DXリテラシー標準とは、全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準のことです。経済産業省は、DXリテラシー標準を策定したねらいについて、以下のように説明しています。働き手一人ひとりが「DXリテラシー」を身につけることで、 DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになることDXという言葉が広く知られるようになってから数年が経過しましたが、社会全体での理解と実践はまだ十分ではありません。多くの企業や個人にとって「DXをどのように自分ごととして捉えるべきか」「DXに必要な知識やスキルは何か」といった疑問が残っています。この記事では、DXの基礎知識とスキルを体系的に学ぶための指針「DXリテラシー標準」について、定義や必要性、具体的な活用方法などをわかりやすく解説します。企業の人材育成担当者、経営者、マネジメント層の方々にとって、「DXリテラシー標準」を用いた学習プランの作成に役立つ情報を紹介しています。DXリテラシー標準とは?DXリテラシー標準(DSS-L)とは、ビジネスパーソンひとりひとりがDXリテラシーを身につけるための学びの指針です。2022年3月、経済産業省および独立行政法人 情報処理推進機構によって策定・公表されました。それぞれの働き手がDXの推進に積極的に参加し、その成果を仕事や日常生活で活用するために必要な考え方、知識、スキルが記されています。それぞれのビジネスパーソンがDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを自分ごとと認識し、変革に向けて行動できるようになることが、DXリテラシー標準が策定された目的とされています。なお、近年における生成AIの登場や進化に伴い、DXに関わるビジネスパーソンに求められるスキルも変化していることを踏まえ、DXリテラシー標準については見直しが行われ、令和5年8月に改訂版が公表されています。具体的には、生成AIの適切な利用に必要となるマインド・スタンス、及び基本的な仕組みや技術動向、利用方法の理解、付随するリスクなどに関する文言追加を行いました。参考:経済産業省「DXリテラシー標準ver.1.0」2022年3月 経済産業省「デジタルスキル標準」2023年8月更新デジタルスキル標準、DX推進スキル標準DXリテラシー標準と類似する指標に、「デジタルスキル標準」「DX推進スキル標準」が挙げられます。まず「デジタルスキル標準」とは、DX人材育成に必要な素養やスキルをまとめた指標のことです。 DXリテラシー標準とDX推進スキル標準から構成されています。デジタルスキル標準について、詳しく知りたい方は以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。デジタルスキル標準とは?策定された背景、対象人材、活用イメージ次に「DX推進スキル標準」とは、DXを推進する人材(DX人材)の役割や習得すべきスキルの標準を定めた指針のことです。企業や組織のDXの推進において必要な人材のうち、代表的な人材を5つの人材類型に区分して定義しています。DX推進スキル標準について、詳しく知りたい方は以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。DX推進スキル標準とは?必要性、5つの人材類型、活用イメージDXリテラシー標準の必要性出典:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月をもとに作成現代社会では、以下のような側面から環境変化やDXの推進が生じています。社会の変化:持続可能な成長のための取組みの重要性が認知されている顧客価値の変化:高い付加価値、個人の嗜好に合った製品開発が要求されている競争環境の変化:デジタル活用による新規参入やグローバルビジネスの推進こうした中で、各ビジネスパーソンがより良い職業生活を送るためには、従来の「社会人の常識」とは異なる新しい知識やスキルを身につけるためのガイドラインが必要です。そして、人生100年時代を成功裏に生き抜くためには、組織や年齢、職種に関係なく、すべてのビジネスパーソンが自分自身で継続的に学び続けることが重要です。DXリテラシー標準は、この学びのプロセスを支援するためのガイドとして活用されており、ビジネスパーソンがDXに参加し、その成果を職場や日常生活で活かすために必要な思考態度や知識、スキルを明示しています。参考:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月DXリテラシー標準に沿った学習の効果ここまで読んで、DXリテラシー標準の必要性について理解できたはずです。しかし、実際にDXリテラシー標準を活用した場合、どのような学習効果が得られるのかは、着手前の段階ではイメージしにくいでしょう。本章では、経済産業省の資料をもとに期待される学習効果について、個人と企業・組織に分けて順番に解説します。個人ビジネスパーソン個人がDXリテラシー標準に沿って学ぶことで、世の中で起きているDXや最新の技術へのアンテナを広げることができる。これにより、DXリテラシー標準の内容を身につけられるうえに、日々生まれ続けている新たな関連項目・キーワードにも興味を向けられるようになるでしょう。これらを起点として、日々生まれる新たな技術・言葉(バズワードを含め)の内容・意味を自ら調べていく姿勢も身に付くことも期待されます。その後は、実際に触れることで技術・ツールを使用できるようになるほか、自身の業務での活用方法を考えて実践していくことも可能です。企業・組織出典:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月をもとに作成DXに関するリテラシーを身につけてDXへのアンテナを広げた人材が増えることで、企業・組織としてはDXを加速していくことが可能です。DX加速までのプロセスを簡単に説明すると、まず経営層が社会・ビジネス環境の変化において有益な技術・考え方を把握することで、自社におけるDXの方向性を思案し、社員に示せるようになります。続いて、事業内容そのものや業務について知見のある人材がリテラシーを身につけてDXへのアンテナを広げることで、企業・組織におけるDXの可能性の発掘および、DXに関する専門性が高い人材との協働が進み、企業・組織としてのDXが推進しやすくなります。その後、企業や組織内のさまざまな年代、階層、職種の人材がDXに関する知識やスキルを習得することにより、組織がDXを推進する過程で生じる変化に対する受け入れや適応能力が向上することが期待されます。DXリテラシー標準の4つの項目出典:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月をもとに作成DXリテラシー標準の全体像は、大まかに以下4つの項目で定義されています。Why (DXの背景)What(DX で活用されるデータ・技術)How(データ・技術の利活用)マインド・スタンスそれぞれの項目の内容について、順番に分かりやすく解説します。WhyDX推進の重要性を理解する上で必要な、社会の動向、顧客やユーザーのニーズ、競争環境の変化についての知識を含んでいます。DXに関連するリテラシーを習得するための指針として役立てることを目的としています。What実際にビジネスの現場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識を定義したものです。データは、具体的に「社会におけるデータ」「データを読む・説明する」「データを扱う」「データによって扱う」といった項目に分かれます。デジタル技術については「AI」「クラウド」「ハードウェア・ソフトウェア」「ネットワーク」などの項目に細分化されています。Howビジネスの現場においてデータやデジタル技術を利用する方法や、活用事例、留意点に関する知識を定義したものです。利用方法・活用事例は、「データ・デジタル技術の活用事例」「ツール利用」といった項目に分かれています。留意点については、「セキュリティ」「モラル」「コンプライアンス」といった項目に細分化されています。ここまでに説明した3つの項目は、DXに関連する知識を身につけるための指針として使われることを目的としています。マインド・スタンス社会の変化の中で新しい価値を創造するために必要な意識、態度、行動を明確に示しています。個人が自己の行動を見直すためのガイドラインとして利用できるだけでなく、組織や企業がDXの推進や持続可能な成長を目指す際、その構成員に求める意識や姿勢、行動の指針としても活用されることを想定しています。この項目では、「デザイン思考/アジャイルな働き方」や「新たな価値を生み出す基礎としてのマインド・スタンス」が定義されており、「顧客・ユーザーへの共感」「常識にとらわれない発想」「反復的なアプローチ」「変化への適応」「コラボレーション」「柔軟な意思決定」「事実に基づく判断」などの項目に細分化されています。DXリテラシー標準の活用イメージ最後に、経済産業省の資料を参考に、DXリテラシー標準の活用イメージを3つの対象に分けて、順番に解説します。組織・企業下表に、組織・企業における学習のゴールと活用イメージをまとめました。項目学習のゴールゴールに向けた活用イメージWhy社会や経済の変化を把握し、DXの重要性を理解していること。自社の環境変化を踏まえて、DXの必要性や方向性を明確にすること。WhatDX推進のためのデータやデジタル技術に関する知識を持つこと。社員に重要なデータやデジタル技術を知らせ、学びの機会を提供すること。Howデータやデジタル技術の活用事例を理解し、基本的なツールの使い方を身につけ、業務での活用を図ること。自社におけるデータや技術の活用例、方向性、ツールの使用方法、留意点を社員に伝えること。マインドスタンス社会の変化の中で新たな価値を創造するために必要なマインドセットを理解し、自身の行動を反省すること。自社が新しい価値を創造するために重要なマインドセットを特定し、それを社内に浸透させる方法を検討すること。具体例を一つ紹介すると、「DXリテラシー標準に記されているマインドセットを参照し、自社の組織や人材がすでに持っている能力や、今後強化すべき能力を明確に特定していく」といった活用方法が考えられます。個人個人における活用イメージは下表のとおりです(学習のゴールは組織・企業の場合と同一の内容なので割愛)。項目ゴールに向けた活用イメージWhy社会の変化を理解し、自分が属する組織や個人の生活にどのような影響があるかを考える。Whatデータやデジタル技術の基本を学び、日常で使っているデータやツールの背後にある技術を理解する。How状況に応じて最適なツールを選択し、使い方や注意点を学ぶことで、効果的に活用する。マインドスタンス必要なマインドセットを把握し、自分の日常の行動や態度を振り返る。具体例を一つ挙げると、「自分が属する組織や企業、または自分の仕事やビジネスにおいて重要とされるマインドセットや具体的な行動パターンを理解し、日頃の自分の行動や態度を見直す」といった活用方法が考えられます。教育コンテンツ提供事業者下表に、教育コンテンツ提供事業者における活用イメージをまとめました(こちらも学習のゴールは組織・企業の場合と同一の内容なので割愛)。項目ゴールに向けた活用イメージWhy社会の変化の中でDXがなぜ必要かを、具体的な事例を使って説明する。Whatデータやデジタル技術について、個人の仕事や日常生活で使用しているツールやサービスと関連付けて説明する。Howデータやデジタル技術の様々な活用事例と、それを実現する手段(ツールの使用を含む)を示し、ツールの操作方法や注意点について説明する。マインドスタンス必要なマインドセットとその行動例、関連する方法論について紹介する。具体例を一つ紹介すると、「教育コンテンツを受ける人々に対して、どのような行動が新しい価値を生み出すかを理解してもらうために、マインドセットの具体的な行動例やそれに関連する方法論について説明する」といった活用方法が考えられます。まとめ本記事では、「DXリテラシー標準」について、定義から必要性、全体像から活用方法までを幅広く紹介しました。全社的にDXの必要性を共通認識として持つことが、DX推進の成功やビジネスパーソン個人・企業の成長を確実なものにするための鍵といえます。今回紹介したDXリテラシー標準の内容を踏まえ、自身・自社が取り組める内容から着実に学習を進めていきましょう。