AI(人工知能)は、コンピュータが人間のように学習し、判断する能力を持つ技術の総称です。これまでに、AIは定型業務をはじめさまざまな分野で活用されてきましたが、その中でも最近特に注目を集めているのが「生成AI」です。生成AIは従来のAIが行ってきたデータ分析やパターン認識などとは異なり、独自のデータ・コンテンツを生成する能力を持っています。本記事では、生成AIとAIの違いについて、初心者の方でも理解しやすいように解説します。生成AIの仕組みや応用例なども紹介していますので、AIとの違いを理解し、生成AIがもたらす可能性や課題について考えるきっかけにしていただければ幸いです。生成AIとAIの違いとは?従来のAIは、入力された知識データを記憶・学習し、そのパターンをもとに適切な情報を特定・予測することを目的としています。例えば、天気予報AIが過去の気象データをもとに未来の天気を予測するように、従来のAIは蓄積したデータの範囲内で予測や分類を行います。これに対して、生成AIは既存のデータをもとに新しい情報を創出することを目指し、たとえば独自の文章や画像を生成することが可能です。これは、大規模言語モデル(LLM)や敵対的生成ネットワーク(GAN)といった技術により、データを創造的に組み合わせ、新しいコンテンツを生み出せる点が従来のAIと異なります。ここからは、生成AIとAIの違いを技術的・特徴的な側面から解説していきます。技術的な違い従来のAI技術は「機械学習(Machine Learning)」や「ディープラーニング(Deep Learning)」といった技術にもとづいており、入力された膨大な量の知識データを学習することで、既存の情報から適切な回答(例:パターンの特定、データの予測)を提供します。具体例を挙げると、顔認識や音声認識、データ解析などの作業を行うAIは、何百万ものデータポイントを使って訓練されます。その中でも、画像認識AIは多様な画像データを学習し、新しい画像の内容を判断する際に役立ちます。これに対して、生成AIは、入力されたデータをもとに新たな答えを創造し、独自のコンテンツを出力する技術です。機械学習やディープラーニングといった技術を活用する点は従来のAIと共通していますが、生成AIでは大規模言語モデル(LLM)や敵対的生成ネットワーク(GAN)などの技術も用いられ、これにより文章、画像、音声など独自コンテンツの生成を可能としています。例えば、OpenAI社が提供する生成AIサービス「ChatGPT」は、「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」という大規模言語モデル(LLM)を搭載しています。このモデルは事前に膨大な量のテキストデータを学習し、数億のパラメータを持つネットワークを使って入力された質問に対して自然な文章を生成し、人間のような会話を実現しています。また、画像生成AIサービスである「Image Creator」や「Stable Diffusion」などは、入力されたキーワードにもとづいて新しい画像を作り出します。そのほかにも、生成AIにはさまざまな種類があり、詳細は以下の記事で解説しています。生成AIの活用で行えることの理解も深まりますので、ぜひ併せてご覧ください。生成AIの種類一覧と注目サービスの紹介 特徴的な違い従来のAIの大きな特徴は、「過去のデータにもとづいた判断や予測を行う能力」に長けていることです。従来のAIは、既存のデータから規則やパターンを抽出し、それを新しいデータに適用することで成果を出すのが得意です。医療、金融、製造業など多岐にわたる分野で利用されており、業務の効率化や精度の向上などに貢献しています。例えば、医療分野では、AIが画像を解析して腫瘍を早期に発見する技術が発展しています。これに対して、生成AIは、「独自のコンテンツを創造する」ことに特化しています。特に生成AIの技術はデザインや文章、音楽などのクリエイティブ分野で強みが発揮され、人の創造活動をサポートしています。例えば、文章生成AIは、膨大な量の知識データをもとに文脈を理解し、自然な文章を生成します。「SAKUBUN」や「Transcope」をはじめとする記事作成タイプの生成AIサービスは、ユーザーの入力内容に応じて人間が書いたような文章を作り出し、コンテンツ制作の効率向上に貢献しています。下表に、従来のAIと生成AIの代表的な違いをまとめました。違い従来のAI生成AI活用技術の例機械学習、ディープラーニング(深層学習)(左記に加えて)大規模言語モデル(LLM※3)、敵対的生成ネットワーク(GAN※4)使用アルゴリズムの例回帰モデル、決定木(※1)、ニューラルネットワーク(※2)(左記に加えて)トランスフォーマーモデル(※5)代表的な用途機械翻訳、音声認識、予測文章生成、画像生成、動画生成、音楽生成、コード生成ツールの一例Google翻訳、SiriChatGPT、ELYZA LLM、Image Creator(Copilot)主な特徴データにもとづく特定や予測など既存情報の提供新しいコンテンツの創造・生成※1:木構造(樹形図)を用いてデータを分析する手法のこと※2:人間の脳に似た方法で意思決定を行う機械学習プログラムまたはモデルのこと※3:膨大な量のデータとディープラーニング技術によって構築された言語モデルのこと※4:用意されたデータから特徴を学習し、擬似的なデータを生成できる生成モデルのこと※5:連続したデータの関係を追跡し文脈・意味を学習するニューラルネットワークのことAIとは?従来のAIと生成AIの大まかな違いを把握したところで、本章以降ではそれぞれの定義をはじめ、AI技術を活用するうえで把握しておくべき基本情報を紹介します。まず、AIとはArtificial Intelligenceの略称で、日本語で「人工知能」と訳されます。多くの人が「人間の脳と同様に機能するもの」と誤解しがちですが、現在の技術水準では人間の脳を完全に代替するような高度なAIは存在しません。現時点でのAI技術は、あくまでも人間が行うような繰り返しの学習とその学習結果の応用を模倣するものです。AIは人間の脳の複雑さや柔軟性には及びませんが、特定のタスクにおいては高い効率と精度を実現しています。従来のAIは、主に「機械学習」と「ディープラーニング」という2つの技術によって進化してきました。機械学習では、特定のタスクに関するデータからパターンを学び、それをもとに新しいデータに対して予測や判断を行います。例えば、スパムメールの分類や、製品の需要予測などに応用されています。また、ディープラーニングはニューラルネットワークを使用する機械学習の一分野で、「例から学ぶ」という人間の自然な行動をコンピューターに学習させる手法です。画像や音声認識などの分野で活躍しており、医療や自動運転技術などで広く利用されています。従来のAIは膨大な量のデータを活用し、そのデータから特徴を抽出して予測・分類を行います。例えば、画像認識AIでは、膨大な量の画像データをもとに、特定の物体がどのように見えるかを学習し、新しい画像を正確に識別します。Googleの画像検索機能や医療用の診断AIなどが、こうした技術の代表的な例です。従来のAIについて、詳しくは以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、DX推進におけるAI活用の重要性も理解できますので、ぜひご覧ください。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】生成AIとは?生成AI(生成系AI)とは、「ジェネレーティブAI」とも呼ばれる技術で、さまざまな種類のコンテンツを創り出せるAIのことです。従来のAIは特定のタスクを自動化することが主な目的でしたが、生成AIはデータからパターンや関連性を学び、独自のコンテンツを生み出すことを目指しています。これが、生成AIと従来のAIの大きな違いです。生成AIに用いられる技術には、主に以下のようなものがあります。技術解説大規模言語モデル(Large Language Models)テキストデータの生成や解釈を行うために訓練された高度なAIモデルです。膨大な量のテキストデータ(ニュース記事、書籍、ウェブサイトのコンテンツなど)を学習し、言語のパターンや構造を理解することで、自然な文章生成や質問応答、翻訳など、さまざまなタスクをこなします。敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks)敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks)は、生成ネットワーク(Generator)と識別ネットワーク(Discriminator)という2つのニューラルネットワークから構成されています。生成ネットワークが新しいデータを作り出し、それを識別ネットワークが本物か偽物か判定するというプロセスを繰り返すことで、より質の高い生成物が作成される仕組みです。たとえば、この技術により、実在しない人物の顔写真をリアルに生成することが可能です。変分オートエンコーダ(Variational Autoencoders)エンコーダ(Encoder)とデコーダ(Decoder)という2つのネットワークから構成されています。エンコーダは入力データを潜在変数(Latent Variable)に変換し、デコーダはその潜在変数から元のデータに近いデータを再構成することで、リアルなデータを生成することが可能です。上表にまとめた技術は、生成AIが文章や画像、音声などを創り出すために活用されており、クリエイティブなタスクを進めるうえで大いに役立っています。生成AIとChatGPTの違いや関係性について理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。生成AIとChatGPTの違いとは?技術や用途を解説【事例あり】生成AIのメリットと課題生成AIは、さまざまな領域で魅力的なメリットを提供しています。例えば、文章の自動生成により、マーケティングやコンテンツ制作の作業負担が軽減され、作業の効率化やコスト削減が可能となります。さらに、デザインやアートの分野では、画像生成AIの活用により、これまで人間が手作業で行っていたクリエイティブな業務が効率化されました。短時間で多様なアイデアやコンセプトを生み出せるようになり、ビジネス・プライベートを問わず創造のプロセスが大きく変化しています。その一方で、生成AIの活用にはいくつかの課題も存在します。特に生成されたコンテンツに意図と異なる内容や誤った情報が含まれるリスクがあります。これは生成AIが大量のデータセットに依存する特性によるものです。生成AIは、そのデータセット内で学習したパターンや情報を組み合わせて新しいコンテンツを生成しますが、データセット自体に偏りや誤った情報が含まれていると、それが生成内容に反映されやすくなります。例えば、ニュース記事を学習データとした場合、特定の視点に偏ったコンテンツが生成される可能性があるため、コンテンツ生成には慎重さが求められます。さらに、生成AIには著作権侵害やデータプライバシーといった倫理的な問題も指摘されています。例えば、画像生成AIが学習データとして既存の作品を大量に取り込み、そのパターンを基に新しい画像を生成する際、元の作品に酷似したものが生成されるリスクがあります。このように生成物が元データに依存するため、意図せずに既存の著作物を模倣する可能性があるのです。また、無許可でデータを利用する場合もあるため、プライバシー保護に対する配慮が求められます。これらの問題を防ぐためには、法的な規制や技術的な対策が必要不可欠です。生成AIのメリットや課題は、以下の記事でさらに詳しくまとめています。生成AIのメリットとデメリットとは?デメリットの対策も解説まとめ生成AIと従来のAIは、人工知能の枠組みに属しながらも、その目的や技術的なアプローチにおいて大きな違いがあります。従来のAIは、パターン認識や予測、分類といった分析的なタスクに特化しており、主にデータに基づいた判断や自動化を行います。一方、生成AIは、言語や画像、音声といった新しいコンテンツの生成に重点を置いており、よりクリエイティブなタスクに適しています。AI技術は日々進化しており、特に生成AIは、クリエイティブな領域や自動化の新しい可能性を切り開いています。今後も生成AIと従来のAI、それぞれの強みを生かしながら、私たちの生活やビジネスにどのように貢献していくのか、技術がどのように進化していくのか注目していきましょう。