営陣としての裁量を活かして、DXのスピーディーな実現を目指すことも、CDOの役割といえます。CDOがリーダーとして役割を果たすためには、DX推進の組織パターンを知っておくと良いでしょう。以下の記事でDX推進の組織についてまとめておりますので、併せてご一読ください。DX推進の組織は6パターン!作り方のポイントや求められるスキル社内で抱えるデータを探索・蓄積・保管する情報化社会が到来している現代では、社内の情報だけでなくSNSのような外部データに至るまで、企業が扱うデータ量が非常に増加しています。企業が利益を得るためには、このような大量の情報(ビッグデータ)を積極的に探求し、活用する必要があります。デジタル技術の責任者であるCDOは、技術と経営の両方の視点から、どのデータが企業にとって価値があるかを判断しなければなりません。また、価値のあるデータを特定したら、それを集めて適切に管理することが大切です。こうしたデータの探索・蓄積・保管の全過程においてチームに明確な指示を出すことが、CDOの重要な役割の一つです。デジタルマーケティングを推進する今やあらゆる消費者が簡単にインターネットへアクセスできる環境が整備されており、消費者のニーズや接点は多岐にわたります。「一律的にこれが正解」という手法は存在せず、集積された顧客データに基づいたマーケティング施策(デジタルマーケティング)を推進する必要があるのです。デジタルマーケティングを成功させる主なポイントに、オムニチャネルの活用や、データドリブン・マーケティングの推進が挙げられます。オムニチャネルとは、実店舗・アプリ・カタログ・ECサイトなど顧客とのあらゆる接点(チャネル)で最適な購買体験を提供することで販売増を目指すマーケティング手法のことです。また、データドリブン・マーケティングとは、ユーザーの行動履歴・売上情報・ビッグデータなど、オンライン・オフラインを問わずに取得したさまざまなデータにもとづいて客観的に判断するマーケティング手法のことです。CDOは、これら2つの手法に焦点を当てながら自社の強みと弱みを把握し、自社にとって効果的なデジタルマーケティングを推進していく役割を担います。CDOに求められるスキル前述のとおり、CDOは幅広い役割を担うポジションであるため、求められるスキルもさまざまです。CDOには、まずICTに関する幅広い知識・スキルが求められます。DXを進めるためには、「どんなデジタル技術が存在し、それらを使って何ができるようになるのか」を深く理解している必要があります。ICTの世界は非常に速いペースで進化しているため、最新情報をもとに知識を常にアップデートし続ける好奇心と柔軟な思考が重要です。CDOとして活躍するうえで次に重要なのは、組織を管理するスキルです。CDOは単なる技術者ではなく、企業全体に影響を及ぼすポジションであるため、社内全体のデジタルスキルを向上させるためのマネジメントスキルが求められます。さらに、CDOとしては、デジタル分野の知識を自社のビジネスモデルへと落とし込むための創造性を備えていることも望ましいです。そのほか、計画に対する実行力や調整力、あらゆる立場の人間とも円滑にコミュニケーションを取れるスキルも、CDOには不可欠です。CDOを担いうる人材CDOは近年新たに登場したポジションであり、経験者が非常に少ないことから、バックグラウンドや素質を見極めて人選することが大切です。下表に、DXを推進する企業でCDOを担いうる人材と、それぞれの主な特徴をまとめました。CDOを担いうる人材選ぶメリット選ぶうえでの課題経営トップ(CEO)DXをスムーズかつ効果的に推し進めやすいデジタル関連の知識・スキルを持つ経営者は珍しい経営企画、管理部門マネジメントの仕組みとDX推進を一体化させる運用を構想しやすいデジタル技術の活用で実現できることを想像できても、具体的な構想を練るスキルを持たないことが多いマーケティング部門DX推進に欠かせない顧客視点、データ活用、PDCAサイクルの高速化などに関して深い知見がある同上事業部門現状の自社事業の強み・弱みや顧客の特性を熱知している同上CIO、情報システム部門デジタル技術やデジタル関連の組織事情に精通している長きにわたり基幹システムに従事しており、従来の組織行動に馴染んでいるため、新たな価値創造と衝突しやすい外部から採用した人材デジタル分野に関する技術面での知見と経営者的な視点を兼ね備えた人材を社内に引き込める社内事情に精通していないため社内の協力を得にくく、全社でのスムーズなDX推進が難しいことがある日本企業におけるCDOの配置状況一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査(2021年)によると、日本企業におけるCDOの配置割合は、わずか6.5%にとどまっています。業種別で見ると、特に金融業においてCDOの配置割合が高い(20.8%)ことがわかっています。また、総務省の資料「情報通信白書」によると、DX推進の専任部署を設けている企業は、日本だけでなく、アメリカやドイツでも高い割合を記録しています。そのうえで、日本企業では、社長・CIO・CDOといった役員がDXを主導している企業の割合は9%でした。これに対して、アメリカは18%、ドイツは19%という調査結果が出ており、トップダウンでDXに取り組んでいる企業が日本と比べると多い傾向にあります。参考:総務省「令和3年版 情報通信白書」CDOとCIO、CTO、Chief Data Officerとの違いCDOと名称が類似している役職として、CIOやCTO、Chief Data Officerなどが挙げられます。ここからは、これらの役職とCDOの違いを順番に解説します。CDOとCIOの違いCIOとは「Chief Information Officer」の略で、日本語に訳すと「最高情報責任者」を意味する役職です。先ほど紹介したJUASの調査によると、日本企業におけるCIOの配置割合は、専任・兼任の場合を合わせて15%です。CIOの主な役割は、企業におけるITサービス・テクノロジーの管理・導入・提供を監督し、IT環境が効果的に機能するように自社のビジネスをサポートすることです。CDOとCIOの主な違いは、役割にあります。CDOは新しいデジタルビジネスモデルを策定・推進し、組織内のさまざまな部門を横断して外部に向けて活動します。一方、CIOは主に企業内のIT関連の人材、業務プロセス、テクノロジーの管理と監督を担当する役職です。そのため、CIOがDX推進に携わることがあっても、「ITの刷新による業務効率化」といったIT化の戦略のみを担当する場合が多いです。こうした理由から、一部では「CDOは企業全体のDXを推進する責任を持ち、CIOは主に既存のシステムの管理と運用に注力する」とされています。その意見によれば、CDOとCIOの共同作業により、企業は技術の急激な変化に対応しつつ、現在のビジネスを安定的に続けるというバランスを維持できると考えられています。CDOとCTOの違いCTOとは「Chief Technology Officer」の略で、日本語に訳すと「最高技術責任者」を意味する役職です。CTOは、主として自社プロダクトの研究開発や技術投資など組織のテクノロジー分野における統括者です。例えば、プロダクトの開発方針を決めたり、エンジニアの雇用・育成方針を定めたりすることが、CTOの役割にあたります。CTOとCIOの役割が非常に似ている企業も多いです。組織によっては、これら2つのポジションの役割が部分的もしくは完全に重なっていることもあります。CDOとCTOの大きな違いとしては、CDOは新しい事業やサービスの創出といった経営者目線が求められる役割を担うポジションであるのに対して、CTOは技術面における責任者としてエンジニア寄りの役割を担うポジションであることです。とはいえ 、前述したようにCDOは登場から間もない役職であるうえに、組織構造は企業によってさまざまです。CDOやCIO、CTOの棲み分けをせずに、1人がこれらの役職を兼務している企業も見られます。CDOとChief Data Officerの違い企業によっては、CDOが「Chief Digital Officer」ではなく「Chief Data Officer」をさすこともあります。Chief Data Officerとは、日本語で「最高データ責任者」と訳される役職のことです。主として、企業におけるデータの管理・分析に関する戦略を策定し、データの品質・セキュリティ・コンプライアンス・ガバナンスの統括を担当します。2つのCDOの違いとしては、最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)が「企業におけるデジタルビジネス戦略のトップ」として対外的な役割を担うのに対して、Chief Data Officerは「データ部門の統括者」として対内的な役割を担う傾向があることです。ただし、いずれのCDOも2010年代以降に注目されるようになった比較的新しい役職であるため、職務内容や人材配置に関して依然として基準が確立していないのが現状です。例えば、DX実現においてデータ活用は核となる要素ですが、これを推進するためにはChief Data Officerも、DXを牽引していくポジションとして企業へのコミットメントが強く求められることもあるでしょう。こうしたケースでは、Chief Digital Officerが最高デジタル責任者と同じような役割を担います。まとめDXを実現させるためには、デジタル化に対する理解を深め、柔軟に対応していく必要があります。企業が競争力を持って長く存続していくためには、このような努力を継続することが欠かせません。そこで効果的なのが、CDOの役職を設けることです。デジタル化への深い理解と経営者としての視野を兼ね備えたCDOがDX推進を先導することで、デジタルの急流に呑み込まれずに、企業価値の創出・向上を続けられるでしょう。CDOを置く際は、本記事で紹介したスキルを持つ適任者を見つけることが大切です。ただ個人として優れているだけでなく、企業全体の利益に貢献できる人物が理想的なCDOだといえます。なお、弊社では『SIGNATE Cloud』というデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォームを運営しています。『SIGNATE Cloud』は人材の発掘から育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら