「日本は先進国であり、デジタル化の分野でも先進国である」と思っている方は少なくありません。確かに、日本は世界有数の富める国であり、基礎技術分野では世界でも依然としてトップクラスのレベルを誇っています。しかし、デジタル化の分野では残念ながら遅れをとっており、メディアにおいて「デジタル後進国に転落した」と表現されることもあります。デジタル後進国と呼ばれる理由の一つに、多くの日本企業・組織が「真のDX」を理解しておらず、正しく実装できていないことが挙げられます。そこで本記事では、デジタル後進国という言葉の定義や、日本がデジタル後進国と呼ばれている理由、そこから脱するための方法について解説します。デジタル後進国とは?デジタル後進国とは、簡単にいうと、「デジタル化の推進が主要先進国に比べて遅れている国」を示した言葉です。「デジタル後進国」の語源および、日本がデジタル後進国と呼ばれるようになった経緯について、厳密には明らかになっていません。とはいえ、一般的にはスイスの国際経営開発研究所「IMD」が発表している「世界のデジタル競争力ランキング」の調査結果が関係していると考えられています。上記の2023年調査によると、日本のデジタル競争力は中位(64か国中32位)で、なおかつ前年から3つ順位が低下しており、2017年の調査開始以来で過去最低を記録しています。この結果から、決して楽観視できない日本のデジタル化の推進状況を表現する言葉として「デジタル後進国」が使われるようになったと考えられます。なお、岸田内閣総理大臣も記者会見において、日本のデジタル化の推進状況を受けて「デジタル後進国」の言葉を用いて以下のようにコメントしています。国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました。出典:自民党「マイナンバーカードについて岸田内閣総理大臣記者会見(全文)」2023年8月4日世界デジタル競争力ランキング2023年11月、スイスの国際経営開発研究所(IMD)は「世界デジタル競争力ランキング2023」を発表しました。IMD世界デジタル競争力ランキングは、デジタル技術をビジネス・政府・社会における変革の重要な推進力として活用する能力および態勢を国・地域ごとに測定・比較するものです。64カ国・地域を対象に、政府・企業・社会の変革につながるデジタル技術を導入・活用する能力について、以下の3つの観点からランク付け・評価しています。知識:人材や教育・訓練、科学に対する取り組み技術:規制および技術の枠組みと資本将来への準備:DXに対する社会の準備度合い評価基準のうち、3分の2が測定可能な数値データを、3分の1が企業・政府幹部の調査回答を基にしています。日本は過去最低の32位デジタル化を推進していくためには、日本のデジタル競争力が世界水準と比べてどの程度に位置しているのかを把握しておくことが大切です。下表に、IMDによる「世界デジタル競争力ランキング2023年」の調査結果をまとめました。順位国名2022年の順位(対前年比)1アメリカ2(↑1)2オランダ6(↑4)3シンガポール4(↑1)4デンマーク1(↓3)5スイス5(±0)6韓国8(↑2)7スウェーデン3(↓4)8フィンランド7(↓1)9台湾11(↑2)10香港9(↓1)11カナダ10(↓1)12アラブ首長国連邦(UAE)13(↑1)13イスラエル15(↑2)14ノルウェー12(↓2)15ベルギー23(↑8)16オーストラリア14(↓2)17アイスランド21(↑4)18エストニア20(↑2)19中国17(↓2)20イギリス16(↓4)21アイルランド24(↑3)22オーストリア18(↓4)23ドイツ19(↓4)24チェコ33(↑9)25ニュージーランド27(↑2)26ルクセンブルク30(↑4)27フランス22(↓5)28リトアニア25(↓3)29カタール26(↓3)30サウジアラビア35(↑5)31スペイン28(↓3)32日本29(↓3)アメリカは2017年の調査開始以来、5回目まで首位を維持していましたが、2022年調査では2位となり、その後は2023年調査で再び首位に返り咲いています。一方の日本は、2022年調査から3つ順位を落として32位となり、過去最低を記録しました。日本では、技術的枠組みや科学的集積などに優位性があるのに対して、ビジネスの俊敏性・規制の枠組み・人材などの面が弱点となっている状況が続いていることで、総合的な順位が低落傾向にあると考えられています。その一方で、ビジネスの俊敏性やIT統合などについては、順位の下げ止まり傾向があり、今後のデジタル化推進に期待できる部分も垣間見えます。参考:IMD「2023年世界デジタル競争力ランキング 日本は総合32位、過去最低を更新」 IMD「World Digital Competitiveness Ranking 2023」なぜデジタル後進国となってしまったのか?ここまで「世界デジタル競争力ランキング」をもとに、日本におけるデジタル化の推進状況について見てきましたが、なぜデジタル後進国となってしまったのでしょうか。日本がデジタル後進国と呼ばれるようになった理由は様々ありますが、代表的な要因として考えられているものは以下の3つです。デジタル人材の不足経営者の高齢化過去の成功体験と法規制上記の3つは、「世界デジタル競争力ランキング」において、とりわけ日本が低く評価されている指標です。それぞれの理由を順番に分かりやすく解説します。①デジタル人材の不足デジタル分野において世界の先進国と互角に戦える日本を作るためには、システムの開発や運用、マネジメントなどの専門的知識・スキルを持ったデジタル人材を確保しなければなりません。しかし、日本はデジタル人材が不足している問題に直面しています。デジタル人材が不足しているのであれば、社内で育成するか、外部から新たに人材を雇うことで不足を補うこともできます。しかし、日本ではデジタル人材の絶対数が不足しているため、外部から優秀な人材を雇うことが難しいのです。そこで、社内でのデジタル人材の育成に注目が集まっています。しかし、育成のノウハウが不足している企業・組織が多く、デジタル化の推進に貢献する人材として育てあげるまでに多くの時間がかかってしまっている状況です。②経営者の高齢化日本は、1970年に「高齢化社会」に突入しました。その後も高齢化率は急激に上昇し、1994年に高齢社会、2007年には超高齢社会へと突入しています。日本の高齢者率は今後も上昇を続けると予測されており、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると見られています。こうした傾向に伴い、多くの日本企業・組織では経営者の高齢化が進行しています。高齢の経営者は、一般的に新たな取り組みへの積極性が低くなりがちです。また、長期ビジョンを描きにくく、設備投資や経営改善に消極的になる傾向があります。その結果、デジタル化の推進に経営者自身が積極的に取り組むケースが少なく、たとえ社員から提案を受けても、デジタル化の推進に向けた決断が下されにくいという状況が多く生まれています。参考:公益財団法人 長寿科学振興財団「健康長寿ネット 日本の超高齢社会の特徴」2019年8月1日③過去の成功体験と法規制現在も多くの日本企業・組織でトップに立つ高齢のリーダーは、いわば現在ほどデジタル技術が普及していない時代の競争原理を学び、それをもとに高度成長を成し遂げてきた人たちです。高度成長の成功要因の一つは、ヒトの力にもとづく現場優先のボトムアップ経営にあると考えられています。90年代以降、ITを導入する機会は多くあったものの、高度成長の成功体験に縛られたことで、現場の努力で凌いでしまったと指摘する意見もあります。その結果、多くの日本企業・組織のリーダーはデジタル技術に対する理解が不足しており、デジタル化の推進が難しくなっているのです。加えて、デジタル化の推進に伴い産業構造やビジネスモデルが大きく変化してくると、従来の法規制によって、それが妨げられるという問題が生じることもあります。日本の業者規制は、一般的に「業法」と呼ばれる法律により各産業・業態ごとに規制が定められています。そこでは産業・業態を管轄する監督官庁が存在し、典型的な取引のバリューチェーンの川上から川下までをフルセットで視野に入れて規制することが多くなっています。しかし、デジタル化の推進によって、従来の業法では想定していなかったビジネスモデルの展開を図ろうとすると、業務の一部が既存の業法に文言上抵触するために、ビジネスの展開の障害となる場合もあります。参考:日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 藤田 哲雄「イノベーションを阻害しない規制はどうあるべきか─デジタルエコノミーへの対応─」デジタル後進国を脱するためには?当然ながら、日本がデジタル後進国を脱するためには、より一層のDX推進が求められます。そのためには、官民を問わず組織のトップが問題意識を持ってDXを組織全体で進めていく必要があるでしょう。「IBM」北東アジア代表の高津尚志氏は、「世界デジタル競争力ランキング」のトップ10に入る国々の多くに比べて人口規模が大きい日本では、様々な領域・分野をつないで軸合わせをし、相乗効果を生んでいくための努力が一層求められると述べています。そして、悲観的にならず、企業・組織内の変革や産官学の連携・技術協力の推進、ビジネスのしやすい規制緩和の促進など、様々な要素をつなぎ合わせ、多様かつ整合性のある歩みを進めていくことが肝要であるとのコメントを残しています。まとめデジタル後進国と呼ばれるようになった代表的な理由は、以下のとおりです。デジタル人材の不足経営者の高齢化過去の成功体験と法規制このうち、経営者の高齢化や過去の成功体験といった問題は、組織のトップが重い腰を上げて1つずつ着実に解決していくことが大切です。また、デジタル人材の不足については、採用だけでなく組織内で育てていくことも検討すると良いでしょう。弊社では『SIGNATE Cloud』というデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォームを運営しています。『SIGNATE Cloud』は人材の発掘から、育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら