DX投資促進税制は、企業がDXを進める際のデジタル関連投資を奨励するための税制優遇措置です。企業が非効率的・非生産的なシステム部分を改善することを目的として、2021年の税制改正で導入されました。当初、本税制は2021年8月2日から2023年3月31日までの期間限定措置とされていましたが、その後に2年間延長されています。DXを進める際には、設備投資を行う必要がしばしばあるため、このような支援制度の活用が非常に有効です。そこで本記事では、DX投資促進税制の概要や認定要件、申請にあたって知っておくべき手続きの流れや注意点などをわかりやすく解説します。参考:国税庁「No.5924 デジタルトランスフォーメーション投資促進税制(情報技術事業適応設備を取得した場合等の特別償却又は税額控除)」令和5年4月1日DX投資促進税制とは?DX投資促進税制とは、2021年に6月に成立した産業競争力強化法をはじめとする関連6法の改正において、DX推進の一環として創設された制度のことです。企業がDX実現に必要とされるクラウド技術を活用したデジタル関連投資(ソフト・ハードの双方)を実施した場合に、その投資額に対して税金の優遇を受けられます。昨今、政府がDXを推進する中でコロナ禍の影響も相まって、食品・家具などを扱う小売業者は業績が伸びた一方で、飲食業・サービス業を中心に多くの企業で業績が低迷しました。この問題を受けて、DXに取り組むにあたって金銭コストに課題を抱える企業に対して、「税額控除」もしくは「特別償却」という形で支援しようというのが、DX投資促進税制の大まかな趣旨です。税額控除、特別償却の内容DX投資促進税制を利用する企業では、制度の趣旨に沿ったデジタル関連投資に対して、5%あるいは3%の税額控除を受けられる、もしくは30%の特別償却が可能となります。法人税における「税額控除」とは、最終的に支払う法人税額から直接減額される金額のことです。この制度を利用すると、課税所得金額に対する税率を掛けて計算された法人税額から、一定の割合が控除されます。控除率は3%が基本ですが、自社グループ外の他法人とデータの連携や共有を行う場合は、控除率が5%になる特例があります。特別償却とは、通常の償却限度額に加え、さらに損金として計上できる金額をさします。DX投資促進税制においては、投資額の上限と下限が設定されています。上限は300億円で、この金額を超える投資については300億円までの部分が対象となります。下限は国内売上高の0.1%以上です。さらに、税額控除の上限は、「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(※)」と合わせて、その期の法人税額の20%までとなっています。(※)産業競争力強化法に基づき、企業がカーボンニュートラルに貢献するための事業再編や、それに伴う設備投資などに対して優遇措置を行う制度2025年3月31日まで延長もともとDX投資促進税制は2023年3月末で期限を迎えるはずでしたが、「2023年度税制改正大綱」によって、2025年3月末まで期間が延長されることになりました。期間延長に伴い、税制の適用を受けられる要件も一部変更が加えられています。参考:経済産業省「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制の見直し及び延長」DX投資促進税制の認定要件DX投資促進税制の適用を受けるためには、デジタル要件(D要件)と企業変革要件(X要件)という2つの重要な要件を満たす「事業適応計画」の提出とその認定が必要です。この税制の適用を検討する際には、対象となる資産の種類、関連する法人、提出期限などに特に注意を払う必要があります。これらの詳細を把握しておくことが、本制度適用のプロセスをスムーズに進めるために重要です。ここからは、現行(2025年3月末まで)のDX投資促進税制における認定要件および適用対象となる資産・法人・期日について順番にわかりやすく解説します。デジタル要件(D要件)デジタル要件としては、下表に示した3つの事項を満たすことが求められます。要件補足データ連携他の法人等が有するデータまたは事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと内部データを合わせて連携させることクラウド技術の活用社外のベンダーによって提供されるクラウドサービスや、社内で開発されたクラウド環境などを活用すること「DX認定」の取得IPA(情報処理推進機構)が優良な取り組みを推進している企業として認定する制度で、情報処理技術の活用における方向性・方策・体制・設備など6つの項目を審査し、一定のレベルに到達していると認定を受けられる上表のうち、DX認定を受けるためには、IPAが申請を受理してから通常60日(休日等を除く)程度を要すため、早めに取り掛かることが大切です。また、DX認定は前述した「事業適応計画」における認定とは別の要件である(「事業適応計画」認定の前提としてDX認定を受ける必要がある)点にもご注意ください。DX認定について、詳細は以下の記事で解説しています。DX投資促進税制の利用を考えている場合には、この記事と併せてご一読ください。DX認定制度とは?メリットや認定基準、申請の流れを解説企業変革要件(X要件)企業変革要件としては、下表に示した3つの事項を満たすことが求められます。要件補足全社レベルでの売上上昇生産性や売上高などにおいて、一定以上の効果が期待できること成長性の高い海外市場の獲得成長性が高い海外市場への進出、もしくは海外市場でのビジネス拡大を図ること全社の意思決定に基づく企業や事業グループ全体の意思決定に基づいて決定されたことを示すこと(取締役会等の決議文書添付等が求められる)対象となる資産、法人DX投資促進税制の適用対象となる資産は、以下の分野であると定められています。ソフトウェア繰延資産(クラウドシステムへの移行に係る初期費用)器具備品(※)機械装置(※)(※)ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限定また、適用対象となる法人は、青色申告書を提出する法人で認定事業適応事業者である法人に限られています。期日前述のとおり、かつてDX投資促進税制の適用は、2023年3月31日までに認定された事業適応計画に基づき、その期限までに実際に使用された資産に限定されていました。しかし、法改正により、適用期日が2年間延長されています。DX投資促進税制の申請の流れここでは、DX投資促進税制の適用を受けるための申請の流れを大まかに3つのステップに分けて解説します。DX認定を受けてから、実際にDX投資促進税制の適用を受けるまでには、半年以上の時間が必要となるため、早めに準備しておきましょう。①DX認定を取得するDX投資促進税制の適用要件の一つに「DX認定」の取得が挙げられますが、そのためには、「デジタルガバナンス・コード」と呼ばれる基準を満たすことが不可欠です。これは、DXを推進する企業にとって重要なガイドラインであり、デジタル時代における経営者の役割や取り組むべきポイントが記載されている基準です。以下の4つの分野、6つの項目で構成されています。ビジョン・ビジネスモデル戦略組織づくり・人材・企業文化に関する方策ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策成果と重要な成果指標ガバナンスシステムデジタルガバナンス・コードについて理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。デジタルガバナンス・コード|最新の2.0と実践の手引き2.0も解説DX認定には、DX戦略の策定やDX推進の体制整備、DX推進状況の公表などが必要となります。これからDX認定を取得する事業者は、計画開始時期を見据えて早急に対応することが必要です。②「事業適応計画」を策定し承認を受ける次に、「事業適応計画」を策定し、経済産業大臣による承認を求めます。その際、あらかじめ自社の事業内容が属する事業分野を所管する省庁に事前に相談したうえで、計画を策定・提出しましょう。事業適応計画に記載するべき主要な項目は、以下のとおりです。事業の目標事業の内容投資の内容そのほか、「情報技術事業適応に係る確認申請書」や関連する補足資料もまとめて準備・提出する必要があります。書類はそれぞれ様式が指定されているため、経済産業省が公開している以下の資料を参考に準備しましょう。参考:経済産業省「申請書の記載例・ポイントについて(DX投資促進税制)」③DX資産の取得・税務申告を行う「事業適応計画」の承認を得た後は、その計画とデジタルガバナンス・コードに基づいて実際にDXに必要な資産を取得し、DXの取り組みを開始しましょう。ここで注意すべきなのは、税制適用期間内にその資産を事業で使用しなければならない点です。適用事業年度が終了したら、DX投資促進税制を利用して税務申告を行いましょう。さらに、その事業年度終了後の3ヵ月以内には「実施状況報告書」の提出が必要です。これらの報告書によって、事業の進行状況および税制適用の正当性がチェックされます。DX投資促進税制の注意点DX投資促進税制にはさまざまなメリットがある一方で、利用にあたっては注意点もあります。代表的な注意点は以下のとおりです。旧DX投資促進税制と併用はできない 追加取得した設備には変更認定が必要リースは種類によって適用が異なるクラウドサービスの利用料は対象外バックオフィスのソフトウェア導入だけでは受けづらいそれぞれの注意点を順番に解説しますので、DX投資促進税制の申請前に把握しておきましょう。旧DX投資促進税制と併用はできない2023年3月31日までが期限となっていた「旧DX投資促進税制」をすでに活用した事業者については、改正DX投資促進税制を活用できません。加えて、旧DX投資促進税制で認定を受けた事業適応計画についても、税制適用の期間は延長されない点にご注意ください。追加取得した設備には変更認定が必要DX投資促進税制は、あらかじめ計画された設備投資を着実に実施することで税制優遇を受けられる制度です。したがって、事業適応計画に記載のない設備を取得しても、原則として本税制措置の適用を受けることはできません。ただし、設備投資について変更の手続き(変更の認定要件は、当初の認定要件と同じ)を実施することで、事業適応計画を変更できます。そして、変更後の事業適応計画に記載された設備については、DX投資促進税制の適用を受けることが可能です。リースは種類によって適用が異なるファイナンスリースのうち所有権移転リース取引については、税額控除・特別償却いずれも対象になります。これに対して、所有権移転外リース取引については、税額控除のみ対象です(特別償却は対象外)。税額控除限度額は、毎年のリース料ではなくリース資産額をベースに算出されます。なお、オペレーティングリースについては、税額控除・特別償却いずれも対象外です。クラウドサービスの利用料は対象外クラウドサービス利用料のように、費用計上されるものは対象になりません。しかし、新たにクラウドサービスを利用する際に発生する初期費用(繰延資産に該当するものに限定される)は対象となります。個々のケースで判断に迷う場合には、社内の経理担当者もしくは税理士・公認会計士などの専門家に確認したうえで、所轄の税務署に問い合わせましょう。バックオフィスのソフトウェア導入だけでは受けづらいDX投資促進税制の適用を受けるためには、新たなソフトウェアの導入以外にもさまざまな要件を満たす必要があります。例えば要件の一つに「前向きな取組の実施」があり、バックオフィス関連のソフトウェア導入と事業適応計画に定める「前向きな取組」の内容との関係性を説明しなければなりません。結論として、バックオフィスのソフトウェア導入のみでは、DX投資促進税制の適用を受けにくい点に留意しておきましょう。DX投資促進税制以外の補助金・助成金DXの推進にあたっては、DX投資促進税制以外にもさまざまな補助金・助成金を活用できます。下表に、DX推進に役立つ補助金・助成金の一例を取り上げました。制度の名称概要IT導入補助金中小企業や小規模事業者の生産性向上を目指し、業務の効率化やDXの推進をサポートするための制度ITツール導入にあたって、業務システムの導入費用以外に、パソコンやタブレットなどのハードウェア購入費用も補助対象となる場合がある事業再構築補助金ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応し、企業の新しい分野への進出・事業や業態の転換・事業の再編成など、大胆な事業再構築を目指す企業を支援するための制度【事業再構築補助金の対象となる費用の例】・機械装置やシステムの構築に関する費用・技術導入に必要な費用・専門家へのコンサルティング料・クラウドサービス利用料人材開発支援助成金事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識および技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度DX推進にあたって行われる正規雇用労働者の人材育成やスキルアップにかかる費用を助成してくれる以上、DX投資促進税制以外の補助金・助成金として一部の制度の概要を紹介しました。DX推進にあたって役立つ補助金・助成金について、さらに詳しく知りたい場合は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。【2024年版】DXで活用できる補助金・助成金を一覧で紹介まとめDX投資促進税制の適用に際しては、実施計画の開始までに対応すべきタスクが多く存在します。申請から計画認定までに一定の期間を要することを考慮すると、実務担当者が短期間で各種対応に追われることは想像に難くないでしょう。投資額に対する税金面でのメリットの享受漏れがないよう、また他の補助金・助成金制度も踏まえた多面的な資金確保の手段を検討できるよう、必要に応じて専門家からアドバイスを受けることも効果的です。