DXを推進するために、多くの企業がさまざまなデジタル技術を活用しています。IoTもそのうちの1つに含まれますが、DXと意味を混同して使っている方も多いです。「英語表現なので専門的なイメージがあり、理解するのが難しそう」と感じる人も少なくありません。そこで本記事では、DXとIoTの違いや関係性について分かりやすく解説します。IoTを活用するメリットや代表的な事例も紹介していますので、今後のDX推進にお役立てください。IoTとは?IoT(Internet of Things)とは、日本語で「モノのインターネット」と訳されています。読み方は「アイオーティー」です。一般的に、「デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること」を意味する言葉です。IoTを活用すれば、従来オフラインであったモノをインターネットにつなげることでコントロールし、データを取得することが可能です。具体的にいうと、IoTは以下のような5つの機能を果たします。モノの位置を確認するモノ・ヒトの状態を把握するモノを遠隔操作するモノ・ヒトの動きを検知するモノ同士で通信するIoTは、日常の物体や人々の正確な位置情報を提供し、その瞬間の具体的な条件や健康状態を明確にすることができます。また、物理的な距離に関係なく、機器を制御する能力を持ち、環境やオブジェクトの変化を敏感に感知することが可能です。さらに、装置同士が互いに情報を交換し合い、一連の動作を自律的に協調させることで、効率的な作業の自動化や緊急事態への即時反応が実現されます。これらの機能により、IoTは日々の生活や業務プロセスを大きく改善し、安全で快適な環境の提供に貢献します。DX推進においてそれぞれの機能が果たす役割については、後の章「DX推進でIoTを活用するメリット」にて解説しています。DXとはIoTとの違いや関係性を理解するために、ここでDXの概要を分かりやすく説明します。DXとは「Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション」の略で、日本語に直訳すると「デジタルによる変容」を意味する言葉です。DXには、さまざまな定義があり、ケースによってさまざまな使い方がされています。そのうちの一つ、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)によるDXの定義は以下のとおりです。AIやIoTなどの先端的なデジタル技術の活用を通じて、デジタル化が進む高度な将来市場においても新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革することDXの意味や重要性について知りたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説引用:IPA「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」2019年5月17日DXとIoTの違いここまで、DXとIoTの意味を説明しました。以下に、2つの言葉の違いをあらためて整理しました。DX:AIやIoTなどの先端的なデジタル技術を活用して事業・経営・業務プロセス・サービスを変革することIoT:デジタル技術の一つで、さまざまなモノをインターネットに接続させること両者の意味を比べてみると、DXとIoTの違いが理解できるはずです。DXとIoTの関係前章で述べた2つの言葉の違いを踏まえると、IoTはデジタル技術の一種であるのに対して、DXはIoTをはじめとしたデジタル技術を活用することで事業・経営・業務プロセス・サービスの変革を行うことです。ここから、「IoTの活用は、DXを実現するための方法の一つである」という関係性が見えてきます。IoTを活用すればDXの推進につながり、DXの主な目的である「変化する環境への適応」や「競争力の向上」などを目指すことが可能です。DX推進でIoTを活用するメリット本章では、DX推進にあたってIoTを活用するメリットについて、前述した5つの機能に沿って順番に解説していきます。モノの位置を確認するGPS機能を搭載したIoTデバイスの活用によって、リアルタイムかつ高精度にモノの位置を確認できるようになります。例えば、物流・運送業界において、荷物や車両をリアルタイムに追跡することで、配送の効率化や最適なルートの選定が可能となるでしょう。また、紛失や盗難といったトラブルを防止したり、スムーズな解決を助けたりして、顧客満足度の向上にも寄与します。また、業界を問わないメリットとして、企業が保有する経営資源の位置情報をリアルタイムで把握することで、資産管理の精度が向上し、不要な購入や無駄使いなどを防げるでしょう。モノ・ヒトの状態を把握するモノ・ヒトの状態を感知できるセンサーを搭載したIoTデバイスの活用により、遠隔でモノ・ヒトを監視し、データとして把握できるようになります。例えば、設備の状態を遠隔からモニタリングし、異常を早期に発見することで、大規模な故障や停止を防げるようになるでしょう。これにより、メンテナンスコストの削減や生産性の向上などが期待できます。また、ウェアラブルデバイスを用いて、心拍数・呼吸・血圧・睡眠時間・姿勢といった人の健康データをモニタリングすることで、健康管理が容易になります。それだけでなく、高齢者や疾患を持っている人の健康状態をリアルタイムに監視できるようになり、介護サービスの質の向上が見込まれます。モノを遠隔操作する前述のとおり、IoTデバイスに装着したセンサーによって、モノの位置・状態を把握できます。そのうえで、インターネットにつなげた制御システムをデバイスに装着しておけば、モノの遠隔操作が可能となります。これにより、生産ラインやビル管理システムなどを自動化でき、効率的な運用が可能となるでしょう。人的ミスが減少するだけでなく、エネルギーの節約や作業効率の向上にもつながります。また、消費者に対しては、照明やエアコンといった家電製品のスマートコントロールを通じて、快適で効率的な生活環境を提供できるようになります。モノ・ヒトの動きを検知する専用のセンサーをIoTデバイスに装着しておくことで、モノ・ヒトの動きを検知し動作する(例:通知を送る)ようになります。これは、主にセキュリティの強化につながる機能です。例えば、企業において、入侵検知システムをはじめとするセキュリティ対策の向上に寄与します。また、顧客の動きや行動パターンを分析することで、マーケティング戦略の最適化にも生かせます。例えば、店内のサイネージとリンクさせ、それぞれの顧客に応じた広告を配信すれば、売上の向上も期待できるでしょう。モノ同士で通信するIoTの技術を活用すれば、ネットワークを経由して、離れたモノ同士でデータの送受信を行えるようになります。モノ同士でやり取りされたデータをクラウド経由で共有でき、ビジネスに役立てられるでしょう。例えば、生産ラインやビル管理システム内でデータ共有を行うことで、よりスムーズで効率的な運用が可能になります。これにより、新たなサービスやビジネスモデルの創出が促進される可能性もあります。また、モノ同士の情報共有は、交通システムや公共インフラの管理においてより快適で持続可能な都市環境の実現に貢献するなど、スマートシティの推進にもつながります。以上、DX推進でIoTを活用するメリットを5つの側面からお伝えしました。ビジネスプロセスの最適化から顧客体験の向上、新しい価値の創出に至るまで、IoTに多方面での活用が期待されていることが理解できたはずです。IoTは、DX実現のための効率化や自動化、イノベーション推進などのカギを握る技術として位置付けられています。IoTと5GでDXが加速4Gまでの通信でもIoTシステムは構築できますが、5Gのインフラが整うことでIoTをさらに活用できるようになります。前述のとおり、IoTの活用はDXを実現する一つの方法として位置付けられているため、IoTの活用が広がれば、今まで難しかったことが実現可能になるため、結果的にDXの加速につながると考えられています。5Gには「高速・大容量」「低遅延」「多数接続」という3つの特徴があります。これら3つの特徴ごとに、5GがIoTの活用にどのように寄与するのか順番に解説します。高速・大容量複数のIoTデバイスから高頻度で送られる大量のビッグデータは、そのデータ量の多さから処理に多くの時間がかかります。その点、5Gでは最高伝送速度10Gbpsという超高速通信を実現できるため、大容量データの送受信にも対応しやすくなります。一般的に、取得できるデータ量が多くなるほど、よりきめ細かな分析・制御が可能です。AIの機械学習に活用する際も、学習データが多いほど性能の高いモデルが構築でき、高精度な物体検出や機器の自動化などが実現可能となります。低遅延5Gにおける低遅延の特徴は、即時性やリアルタイムでの判断が求められる分野・産業での活用が期待されています。例えば、自動車の自動運転では、1秒の判断の遅れでも大きな事故につながるおそれがあります。自動運転では自動車に搭載したセンサーの情報をもとに瞬時の制御が求められますが、ここで低遅延という5Gの特徴が役立つでしょう。また、遠隔医療においても、低遅延通信により医師が遠隔地から患者の状態をリアルタイムで診断し、時には遠隔操作による手術を行うことも可能になります。このように、5Gの低遅延は、より速く、正確で安全なデジタルサービスの提供を可能にします。多数接続5G技術を使用すると、同時に多数のIoTデバイスを接続することが可能です。この能力は特に、多くのIoTデバイスが活用される環境で大いに役立つでしょう。例えば工場では、自動搬送ロボットや製造ラインの監視に膨大な数のセンサーを使用するため、通信対象となるデバイス数が多くなりやすいです。5Gの採用により、これらの多数のデバイスが同時に通信を行い、センサーからのデータ収集や分析を迅速に実施できるため、工場全体の作業の効率を向上させられます。そのほか、コンサート会場やスタジアム(例:競技場、野球場)をはじめ多くの人が集まる場所で5Gを活用すれば、各々が快適に通信できるようになります。スマートフォンに搭載された位置センサーを用いて人々の位置情報を取得し、混雑状況を監視することも可能です。5Gについてさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことでDX推進におけるIoTと5Gの関係性についてより深く理解できますので、ぜひご覧ください。DXは5Gで加速!3つの特徴や可能になること、普及への課題参考:総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」DX推進にIoTを活用した事例近年、DX推進にあたってIoTを活用している国内企業・組織が増えている状況です。本章では、DX推進にIoTを活用して新たなビジネスモデル・サービスなどの創出に取り組んでいる企業・組織として、以下の3つのケースを紹介します。トヨタ(製造DX)上士別北資源保全組合(農業DX)佐川急便(物流DX)それぞれの事例について、ポイントを順番に説明していきます。トヨタ(製造DX)トヨタ自動車株式会社は、3D CADデータなど既存のデジタル化データを一元管理でき、工場と現場などの部署間にまたがる情報共有基盤「工場IoT」を構築しています。この目的は、以下の5つです。現有資産の最大有効活用:すぐに着手できるよう、既存の設備を活用データ分析の効率化:拾い切れていない現場の困りごとをAIで解決FA機器類からのデータ授受:ログデータとして現有資産に保管されたデータの有効活用セキュリティ対策:外部と接続するIoT工作機器などへの対応IE化されていない設備の標準化:インターフェースの標準化「工場IoT」の構築にあたっては、工場横断の共有プラットフォーム構築のために2~3年かけて段階的に投資しています。製造側ではデジタル技術を用いたトヨタ生産方式として、各社員が小規模なテーマを立案・実行し、効果を出すというボトムアップの取り組みを行い、併せて人材育成も進めました。現在は、「工場IoT」の考え方をエンジニアリングチェーンやサプライチェーンにまで広げ、開発・市場・工場をデジタル化で連携することを目的に、情報共有基盤を構築中です。参考:経済産業省 PwC Japanグループ「製造業DX取組事例集」上士別北資源保全組合(農業DX)上士別北資源保全組合のある北海道士別市では、国営農地再編整備事業による水田の大区画化が行われ、稲作の効率化が進められており、一層の効率化を図るために日々行う水管理の省力化が求められていました。具体的には、気象の変化にリアルタイムで対応する効率的・効果的な水管理を導入することで、収量・品質の向上が求められていました。また、給排水のムダを省くことで、節水による水資源の有効活用や「田んぼダム」機能の強化による防災・減災力の向上も求められていたという背景もあります。そこで、令和2年度より上士別北資源保全組合では、ほ場水管理システム「WATARAS」((株)クボタケミックス製)の運用を開始しています。これは、水田の給水・排水をスマートフォンやパソコンでモニタリングしながら、遠隔操作もしくは自動で制御できるシステムです。少ない労働時間でほ場の水管理を最適化できるうえに、水管理に関するデータの収集も可能としています。これにより、水管理作業時間が削減されたとともに、冷害危険期の深水管理が実践され、収量・品質の高位安定化が図られました。また、「田んぼダム」により防災・減災力が強化され、洪水被害等の軽減が期待されています。参考:農林水産省「農業新技術活用事例」2023年10月佐川急便(物流DX)SGホールディングスグループでロジスティクス事業を展開している佐川グローバルロジスティクス株式会社は、東松山SRC(埼玉県東松山市)の生産性向上を目的に、次世代型ロボットソーター「t-Sort」およびRFIDシステムを導入しました。東松山SRCでは、現場の特性上、繁閑差が大きく大がかりなソーターを導入するとかえって非効率となることから、人による仕分け作業をメインで行っていました。その点、「t-Sort」は繁閑に応じて使用するロボット台数を変更することで、処理能力の調整やコストの流動化、導入までのリードタイム短縮や省スペース化などが可能です。そのため、東松山SRCのオペレーションに最適と判断し導入しています。その結果、ヒューマンエラーによる誤発送撲滅や作業にかかる人員の削減が実現しただけでなく、その作業に従事していた人員を作業負荷が大きい出荷作業に振り替えることで、全体の作業時間が短縮され、東松山SRCにおける全従業員の労働時間短縮につながりました。また、従来ハンディターミナルを使用して出荷作業を行っていましたが、複雑な操作が必要でした。そこで、「t-Sort」導入に合わせて商品のスキャニング方法にRFIDシステムを組み合わせ、入力作業の簡略化を図ったことで、新規就労者の早期戦力化やハンディターミナルの操作習得に必要な教育時間の削減にもつながっています。参考:佐川グローバルロジスティクス「仕分け業務のDXにより、東松山SRCの大幅な生産性向上を実現~次世代型ロボットソーター「t-Sort」やRFIDシステムを導入~」2021年8月4日まとめ昨今、5G技術の普及によりインターネットが高速化する中で、IoTのさらなる広がりが期待されています。企業がDXを進めるにあたり、人材不足の問題を解決し、国際競争力を強化するためにも、IoTへの理解と積極的な採用が重要です。特に、IoTを活用することで提供できる顧客価値を高められるならば、導入を積極的に検討するべきです。顧客体験を改善し、顧客満足度を向上させることが、結果として企業の競争力を強化します。しかし、IoT導入にはいくつかの課題もあります。例えば、高度なITスキルを持つ人材の不足、電力供給の問題、ネットワークのセキュリティ対策などです。また、IoTの導入は目的ではなく、あくまでも手段です。導入を検討する際は、顧客に対してどのような追加価値を提供できるか、そして導入後の運用がしっかりと行えるかどうかを慎重に考慮することが必要です。