デジタル化が急速に進展する現代において、企業が競争力を保つためには、DXを推進し、生産性を高めることが重要です。時代の変化に迅速に対応するため、経済産業省は企業に対して、デジタル技術を活用した社会変革を考慮した経営ビジョンの策定や公表を含む「デジタルガバナンス・コード」を公開しています。デジタルガバナンス・コードは、DXを推進する企業にとって重要なガイドラインとなり、デジタル時代における経営者の役割や取り組むべきポイントが記載されている資料です。本記事では、デジタルガバナンス・コードの概要、最新版「2.0」や実践の手引き2.0の内容について、分かりやすく解説します。参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」デジタルガバナンス・コードとは?経済産業省が企業のDX推進に関する自主的な取り組みを促すために、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応の内容をまとめた資料のことを、「デジタルガバナンス・コード」と言います(2020年11月9日に策定・公開)。デジタルガバナンス・コードは、「経営ビジョン・ビジネスモデル」や「戦略」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」といった4つの柱(6項目)で構成されています。デジタルガバナンス・コードの目的と対象Society5.0(AIやロボットなどの革新的な技術と人々のくらしが融合することで、便利で快適な生活を実現する持続可能な社会)への移行に向けて、多くの企業がビジネスモデルを根本的に変革し、新しい成長を目指すようになっています。一方で、この過程では、新しいビジネスモデルが既存のビジネスを圧倒し、市場を変革する現象(デジタルディスラプション)も見られています。このような変化の激しい時代において、経済産業省はそれぞれの企業が自発的にDXを進めていくことを促す目的のもと、デジタルガバナンス・コードを策定しています。デジタルガバナンス・コードの対象は、上場・非上場・大企業・中小企業といった企業規模を問わず、法人や個人事業主といった事業形態も問わない広く一般の事業者としています。また、頻繁に登場するステークホルダーという用語は、顧客、投資家、金融機関、エンジニア等の人材、取引先、システム・データ連携による価値協創するパートナー、地域社会等を含む、と説明されています。 デジタルガバナンス・コードとDX認定制度出典:経済産業省/独立行政法人 情報処理推進機構「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」2022年9月13日をもとに作成DX認定制度とは、国が策定した指針を踏まえてDX推進に関する優良な取り組みを実施している事業者について、事業者の申請にもとづいて国が認定を行っている制度のことです。デジタルガバナンス・コードの内容に対応している事業者を経済産業省が審査し、要件を満たしていれば、DX認定事業者として認められます。上図のとおり、デジタルガバナンス・コードの各項目は、DX認定の取得を申請する際の項目(要件)に対応しています。DX認定制度について、詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX認定制度とは?メリットや認定基準、申請の流れを解説デジタルガバナンス・コードの4つの柱本章では、デジタルガバナンス・コードが定めている4つの柱(「経営ビジョン・ビジネスモデル」「戦略」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」)について、それぞれの考え方や認定基準、実施することが望ましい取り組みなどを中心に解説します。ビジョン・ビジネスモデルDXを進めるにあたって、企業にはビジネス戦略とITシステムを統合的に考えることが求められています。具体的には、デジタル技術によって変化する社会や競争環境が自社にどのような影響を与えるかを理解し、それを踏まえた経営ビジョンを策定しなければなりません。そのうえで、ビジョンを実現するために新しいビジネスモデルを設計し、どのように価値を創造するかをステークホルダーに対して明確に伝えることが大切であるとの考え方が示されています。ビジョン・ビジネスモデルにおける認定基準は、以下のとおり定められています。デジタル技術による社会および競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン・ビジネスモデルの方向性を公表していることまた、ビジョン・ビジネスモデルに関する取り組みは、以下のような方向性で進めていくことが望ましいと述べられています。社会のデジタル化が自社の事業にもたらす可能性とリスクを明確に把握し、具体的な対応シナリオを描くデジタル戦略を経営の重要な柱として設定し、事業の推進に活用する現在のビジネスモデルの強みと弱みを明確にし、デジタル戦略を用いてこれらを強化・改善していく事業リスクや市場変化に応じて、デジタル戦略を活用し新しいビジネスモデルを創出するデジタル技術を用いて他社との比較で持続的な強みを確立する様々な主体がデジタル技術を通じて連携し、データ・知識を共有することで、単なる企業提携を超えた新たな価値提供・社会問題解決に向けた協創を実現し、革新的な価値を生み出す戦略DXを進める際、企業には社会や競争環境の変化を理解し、目指すべきビジネスモデルを実現するために、デジタル技術を活用する戦略を策定することが求められています。そのうえで、この戦略を企業の関係者やステークホルダーに対しても明示することが重要であるとの考え方が示されています。戦略における認定基準は、以下のとおり定められています。デジタル技術による社会・競争環境の変化の影響を踏まえて設計したビジネスモデルを実現するための方策として、デジタル技術を活用する戦略を公表していることまた、戦略に関する取り組みは、以下のような方向性で進めていくことが望ましいと述べられています。経営ビジョンを達成するための明確な変革シナリオを描き、それに基づいた戦略を構築するデジタル戦略・施策において、目的に合わせて合理的な予算配分を行うデータを重要な経営資産として認識し、収集・分析・活用を通じてビジネス戦略の策定・意思決定に役立てる戦略は、さらに「組織づくり・人材・企業文化に関する方策」と「戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム」に細分化されていますので、ここからはそれぞれの項目について順番に解説します。組織づくり・人材・企業文化に関する方策DXの推進にあたって、企業がデジタル技術を効果的に活用するための戦略を推進する際は、適切な組織体制を構築し、その組織設計や運営方法に関してステークホルダーに対して明確に伝えることが重要です。このプロセスにおいて、人材の育成や確保はもちろん、外部組織との連携や協力関係の構築も重視すべきであると示されています。組織づくり・人材・企業文化に関する方策における認定基準は、以下のとおり定められています。デジタル技術を活用する戦略において、特に戦略の推進に必要な体制・組織および人材の育成・確保に関する事項を示していることまた、組織づくり・人材・企業文化に関する方策は、以下のような方向性で取り組みを進めていくことが望ましいと述べられています。経営層から現場スタッフまで、デジタル戦略を推進するための具体的な役割と権限を定める知見・経験・スキル・アイデアを含む社外リソースの獲得と活用能力を持ち、それを実際の事業に生かすデジタル戦略を推進するために必要な人材の定義が明確で、その確保・育成・評価のための人事制度を整える現状の人材ギャップと、それを解消するための策を具体的かつ明確にする全社員のデジタルリテラシーを向上させるための施策を打ち、必要なスキルの定義と向上のためのアプローチを明確にする最新のデジタル技術や活用事例を経営トップが学び、自社のデジタル戦略の推進に生かす。雇用の流動性・人材の多様性・意思決定の民主化・失敗を許容する文化など、組織文化の変革への取り組みを行う経営戦略と人材戦略が連動し、デジタル人材の育成と確保に向けた取り組みを行うIT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策DXを推進する企業では、 ITシステムやデジタル技術の活用環境の整備に向けた「プロジェクト」「マネジメント方策」「利用する技術・標準・アーキテクチャ」「運用・投資計画」など明確化したうえで、ステークホルダーに示していく重要性が示されています。IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策における認定基準は、以下のとおり定められています。 デジタル技術を活用する戦略において、特にIT システム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示していることまた、IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策は、以下のような方向性で取り組みを進めていくことが望ましいと述べられています。レガシーシステム(技術的負債)だけでなく、企業全体の負債を見直し、効率的なシステムへと最適化する最新のテクノロジーを積極的に導入し、それらの技術を自社内で検証する体制を確立する開発者の経験を向上させることに加え、良好なガバナンスを通じてITシステムとデジタル技術の利用を促進する投資の意思決定において、コストだけでなくビジネスへのインパクトを考慮し、過度なリターンの追求に囚われず、必要な挑戦を後押しする姿勢を持つ成果と重要な成果指標成果と重要な成果指標の項目では、DXを推進する企業は以下の点を重視すべきであるとの考え方が示されています。デジタル技術を活用する戦略の成果を測定するための具体的な指標を設定するその指標をもとに、ステークホルダーに対して成果に関する自己評価を公開する成果と重要な成果指標における認定基準は、以下のとおり定められています。 デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していることまた、成果と重要な成果指標に関する取り組みは、以下のような方向性で進めていくことが望ましいと述べられています。デジタル戦略・施策の達成度をビジネスのKPIにより評価するそのKPIに目標値を設定し、最終的に財務成果(KGI)へ帰着するストーリーを明快にする実際に財務成果を出すデジタル戦略等によりESGやSDGsに関する取り組みを行うとともに、成果を出す ガバナンスシステムガバナンスシステムの項目では、DXを推進する企業の経営者に対して、以下の点を重視すべきであるとの考え方が示されています。デジタル技術に関する戦略の実施に際して、ステークホルダーへの積極的な情報発信を行う事業部門やITシステム部門と協力し、デジタル技術の動向や自社のITシステムの現状を把握・分析し、戦略の見直しに活用する事業の実施にあたって、サイバーセキュリティリスクへの対応を適切に行う上記に加えて、取締役会設置会社の場合には、取締役会に対して以下の点を重視すべきであると考えられています。経営ビジョンやデジタル技術を用いた戦略の指針を設定する際に、その重要な役割と責任を適切に果たし、これらの実現に向けた経営者の取り組みを適切に監督するガバナンスシステムにおける認定基準は、以下のとおり定められています。経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者自身が対外的にメッセージを発信していること経営者のリーダーシップのもとで、デジタル技術に関する動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握していること戦略の実施の前提となるサイバーセキュリティ対策を推進していることまた、経営者によるガバナンスシステムに関する取り組みは、以下のような方向性で進めていくことが望ましいと述べられています経営者自身の言葉で企業のビジョンを社内外のステークホルダーに明確に伝え、その実現に対する強いコミットメントを示す戦略の進行状況や成果をリアルタイムで把握し、状況に応じて対応を行う戦略の変更や調整が必要になった場合、迅速にデジタル戦略や施策の軌道修正を実行する企業全体のリスク管理と整合させたデジタルセキュリティ・個人情報保護・システム障害に関する対策を組織的・規範的・技術的な面から全方位的に講じるデジタルガバナンス・コード2.0デジタルガバナンス・コードの策定から2年の月日が経過したことを受けて、経済産業省では「コロナ禍を踏まえたデジタル・ガバナンス検討会」を開催し、この検討会の議論を踏まえて必要な改訂を施した「デジタルガバナンス・コード2.0」を取りまとめました(2022 年9⽉13⽇に改訂・公開)。デジタルガバナンス・コード2.0では、⼤幅な変更は⾏われなかったものの、企業のDXのさらなる促進に向けて、デジタル⼈材の育成・確保やSX/GX(※)との関わりなどの新たなトピックを踏まえた改訂が行われています。デジタルガバナンス・コードからの主な改訂ポイントは、以下のとおりです。改訂ポイント概要デジタル⼈材の育成・確保・デジタル⼈材の育成・確保をDX認定の認定基準に追加・経営戦略と⼈材戦略を連動させたうえでのデジタル⼈材の育成・確保の重要性を明記SX/GX・DXとSX/GXとの関係性を整理「DXレポート2.2」の議論の反映・企業の稼ぐ⼒を強化するためのデジタル活⽤の重要性を指摘・経営ビジョン実現に向けたデジタル活⽤の⾏動指針を策定する必要性を記載「DX推進ガイドライン」との統合・DX推進施策体系を「デジタルガバナンス・コード」に⼀本化・これまでガイドラインに紐づけていたDX推進指標は、新たにコードに紐づけ※SX(Sustainability Transformation)とは、持続可能な社会の実現に向けた企業の変革活動のこと。GX(Green Transformation)とは、カーボンニュートラル実現などのための活動や変革のこと。上表で示したDXレポートについて、詳細は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXレポートとは?経済産業省が公開した最新2.2を含む4つを解説参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き2.0ここまで読めば、デジタルガバナンス・コードの概要を理解できたと思いますが、実際にDXを推進していく際にどのようにして活用すれば良いのか分からないという企業・経営者の方も多いはずです。そのような場合、「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」を読むことをおすすめします。「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きとは、とりわけ中堅・中小企業等の経営者が実際にデジタルガバナンス・コードに沿って自社の DXの推進に取り組む際、もしくは支援機関の方がこれらの企業の支援に取り組む際、その参考となるように作成された資料です。「DXとは何か?」「DXについて何から取り組めば良いか分からない」といった疑問を持つ方に向けて、以下のような内容が掲載されています。全国各地のDXに取り組む企業11社の事例を紹介DXの進め方を4ステップで解説DX成功に向けた6つのポイントを記載「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」は、「デジタルガバナンス・コード2.0」の内容が反映された改訂版です。「デジタルガバナンス・コード」について理解した内容を踏まえて、今後実際にDXを推進していこうと考えている場合、参考資料として活用できます。中堅・中小企業に該当しなくとも役立つ内容が掲載されていますので、DX推進にあたって一度読んでみることをおすすめします。参考:経済産業省「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」まとめデジタルガバナンス・コードとは、企業のDX推進に関する自主的な取り組みを促すために、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応の内容をまとめた資料のことです。当然ながら、デジタルガバナンス・コードをどのように戦略・具体的な施策に落とし込むかは、それぞれの企業によって異なります。また、デジタル技術は急速に進化している一方で、DXの推進は短期間で済ませられるものではありません。経営者としては、デジタルガバナンス・コードを深く理解したうえで、それをもとにリーダーシップを発揮しつつDXを着実に進めていく姿勢が求められています。