サービスやデバイスのデジタル化をはじめとしたICTによって膨大なデータを蓄積できるようになったデジタル化社会では、さまざまな形式の膨大な量のデータを分析し、ビジネスの課題を導き出すデータサイエンスの考え方が強く求められるようになっています。ビジネス拡大のためには、膨大なデータを「何のために」「どのように」活用するかが重要であり、そのために必要とされるのがデータサイエンスの知識・スキルです。そこで本記事では、データサイエンスとはどういった概念なのか、AI・統計学・情報工学などとの違いを含めて簡単に解説します。注目される背景や、実現できることも紹介していますので、データサイエンスに興味関心がある方はぜひ参考にしてください。データサイエンスとは?データサイエンス(DS:Data Science)とは、数学・統計学・情報工学・プログラミング・機械学習・ビジネスなどの理論を活用して莫大なデータの分析・解析を行い、有益な洞察を導き出していく学問のことです。いま世界では「ビッグデータ」が注目されています。例えばGoogleでは、日常的に検索される数多くのデータをベースに有益な情報を瞬時に提供することで、数多くのユーザーを獲得しています。多くの企業・団体・組織などでは、日常的な活動の中で多くのデータを蓄積していますが、それらのビッグデータはそのままの状態では有効活用できません。具体的には、ビッグデータの中から有益な情報を集め、分析や解析を行い、そこから結論を導き出すデータサイエンスの知識・スキルが求められています。なぜなら、こうしたデータの中に顧客・ユーザーから求められている課題が潜んでおり、これを活用することで新しいアイデアを出したり、ニーズに沿った対応ができたりするためです。AIや統計学、情報工学との違いデータサイエンスとAIや統計学、情報工学はよく混同して捉えられている言葉です。しかし、それぞれ似て異なる概念なので、違いを区別できるようにしておきましょう。まず、AIとデータサイエンスの大きな違いは、その主体にあります。AIは「状況(入力)によって自律的に行動(出力)を変える機械」です。これに対して、データサイエンスは「統計学と情報工学などの手法を組み合わせ、大規模なデータセットから問題解決に必要な知見を引き出す学問」です。さまざまな状況に対し、AIは機械が判断し対処する一方で、データサイエンスでは必ず人間が最終的な判断を行います。次に、統計学とデータサイエンスの大きな違いは、データに対するアプローチ方法にあります。統計学はデータサイエンスの1分野であり、データの特徴を分かりやすく解釈する学問です。これに対して、データサイエンスはデータから価値ある情報を見つけ出し、意思決定を行うプロセスの学問です。「統計学はデータサイエンスの基本の解釈となる学問で、データサイエンスのプロセスの一部」という関係にあります。そして、情報工学も、データサイエンスの基本的な解釈の一部として位置付けられています。情報工学は、主にコンピューターサイエンスに注目した学問です。コンピュータがどのように作られ、どのように動いているのか、ハードウェアやソフトウェアに関して数学・物理などの観点から研究します。データサイエンスは、情報工学や統計学の分野にまたがった学問だと言えるでしょう。データサイエンスが注目される背景以前から主に品質管理の分野でデータサイエンスの考え方は用いられていましたが、現在AIなどの用語とともに再び注目されるようになりました。この背景には、時代の変化に伴い、データから価値ある情報を発見することが重要視されるようになったことが挙げられます。具体的には、以下の4つが、データサイエンスが注目される大きな要因となっていると考えられています。要因補足DXを推進する動きの活発化DXはデータやデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務などを変革することで、推進するにはデータサイエンスの知識・スキルの活用が必要不可欠とされる。DXの注目を受けて、データを扱うプロセスの学問であるデータサイエンスの注目度も増している。データの収集・管理の容易化コロナ禍により非接触・非対面が推奨されたことによって、オンライン上のデータ量が増加している(総務省の資料より)。クラウド技術の進化により、データをクラウド上に簡単に保管できるようになったことも要因の一つ。データ分析ツールのスペック向上データサイエンスが注目される以前は、画像や映像の分析が困難だった。しかし、近年はコンピュータのスペック向上や革新的なデータ分析手法の発見、データ分析を容易にできるツールの開発などの影響で、分析できるデータの量が急速に拡大している。日本政府による推進政府が目指す社会に「Society 5.0(※)」があり、その中でデータサイエンスは重要な役割を担っている。そこで政府はデータサイエンスの重要性を認識し、行政の電子化やデジタル人材の育成など、さまざまな取り組みに力を入れている。特にデジタル人材の教育に注力しており、高校の「情報Ⅱ」の授業でもデータサイエンスの教育が実施されている。※「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」のこと。上表のとおり、現在さまざまな背景からデータサイエンスが注目されています。企業だけでなく、個人でも積極的にデータサイエンスについて学習を始める動きが活発化している状況です。以下の記事では、データサイエンスについて個人で勉強する際の方法や内容、重要性を中心に詳しく解説しています。データサイエンスの知識・スキルの習得に興味関心がある方は、併せてご覧ください。データサイエンスの勉強方法5選!勉強する内容や意義も解説参考:総務省「令和3年版 情報通信白書|電気通信の利用状況」 内閣府「 科学技術政策|Society 5.0」データサイエンスでできることデータサイエンスの知識・スキルを習得すれば、主に以下のようなことができるようになります。予測分析顧客セグメンテーションデータの核心の抽出データの比較分析最適化問題の解決それぞれ順番に詳しく解説します。予測分析過去のデータから未来を予測分析することには、データサイエンスの知識・スキルが大いに求められます。データの予測分析ができれば、ファッションの流行や季節の売れ筋商品などを予測し、効果的なマーケティングにつなげられます。上記以外にも、データの予測分析の手法を身につけることで、以下のようなことが実現します。来月の売上高を予測する新製品の市場に投入した際の反応を予測するキャンペーンを打ち出した場合の効果を予測する顧客セグメンテーションデータサイエンスを活用すれば、顧客をさまざまな特徴に基づいてグループ分けできます。例えば、購買履歴や人口統計学的データ、行動データなどを分析し、類似した特徴を持つ顧客をグループ化すれば、より的確なマーケティング施策を打ち出すことが可能です。データサイエンスには、データをカテゴリに分ける分類手法もあります。データを分類したい場面は多くあり、クラスタリングをはじめとする分類手法をもとにデータの分類が可能です。データの分類スキルを身につけることで、顧客セグメンテーション以外にも、以下のようなことが実現します。商品のレビューからユーザーの感情を分析するニュースのコメントを分類する不良品を検出するデータの核心の抽出膨大なデータから核心となる情報を見つけ出すことも、データサイエンスの知識・スキルを活用すれば実現できます。データサイエンスには統計学のようにデータを解釈する学問も含まれているため、データの要点・特徴を見つけ出すことが可能です。具体的には、以下のようなことが実現します。ユーザーのレビューから重要な意見を抽出するSNSでトレンドを発見するデータの比較分析データサイエンスの知識・スキルを用いれば、異なるデータを簡単に比較分析できます。例えば、ある企業で販促キャンペーンを打ち出した時に、キャンペーンに効果があったのかどうかを比較できます。キャンペーン前後の効果や商品ごとの効果の比較などにより、販促キャンペーンの有効性をチェックし、今後の施策を検討する際に役立てられるでしょう。最適化問題の解決データサイエンスは、データから有益な洞察を引き出し、「コスト削減」「効率の向上」「生産性の最大化」といったビジネス上の最適化問題の解決にも貢献します。データサイエンスを活用すれば、無駄なコストを特定し削減できます。例えば、製造業での機械故障を予測するモデルを構築し、計画的なメンテナンスを行うことで、予期せぬ故障による高額な修理費や生産停止による損失を避けられます。顧客データの分析により、マーケティングの効果が低い施策を削減し、コストパフォーマンスを改善できます。業務プロセスの効率向上にも、データサイエンスは役立つでしょう。物流業界を例に挙げると、ルート最適化アルゴリズムを用いて配送ルートを最適化し、配送時間と燃料費用の削減が可能です。データサイエンスは、生産性を最大化するための戦略も提供してくれます。生産ラインのデータを分析し、ボトルネックを特定して解消すれば、全体の生産性を向上させられます。従業員のパフォーマンスデータを分析し、トレーニングが必要な領域を特定すれば、労働効率の向上も可能でしょう。データサイエンスの身近な例ここまでの内容を踏まえて、下表にデータサイエンスの身近な活用ケースをまとめました。データサイエンスの身近な例補足ICチップによる売上管理や商品の品質チェック寿司のお皿にICチップを取り付け、売上の管理や寿司の鮮度チェックを行っている。全国の店舗から収集した膨大なデータを分析し需要を予測することで、最適な寿司ネタをレーンに流している。自然災害予測と対策防災アプリでは、気象データや地質情報を分析し、災害の発生確率や影響範囲を予測し、ユーザーに提供している。その結果、ユーザーの早期警戒や適切な対策の立案・実行に役立てられる。GPSによる交通情報・人の流れの把握渋滞・交通情報アプリでは、ETCやカーナビ搭載のGPSを活用して交通情報を把握している。GPSはスマートフォンにも搭載されているため、特定の場所でスマートフォンを持っている人の位置情報や移動情報を抽出・分析し、混雑状況の確認・予測などにも活用できる。ECサイトの顧客データ分析マーケティング施策として、ECサイトで何を購入しているのか、どういったページにアクセスをしているのかなどを、性別・年齢ごとに分析し、分類する(顧客セグメンテーション)。分析結果をもとにおすすめ商品を提示したり、ページのレイアウトを工夫したりして、購入数の増加を目指す。医療データの分析医療分野では、患者の健康記録や治療履歴などのデータを分析し、病気の診断や治療法の改善に役立てている。例えば、特定の病気の症例データから共通のパターンを発見・抽出すれば、より効果的な治療方法を開発することが可能。健康データのトラッキングフィットネストラッカーや健康管理アプリでは、日々の活動量・睡眠の質・心拍数などのデータを記録し、過去のデータと比較分析している。この情報をもとに、ユーザーは健康状態の改善点を理解し、より健康的な生活習慣を送れるよう意識できる。顧客サービスの自動化金融機関をはじめチャットボットを導入し、顧客の問い合わせ対応にかかる人件費を削減している企業が増えている。自然言語処理と予測モデルを用いて、顧客の問い合わせに自動で最適な回答を提供する仕組み。データサイエンスの歴史データサイエンスは比較的新しい言葉で、これまでにいくつかのバズワードを変遷しながら浸透してきました。データサイエンスの歴史は、デンマークのコンピュータ科学者「ピーターナウア」が1974年に出版した「Concise Survey of Computer Methods」にて、「データサイエンス」という言葉を使用したのが始まりであると一般的に考えられています。その後、1980年代に移行する中で、言葉の定義が議論されたり、研究により新手法が開発されたりしながら、データサイエンスが徐々に一つの研究分野として確立していきます。1990年代頃には、大規模化の進むデータセットからパターンを見つけるプロセスを表す用語として、「Knowledge Discovery(知識発見)」 や「Data Mining(データマイニング:収集された情報のなかから傾向や関連性を見出す分析)」といった用語が頻繁に使用されるようになりました。この頃には、かつて知識駆動型アプローチが主流だった機械学習がデータ駆動型のアプローチへと移行し、現在のデータサイエンスの基盤を形成する一つの流れとなりました。2000年代に入ると、インターネットが一般家庭に広まり、大量のデータが日常的にやり取りされるようになりました。この変化が、データサイエンスの急速な発展と、現在見られるブームにつながっています。そして2012年、データサイエンスの歴史の中で大きな転機が起こります。ハーバード・ビジネス・レビュー誌が「データサイエンティストは21世紀で最もセクシーな職業(Data Scientist:The Sexiest Job of the 21st Century)」と題する記事を掲載しました。この記事を契機に職業としての「データサイエンティスト」への注目が大きく高まり、認知度も一気に上がっています。また、2012年に行われた「ILSVRC(画像認識の精度を競う大会)」で優勝したカナダのチームが、「ディープラーニング(対象の全体像から細部までの各々の粒度の概念を階層構造として関連させて学習する手法)を採用し、目覚ましい成果を挙げています。カナダのチームがディープラーニング技術で大きな成果を上げたことが、現代のAIブームの火付け役となりました。この出来事を契機に、ディープラーニングへの研究が加速し、技術が急速に普及していきました。データサイエンスの歴史を振り返ると、時代と共にその役割と需要が拡大していることが明らかです。これに伴い、データサイエンスの学びの内容は多様化し、データサイエンティストに必要なスキルセットも細分化していく過程が見て取れるでしょう。データサイエンティストについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。経済産業省、情報処理機構(IPA)の「DX推進スキル標準」にもとづくデータサイエンティストの役割や業務内容、必要なスキルを解説していますので、企業のDX推進にもご活用ください。DX推進スキル標準のデータサイエンティスト|役割、業務、必要なスキルまとめデータサイエンスは、データから有益な情報を抽出し意思決定につなげるための学問です。統計学や数学、情報工学、機械学習などの知識を統合しており、多くの業界でその重要性が高まっています。データサイエンスを習得するのは決して簡単ではありませんが、学習の進め方を理解すれば、知識・スキルを効率的に身につけることが可能です。弊社、株式会社SIGNATEでは、DX人材育成サービス「SIGNATE Boot Camp」の第1号講座「0からはじめるコンペで学ぶAI・データサイエンス実践講座」を提供しています。さまざまなデータ分析コンペを通じてAI・データサイエンスの実践力を身につける6か月間の集中講座です。10万人規模のAI・DX人材基盤から選ばれ、コンペ入賞経験もあるトップレベルのデータイエンティストが担当コーチとして講座開始から修了まで伴走します。ご興味のある方は、以下のリンクから詳細は以下のリンクをご覧いただき、まずは個別相談会からご参加ください。SIGNATE Boot Camp