AIやIoT、クラウドといった先端的なデジタル技術が急速に進化する中で、国際舞台で活躍できる人材を育てるためには、デジタル教育の導入が必要不可欠です。この重要性を踏まえ、文部科学省は2024年度から「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」をスタートさせています。この施策は、高校生に情報技術や数学、文系と理系を横断する探究的な学びを提供することで、将来のデジタル分野で活躍できる人材を育成することを目的としたものです。本記事では、DXハイスクールの概要や予算・補助額・補助対象経費についてわかりやすく解説します。DXハイスクールの狙いや、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)・リーディングDXスクールとの違いについても説明していますので、ぜひご覧ください。DXハイスクールとは?DXハイスクールとは、情報・数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化する高等学校等1,000校程度に対して、そのために必要な環境整備の経費を支援する高等学校DX加速化推進事業です。上記の施策を通じて、大学段階における理工系学部・学科の増加や自然科学(理系)分野の学生割合の5割到達、デジタル人材の増加、これに伴う成長分野の担い手増加が目指されています。ICTの概要およびDX推進との関係について、詳しくは以下の記事で解説しています。ICTとは?DXとの関係、IoTとの違いを解説DXハイスクールの補助を受けるためには、要件を満たして申請を行い、対象の学校として採択されなければなりません。以下に、DXハイスクールの補助を受けるために必要な取組(要件)の例をまとめました。情報Ⅱや数学Ⅱ・B、数学Ⅲ・Cなどの履修推進(遠隔授業の活用を含む)情報や数学などを重視した学科への転換、コースの設置(例:文理横断的な学びに重点的に取り組む新しい普通科への学科転換、コースの設置)デジタルを活用した文理横断的な探究的な学びの実施デジタルものづくりをはじめ、生徒の興味関心を高めるデジタル課外活動の促進高大接続の強化および多面的な高校入試の実施地方の小規模校において従来開設されていない理数系科目(例:数学Ⅲ)の遠隔授業による実施専門高校において大学などと連携したより高度な専門教科指導の実施および、実践的な学びを評価する総合選抜の実施等の高大接続の強化参考:文部科学省「デジタルの力を活用した教育の方向性」令和5年11月22日予算文部科学省は、2023年度(令和5年度)補正予算案に「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」として、100億円の予算を計上しています。補助額と補助対象経費1校あたりの補助額は1,000万円とされています(定額補助)。補助対象経費は、以下のとおりです。高等学校等におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の充実を図るために必要な取組を実施するに当たり必要となる設備備品費及び関連経費(事業実施に当たり、設備と一体として機能し、又は設備を利用するために導入時において不可欠な経費)※1委託費雑役務費消耗品費人件費(報酬、給料、職員手当等。ただし、学校教育法第60条に規定する教職員に関するものは除く)※2諸謝金旅費借損料印刷製本費会議費通信運搬費保険料(※1)具体例としては、ICT機器整備(ハイスペックPC、3Dプリンタ、動画・画像生成ソフト等)、遠隔授業用を含む通信機器整備などが挙げられる。(※2)一例として、専門人材派遣等業務委託費が挙げられる。DXハイスクールの狙い政府が推進する事業「DXハイスクール」の狙いには、主に以下の3つが挙げられます。成長分野の人材を高校段階から育成文理横断的・探究的な学びの裾野を広げる全体の底上げそれぞれ順番に詳しく解説します。成長分野の人材を高校段階から育成現在、日本の普通科高校では文系が多いですが、政府としてはデジタル・理数分野の強化にあたって、理数系の学生を増やしていきたい狙いがあります。農業高校・工業高校などの学生は成長分野を学んでおり、商業高校もデジタル教育が積極的に進められています。こうした専門高校の生徒たちが職業的な実践力を身に付けたうえで、さらに高度な学びを進めていくことを後押しするために、政府はDXハイスクールの事業に注力している状況です。文理横断的・探究的な学びの裾野を広げる文部科学省では、2002年よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業を実施しています。こちらもデータサイエンスや探究などを含む理数教育の強化校に予算が割り当てられており、この点ではDXハイスクールと共通しています。しかし、DXハイスクールでは、よりデジタルに重きを置いて環境整備を行うことを目的とし、文理横断的・探究的な学びの裾野を全国規模で広げていくことを狙いとしています。これに対して、SSHは、科学技術・理数教育に関する研究開発を行う高校を指定し、先端のカリキュラムを開発して先導例を作っていくことを狙いとしている事業です。SSHとDXハイスクールの違いについては、後の章で詳しく解説しています。全体の底上げSSHの指定校は218校(2023年度実績)であるのに対し、DXハイスクールは専門高校を含む1,000校程度が対象とされています。これは全国の5校に1校程度が対象となる規模であり、日本にある高等学校等全体の底上げをしていくという狙いが強いです。また、「情報Ⅰ」は2022年度より高校情報科の共通必修科目に指定されましたが、その発展科目となる「情報Ⅱ」は依然として選択科目のままであり、履修者が増えていかない可能性があります。そのため、政府はDXハイスクールの事業を通じて、「情報Ⅱ」の履修を推進する高等学校等に対して補助金を与えることで、「情報Ⅱ」の高校教育への浸透を図っています。これにより、高校生の情報科目における知識・スキルを底上げする狙いがあるのです。参考:国立研究開発法人 科学技術振興機構「指定校一覧|スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」2024年度は1,010校がDXハイスクールに採択令和6年(2024年)度におけるDXハイスクール事業では、令和6年の1月31日~2月29日まで交付申請を受け付け、1,010校が採択校として決定されました。内訳は、公立:746校・私立:264校です。学校種別で見ると、高等学校:981校、中等教育学校:16校、特別支援学校高等部:13校という結果になっています。なお、審査は以下の観点で行われ、採択校が決定されています。各都道府県に割り当てた枠のなかで、取組内容に応じた加点が高い順に採択 (基礎枠)それ以外の学校について、取組内容に応じた加点が高い順に予算の範囲内で採択(全国枠)下表に、学科別採択校数のデータをまとめました(学科を併置する学校があるため、採択校数の合計は1,010校にはなりません)。学科普通科農業科工業科商業科水産科看護科採択校数654591581201112学科家庭科情報科福祉科総合学科理数科その他採択校数2123127050104続いて、都道府県別の採択校数をまとめました。都道府県採択校数採択校数採択校数都道府県採択校数採択校数採択校数公立私立合計公立私立合計北海道32840滋賀県9211青森県10212京都府231235岩手県18321大阪府441761宮城県14216兵庫県361349秋田県15116奈良県10212山形県15217和歌山県12012福島県14317鳥取県808茨城県14317島根県23427栃木県7411岡山県19524群馬県17522広島県10515埼玉県28634山口県8614千葉県271138徳島県10010東京都4754101香川県448神奈川県22931愛媛県12416新潟県16218高知県9413富山県6713福岡県201535石川県10313佐賀県426福井県9110長崎県14317山梨県729熊本県7310長野県15318大分県12214岐阜県9413宮崎県11112静岡県21728鹿児島県14216愛知県331043沖縄県819三重県13518合計7462641010参考:文部科学省「「令和6年度高等学校 DX 加速化推進事業(DX ハイスクール)」の採択校をお知らせします。 」令和6年4月16日DXハイスクールとスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の違いスーパーサイエンスハイスクール(SSH)とは、文部科学省が科学技術や理科・数学などの教育を重点的に行っている高等学校等を指定する制度のことです。高等学校等において先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続の在り方について大学との共同研究および国際性を育むための取組を推進し、創造性・独創性を高める指導方法や教材の開発などの取組を実施しています。2023年度は、全国で218校が指定されました。スーパーサイエンススクールは、理系や大学との連携に特化しています。これに対して、DXハイスクールは、情報・数学等を重視した「文理横断的な学び」に重点的に取り組むことや「新しい普通科」への学科転換・コースの設置などを行う点が特徴的です。データサイエンスや数学などの知識・技能は幅広い分野で活用できるため、DXハイスクールに採択される学校が増えることで、文理を超えた活用のより一層の拡大が期待されています。データサイエンスに関して、詳しくは以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、データサイエンスとDX推進の関係性についても理解を深められますので、ぜひご覧ください。データサイエンスを簡単に解説!注目される背景やできることDXハイスクールとリーディングDXスクールの違いDXハイスクールと類似する事業に、「リーディングDXスクール」も挙げられます。これら2つの事業を混同している方も多いので、双方の違いを把握しておきましょう。リーディングDXスクールは、GIGA端末(※)の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用し、児童生徒の情報活用能力の育成を図りつつ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実や校務DXを行い、全国に好事例を展開するための事業です。※児童生徒に1人1台与えられる学習者用端末のこと。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略語。GIGA端末を活用する全国の学校が実践できる事例を創出するために、小中高等学校約200校を指定し、GIGA端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用した効果的な教育実践を創出・モデル化を図っています。また、これを地域や校種を超えて全国展開することで、全国すべての学校でICTの「普段使い」による教育活動のさらなる推進を目指しています。リーディングDXスクール事業には、DXハイスクール事業のように、対象となった高等学校等への補助金の交付はありません。参考:文部科学省「リーディングDXスクール事業について」まとめ国を挙げて成長分野の人材育成を目指し、新たにスタートした「DXハイスクール事業」は、高等学校等から文理横断的・探求的に学習することで、未来を担うデジタル人材を育成することを目的とした事業です。日本の高校の1/5が対象となっているため、今後目にする機会が多くなることが見込まれます。生徒の能力や可能性を引き出し、新しい時代に向けた力を身につけるためには、どのような学習が適しているのか、充実した教育の実践に受けてどうやって環境整備をしていくのか、高等学校等それぞれの今後の取り組みに注目が集まっています。DXハイスクールのような補助金事業によって、深刻化するデジタル人材不足が今後解消されるのかどうか、企業のDX推進にどのような影響を与えるのか、注意深く見守っていく必要があるでしょう。