私たちを取り巻く環境は日々変化しており、その複雑さは増すばかりです。特にコロナ禍のような不測の事態が発生し、その環境変化に対応できなければ、日常生活にも影響が出ることがあります。このような不安定な時代において、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が重要視されています。DXは、テクノロジーを活用して個人、組織、さらには社会全体の変革を促進するものです。公共部門だけでなく民間企業でもDXの需要が高まり、市場規模は拡大を続けています。DX推進がなぜ必要なのか、それは私たち企業が今後も変化の激しい環境に適応し、持続可能な未来を築くためには欠かせないからです。本記事では、日本や世界におけるDXの市場規模を考察します。市場規模の拡大が続く理由も解説していますので、今後のDX推進にお役立てください。日本のDX市場規模マーケティングやコンサルテーションを手がける「株式会社富士キメラ総研」の調査によると、DX関連の国内市場は以下のように推移しています。業界2023年度見込(対2022年度比)2030年度予測(対2022年度比)全体の合計4兆197億円(115.4%)8兆350億円(2.3倍)交通/運輸/物流4,573億円(115.9%)1兆2,377億円(3.1倍)製造3,870億円(115.2%)9,060億円(2.7倍)金融2,953億円(115.6%)6,200億円(2.4倍)医療/介護1,038億円(115.8%)2,052億円(2.3倍)自治体616億円(109.6%)1,233億円(2.2倍)DX関連の市場規模を見ると、2023年度には4兆197億円が見込まれ、今後も拡大が続くものと見られています。業種別に見ると、特に交通/運輸/物流、製造、金融、医療/介護、自治体などの伸びが注目されている状況です。近年、企業や社会を取り巻く環境の急速な変化に対応するためにDXの重要性が増しており、多くの企業がDXを重要な経営課題として捉えています。とりわけ売上データやマーケティングデータ、WEB解析データといったデータに基づいて経営判断や行動を迅速に進める「データドリブン経営」の実践に向け、中長期での継続的なDX投資が求められている状況です。参考:富士キメラ総研「『2024 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/企業編』まとまる(2024/4/10発表 第24034号)」世界のDX市場規模調査・コンサルティングサービスを手がける「360iResearch社」の発行する市場調査レポートによると、世界のDX市場規模は以下のように報告されています。対象年DX市場規模2023年推定8,210億3,000万米ドル2024年予測9,872億1,000万米ドル2030年予測3兆1,023億2,000万米ドルCAGR(年平均成長率)20.91%特に新興経済諸国において、ビジネスをデジタル化するための進化した技術の普及が進み、デジタル化に向けた政府の取り組みが進んでいることが、DX関連市場の拡大につながっています。その一方で、DXシステムにおけるデータセキュリティやプライバシーに対する不安や懸念が、予測期間中のDX関連市場の拡大を妨げるおそれがある点も指摘されています。特にデジタルテクノロジーへの依存度が高まるにつれ、サイバーセキュリティサービスを必要とするサイバー脅威が増加しています。DXを推進する企業としては、データ・システム・顧客を保護するために、堅牢なセキュリティ対策を優先する必要があるでしょう。参考:グローバルインフォメーション「デジタルトランスフォーメーション市場:オファリング、機能、テクノロジー、デプロイメント、エンドユーザー別- 世界予測2024-2030年」DX市場規模の拡大が続く理由DX市場規模の拡大が続く理由を具体的に挙げると、主に以下の5つが挙げられます。デジタル競争力が落ちている技術の進化業務効率化による生産性向上・コスト削減を目指しているリモートワークの普及DXレポートと「2025年の崖」による警鐘それぞれの理由について順番に詳しく解説します。デジタル競争力が落ちている「日本はデジタル後進国である」という認識が広まっていますが、その背景には具体的なデータが存在します。特に大きな要因として、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表する「世界デジタル競争力ランキング2023」が挙げられます。このランキングは、日本がデジタル分野でどのような位置にあるのかを示しており、日本の現状と他国との比較を考えるうえで重要な指標となっています。同レポートによると、日本のデジタル競争力は中位(64か国中32位)で、なおかつ前年から3つ順位が低下しており、2017年の調査開始以来で過去最低を記録しています。この結果から、決して楽観視できない日本のデジタル化の推進状況を表現する言葉として「デジタル後進国」が使われるようになったと考えられます。岸田内閣総理大臣も2023年に開いた記者会見において、デジタル後進国に位置付けられている日本のデジタル化の推進状況を受けて、「がく然とした」旨のコメントを残しています。そして、「デジタル後進国」の状況を改善するために、産官学の連携・技術協力の推進・ビジネスが進めやすい規制緩和などを通じて、DXに対する積極的な投資が促されている状況です。日本の現状を指すことのあるデジタル後進国について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。デジタル後進国とは?デジタル競争力ランキングから見た日本 技術の進化近年、ビッグデータやAI(人工知能)などの先端技術・サービスが発展しています。企業がDXを推進していくためには、こうした技術・サービスを導入して、業務効率を高めたり、新たなビジネスモデルを構築したりすることが求められます。当然ながら、企業がこれらの技術・サービスを利用するためには、利用代(導入代)がかかり、ここで求められる投資がDX関連市場の拡大につながっている状況です。DX推進に役立つ技術について、詳しくは以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、DX推進にあたって自社で導入が求められる技術・サービスの検討にも役立ちますので、ぜひご覧ください。DX推進を支える7つの技術業務効率化による生産性向上・コスト削減を目指している企業のDX推進にあたって目指されることが多いものの一つに、業務プロセスの自動化が挙げられます。例えば、「RPA(※)」に人間が行う処理手順を登録しておけば、ユーザー・インターフェースを通じて、人間が操作するのと同様に複数のシステムやアプリケーションを操作・実行できます。RPAにより作業を自動化すれば、労働時間を削減できるだけでなく、不注意によるミスを減らすことも可能です。その結果、従業員はより価値の高い戦略的な業務に集中できるようになり、生産性向上につながるでしょう。※従来は人間のみが対応可能であると考えられてきた作業(あるいはより高度な作業)を、人間に代わって実施できるルールエンジン・AI・機械学習などの認知技術を活用して代行・代替する取り組みのこと。詳しくは以下の記事をご覧ください。DX推進でRPAを導入するメリット・デメリット、ポイントや事例また、DX推進にあたって、従来のオンプレミス(自社でハードウェアを保有・運用する方式)からクラウド(※)に運用方法を移行することで、運用コストの削減に寄与します。クラウドサービスは使用した分だけ料金を支払うモデルが多く、無駄な初期投資や保守費用などのコストが削減されるためです。※インターネットを通じて外部のクラウド事業者(ベンダー)が提供するITサービスを利用するシステム運用方法のこと。詳細は、以下の記事でまとめています。DXにクラウドはなぜ必要なのか?理由やメリット、種類を解説そのほか、DX推進によって収集・分析されるビッグデータを活用すれば、企業はリソース配分の最適化を図れます。例えば、ビッグデータにより需要を予測し、生産計画を最適化すれば、在庫コストの削減が可能になるでしょう。このような取り組みによって生産性向上・コスト削減が叶えば、企業にとって効率的・競争力のある運営を実現できるうえに、新たな利益の創出につながるため、結果としてDX関連市場の拡大に寄与します。リモートワークの普及リモートワークをはじめとした多様な働き方の需要が拡大している点も、DX関連市場の拡大が続く要因の一つとして考えられています。自社のDX化にあたって、生産性向上や働き方改革の推進、災害時の事業継続などを目指していく場合、リモートワークの普及は有効な手段となるでしょう。リモートワークを普及させるうえで、業務プロセスの変革は避けられません。具体的には、勤怠管理やワークフロー、コミュニケーションツールといったICTツール・サービスの導入が必要不可欠です。こうしたツール・サービスの中には無料で使用できるものもあります。ただし、企業でリモートワークを普及させる場合、無料版では人数や機能など各種制限によって効果的な運用が難しく、結果的に有料版を導入するケースがほとんどです。ここでも投資が行われるため、DX関連市場の拡大に寄与します。また、日本政府は厚生労働省と総務省を中心にリモートワークの導入を支援していますが、多くの企業でリモートワークを普及させる動きが進めば、さらなるDX市場の拡大も見込まれるでしょう。DXレポートと「2025年の崖」による警鐘経済産業省による「DXレポート」および、同レポート内で言及されている「2025年の崖」による警鐘が徐々に浸透していくことで、危機感を覚えたDX市場未参入の企業が、今後DX推進に関する取り組みに着手する可能性がある点も指摘されています。「DXレポート2」では、日本国内の中小企業の多くがDX未着手・発展途上と推測されており、今後ますます取り組みが加速する機運があると報告されているため、DX市場はこれから拡大時期に入ると考えて良いでしょう。DXレポートおよび、そこで言及されている「2025年の崖」について、詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧いただくことをおすすめします。DXレポートとは?経済産業省が公開した最新2.2を含む4つを解説2025年の崖とは?経済産業省のDXレポートを解説まとめ国内のDX市場規模は今後も拡大を続けていきますが、この流れに乗り遅れないためにも、今のうちにできることから始めていくことが大切です。これからDXの取り組みを本格的に推進していく企業にとって、DX市場の拡大に乗り遅れないために今できることとしては、主に以下が挙げられます。DX人材の確保・育成に予算を投じる先端技術を活用したビジネスツールを導入する全社的なDXリテラシーを向上させるこのうち、DX人材を確保する際は、採用だけでなく自社内で育てていくことも検討すると良いでしょう。弊社では『SIGNATE Cloud』というデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォームを運営しています。『SIGNATE Cloud』は、DX人材の発掘から育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。