不確実性の高い市場を生き抜くうえで、DX推進があらゆる企業にとって急務とされています。DXを実現するためには、従来の経験や勘に頼った経営スタイルではなく、データを活用した精緻な意思決定にもとづく新たな経営手法への刷新、つまりデータドリブンの考え方を取り入れることが重要です。そこで本記事では、データドリブンとはどういった概念なのか、DX推進において導入するメリットと併せて紹介します。データドリブンを最大限に活かす方法についても分かりやすく解説していますので、今後のDX推進にお役立てください。データドリブンとは?データドリブン(英語:Data Driven)とは、日本語で「データ駆動」と訳される言葉です。簡単に言うと、「収集した実際のデータを分析し、その結果にもとづいて意思決定をすること」を意味します。データドリブンを実施する際は、膨大なビッグデータを収集・分析し、経営者による意思決定や施策立案、マーケティング施策、課題解決などに役立てるのが一般的です。最近ではDX推進の重要性が叫ばれている中で、それを実現する手段として「データドリブン」に注目が集まっています。データドリブンが注目されるようになったきっかけの一つに、日本政府が指摘する「2025年の崖」の問題があります。これは、現状のままDXが進まなかった場合、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があるという問題です。2025年の崖について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。2025年の崖とは?経済産業省のDXレポートを解説2025年の崖を乗り越えるためには、各企業がDXに取り組む必要があります。その一環として、まずはすでに社内にあるデータの基盤をしっかりと整え、根拠のある判断・行動を取る、データドリブンの考え方に注目が集まっているのです。DX推進におけるデータドリブンのメリットDXには確固とした定義は存在しませんが、世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画によると以下のとおり定義されています。企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること引用:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(令和2年7月17日閣議決定)DXを実現するためには、単なるデジタル化ではなく、デジタル技術を戦略的に取り入れ、ビジネスのあらゆる側面でイノベーションを促進することが求められます。上記の定義を踏まえて、本章では企業がDX推進にあたってデータドリブンの考え方を導入するメリットを順番に解説していきます。高度な意思決定と戦略立案の精度向上前述のとおり、データドリブンは、データにもとづいて意思決定を行う方法です。主観や経験に頼るのではなく、収集したデータを分析し、その結果をもとに判断を下します。これにより、客観的かつ正確な意思決定が可能になります。近年はITが進んでおり、企業にビッグデータ(※)が蓄積されています。データドリブンの考え方を用いれば、膨大な量のデータをリアルタイムで分析し、企業の現状・市場の動向を正確に把握することが可能です。データにもとづいた分析により、DX推進における戦略立案の精度も大幅に向上します。DX推進にあたって迅速かつ効果的な戦略立案は、競争優位を確保し、変化の激しい市場で成功するうえで必要不可欠です。例えば、小売業では過去の販売データ、顧客の購買履歴、マーケットトレンドなどを解析することで、適切な在庫管理や販売戦略を策定できます。これにより、無駄な在庫を減らし、売上を最大化することが可能です。※事業に役立つ知見を導出するためのデータ(総務省「平成24年版 情報通信白書」)のこと。ビッグデータの詳細は、以下の記事にまとめています。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリット顧客体験の革新とパーソナライゼーションデータドリブン導入にあたってビッグデータを活用することで、顧客の行動データやフィードバックを分析できます。これにより、個々の顧客のニーズ・好みを深く理解できるようになるでしょう。これらの情報を用いれば、それぞれの顧客にパーソナライズされたサービス・製品を提供できるようになり、顧客満足度・ロイヤルティが向上します。こうしたアプローチで企業の業績を向上させれば、DX推進の目的の一つである「企業の持続的な成長」や「競争力の向上」につながるでしょう。具体例を挙げると、ECプラットフォームを運営する企業でデータドリブンを導入すれば、顧客の閲覧履歴や購入履歴をもとに、個々の顧客に最適な商品をレコメンドするシステムを構築できます。その結果、顧客の購入意欲が高まり、売上の増加を図ることが可能です。業務効率と生産性の大幅な改善DX推進にあたってデータドリブンを取り入れれば、業務プロセスの分析も行えます。その中で非効率な部分・無駄な作業などを特定し、業務プロセスを最適化することが可能です。その結果、業務効率や生産性が大幅に向上し、コスト削減と利益の最大化が実現します。また、企業全体で共通して使用するデータやメトリクス(さまざまな活動を定量化し、その定量化したデータを管理に使えるよう加工した指標)を設定することで、各部門・チームの業務を同じ基準で評価・改善できるようになります。これにより、社員間の認識を共通化でき、意思決定のための会議工数の削減も期待できるでしょう。製造業を例に挙げると、製造ラインのセンサーデータを解析することで、機械の稼働状況やメンテナンスのタイミングを最適化し、ダウンタイム(常時の使用が期待される機器・システム・回線・サービスなどが停止・中断している時間)を減少させられます。その結果、生産性の向上やコスト削減につながるでしょう。以上のとおり、データドリブンは、DXを推進する企業にとって非常に価値の高い概念です。データドリブンの導入によって、企業の競争力を高められ、持続可能な成長を実現できます。DX推進でデータドリブンを活かす方法前章のとおり、データドリブンの導入には数多くのメリットが存在します。ただし、ただ漠然とデータドリブンを導入していては、それらのメリットを最大限に享受できません。本章では、DX推進でデータドリブンを活かす方法として代表的なものを7つピックアップして順番に解説します。①データ戦略の策定DX推進にあたってデータドリブンを導入する際は、まず企業全体のデータ戦略を策定しましょう。具体的には、データ収集・管理・分析および、その結果にもとづく意思決定の方針を明確にします。データ戦略を策定する際の具体策は、以下のとおりです。企業のビジネス目標と一致するデータ戦略を定義するデータガバナンスのルールを設定し、データの収集と利用を標準化するデータ戦略を実行するためのリソース・体制を整備する②適切なデータ収集と管理DX推進にあたってデータドリブンを導入する際に基盤となるのが、正確で信頼性の高いデータの収集と管理です。ビッグデータの活用を前提に、各種データソースから必要なデータを適切に収集・管理する体制を構築しましょう。具体的には、以下のようなアプローチで進めていくと良いです。各データソース(内部データ、外部データ)からのデータ収集プロセスを確立するデータ品質を確保するためのクリーニング(※1)およびバリデーション(※2)の手法を導入するデータの一元管理を実現するデータレイク(※3)やデータウェアハウス(※4)を構築する※1古くなった情報を上書きしたり、不要なものを削除したりして、最新の状態にすること。※2特定の要件を満たすデータを、すでに設定・定義された一連のルールと比較してチェックすること。※3さまざまなソースから得た多様なデータを一元的に格納できるシステムのこと。※4データソースからデータを抽出し、BIツールとの連携で分析を行う中継的なシステムのこと。③データ分析基盤の構築データドリブンをDX推進に役立てるためには、データ分析を支える強固なインフラが必要です。データ分析基盤の構築は、データを効果的に活用し、意思決定の質を高めるうえで欠かせないステップです。具体的には、以下のような観点からデータ分析基盤の構築を進めましょう。クラウドプラットフォームやビッグデータ技術を活用して、データ分析基盤を整備するデータの可視化とインサイトの抽出を容易にするために、データ分析ツール(例:Tableau(タブロー)、Power BIなど)を導入する分析基盤のパフォーマンスを定期的に評価し、最適化する④高度な分析技術の導入データドリブンの導入にあたってAIおよびディープランニングの技術を活用すれば、より高度なデータ分析が可能になります。これにより、予測分析や異常検知などの精度が向上し、未来のトレンドやリスクを事前に察知できるようになります。AI・ディープランニングの技術を導入する際の具体策は、以下のとおりです。ビジネス上の課題に対する予測分析を行うための機械学習モデルを構築するAI技術を活用し、顧客行動のレコメンドシステム(※)を開発するリアルタイムでのデータ分析システムを導入し、迅速な意思決定につなげる※ユーザのサイト内行動や閲覧・購入などのデータ、事前に設定した一定のルールにもとづき、各ユーザに合わせた商品などを提案するシステムのこと。DX推進におけるAI活用の重要性について詳しく知りたい場合は、以下の記事をお読みください。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】⑤データリテラシーの向上DX推進にあたってデータドリブンのアプローチを効果的に導入するためには、企業全体のデータリテラシーの向上が欠かせません。ここでいうデータリテラシーとは、データを理解・分析し、意思決定に活用する能力のことです。データリテラシーの向上は、組織全体がデータを理解・活用するうえで重要です。すべての従業員がデータの重要性を理解し、日常業務でデータを活用することで、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。データリテラシー向上のためには、以下のような方法で社内教育を行うことが効果的です。データ分析ツールを効果的に活用できるようなトレーニングプログラムを実施するデータにもとづく意思決定を促進するためのワークショップやセミナーを開催する⑥データドリブン文化の醸成効果的なDX推進のためには、企業全体でデータドリブン文化を醸成することも不可欠です。データドリブン文化とは、データにもとづいた意思決定を重視し、データを効果的に活用する企業風土を指します。データドリブン文化が根付くことで、企業の意思決定がより客観的かつ正確になります。感覚や経験といった主観に頼らず、データにもとづいた分析結果から判断するため、リスクを最小限に抑え、最適な戦略を策定できるでしょう。データドリブン文化を醸成するには、組織全体でデータドリブンな文化を推進し、データにもとづく意思決定を標準化することが大切です。また、成功事例の共有も行い、データ活用の意識を高めましょう。データドリブン文化を醸成する際の具体策は、以下のとおりです。データにもとづく意思決定を組織の標準プロセスに組み込むデータ活用の成功事例を社内で共有し、モチベーションを高めるデータドリブンなアプローチを評価基準に反映する⑦継続的な改善とフィードバックデータ活用の取り組みを継続的に評価し、改善を図っていくことも、DX実現のためには欠かせません。フィードバックにもとづく改善を繰り返すことで、企業のデータ戦略を最適化していきましょう。具体的なアクションとしては、以下のような施策が挙げられます。データ活用の効果を継続的にモニタリングするデータ分析の結果をもとに改善点を特定し、実行するデータ戦略を定期的に見直し、最新の技術やトレンドに対応させていくこれらの施策を実践することで、企業の競争力が向上し、DX実現に近づきます。まとめこの記事では、データドリブンの基本的な知識や導入するメリット、そしてDXの推進におけるデータドリブンの活用方法について説明しました。以前は、経営判断において経験や勘といった主観的な要素が重視されていました。しかし、最近は顧客のニーズは日々多様化・変化しており、新しいトレンドの予測が困難になっています。そこで求められるようになっているのが、データ分析にもとづいて現状を把握し、戦略を立てて実行する「データドリブン経営」です。現在、データドリブンはDXを推進する企業において経営の基本となりつつあり、競争が激化する中でデータ活用の重要性はさらに高まっていくでしょう。データドリブンを正しく導入し、効果的なDX推進を目指しましょう。