DX化とは、簡単に言うと、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、組織文化そのものを変革する取り組みのことです。近年、多くの企業が業務の効率化や顧客体験の向上などを目指してDX化を進めていますが、DX化とIT化を同じものと認識している人もいるため注意が必要です。本記事では、DX化の概念や目的、IT化との違いについて簡単に解説します。「DX化とは何か」をしっかりと理解したうえでDX化に着手し、自社の課題解決や成長戦略につなげましょう。DX化とは?DX化とは、企業のビジネスモデルや業務プロセス、組織文化をデジタル技術で変革し、競争力の向上や新たなビジネス価値の創出などにつなげる取り組みを意味するのが一般的です。ただし、DX化には、企業の状況や業界によって異なる定義が存在し、ケースごとに適切なアプローチが求められます。DX化は、単なるIT化(詳細は後述)の枠を超え、企業が顧客中心の姿勢で市場の変化に柔軟に対応し、継続的な成長を図るための重要な手段として位置付けられています。さらに、新しいビジネスチャンスを創出し、組織全体のイノベーションを促進する取り組みとしても注目されています。現在、多くの企業や組織がDX化を進める背景には、技術の急速な進化と顧客ニーズの多様化があります。このような変化に対応し、競争力を維持するためには、デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化し、新たなサービス提供モデルを構築することが求められます。具体的には、新規ビジネスの開拓や、サービス内容の拡充といった柔軟な取り組みが重要です。DX化に成功した企業では、ビジネスやサービスのあり方が大きく変わります。例えば、データを活用して顧客に合わせたパーソナライズドなサービスを提供することでCX(顧客体験)を向上させたり、AIやRPAなどの技術により業務の自動化・効率化を進めたりすることが可能です。こうしたDX化の取り組みによって、企業全体の競争力が強化されるとともに、新たな収益源の創出にもつながります。DX化とCXの関係性および、企業のDX化に役立つ技術について、詳しくはそれぞれ以下の記事で解説しています。DXでCXを向上!相乗効果を生み出す2つの関係を解説DX推進を支える7つの技術!一覧にして解説IT化とは?IT化とは、特定の業務の効率化や生産性の向上を図る目的のもと、既存の業務プロセスを維持した状態でデジタル技術を導入・活用する取り組みを指すのが一般的です。IT化の典型例として、連絡手段を電話・手紙からメール・チャットツールなどに置き換える取り組みが挙げられます。このケースでは、連絡の必要性についての是非を問うことなく、デジタルツールの導入によって連絡業務の効率化が図られるのが特徴的です。また、企業内の決済や申請手続きをオンラインフォームで行えるようにしたり、ERPシステム(※)の導入によって在庫や販売、会計といった業務を一元管理できるようにしたりする取り組みも、IT化の事例です。※:企業の会計業務、人事業務、生産業務、物流業務、販売業務などの基幹となる業務を統合し、効率化、情報の一元化を図るためのシステム。DX化とIT化の違い昨今、DX化とIT化が混同されているケースが珍しくありません。DX化に取り組む際は、IT化との違いを正確に理解することが、DX化成功の第一歩です。まず、DX化とIT化には、目的に大きな違いがあります。DX化は「ビジネスモデルの変革」を目指し、企業のあり方そのものを再構築することに重点を置いています。一方、IT化は「業務効率化」を主目的としており、既存のプロセスをデジタル化することで、時間やコストの削減を図ることが目指されます。また、取り組み範囲にも違いが見られます。DX化は、企業全体やビジネスモデルを対象に含む広範な取り組みであり、組織全体の改革が求められることが多いです。これに対して、IT化は主に部門単位の改善や、特定の業務プロセスの効率化にとどまることが一般的です。DX化では、既存の枠組みにとらわれず、柔軟かつ包括的なアプローチが求められる点に特徴があると言えます。そして、目的や取り組み範囲が異なることから、期待される成果にも違いがあります。DX化は、企業内だけでなく、顧客や社会に対しても新しい価値を提供する成果をもたらすことが期待されます。例えば、顧客向けに新しいサービスや製品を創出することで、企業全体の競争力を強化し、新たな収益機会を生み出すことが可能です。一方、IT化は主に業務効率やコスト削減に焦点が当てられ、既存のプロセスを改善することで、内部の生産性向上に寄与することが中心です。以上の違いを紹介しましたが、IT化は業務効率化やデータの可視化など、DX化を進めるための基盤として重要です。両者は相互に補完し合う関係にあり、IT化を進めたうえで、ビジネスモデルや組織全体を再構築することがDX化の成功につながります。これまでIT化を進めてきた企業は、視線を社内から顧客や社会へと広げることで、IT化の基盤を生かしながらスムーズにDX化を目指すことができます。DX化のメリットDX化には多くのメリットがあります。本章では、その中でも特に注目すべき4つのメリットを取り上げて詳しく解説します。ビジネスの存続可能性顧客満足度の向上効率化とコスト削減新たな収益機会の創出それぞれのメリットを順番に詳しく解説します。ビジネスの存続可能性DX化におけるデジタル技術の活用は、市場環境への迅速な対応を可能にします。リアルタイムで市場の動向や顧客のニーズを捉えることで、プロダクトやサービスをスピーディに改良し、変化する市場に即応できるようになります。この適応力により、競合他社よりも有利な立場を築き、結果的に市場シェアの拡大が期待できるでしょう。また、デジタルマーケティングツールを活用することで、ターゲット顧客への効率的で精度の高いアプローチが実現します。例えば、マーケティングの自動化を支援するMA(マーケティングオートメーション)ツールや、顧客情報を一元管理するCRMツールを活用することで、広告やプロモーション活動をより効果的に展開することが可能です。これらの取り組みを積み重ね、急速に変化する市場の課題に柔軟に対応できる体制を整えることで、企業の競争力を強化するとともに、ビジネスの長期的な存続可能性を大幅に高めることが可能です。顧客満足度の向上DX化の取り組みにおいて、ビッグデータ(※)を活用した顧客データの分析は、個別の顧客ニーズや嗜好を把握するための有力な手段です。※大量(Volume)、多様性(Variety)、高速性(Velocity)、信頼性(Veracity)の4つの要素を持つデータ群を指す。ビッグデータを生かしてマーケティング施策を立案することで、顧客の期待に合ったプロダクトやサービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上が期待できます。また、顧客の行動データを分析することで、将来のトレンドや潜在ニーズを予測し、競合に先駆けた戦略を展開する機会を得られるでしょう。こうしたメリットがあるため、多くの企業がDX化の取り組みとしてビッグデータの活用に注力しており、競争力の強化と顧客満足度の向上を同時に実現しようとしています。DX化の取り組みにおけるビッグデータの活用について、詳しくは以下の記事で解説しています。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリット効率化とコスト削減DX化の取り組みを通じて、これまで紙や手作業に依存していた業務を効率化することが可能です。単に一部の業務をデジタル化するだけでなく、ビジネスプロセス全体を見直すことで、組織全体の運営効率を抜本的に改善する機会を得られます。具体的には、現状のプロセスを詳細に分析して無駄を特定し、不要なコストや時間を削減します。これにより、効率的で統合された業務体制を築くことが可能です。最終的には、特定の部署に留まらず、企業全体にわたる生産性向上が見込まれ、リソースの最適化や競争力の強化につながるでしょう。DXによる生産性向上の具体的なメリットについて、詳しくは以下の記事で解説しています。DXで生産性向上!目的やメリット、改善の4つのポイントを解説新たな収益機会の創出DX化の取り組みの一環として、デジタルプラットフォーム(例:人材マッチングサービスやシェアリングサービス)を活用することで、新しいプロダクトやサービスの開発が円滑に進みやすくなり、新たな収益源を創出する可能性が高まります。例えば、サブスクリプション型サービスを展開することで、顧客との長期的な関係を築き、持続的な収益基盤を確立することが可能です。こうしたDX化の取り組みによるビジネスモデルの転換を通じて、新たな市場への参入が容易になり、事業の多角化や成長の加速が期待できるでしょう。以下の記事では、DX化に期待できるメリットをさらに深く、幅広く解説しています。メリットとデメリットの双方を把握できますので、DX化の取り組み実施にあたってご一読いただくことをおすすめします。DX推進の9つのメリットとは?4つのデメリットについても解説DX化の進め方以下に、DX化に向けた取り組みの基本的な進め方を簡単にまとめました。ステップ補足①DXのビジョン策定「DX化を通じて組織が目指す将来の姿」や「現在の状況では達成できていない目標を達成するためのビジョン」を定めます。②現状把握・課題抽出DX化の進捗状況や業界・市場の変化を整理します。まず、自社のDX取り組みの進行状況と、業界全体でのDXの進展具合を把握しましょう。そのうえで、改善が必要な業務を特定します。特に作業時間が長い業務や改善効果が大きい業務から優先的に取り組むと良いでしょう。③推進チームの組織化・ロードマップ策定DX推進チームのメンバーには、以下のような多様なスキルセットが求められます。・ITリテラシーを持つ人材・各部門の業務内容を深く理解している人材・プロジェクトを推進できるマネジメントスキルを持つ人材・デジタルビジネスの立案・推進ができる人材DX推進の体制が整ったら、ロードマップ策定に移ります。ロードマップは、ここまでに定めた「DXのビジョン」や「課題」をもとに、ゴールから逆算して策定していくことが重要です。④予算確保・ITシステム、ベンダーの選定上層部へのプレゼンや稟議を通じて予算を確保します。DX推進の目的を明確にし、その目的を達成するために積極的な投資を行ってもらえるような予算案を作成することが大切です。同時並行で、DX化の取り組みで利用するITシステムやベンダーの選定も進めます。選定にあたっては、自社のDXビジョンや解決したい課題に合致するかを重視しましょう。⑤DX化の施策実行DXをスムーズに推進していくためには、以下の順番で進めていくことが推奨されます。・デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)・デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)・デジタルトランスフォーメーション(業務プロセスにとどまらない、組織全体のデジタル化)⑥評価・改善施策が事前に設定した戦略やプロセスに従って進行しているか、KPIの達成状況を確認しながら結果を分析・評価します。分析・評価の結果をもとに、戦略やリソースの配分を見直したり、目標の再設定を行ったりして改善を図りましょう。⑦継続的な改善・適応PDCAサイクルを活用しながら、継続的な改善と適応を図ります。改善を図る際は、「デジタルツール・システムの導入で満足していないか」「目的達成のためのDXになっているかどうか」といった点に着目しましょう。DX化の取り組みの進め方について、詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXの進め方とは?7つのステップと成功のポイントを解説DX化を成功させるためのポイントDX化にはさまざまなメリットがあるうえに、基本的な進め方が確立しつつある状況ですが、依然として成果を収められていない企業も少なくありません。こうした状況下でDX化を成功させるためには、以下のようなポイントを意識・実践することが大切です。組織文化の変革顧客志向の強化積極的なデータ活用それぞれのポイントについて、順番に詳しく解説します。組織文化の変革DX化を成功させるためには組織文化の見直しが必要です。DX化の取り組み実施に伴う新しい働き方や考え方を理解してもらい、協力してもらうことで、変化に柔軟に対応し、積極的にDX化に取り組む企業文化が育まれます。変革に対する従業員の抵抗を克服するためには、経営陣からの明確なビジョンの提示や積極的なコミュニケーションなどを意識・実践することが重要です。また、成功事例や従業員にとってのメリットを共有したり、従業員への評価・報奨制度を導入したりして、DX化の取り組みに対するモチベーションを高めるのも効果的です。DX化のプロセスに従業員を積極的に参加させることで、協力体制の強化につながります。顧客志向の強化DX化は単なる業務効率化や技術導入にとどまらず、顧客に新しい価値を提供することを目指す取り組みです。そのため、DX化の成功には、顧客志向の強化が求められます。顧客志向を強化するには、ビッグデータを活用して顧客のニーズを正確に把握し、そこから新たなサービスや製品を生み出すことが鍵となります。例えば、過去の購入履歴や行動データを基に、個別の顧客に最適な製品を提案するパーソナライズドサービスを提供するなど、具体的なアクションが重要です。DX化の一環として顧客志向を強化することで、顧客のロイヤルティ向上やブランド価値の向上、売上の拡大などが期待できます。顧客志向を強化するためには、顧客の行動やニーズを正確に把握することが不可欠です。これを実現するための手段の一つとして、データドリブン(データにもとづく意思決定)のアプローチが挙げられます。データドリブンのアプローチでは、以下のような施策を行っていくのが基本です。施策補足データ収集顧客の購買履歴、Webサイトの閲覧履歴、SNSのフィードバックなど、あらゆる接点からデータを収集する。データ分析AIやBIツールを活用して、顧客の行動パターンや潜在ニーズを分析する。パーソナライズ個々の顧客に合った商品やサービスを提案する。DX化の取り組みにおけるデータドリブンのアプローチについて、詳しくは以下の記事で解説しています。データドリブンとは?DX推進におけるメリットと活かす方法を解説顧客志向の強化にあたっては、顧客が企業やサービスと接触する全プロセスを可視化し、改善ポイントを特定することも重要です。これをカスタマージャーニーマップ(※)として視覚化することで、具体的な改善施策を導き出せます。※:顧客が商品・サービスの存在を知ってから購入に至るまでのプロセスを時系列でまとめた図。また、SNSやWeb上のアンケートフォームなどで顧客の意見やフィードバックを定期的に収集し、サービスやプロダクトの改善に役立てることも重要です。こうした施策によって顧客志向を強化し、顧客の期待を超える価値の提供を目指していくことがDX化の成功につながります。積極的なデータ活用DX化の取り組みを効果的に推進するカギとなるのが、ベテラン従業員の経験や勘といった主観的な判断から、データにもとづいた客観的な判断へと、その基準を変えることです。当然ながら「データにもとづいた客観的な判断」には、データ活用が欠かせません。以上のことから、DX化の取り組みを行う際のベースとして、企業ではデータを活用できる環境を構築する必要があります。下表に、DX化の一環としてデータ活用を積極的に行う際の大まかな進め方をまとめました。ステップ補足①現状把握・課題設定データ活用には現状把握と課題設定が重要です。ここで設定した目的に応じたデータ選定が必要です。②データ活用がしやすい環境・制度整備データを適切に収集・活用しなければ法的な責任を問われるリスクがあります。企業の信用悪化にも直結するため、収集したデータを適切に活用するための環境・制度の整備を徹底する必要があります。③データの収集・蓄積・加工データ収集の主な方法は、ユーザーの行動ログや自社サイトからの顧客情報の取得、データを保有する外部機関からの購入などです。自社サーバにデータを蓄積する場合、セキュリティに配慮しながら管理しましょう。④データ分析課題解決には、目的に合ったデータ分析手法を決める必要があります。課題を解決するためにどのようなデータの分析が必要で、いかなる分析手法を用いるのか決めましょう。⑤分析をもとにDX化の取り組みを実施DX化の取り組みでは、データ分析をもとに現状の改善施策を検討するのが基本です。施策の実施後は、効果測定を行いましょう。DX化の取り組みにおけるデータ活用の詳細は、以下の記事をご覧ください。DXでデータを活用する必要性と方法、注意点を解説DX化の事例最後に、経済産業省と東京証券取引所および独立行政法人情報処理推進機構による「DX銘柄2024」に選出された企業によるDX化の取り組み事例の中から3社をピックアップし、順番に解説します。【住宅設備業界】LIXIL:DX化で顧客満足度と作業効率を向上LIXILは、顧客の利便性向上や作業効率の改善を目的に、DX化の取り組みを積極的に進めています。その一環として「e-Connection」という水まわり商材に特化したオンラインシステムを導入し、代理店や施工業者が自宅やオフィスから簡単に見積もり作成や発注を行える仕組みを提供しています。このシステムにより、製品の選択や注文の手続きがスムーズになり、顧客の満足度が向上しています。さらに、業務プロセスの効率化に貢献し、住宅設備業界でのサービス品質向上や業務改善を実現しました。この取り組みは、住宅設備業界のDX化の成功例として注目を集めています。【海運業界】商船三井:DX化で環境配慮と安全性向上を実現商船三井は、「BLUE ACTION 2035」というビジョンにもとづき、サステナビリティ課題の解決と競争力強化を目指してDX化の取り組みを進めています。施策の一つとして船舶データ基盤「FOCUS」を導入し、各船舶のセンサーから取得する運航データや実海域での観測データを活用しています。AIなどの最先端技術の活用により効率的な航行ルートの提案や機器の故障予測を行い、燃料消費の削減や安全性の向上を実現しています。商船三井によるDX化の取り組みは、海運業界の持続可能な成長と環境負荷の低減に貢献する取り組みとして評価されています。【医療業界】H.U.グループホールディングス:DX化で効率化とサービス向上を推進H.U.グループホールディングスは、医療現場の効率化とサービスの向上を目的にDX化の取り組みを推進しています。DX推進に向けたビジョン「H.U.デジタルVision」のもと、以下の3つの柱に据えて取り組みを進めています。合理化・効率化を追求したリーンオペレーションデジタル技術を活かし個々に寄り添った価値の創造DX人材の育成をはじめとする事業変革と次世代ヘルスケアのプラットフォーム構築その一環として、データ活用により検査の進行状況や処理能力を可視化するプラットフォーム「H.U. Bioness Complex」を導入し、業務効率の向上やコスト削減を実現しています。また、AIを活用して作業を自動化・省力化することで、医療従事者が患者対応に専念できる環境を整備しています。さらに、医療機関向けクラウドサービス「医’sアシスト」と患者向けアプリ「ウィズウェルネス」を連携させることで、患者と医療機関の双方に利便性を提供し、医療サービスの質を向上させています。こうした取り組みは、医療分野におけるDX化の成功例として注目されており、業界全体に効率化と価値創出のモデルを示しています。参考:経済産業省、東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構「DX銘柄2024」2024年5月27日まとめ昨今、DX化の波が加速しており、多くの企業が業務効率化や新たなビジネスモデル・市場の創出などを目指しています。将来的には、AIやディープラーニングなどの技術が進化し、業務のさらなる自動化が進むことで、企業は効率的な運営と顧客満足度の向上を同時に実現できるでしょう。ただし、DX化の取り組みには、課題やハードルも少なくありません。明確なビジョンを持ち、計画的かつ着実に進めることで、企業の存続や成長を目指しましょう。