現在の企業経営において、日々進歩していくデジタル技術を正しく活用し、課題解決や競合他社をリードするためには、DX人材の確保・育成が必要不可欠とされています。2022年12月、経済産業省および独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「デジタルスキル標準」を再編・公開しました。この指標の活用により、デジタル社会でビジネスパーソンが身につけるべきデジタルスキルの内容や、DXに取り組む企業が育成すべき人材像などが把握できます。本記事では、DX人材育成に必要な素養やスキルの指標をまとめた「デジタルスキル標準」とはどういったものなのか、概要や策定された背景、対象人材、活用イメージなどを分かりやすく解説します。デジタルスキル標準とは?デジタルスキル標準とは、DX時代における人材像を定めた指針のことです。DXに関する専門知識・技術などを備えた人材の育成に加えて、すべてのビジネスパーソンがDXリテラシーを身につけてDX推進の取り組みに参画することを後押しすべく、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によって再編・公開されました。詳しく説明すると、2022年3月に先に公開された「DXリテラシー標準(2023年8月改定)」と、2022年12月に公開された、専門的な知識や能力が求められるDX人材向けのスキル標準である「DX推進スキル標準」を合わせて、「デジタルスキル標準v1.0」として再編・公開されました。今後、DX推進を図っていく企業では、デジタルスキル標準の内容を参考に人材の育成・採用を進めていくことが望まれます。デジタルスキル標準は、以下の2種類で構成されています。DXリテラシー標準DX推進スキル標準これら2つは共通的な指標として汎用性を持たせた表現でまとめられていて業界を問わずに転用しやすく、DXの推進にあたり各人材に求められる知識・スキルがどういったものなのか総合的にチェックするうえで役立ちます。ここからは、上記2つの内容を順番に詳しく解説します。参考:経済産業省「「デジタルスキル標準」をとりまとめました!」2022年12月21日更新DXリテラシー標準DXリテラシー標準は、すべてのビジネスパーソンが習得すべき能力とスキルのガイドラインです。このガイドラインを活用することで、個々のビジネスパーソンはDXに関する理解を深め、DXを自身の事業・職務に直結する重要な要素と捉えることが可能です。これにより、デジタル変革に向けて積極的に行動できるようになります。DXリテラシー標準は、大まかに以下の4項目で構成されています。Why (DXの背景)What(DX で活用されるデータ・技術)How(データ・技術の利活用)マインド・スタンス(新しい価値を創造するために必要な意識、態度、行動)DXが急速に進展する現代社会において、ビジネスパーソンが成功を収めるためには、自身の仕事にDXをどう活用するかを理解し実践していく必要があります。また、企業全体としてもDXに適応していくためには、従業員一人ひとりがDXに関する理解を深め、関連するスキルを向上させることが欠かせません。これらのことを実現するうえで、DXリテラシー標準が定義する4項目の学習は効果的です。DXリテラシー標準について、詳しく知りたい方は以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。DXリテラシー標準とは?必要性、学びによる効果、活用イメージ参考:独立行政法人情報処理推進機構「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」DX推進スキル標準DX推進スキル標準とは、DXを推進する人材(DX人材)の役割や習得すべきスキルの標準を定めた指針のことです。企業や組織のDXの推進において必要な人材のうち、代表的な人材を5つの「人材類型」に区分して定義しています。ビジネスアーキテクトデザイナーデータサイエンティストソフトウェアエンジニアサイバーセキュリティこのように分類し定義することで、自社組織に求められる人材やポジションを把握するうえで役立ちます。DXを推進する人材からすれば、自身とは異なる類型の人材とのつながりを積極的に構築したうえで、他の類型の巻き込みや他の類型に対するサポートを行うことが大切であると考えられています。DX推進スキル標準およびDX人材について、詳しく知りたい方は以下の記事でそれぞれ解説していますので、併せてご確認ください。DX推進スキル標準とは?必要性、5つの人材類型、活用イメージDX人材とは?定義やスキル、7つの職種を解説参考:独立行政法人情報処理推進機構「DX推進スキル標準(DSS-P)概要」デジタルスキル標準が策定された背景主な背景として、以下の2つがあります。DX推進の重要性が高まっているためDX推進で人材が重要なためそれぞれの内容を順番に詳しく解説します。DX推進の重要性が高まっているため昨今のデータ活用やデジタル技術の進化に伴い、日本だけでなく世界中においてデータ・デジタル技術を活用した産業構造の変化が起きています。このような変化の中で企業が競争上の優位性を確立するためには、常に変化を続ける社会・ユーザーが抱える課題を捉えつつ、DXを推進していくことが必要不可欠です。ただし、多くの日本企業は、諸外国(特に欧米企業)と比べてDX推進に関する取り組みが遅れている状況です。その大きな要因の一つとして、DXに関する素養や専門性を持った人材が不足していることが挙げられます。独立行政法人 情報処理推進機構の「DX白書2023」によれば、日本企業の84%がDX人材の不足を感じていることが分かっています。それにも関わらず、半数以上の企業では社員のリスキリングの実施が遅れており、DX人材の育成が急務となっている状況です。DX推進で人材が重要なため企業がDXを成功させるためには、組織全体で変革への受け入れ体制を強化することが必要です。これを達成するためには、経営層から一般従業員に至るまで、全員がDXの重要性を理解し、自分の仕事に取り入れる意識を持つ必要があります。つまり、DXに関する知識やスキル、リテラシーを身につけることが欠かせません。さらに、企業がDX戦略を具体的に推進していくには、DX分野の専門知識を持った人材が不可欠となるため、そうした専門人材の確保や育成に注力することが重要です。これを実現できれば、企業は変革を効果的に進め、デジタル時代における競争力を高められるでしょう。以上の2つの背景から、DXを推進するうえでの人材の重要性を認識した経済産業省と情報処理推進機構は、個人の学習および企業における人材の確保と育成のためのガイドラインとして「デジタルスキル標準」を策定しました。参考:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月デジタルスキル標準の対象人材本章では、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準でそれぞれ対象としている人材について、順番に解説します。DXリテラシー標準の対象人材DXリテラシー標準の対象者は、デジタル化が進む社会の中で企業の競争力を高めていくために取り組むビジネスパーソンすべてです。 身につけておくべき考え方や基本的な知識は、以下4つの項目に分けて示されています。マインド・スタンスWhyWhatHowDX推進スキル標準の対象人材DX推進スキル標準では、DXを推進するための中心的な役割を担う人材を、5つの類型に分けて定義しています。下表に、それぞれの人材類型の名称と概要について簡単にまとめました。名称概要ビジネスアーキテクトDXの取り組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材詳細は以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。ビジネスアーキテクトとは?役割、業務、必要なスキル|DX推進スキル標準デザイナービジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材詳細は以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。DXのデザイナーとは?役割、業務、必要なスキル|DX推進スキル標準データサイエンティストビッグデータを扱い、その中から有用な情報を抽出し、ビジネス上の意思決定を支援することを専門とする人材詳細は以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。DX推進スキル標準のデータサイエンティスト|役割、業務、必要なスキルソフトウェアエンジニアデジタル技術を活用した製品・サービスの実現に向けて、システムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材詳細は以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。DX推進スキル標準のソフトウェアエンジニア|役割、業務、必要なスキルサイバーセキュリティデジタル活用に伴うサイバーセキュリティリスクの抑制にあたる人材詳細は以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。DX推進スキル標準のサイバーセキュリティ|役割、業務、必要なスキルデジタルスキル標準の活用イメージここでは、デジタルスキル標準の活用イメージの一例を紹介します。そもそも企業がDXを推進していくためには、全社的なDXの方向性をもとに人材確保・育成の取組みを実行し、それを通じて実現できたことを踏まえて方向性を見直していくといった循環的な取り組みが求められます。こうした中で、デジタルスキル標準の活用は、「全社的な底上げ」「DXを推進する人材の要件の明確化」「人材の確保・育成の施策検討」といった具体的な取組みを実行していくうえで大いに役立つでしょう。2023年8月の改訂趣旨(ver. 1.1)2023年8月にデジタルスキル標準の改訂が行われました。改訂の趣旨は、以下のとおりです。最近、急激に普及している生成AI技術は各企業のDXを加速させる重要な役割を果たすと見られており、これを活用することで企業の競争力が高まる可能性があるデジタル技術の進展に伴い、ビジネスパーソンに必要とされるスキルや知識も変わってきており、新たに重視されるべき分野が出てくると考えられる上記のような状況に対応するため、DXリテラシー標準に対して変更が行われました。具体的には、「DXリテラシー標準のねらい」には改訂はなく、Why(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の利活用)および生成AIの適切な利用に必要となるマインド・スタンスなどに関する文言追加が行われました。デジタルスキル標準については、今後とも、関係省庁との連携のもとでさまざまな民間プレイヤーの関与を得ながら普及・活用に向けて取り組むとともに、ユーザーのフィードバックを得ながら継続的な見直しが行われていくものと見られています。2024年7月のデジタルスキル標準の改訂の詳しい内容については、経済産業省の公式Webサイトをご確認ください。参考:経済産業省「デジタルスキル標準」2024年7月更新まとめデジタルスキル標準とは、DX時代における人材像を定めた指針のことです。さまざまな業界や職種で応用可能な、DXに関する幅広い知識とスキルが体系的にまとめられており、企業がDX人材を育成する際の重要な指標になります。デジタル時代の効果的な人材育成戦略を策定するのに役立つため、人材採用や既存の従業員のスキル再構築(リスキリング)、スキル研修などに活用すると良いでしょう。