企業・組織におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進への取り組みが進む中、「内製化」というキーワードも頻繁に議論の的になっています。実際に、「多くの時間をかけてでも社内リソースだけでDX推進を目指すべきなのか」あるいは「自社で戦略を立案しつつ、分析や開発など切り出せる部分については外部に委託すべきなのか」といった悩みを抱えている企業が多くある状況です。また、DXの内製化とは具体的に何を指すのか、正しく理解しておくことも大切です。DXの内製化は、DX推進を支えるシステム開発や管理をITベンダーやコンサルタントに任せず、自前で行うことだけではないためです。そこで本記事では、DX推進の内製化とは何か、求められる理由とメリットと併せて解説します。これら基本情報を踏まえて、DX推進を内製化する方法も紹介していますので、今後のDX推進にお役立てください。DX推進の内製化とは?DX推進の内製化とは、企業・組織がDX推進に取り組む際に、外部のベンダーやコンサルタントなどに依存することなく、自社のリソースやスキルを活用して変革を進めていくアプローチのことです。具体的に言うと、「デジタル・データを使いこなせる人材・組織・仕組みが自社内で確保できており、恩恵を享受できている状態」をDXの内製化と定義できます。この状態が内製化を実現できている状態であり、一つの理想的な形です。DX推進の内製化が求められる理由DXを推進する中で、「企業そのものが変化していく必要性がある」ことに対する理解が進んできたことが、昨今の内製化に取り組む企業の増加に関係していると考えられています。DX推進にあたって、事業モデル変革のための考え方を身につけたり、変化に対応できる力を強化したりすることが強く求められているのです。DXとは、簡単に言うと「企業が外部環境の変化やビジネス要求に迅速に対応し、データやデジタル技術を活用して製品・サービス・事業モデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革すること」です。そして、DX推進の目的の一つに、「新しい価値を提供し、競争上の優位性を確立すること」が挙げられます。つまり、DX実現のための要素としてスピードや柔軟性があり、これらを獲得する手段として内製化に注目が集まっているのです。また、日本企業の多くが抱えている情報システムにおけるベンダーロックイン(※)の問題も、内製化が求められる理由の一つとなっています。ベンダーロックイン状態に陥ってしまえば、わずかな変更を加えるにもベンダーの都合でスケジュール・コストを決められてしまうので、市場の変化に迅速に対応しにくくなります。これを避けるためには、内製化に取り組む必要があります。こうした背景から、大手企業を中心に、内製化を進める企業が増加しています。実際にIPA(情報処理推進機構)の調査(2021年実施)によると、従業員数1,001名以上の企業の6割が内製化を進めていることが分かっています。※ソフトウェアの機能改修やバージョンアップなどを導入したベンダー以外が実施できず、既存のベンダーを利用し続けないといけない状態になることなお、ベンダーロックイン以外にもDXが進まない理由は複数あります。以下記事にて網羅的に解説しておりますので、ご興味がございましたらご一読ください。DXが進まない理由とは?日本特有の理由と対策を解説参考:独立行政法人 情報処理推進機構「DX白書2021」DX推進を内製化するメリット社内で内製化できる体制を構築することで、自社のニーズ・問題点を正しく把握したうえで、環境変化にも素早く対応していくことが可能です。このように、DX推進にあたって変化に対する柔軟性や速度、アジリティー(機敏さ)が向上する点は大きなメリットです。DX推進の取り組みを内製化すれば、社内にDX推進に関する業務ノウハウが蓄積する上に、従業員のスキルやリテラシー向上も図れます。その結果、システムのブラックボックス化を防ぐことが可能です。それだけでなく、外部のベンダー・コンサルタントに依存せずに済むため、コスト削減効果も期待できるでしょう。内製化によってDX推進の取り組みを社内で完結させられれば、企業に関する重要な情報を外部に提供する機会が減るため、セキュリティ上のリスク軽減にもつながります。さらに、DX推進に関する内製化は、長期的なビジネス戦略としても効果的です。そもそもDXは一時的なプロジェクトではなく、長期的なビジネス戦略です。そのため、自社でデジタル技術を常に最新の状態に維持し、自社のビジョン・目標に沿って展開していかなければなりません。こうした中で、経営層のコミットメントと全社的な取り組みによってDX推進のための取り組みを内製化すれば、DX企業としての文化的な基盤を構築でき、DX実現に近づくでしょう。DX推進を内製化する方法DX推進の取り組みにおける内製化について概要を紹介してきました。ここまでの内容を踏まえて、DX推進の内製化を効果的に進めていくためには、以下のような方法を取るのが一般的です。経営層のコミットメントを得る事前準備を徹底し、目的を明確化するDX人材の確保・育成をするそれぞれの方法について順番に詳しく解説します。経営層のコミットメントを得るDX推進の取り組みに関する内製化には、経営層の強力なコミットメントが不可欠です。内製化を成功させるためには、経営層が自社のDXプロジェクトの重要性を理解したうえで、リスクを恐れずに長期的な視点で投資を我慢強く続けていく姿勢が求められます。DX推進の取り組みを内製化することは、その性質上、高いリスクを伴います。新しい技術の導入や業務プロセスの大幅な変更は、短期的には業務体制を不安定にさせたり、コストを増加させたりするおそれがあります。経営層がこれらのリスクを理解した上で、長期的目線で投資を進める決断を下すことが大切です。経営層からコミットメントを得るためには、DXの内製化を進める重要性やメリットを具体的なデータと併せて説明することが望ましいです。競合他社がDXの内製化をどのように進めているのか、ケーススタディを提示することも効果的です。経営層のコミットメントについては、経済産業省がまとめた「デジタルガバナンス・コード」でも言及されています。経営者に求められる対応の内容をまとめた資料となっております。以下記事で「デジタルガバナンス・コード」について解説しておりますので、DX推進に取り組まれる際に、併せてご確認ください。デジタルガバナンス・コード|最新の2.0と実践の手引き2.0も解説事前準備を徹底し、目的を明確化する実際にDX推進を内製化していく前に、徹底的に準備を行いましょう。代表的な準備内容としては、以下が挙げられます。準備内容補足社内関係者から合意を得るまず、DXの内製化について、企業内の関係者全員が同意することが重要です。内製化のメリットを明確に理解してもらうには、事前に説明会を開催し、詳細な説明を行うことが効果的です。社内の各関係者の協力が不可欠であるため、この段階での合意形成は成功への第一歩となります。外注状況を可視化するどの業務を外部に委託しており、それにどれくらいのコストがかかっているのかをリストアップします。情報を整理し、可視化することで、どの業務を内製化すべきかの判断材料となり、内製化の計画・実行がスムーズに進みます。目的・対象箇所をはっきりさせる内製化の具体的な目標と対象範囲を決定することで、どの業務をいつ内製化するかの優先順位を設定し、段階的に取り組むことが可能です。まずは比較的取り組みやすく、かつ内製化で得られるメリットの大きい業務から進めていくと効果的です。全体計画を策定する最終的なゴールを設定したうえで、逆算して必要なアクションを段階ごとにリストアップし、具体的な期限を設けます。各アクションには、責任者と担当者を明確に指定することで、各ステップの進行をスムーズに進められます。開発環境・品質管理体制を整える開発環境と品質管理体制を充実させましょう。内製化を進めても、サービス・製品の品質を維持できるよう、要件の明確化や必要なリソースの適切な配置を事前に計画することが重要です。開発環境や品質管理の強化により、変化する市場にも柔軟に対応できるようになり、企業の持続的な成長につながります。自社でDX 内製化を実践する際の参考にしてください。DX人材の確保・育成をするDX推進および、その内製化を図る際には、「DMO:データマネジメントオフィス(※)」と呼ばれる部署を作る企業もありますが、それだけではスムーズに進みません。DX推進の内製化にあたって、DMOが価値を生み出していくためには、その部署に所属すべきDX人材の確保と育成が求められます。当然ながら、そのための予算確保も必要です。その上で、DMOに所属するDX人材が、企業全体に対して内製化の取り組みを伝播していかなければなりません。こうした取り組みが、企業にDXの文化を醸成させて、内製化の成功につながっていくのです。DX推進の内製化を実現するためには、従来のように「新規ビジネス開始にあたって、担当する事業部門が中心になって進めていく」のではなく、「企業全体が新しいビジネスに取り組んでいく」というアプローチが求められます。つまり、IT部門やデータマネジメントオフィスのみが内製化できれば良いのではなく、ビジネス部門を含めてすべての社員が何らかの形で内製化に関わっていくことが求められます。さらに、この取り組みをリードする重要な役割として「CDO(最高デジタル責任者)」の存在があります。CDOは、企業のデジタル戦略を統括し、DX内製化の推進を支援します。CDOについて詳しくは、以下の記事をご参照ください。CDO(最高デジタル責任者)とは?DX推進における役割、CIOとの違いDX人材を確保する方法としては、採用による外部からの獲得のほか、社内での育成が挙げられます。社内で育成する際は、オンライン学習プラットフォームの活用が大いに効果的です。個々の学習ニーズに合わせて柔軟なコース・スケジュール選びが可能で、自分のペースで学習を進められるでしょう。弊社では『SIGNATE Cloud』という、実務に直結するDX人材教育プラットフォームを運営しています。デジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった育成クラウドサービスです。『SIGNATE Cloud』はDX人材の発掘から、座学、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。※企業やさまざまな組織においてデータを効果的に管理し、分析するために設けられた専門の部署のこと。まとめDX推進の内製化とは、企業・組織がDX推進に取り組む際に、外部のベンダーやコンサルタントなどに依存することなく、自社のリソースやスキルを活用して変革を進めていくアプローチのことです。DX推進の内製化には、変化に対する柔軟性や速度、アジリティー(機敏さ)が向上するといったメリットが期待できます。その一方で、高い初期投資やランニングコスト、多くの時間やリソースがかかったり、失敗リスクがあったりする点は要注意です。DXの内製化を成功させるには、経営層が自社のDXプロジェクトの重要性を理解したうえで、リスクを恐れずに長期的な視点で投資を我慢強く続けていく姿勢が求められます。内製化を成功させるためにも、まずはDX人材の育成を進めましょう。