DXを進めるうえで、データの活用は欠かせません。しかし、いざデータ分析に取り組もうとしても、具体的な手順や方法が分からず、戸惑う方も多いでしょう。手順が不明確なまま分析を進めても、期待する結果には辿り着けないことがよくあります。そこで本記事では、DX推進におけるデータ活用の必要性や具体的な方法、注意すべきポイントについて分かりやすく解説します。DX推進を考えている企業の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。DXでデータを活用する必要性DX推進にあたって、重要な要素の1つとされるのが「データ活用」です。両者は混同されがちで、「DX=データ活用」と認識している方もいるようですが、それは誤りです。DXは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語です。具体的には、「企業が外部環境の変化やビジネス要求に迅速に対応し、データやデジタル技術を活用して製品・サービス・事業モデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革すること」を指します。DXはこれまでの産業構造を大きく変え、デジタル社会を目指す取り組みです。企業としては、従来の業務・ビジネスのあり方を、デジタル社会に対応できるよう変革することが求められます。DXについて理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説このDXを効果的に推進するカギとなるのが、ベテランの経験や勘などの主観的な判断から、データに基づいた客観的な判断へと、その基準を変えることです。当然ながら「データに基づいた客観的な判断」には、データ活用が欠かせません。以上のことから、DX推進のベースとして、企業ではデータ活用できる環境を構築する必要があります。第4次産業革命すでに始まっている第四次産業革命において、データ活用は必要不可欠な要素となっています。第4次産業革命は、以下の3つに続く産業革命として位置付けられているものです。第1次産業革命(18世紀末以降):水力や蒸気機関による工場の機械化第2次産業革命(20世紀初頭):分業に基づく電力を用いた大量生産第3次産業革命(1970年代初頭):電子工学や情報技術を用いたオートメーション化具体的には、ビッグデータ(※1)やIoT(※2)、AI(※3)などの活用によってもたらされる技術革新を指します。※1:事業に役立つ知見を導出するためのデータのこと。※2:日本語で「モノのインターネット」と訳される言葉。デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること。※3:Artificial Intelligenceの略で、日本語で「人工知能」と訳される。各用語について、詳しくは以下の記事にまとめていますので、併せてご覧ください。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリットDXとIoTの関係とは?違いや活用のメリット、事例を紹介DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】IoT技術に対応したモノを使った際の情報は、ビッグデータとして集積・解析され、さまざまな用途に利用することで新たな価値を生み出しています。また、ビッグデータを基にAIが自動学習して、一定の判断を下せる技術も開発されています。 第4次産業革命では、データがものを言うのです。こうした技術革新により、産業構造に大きな変化が生じています。 かつての画一的な大量生産・大量販売が通用しなくなり、よりパーソナルなサービスの提供が求められるようになっています。近年、人々の消費動向が多様化・細分化したことで、衰退する産業・ビジネスも出てきている状況です。こうした状況において、他者との競争に負けずに企業・ビジネスを存続させていく、つまりDXの目的を果たすためには、データを収集し、活用していくことが大切です。参考:内閣府「日本経済2016-2017 第2章 第1節 第4次産業革命のインパクト」日本におけるデータ活用状況「DX白書2023」によると、企業のデータ利活用について「全社で利活用している」と「事業部門・部署ごとに利活用している」と回答した企業の合計は、アメリカよりも日本の方が高いことが分かっています。このことから、日本では企業における「データ活用」がある程度進んでいると言えます。その一方で、「全社で利活用している」企業の割合はアメリカと比べて低いことも分かりました。また、データ利活用による売上増加の効果を見ても、アメリカではすべての領域で6割から7割半ばの割合で効果があると回答しているのに対して、日本で効果があると回答している企業の割合は1割半ばから3割弱に止まっており、総じて低い傾向が見られます。以上の結果から、日本におけるデータ活用の推進はアメリカと比べて遅れていると言えます。グローバル化が進む昨今、アメリカ企業との競争に負けないためにも、データ活用を推進する必要性は非常に高いでしょう。参考:独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」DXでデータを活用する方法ここまでの説明を読めば、DX推進にあたってデータの活用がいかに必要とされているのか理解できたはずです。本章では、DX推進にあたってデータ活用を進めていく際の基本的な方法を、以下の流れに沿って解説します。現状把握と課題設定データを活用しやすくする環境・制度整備データ収集・蓄積・加工データ分析分析を基にDXを推進それぞれのステップでやるべきことを中心に順番に詳しく解説します。企業におけるデータ活用の推進にお役立てください。①現状把握と課題設定まず行うべきことは、企業の現状把握と課題の設定です。データ活用は、あくまでも経営上の課題解決、ひいてはDXを実現するための手段に過ぎません。データ活用の目的に応じて、必要となるデータの種類・規模・活用方法なども変動します。そのため、データ活用を進めるにあたって、まずは目的の明確化を行いましょう。データ活用によって解決したい経営上の課題としては、「収益性の向上」や「新たなビジネスモデルの創出」などが一例として挙げられます。これらの課題を解決するために、意思決定を精緻に行って新たな価値を創出していくことが、データ活用の基本的な目的です。こうした目的を成し遂げるためには、必要なデータを見極めたうえで収集・分析・活用していくことが必要不可欠です。なお、データ分析に基づく意思決定は、「データドリブン」と呼ばれています。データドリブンは、DX推進の重要性が叫ばれている現代において、それを実現する手段として注目が集まっています。詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。データドリブンとは?DX推進におけるメリットと活かす方法を解説②データを活用しやすくする環境・制度整備収集するデータの中には、他社の営業秘密や限定提供データなどが含まれているケースも珍しくありません。こうしたデータの多くは企業からすれば高い価値を有する反面、適切に収集・活用しなければ法的な責任を問われるリスクがあります。加えて、データの漏えい・流出などが起これば企業の信用悪化に直結するため、収集したデータを適切に活用するための環境・制度の整備をあらかじめ徹底しておきましょう。参考:経済産業省「データ利活用のポイント集」2020年6月3日発行③データ収集・蓄積・加工ここまでの準備を整えたら、いよいよデータの収集・蓄積・加工を行っていきます。データの収集方法としては、サイトにおけるユーザーの行動ログや自社サイトからの顧客情報の取得、データを取得している他社からの購入などさまざまな選択肢があります。近年はIoTの普及によって、さまざまな経路からリアルタイムにデータを収集できるようになってきています。収集したデータは、パブリッククラウドもしくは自社サーバに蓄積するのが一般的です。自社サーバにデータを蓄積する場合は複数のクラウドやサーバに分散させたり、プロジェクトメンバー以外がアクセスできないよう制限をかけたりして、セキュリティ面に十分に配慮しながら管理していくことが大切です。また、収集したデータは、「データレイク」「データウェアハウス」「データマート」と呼ばれる3種類のデータ基盤での管理が推奨されます。下表に、それぞれの特徴をまとめました。データ基盤の種類補足データレイクローデータ(何も手を加えていない状態の調査結果の生の回答データ)の保管場所。収集した全てのデータを格納する。データウェアハウスデータを時系列・目的ごとに整理し、分析しやすい綺麗な状態で保管しておく場所。データマートデータウェアハウスのデータを利用者のために加工・整理したものを保管しておく場所。情報が網羅的に格納されるデータウェアハウスとは違い、データを目的や用途別に小分けした「マート(店)」というイメージ。なお、複数の部署がそれぞれ個別にデータを管理している場合には、管理体系・ルールが統一されているか、情報連携が取れているかをチェックしましょう。ここでの確認が疎かになると、データの品質劣化につながります。不明瞭な状況を放置せず、しっかりと改善しておくことが大切です。④データ分析事前に掲げていた課題を解決するために、目的に合ったデータ分析手法を決める必要があります。課題を解決するためにどのようなデータの分析が必要で、どのような分析手法を用いるのかを決めましょう。データ分析手法は多種多様にあるうえに複雑なものも多く、専門家に任せることが適切な場合もあります。自社に専門家がおらず、外部の専門家にも依頼しないという場合は、BIツール(企業の持つさまざまなデータを分析・見える化して、経営や業務に役立てるソフトウェア)を使用したデータ分析も視野に入れると良いでしょう。⑤分析を基にDXを推進最後に、データ分析に基づくDX推進および、それに関連する意思決定を行っていきます。当然ながら、データ分析で終わりにするのではなく、データに基づく施策を実行することが欠かせません。中でも意思決定については、データという明確な根拠を活用できるので、強力な判断材料になります。DX推進については、データ分析を基に、現状の改善施策を検討していくのが基本です。また、施策を実施した後は、効果測定を必ず行いましょう。HPの来訪者数やメルマガ開封率をチェックするなど、施策を実施した前後の評価ができる形でPDCAを回していくことが大切です。DXでデータを活用する際の注意点本章では、DXでデータを活用する際に知っておくべき注意点として、代表的な2つのポイントをピックアップし、順番に解説します。個人情報の取り扱いDX推進にあたってデータを活用する際には、秘匿情報や個人情報などの取り扱いに注意しなければなりません。例えば、顧客データの中には名前や住所、生年月日などの個人情報が含まれています。万が一、これらが流出してしまえば、企業の信用問題に発展してしまいます。重要書類や機密事項にはアクセス権限を付与するなど、万全なセキュリティ体制を構築しましょう。プロジェクトの一人歩きデータ分析プロジェクトは事象の複雑性から専門性が求められることも多く属人化しやすいものです。そのため、「一部の専門的な人間が行っているよくわからないプロジェクト」と思われることも少なくありません。しかし、DXは全社的な課題であるため、社員全員で取り組むべきであると意識することが大切です。具体的には、定期的な情報共有をするために共有会を実施したり、ドキュメント化したりして、組織知の蓄積を心がけましょう。DXでデータを活用する際に役立つツールとデータ一覧最後に、DX推進にあたってデータ活用を行ううえで役立つ代表的なツール・データを順番に紹介します。ツール下表に、DX推進におけるデータ活用で役立つツールの代表例をまとめました。ツールの名称概要・特徴BIツールBIはビジネスインテリジェンス、つまり、ビジネスの意思決定に関わる情報という意味。企業が持つさまざまなデータを分析・見える化して、経営や業務に役立てるソフトウェアのこと。企業が保有するさまざまなデータをグラフなどを用いてビジュアライズ・ダッシュボード化し、関係者間でほぼリアルタイムに分析・閲覧することが可能。データを軸にした意思決定はDX推進において非常に重要であり、経営判断に大いに役立つ。RPAツール「Robotic Process Automation」の略で、ソフトウェア上のロボットを利用して業務を自動化するシステムのこと。データ入力やコピー&ペースト作業など、コンピューターを使って行う単純な反復作業を自動化できる。RPAを有効活用することで、データ処理や分析にかかる工数を大幅に圧縮し、DXの効果的な推進につながる。CRMツール「Customer Relationship Management」の略で、顧客管理ツール、顧客管理システムとも呼ばれている。顧客関係管理を支援するツールで、顧客満足度や信頼度の向上を通して、主に売上の拡大・収益性の向上のために導入される。具体的な機能に「顧客データの一元管理」「顧客データの分析」「プロモーション管理」などがある。SFAツール「Sales Force Automation」の略で、デジタル技術を用いて営業活動を支援するツールのこと。営業プロセスを可視化し、「営業メンバーの行動」「商談の進捗状況」などをデータとして蓄積・管理し、効率的な売上アップを目指せる。MAツール「Marketing Automation」の略で、マーケティングを自動化するツールのこと。新規顧客獲得における一連のマーケティング施策を、管理・自動化・効率化できる。見込み顧客の管理やスコアリング、見込み顧客の属性別に行うコンテンツの自動配信のほか、Webサイトやブログなどのアクセス解析なども行える。データ下表に、DX推進におけるデータ活用で役立つデータの代表例をまとめました。データの名称具体例活用ケースユーザーの購買データユーザーが購入した商品の数量や金額ユーザーの購買傾向や好みを把握し、関連商品をおすすめすることで購買意欲を向上させる。営業情報ユーザー情報や案件情報ユーザーニーズや見込み客、成功・失敗パターンをデータ化し、受注予測を立てて業績の向上を図る。コールセンターの電話データ(音声)ユーザーからの問い合わせ内容やトーク内容類似した問い合わせを分析し、ユーザーが自ら解決できる情報を提供することで、コールセンターへの問い合わせ件数を減少させる。画像データECサイトの商品画像商品ページに掲載された画像のうち、ユーザーが拡大表示したものを分析し、効果的な画像掲載方法を検討する。文字データユーザーアンケートや業務日誌ユーザーアンケートや業務日誌の内容を分析して現在の課題や改善点を明確化し、新たな戦略を策定する。位置情報GPSから収集した人や車の位置データ来店率の高いエリアを特定し、そこに住むユーザーに対してターゲティングを行う。物流・配送データGPSから収集した配送ルートや荷物の量などのデータ天候や事故、混雑状況などのデータを集めて配送ルートを最適化する。センサーデータIoTデバイスデータ工場から収集される生産ラインの稼働データや生産環境の温度・湿度データなどのリアルタイムのセンサーデータ。経理データ企業の財務データ企業の資金の流れを分析し、どの分野に投資すべきかを見極める。まとめこの記事では、DXを推進するためにデータ活用が重要な理由、その具体的な方法や注意点について紹介しました。すでに始まっている第四次産業革命において、データは非常に価値のある資産として位置付けられています。ただし、単にデータを大量に集めるだけでは不十分であり、収集したデータから得られる洞察や知見こそが真の価値を生み出します。多くの企業にとってDXの推進は急務です。まずはビジネスの課題や目標を明確にしたうえで、データ活用を進めていくことが重要です。加えて、データを活用するための環境整備や人材の育成・採用、セキュリティや法務関連のチェックも同時に進めると良いでしょう。