昨今、さまざまなビジネス分野でビッグデータやAI技術の活用が求められる機会が増加しています。これに伴い、DXの推進に必要な人材としてデータサイエンティストを認識している企業も増えています。とはいえ、具体的にどのような人材なのか、どのようなスキルが求められるのかまでをイメージできている企業は決して多くありません。そこで本記事では、経済産業省および情報処理機構(IPA)が公開した「DX推進スキル標準」にもとづき、データサイエンティストとはどういった人材なのか、役割や業務内容、必要なスキルを中心に分かりやすくご紹介します。参考:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.1」2023年8月データサイエンティストとは?データサイエンティストとは、DXの推進において、データを活用して業務の変革や新しいビジネスの開発を実現するために活躍する専門家です。彼らの主な役割は、必要なデータの収集と解析を行うシステムの設計、実装、運用です。DX推進スキル標準において、DXを推進するために不可欠とされる5つの人材類型の1つとして挙げられています。この人材が担うロール(DX推進で担当する責任、主な業務内容、およびそのために必要なスキルセットをもとに定められた役割)は、以下の3つです。データビジネスストラテジストデータサイエンスプロフェッショナルデータエンジニア現代社会では、IT化とデジタル化の進展により、企業や組織で生成されるデータ量が大幅に増加しています。これらのデータを効果的に整理し活用することは、企業や組織の競争力を強化する上で非常に重要です。データ活用の効率性が、DXの成否を大きく左右するのです。こうした状況の中、データサイエンティストは、DXプロセスにおいて不可欠な役割を果たします。彼らは、データを活用してビジネスや業務の変革を推進することで、データ主導のDXを牽引します。データサイエンティストには、データ関連の専門スキルに加え、幅広い知識とスキルが求められます。DX推進にあたって重要なレベルの人材として活躍するためには、多岐にわたるスキルを習得しなければなりません。求められるスキルの内容について、詳しくは後述いたします。なお、DX推進スキル標準とは、DXの推進を担う人材の役割および習得すべきスキルに関する指標のことです。詳しくは以下の記事でご紹介していますので、他の人材類型を含めて知識を深めたい方は併せてご覧ください。DX推進スキル標準とは?必要性、5つの人材類型、活用イメージデータサイエンティストに期待される役割データサイエンティストに対して期待されている役割としては、主に2つあります。1つ目は、自分の会社・組織の競争力向上につながるデータ活用を実現することです。具体的には、データの発掘と活用を通じて、DXの取り組みを進めて会社や組織の競争力を向上させることです。データサイエンティストには高度な専門性が要求されるだけでなく、その成果が組織の競争力強化に結びつくことを意識することが求められます。社内外を問わず、データサイエンティストは業務成果が顧客にとって価値をもたらすことや、顧客価値の拡大にどれだけ貢献しているかを常に考慮することが重要です。これにより、自社のビジネスの成長と顧客満足度の向上の双方に貢献できます。2つ目は、DXの取り組みにおいて、データ活用の分野を担当し、必要に応じて他の人材類型や専門家と柔軟に連携することです(上図をご参照ください)。DXのプロジェクトがデータ活用に留まらず、より広範な範囲を含む場合、データサイエンティストには他の人材類型とも協力し、DX全体の取り組みに貢献してくことが期待されます。そして、データサイエンティストには、顧客やユーザー、DXプロジェクトに関わる他の人材のニーズを深く理解することに加えて、明確にされていない潜在的なニーズを発掘し、それをもとに新たなビジネス機会を創出したり、業務改革の可能性を見出したりすることも期待されています。別の人材類型との連携例一例として、データサイエンティストが別の人材類型である「デザイナー」と連携するケースを挙げると、クライアント・ユーザーの理解に努めたり、プロダクト検証のための調査・データ取得・分析およびその結果の見せ方に関する検討を行ったりといった業務を進めていくことが想定されています。これにより、プロダクトのUI/UX向上や、より効果的な改善策の提案などを目指していくことが可能です。デザイナーとは、ビジネス・顧客・ユーザーの視点を総合的にとらえ、プロダクトの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材である、とDX推進スキル標準では定義しています。DXのデザイナーについては以下の記事で解説しておりますので、期待される役割や業務を知ることはより良い連携に繋がるため、ぜひご一読ください。DXのデザイナーとは?役割、業務、必要なスキル|DX推進スキル標準データサイエンティストのロールごとの責任・業務・スキル続いて、求められる責任・業務・スキルについて、前述した3つのロールに分けて順番に取り上げます。データビジネスストラテジストデータビジネスストラテジストの主要な役割は、事業戦略に基づいたデータ戦略の立案、データ活用プロジェクトの管理、および現場部門と協力してデータ活用業務の設計や見直しを行うことです。DXを推進するチームや会社内の現場部門とデータサイエンティストとの架け橋となります。このような役割を果たすために、とりわけビジネス関連やマネジメント関連のスキル、プライバシー保護やその他の法制度に関する知識と実践力が強く求められます。責任このロールでは、「事業戦略に合わせたデータ利用戦略を策定して、その実行をリードすること」や「顧客価値を高めるための業務変革や新しいビジネス機会の創出に取り組むこと」などに責任を持ちます。業務このロールで手がける主な業務は、以下のようなものです。企業の事業戦略を基に、データの活用が適切かどうかを判断し、事業戦略を実現するためのデータ活用戦略を立てる。データ活用戦略を実現するためのプロセスを企画・主導し、他の人材類型との連携のコーディネーションやデータ活用プロジェクトの管理を行う。現場部門と協力して、データを活用する業務を設計・見直し、新しい事業機会の創出や既存業務の変革・改善を目指す。実施した取り組みの成果と課題を把握し、それを次のプロジェクトに活かす。スキルこのロールを担ううえで特に重要度が高いスキルは、以下の分野に関するものです。スキル項目内容データ理解・活用グラフ・図などを活用して、データ分析の結果を正確に理解し、背景を洞察できるスキルデータ・AI活用戦略事業戦略・組織の課題・ユーザーニーズを踏まえて、データ・AIを活用した課題解決案を提案できるスキルデータ・AI活用業務の設計・事業実装・評価データ・AI戦略上の目的実現に向けて分析内容を明確にし、アプロ―チを設計・実装し継続的に改善できるスキルデータサイエンスプロフェッショナルデータサイエンスプロフェッショナルは、データの処理と解析を行い、その結果から新しい事業のアイデアを生み出したり、現場業務の変革や改善に貢献する知見を提供したりといった役割を担います。このロールでは、データの解析結果をどう活用するか、結果の応用と活用に関しても責任を持つ点が特徴的です。また、現場部門でのデータ活用の仕組みを構築することや、エンドユーザーへの教育やサポートを行うことも役割の一つです。そのため、データの分析や評価のスキルだけでなく、現場のユーザーを含む多様な関係者とスムーズにコミュニケーションを取るための人間関係スキルが身についていることも欠かせません。責任データサイエンスプロフェッショナルの主要な役割は、データの処理と解析を行い、そこから得られる洞察を活用して、業務の改善や新しいビジネス機会の創出に寄与することです。ここには顧客価値を高めるための業務変革やビジネス戦略の創出が含まれ、得られたデータから有益な知見を引き出し、それを実際のビジネスへ応用することに責任を負います。業務このロールで手がける主な業務は、以下のようなものです。AIやデータサイエンスの専門知識を活用してデータを処理・解析し、得られた結果を正確に評価し分析する。解析結果から得た知見を基に、新規事業のアイデアを生み出したり、現場業務の変革や改善策を提案したりしたうえで、これらをわかりやすく可視化する。現場部門でのデータ活用のためのシステムやプロセスを構築し、エンドユーザーへの教育やサポートを提供する。データ活用の運用状況や新しいビジネスの要求に応じて、分析モデルを改善し、精度を高める。AIやデータサイエンスの新しい技術について最新の知識を維持し、その技術の可能性を検証し、活用方法を探る。スキルこのロールを担ううえで特に重要度が高いスキルは、以下の分野に関するものです。スキル項目内容数理統計・多変量解析・データ可視化統計学的知見に基づく手法を用いて、データを解析し、その結果を洞察するスキル機械学習・深層学習機械学習や深層学習、自然言語処理・画像認識・音声認識などの手法を用いて、適切なモデルを構築し評価するスキルデータエンジニアデータエンジニアは、リアルタイムで動的かつ自動最適化されるデータ分析環境の設計、実装、運用を行う専門家です。彼らの役割は、データを活用するための基盤を構築することに重点が置かれています。この役割を果たすために、バックエンドシステムの開発やクラウドインフラストラクチャーの利用に関して、ソフトウェアエンジニアと同程度のスキルが必要です。責任データエンジニアの主な任務は、効果的なデータ分析環境を設計、実装し、その運用を担うことです。これにより、彼らは顧客価値を高める業務変革や新しいビジネス機会の創出に寄与し、成果を実現する責任を負います。業務このロールで手がける主な業務は、以下のようなものです。目的に応じて業務データやログデータなどを効果的に収集・処理・解析するためのシステム環境を設計して実装を主導しつつ、システムの最適な稼働を確実にする。状況の変化に応じて、リアルタイムで動的かつ自動的に最適化されるデータ分析環境を調整・維持する。データの処理と解析に必要なデータの加工やデータマートの作成を行う。他のロールがデータを適切にモニタリングできるようにするための環境を整備する。スキルこのロールを担ううえで特に重要度が高いスキルは、以下の分野に関するものです。スキル項目内容データ活用基盤設計データから成果を生むデータ活用基盤の準備において、必要なシステム環境や収集データ、テーブルなどの要件を固めるスキルデータ活用基盤実装・運用データから成果を生むデータ活用基盤を実装し、円滑かつ効果的に運用するために必要なデータを扱うスキルまとめ本記事では、DX推進スキル標準が定義する「データサイエンティスト」について、役割や業務内容、活躍するために必要なスキルなどを幅広くご紹介しました。日本企業においてDXの重要性が高まる中、データサイエンティストはますます注目されるようになってきています。IPAが発表したDX推進スキル標準には、データサイエンティストに求められるスキルが詳細にまとめられており、日本企業においては今後これをもとに採用・育成していくことが求められます。とはいえ、DXにおけるデータ活用全般について責任を負う重要な存在であるために、広範な知識・スキルが必要とされることから、即戦力と呼べる人材は限られているのが現状です。採用だけで人材不足を補おうとせず、自社内で育てていくことも検討すると良いでしょう。また、弊社が運営する『SIGNATE Cloud』は、DX推進スキル標準に完全に準拠した教育プラットフォームです。このプラットフォームでは、DXスキルの評価から実際の業務への応用までをカバーしており、学習と実務を一体化した形で提供しています。『SIGNATE Cloud』では、優秀なDX人材の発掘から、基礎的な座学教育の提供、さらに学んだ内容を実際の業務に生かしていくことが可能です。データサイエンティストの養成も図れますので、専門知識・スキルの育成を図りたい企業様は、ぜひお気軽にご連絡ください。