現代のビジネス環境では、データの活用がますます重要になっています。データ活用のアプローチに関する言葉として「データインフォームド」と「データドリブン」の2つがあります。これらの言葉の意味は、意思決定や戦略立案においてどのようにデータを利用するかという点で異なります。本記事では、データインフォームドとは何か、そのメリットやデメリット、データドリブンとの違いについてわかりやすく解説します。データインフォームドとは?データインフォームド(data-informed)とは、「データから得た情報をもとに人間が意思決定を行う方法」のことです。収集されたデータは意思決定の補助として利用されますが、最終的な決定は人間によって行われます。つまり、データは指針として用いられ、あくまでも意思決定の一部をサポートする役割を果たすのみです。データインフォームドは、情報社会や知識経済、データの爆発的な増加といった現代の状況に対応するための新しい意思決定方法として提唱されました。現在、情報技術の進歩により、個人や組織は大量のデータにアクセスできるようになりました。しかし、そのデータを効果的に活用するためには、データインフォームドのアプローチが重要視されています。データインフォームドの特徴データインフォームドの特徴を把握しておくことで、ビジネスにおける意思決定でデータをどのように活用すべきかが明確になるでしょう。まず大きな特徴として、「人間中心のアプローチ」が挙げられます。データインフォームドのアプローチでは、データは重要な情報源として意思決定をサポートしますが、最終的な決定は人間が行います。また、データインフォームドのアプローチでは、意思決定や戦略立案においてデータを大きな要素として活用する一方、人間の経験や直感、その他の定性的な情報なども考慮します。これにより、データの裏付けを得つつも、柔軟でバランスの取れた意思決定が可能です。データインフォームドのメリット・デメリットデータインフォームドのアプローチの導入で多くのメリットが期待できますが、注意しておくべきデメリットも存在します。ここでは、データインフォームドの導入により想定されるメリットとデメリットを順番に詳しく解説します。メリットまずは、データインフォームドのアプローチを取り入れることで期待される主なメリットを3つピックアップし、それぞれ順番に解説します。包括的な視点からの意思決定データインフォームドのアプローチによって、データにもとづく客観的な情報と、人間の直感や経験にもとづく主観的な情報を組み合わせられます。つまり、多角的な視点による意思決定が可能です。データだけでなく現場の声や専門家の意見も取り入れられるので、幅広い視点からの判断が可能です。定量的データと定性的な意見を組み合わせることで、バランスの取れた意思決定が行えます。単なるデータ分析だけでは見逃されがちな重要な洞察を得ることが可能です。柔軟性と適応力の向上データインフォームドのアプローチによりデータにもとづく予測と人間の直感を組み合わせることで、予期せぬ事態にも迅速かつ柔軟に対応できるようになります。データだけではカバーできない部分を人間の判断で補うことで、臨機応変な対応が可能となるのです。また、データと人間のフィードバックを活用すれば、プロセス・戦略を継続的に改善できます。環境の変化や新たな情報に対して柔軟に適応し、戦略を進化させていくことが可能です。これにより、競争の激しい市場環境でも柔軟に対応し、成功する可能性が高まります。リスクの低減データインフォームドのアプローチでは、データにもとづく客観的なリスク評価と、人間の経験・直感にもとづく主観的なリスク評価を組み合わせることで、総合的なリスク評価が可能になります。これにより、誤った判断を回避しやすくなるのです。また、データ分析により潜在的なリスクを早期に発見し、人間の直感・経験を用いてその影響を評価できます。これにより、潜在的なリスク要因を迅速に特定し、早期に対策を講じることが可能です。デメリット次に、データインフォームドのアプローチを取り入れることで問題となりやすい代表的なデメリットを3つピックアップし、それぞれ順番に解説します。主観的判断による偏り主観的判断による偏りとは、意思決定の際に直感や経験が過度に影響を与え、客観的なデータを無視または軽視してしまうことです。主観的判断による偏りが生じると、意思決定の正確性・信頼性が低下するおそれがあります。データインフォームドのアプローチでは、人間の直感や経験が重要な役割を果たしますが、それに伴い以下のようなバイアスの影響も大きくなります。バイアス影響認知バイアス過去の経験や個人的な信念にもとづいて判断することで、客観的なデータと矛盾する決定が下される可能性があるアンカリングバイアス初期情報や第一印象に過度に依存し、その後の意思決定に影響を与えることがある主観的判断による偏りを最小限に抑えるためには、データにもとづく判断と主観的な判断のバランスを取り、どちらか一方に偏らないようにすることが大切です。また、様々な専門家からの意見を取り入れ、多角的な視点で意思決定を行うことも望ましいです。データ解釈におけるミスデータ解釈におけるミスとは、データの分析結果を誤って理解し、適切でない結論を導き出してしまうことです。このようなミスが生じると、意思決定の精度や信頼性が低下し、望ましくない結論を招くおそれがあります。例えば、一部のデータを無視したり、都合の良いデータだけを選んでしまったりすることで、偏った判断が下されるリスクがあります。データを正確に解釈するためには、専門的な知識・スキルが必要不可欠です。データ分析や統計の知識が不足している場合、データを正確に解釈できず、誤った意思決定に至るリスクがあります。また、データ分析ツールの使い方を誤ることで、正確でない分析結果を導き出してしまうこともあるでしょう。こうしたミスを防ぐためには、データ解釈スキルを磨くことが大切です。データ解釈スキルの磨き方は、後の章「データインフォームドの注意点」の中で詳しく解説しています。データの不完全性データの不完全性とは、データが不足していたり、不正確であったり、あるいは偏っていたりする状態を指します。不完全な状態のデータにもとづいて意思決定を行うと、誤った意思決定に至る可能性が高まります。例えば、データが欠落していると、全体像が見えず誤った判断を下す可能性があります。また、不正確なデータにもとづいて分析を行うことで、不適切な意思決定に至る可能性があるでしょう。その結果として、意思決定の正確性や信頼性が低下します。データの不完全性を最小限に抑えるための対策としては、可能な限り包括的で多様なデータを収集し、データの欠落や偏りを減少させることが有効です。そのほか、データを定期的に更新し、最新の情報を反映させることも心がけましょう。データインフォームドとデータドリブンの違いデータインフォームドと似て非なる言葉に、「データドリブン」が挙げられます。データドリブンを字義通りに捉えると、「データによって物事が推進されること」を意味します。「データによって真理が導き出され、何をなすべきかが決まること」を指し、データが主体であるのが特徴です。これに対して、データインフォームドは、「データによって人間が情報を与えられる」ことです。データドリブンと対比するならば、「情報を与えられた人間が、物事を推進すること」と言い換えられます。つまり、データインフォームドの主体は人間です。データインフォームドとデータドリブンの違いをより明確に把握するために、「Webメディアの編集者として新しい記事のタイトルを検討している」ケースを想定します。いくつか異なるバージョンを準備しテストを行ったところ、「クリックされやすいよう大げさにしたタイトル」が最も多くクリックされました。このとき、どちらのアプローチを取るかによって、意思決定の内容は以下のとおり変化します。アプローチ意思決定の内容データドリブンクリック数・訪問数が増加したので、クリックされやすいように大げさにしたタイトルで正式にリリースすべき。データインフォームドクリック数・訪問数の増加は良いことだが、バウンス率(訪問直後にサイトを閉じてしまう率)も上昇しているので、UX(ユーザーが商品やサービスを通じて得られる体験)は良くないと想定される。クリックを狙ったタイトルはユーザーにとって真に価値があるものなのか、自社のブランドに対する評価の低下につながるのではないだろうか。クリックを狙ったタイトルによってユーザーが興味を持つ対象は判明したので、得られたインサイトをもとに、ユーザーが興味のある内容の記事作りに注力すべきではないだろうか。データドリブンのアプローチは意思決定の中心にデータがあり、それが主要もしくは唯一のインプットです。今後どのような施策を打つべきなのか、ほとんどの部分をデータに頼って検討するのが特徴です。一方のデータインフォームドのアプローチの場合、様々なインプットがある中で、データを重要なインプットとして置きます。今後どのような施策を打つべきなのかを深く検討するために、データを参考にするのです。データドリブンについて理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。データドリブンとは?DX推進におけるメリットと活かす方法を解説データインフォームドの実践データインフォームドは、データを活用しながらも人間の直感や経験も生かして意思決定を行う手法です。本章では、データインフォームドのアプローチを企業や組織で実践する際の基本的なステップを紹介します。データの準備最初に、データを効果的に活用できる状態にするために、データの収集と整理が不可欠です。具体的には、以下のような作業を行います。データソースの特定・確認:利用可能なデータソースを特定し、その有効性を確認するデータの整理と構造化:データを分析可能な形に整理するこれにより、意思決定に役立つ洞察を引き出せるようにします。データ分析データを整理したら、次にデータ分析を行います。分析手法としては、統計分析や機械学習などが挙げられます。重要なポイントは、「分析はデータにもとづいた意思決定を支援する手段であり、目的そのものではない」ことです。また、この段階でデータから有意義な情報を引き出すために重要な設問を立てておくことも大切です。これにより、データ分析を効果的に進められます。情報を洞察に転換データインフォームドのアプローチにおいて、データ分析から得られた情報を具体的な洞察に変えるためには、人間の直感と経験が必要不可欠です。人間の脳はパターン認識に優れており、データの背後にある意味を見いだすことに長けています。例えば、売上の急増・減少のデータがあれば、その原因を探ることが可能です。こうした洞察が効果的な意思決定につながります。インフォームドな意思決定の実行ここまでに得られた洞察をもとに意思決定を行います。この際、データだけでなく、人間の直感や経験も活用することが重要です。データおよびそこから得た洞察は重要な情報源ですが、それだけに頼らずに直感・過去の経験なども大切にします。例えば、企業買収(M&A)の意思決定を行う際は、データが不十分な場合でも経験や直感が大いに役立つことがあるでしょう。データインフォームドは、データを尊重しつつ人間の直感や経験も生かす、バランスの取れたアプローチです。データインフォームドの注意点データインフォームドを実践する際には、押さえておくべき注意点も存在します。ここで注意点を実践することで、データインフォームドのアプローチのデメリットを効果的に軽減しつつ、メリットを最大限に引き出せるでしょう。本章では、データインフォームドの代表的な注意点を3つピックアップし、順番に解説します。データの質を確保高品質なデータを確保することは、データインフォームドによる意思決定の基盤です。データの質を確保するためには、データに誤りがなく、信頼できるものであることを確認しましょう。データ入力や収集時のエラーを最小限に抑えられる環境の整備が大切です。データの質を確保するうえでは、セキュリティ面の意識も欠かせません。収集データの中に、他社の営業秘密や限定提供データなどが含まれることがあります。こうしたデータは、適切に収集・活用しなければ法的責任を問われるリスクがあります。データの漏えい・流出は企業の信用悪化につながるため、収集したデータを適切に活用する環境・制度の整備を徹底しましょう。意思決定に用いるデータが欠けていないかのチェックも大切です。データセットが不完全な状態では、意思決定に欠かせない情報が不足してしまうリスクがあります。異なるソースからのデータが混ざっている場合、内容に一貫性があるか確認しましょう。データのフォーマット・単位が統一されていないと、誤った意思決定に至る可能性があります。同時に、複数の部署が個別にデータを収集・管理している場合には、収集・管理の体系やルールが統一されているか、情報連携が取れているかのチェックも大切です。これらの確認を怠るとデータの品質劣化につながるため、不明瞭な状況を放置せず改善しましょう。データ収集後には定期的にデータの検証を行い、品質の維持に努めましょう。異常値や矛盾がないかチェックし、必要に応じてデータを修正してください。データ解釈スキルを磨くデータ解釈スキルとは、データを正確に理解し、分析結果を適切に解釈する能力のことです。このスキルが欠けていると、収集したデータを最大限に活用できず、誤った意思決定に至るリスクがあります。データ解釈スキルを磨くためには、まずデータリテラシーの向上が大切です。統計学・データ分析の基本概念を学び、データの読み取り方や分析手法を習得しましょう。データサイエンスや分析ツールに関するオンラインコースを受講し、スキルを向上させるのも一つの手です。次に、実際にデータを扱う経験を積むことも、データ解釈スキルの向上につながります。例えば、データ分析プロジェクトに参加し、実践的な経験を積むことでスキルを磨きましょう。実際のデータセットを使用した演習やケーススタディを行うことも望ましいです。データ分析の技術・手法は常に進化しています。そこで継続的に学習し、最新の知識を取り入れることも重要です。データに過度に依存しないデータインフォームドのアプローチのメリットを最大限に享受するためには、データに過度に依存しないことも重要です。データは過去の情報の蓄積ですが、現実の状況は常に変化しているものです。データだけに依存すると、現実の状況を見逃すリスクがあります。変化する市場や競争環境に対応するためには、データだけでなく人間による柔軟な判断が必要です。また、データのみに頼ると、現場の状況や従業員の声が反映されず、現実との乖離が生じる可能性があります。データが示す結果と現場の知見が一致しているか確認することが大切です。データにもとづいたアプローチに固執せず、状況に応じて柔軟に対応しましょう。データが示す方向性に対して直感や経験が反発を示す場合には、直感や経験を尊重する姿勢が求められます。なお、昨今話題となっている「企業のDX推進」においても、データの活用は欠かせない取り組みとなっています。DXにおけるデータ活用について、詳細は以下の記事で解説しています。DXでデータを活用する必要性と方法、注意点を解説データインフォームドと関連技術最後に、データインフォームドと関連する3つの技術のつながりを詳しく探ります。データサイエンスAIビッグデータ一見すると異なる技術に思えるかもしれませんが、実際にはこれらは緊密に関連しています。それぞれの技術がデータインフォームドとどのように連携し、ビジネスの運営や意思決定のプロセスにどのように活用するかについて、具体的に解説します。データサイエンスデータサイエンスは、数学・統計学・情報工学・プログラミング・機械学習・ビジネスなどの理論を活用して莫大なデータの分析を行い、有益な洞察を導き出していく学問です。データサイエンスは、データインフォームドと密接に関わっています。データサイエンスは、膨大で複雑なデータを扱う現代社会において、データインフォームドな意思決定の基盤を築きます。データサイエンスを通じてデータを分析・解釈することで有益な洞察が得られ、これを経験や直感と組み合わせて、最終的な意思決定に結びつけることが可能です。言い換えれば、データサイエンスはデータインフォームドの推進力です。データサイエンスについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。データサイエンスを簡単に解説!注目される背景やできることAIAI(Artificial Intelligence)は、日本語で「人工知能」のことです。現時点でのAI技術は、人間が行うような繰り返しの学習とその学習結果の応用を模倣するものです。人間の脳の複雑性・柔軟性には及ばないものの、特定のタスクにおいて高い効率と精度を実現しています。近年、AIはビジネスにおけるデータ活用を革新的に進化させています。AIにはデータを理解・分析し、それにもとづいて予測を立てる能力が備わっており、これがデータインフォームドによる意思決定を可能にします。一般的に、AIのアルゴリズムは、大量のデータにもとづいて予測を行います。これは、「大量のデータを分析し、取り組むための最善の行動を判断する」という点で、データインフォームドのアプローチと一致するものです。したがって、AIはデータインフォームドのアプローチを強化・拡大する役割を果たします。AI技術について理解を深めたい場合は、以下の記事をお読みいただくことをおすすめします。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】ビッグデータビッグデータは、以下のように定義されるものです。事業に役立つ知見を導出するためのデータ典型的なデータベースソフトウェアが把握し、通常のデータ管理ツールや手法で蓄積・運用・分析できる能力を超えたサイズのデータビッグデータは、データインフォームドのアプローチにおいて貴重な情報源となります。ビッグデータを活用することで、製品・顧客・業績などに関する深い洞察を得られ、これがデータにもとづいた意思決定に直結します。その結果、ビッグデータは多様的かつ洞察的な意思決定を支えるエネルギーとなり、データインフォームドのアプローチを推進します。ビッグデータについて理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。ビッグデータの詳細な定義やDX推進にあたって知っておきたい利点・注意点などをまとめています。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリットまとめデータインフォームドは、データと人間の直感を融合させた柔軟でバランスの取れた意思決定手法です。このアプローチを効果的に活用することで、企業・組織は変化する環境に迅速に対応し、リスクを管理しながら持続的な成長を実現できます。データリテラシーの向上や多角的な視点の導入を心掛けつつ、データインフォームドのアプローチにより得られるメリットを最大限に引き出しましょう。