昨今、DXの推進について悩んでいる企業の担当者が多くいます。そこで本記事では、企業のDX推進に向けて作られた「DX推進ガイドライン」の概要や11個の項目についてご紹介します。なお、2022年9月には、DX推進ガイドラインが「デジタルガバナンス・コード2.0」に統合されました。この記事では、統合先であるデジタルガバナンス・コード2.0の内容についても触れていますので、併せて把握しておきましょう。DX推進ガイドラインとは?DX推進ガイドラインとは、経済産業省が民間企業のDX推進に向けて作成したガイドラインのことです。企業がDXを実現するために必要となる具体的な行動・アプローチ・認識などを共有する目的で策定されました。DX推進ガイドラインは、大まかに以下の2つのテーマから構成されています。DX推進のための経営のあり方、仕組みDXを実現する上で基盤となるITシステムの構築企業でDXを推進していくためには、その土台となる経営戦略・ビジョンを明確にしなければなりません。具体的な経営戦略・ビジョンを策定し、それを社員に明示することで、企業全体で迷うことなくDXを推進できるようになります。また、DX推進にあたっては、ITシステムの構築も欠かせません。新たなITシステムを構築するためには、社内体制の見直しや整備が必要となるでしょう。社内の各部署や事業所が個別的にシステムを構築すれば、全体の連携が複雑化して効率が落ちるおそれがあります。そのため、外部のベンダーだけに依存するのではなく、社内に専門の事業部門を設けたうえで、会社全体の事業計画を立案し、DX推進の方向性を定めていくことが望ましいです。DX推進ガイドラインはデジタルガバナンス・コードと統合冒頭でもお伝えしたとおり、2022年9月に、DX推進ガイドラインは「デジタルガバナンス・コード2.0」と統合しました。デジタルガバナンス・コードは、経済産業省が企業のDX推進に関する自主的な取り組みを促すために、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応の内容をまとめた資料です(2020年11月9日に策定・公開)。「経営ビジョン・ビジネスモデル」や「戦略」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」といった4つの柱(6項目)で構成されています。そして、デジタルガバナンス・コードを改訂する形で公開されたものが、デジタルガバナンス・コード2.0です(2022 年9⽉13⽇に改訂・公開)。デジタルガバナンス・コードの改訂にあたっては、企業のDXのさらなる促進に向けて、デジタル⼈材の育成・確保やSX/GX(※)との関わりなど、新たなトピックが追加されています。(※)SX(Sustainability Transformation):持続可能な社会の実現に向けた企業の変革活動のこと。GX(Green Transformation):カーボンニュートラル実現などのための活動や変革のこと。デジタルガバナンス・コードについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、ぜひ本記事と併せてご覧ください。デジタルガバナンス・コード|最新の2.0と実践の手引き2.0も解説参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コードとは」DX推進ガイドラインの11の項目先ほど述べたDX推進ガイドラインの2つのテーマは、それぞれがより詳細な項目に細分化されています。このうち「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」については、「体制・仕組み」と「実行プロセス」の小項目に振り分けられているのが特徴的です。下表に、DX推進ガイドラインの構成を簡単にまとめました。テーマ項目DX推進のための経営のあり方、仕組み・経営戦略・ビジョンの提示・経営トップのコミットメント・DX推進のための体制整備・投資等の意思決定のあり方・DXにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築【体制・仕組み】・全社的なITシステムの構築のための体制・全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス・事業部門のオーナーシップと要件定義能力【実行プロセス】・IT資産の分析・評価・IT資産の仕分けとプランニング・刷新後のITシステム:変化への追従力ここからは、DX推進ガイドラインの11項目の内容をそれぞれ順番に紹介します。DX推進のための経営のあり方、仕組みはじめに、「DX推進のための経営のあり方、仕組み」のテーマで細分化されている5つの項目について順番に紹介します。1.経営戦略・ビジョンの提示今後のビジネス環境では、予測できないイノベーションが次々と登場することが想定されます。それを踏まえて、DXを推進する企業では柔軟で持続可能なビジネスモデルを構築する必要があります。DXを成功させるには、ただ部下に指示を出すだけでは不十分です。経営陣は具体的な経営戦略とビジョンを明確にし、事業分野で新しい価値を生み出すための具体的な施策を考案し、適切な指示を出すことが求められます。ビジョンについては以下記事で解説していますので、必要性や策定方法がよくわからないといった疑問の解消するために併せてご覧ください。DXにビジョンは必須!内容と策定の手順を解説2.経営トップのコミットメントDXは、今後のビジネス環境で起こり得る大きな変化やイノベーションに備えるために生まれた概念です。大きな変化にうまく対応するためには、経営トップのコミットメントが極めて重要とされています。組織内では変化に対する抵抗が予想されるため、経営トップがしっかりとリーダーシップを発揮し、変革を導くことが求められます。3.DX推進のための体制整備DXの成功には、戦略的なデータ活用とITシステムの計画に基づく強固な組織体制の確立が欠かせません。そのためには、業務に精通したIT専門家の確保だけでなく、経営層・事業部門・情報システム部門間での緊密な協力も求められます。効果的なDX推進のためには、さまざまなステークホルダーが一丸となってDXに取り組みながら、DXの精神を組織全体で共有していくことが大切です。IT部門とビジネス部門が協力し合い、テクノロジーの可能性を最大限に活用しながら、新たなビジネス価値の創出を目指しましょう。4.投資等の意思決定のあり方DXを推進する際、多くの企業が直面するのが「投資判断の壁」という課題です。これを克服するためには、以下の3つの重要なポイントを意志決定時に考慮することが必要です。投資を行うことが、既存の業界やビジネスモデルにプラスの影響をもたらすか定量的なリターンや確度の低さにより、新たな試みへの挑戦が阻害されていないか投資を行わなかった場合、デジタル化が進む市場での競争に敗れるリスクを十分に認識しているか5.DXにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力DXの目的の一つに、既存の業界やビジネスモデルに革新をもたらし、新たな価値を創出することが挙げられます。それと同時に、将来的な変化に対応できる柔軟な社内体制の構築も、DX推進における重要な目標の一つと言えるでしょう。後者の目標を実現するための施策の例としては、特定のシステムに依存せず、変化が生じた際にも最新の技術やツールとの連携がスムーズに行えるような環境を整備することが挙げられます。DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築次に、「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」のテーマで細分化されている5つの項目について順番に取り上げていきます。6.全社的なITシステムの構築のための体制まずは、「体制・仕組み」に振り分けられている3つの項目を順番に紹介します。全社を通じたITシステムの構築には、システムの全体設計を行う専門家と、これらのシステムを活用してDXを推進する管理者が必要です。このプロセスを効果的に進めるためには、経営層からの明確な指示のもとでDX推進専門の部署を設置することが望ましいです。こうして設置された部署では、経営層からの方針を受け、各部署の担当者と連携を取りながらDXを推進していく役割を担います。7.全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス全社規模でのITシステム構築では、新たなシステムと既存のシステム間のスムーズな連携を保証することが必要です。また、部門ごとにITシステムが独立してしまう「ブラックボックス化」を防ぐために、業務プロセスの標準化に基づく管理体制の確立が欠かせません。よくある失敗例としては、長年の取引があるベンダー企業にすべてを任せたり、ベンダーからの提案を十分に検討せずに受け入れたりするケースが挙げられます。当然ながら、DXは自社が主導すべき取り組みです。外部ベンダーから提案を受けた場合にも「自社のDXが目指す目標は何か」を明確にしたうえで意思決定を下す必要があります。8.事業部門のオーナーシップと要件定義能力DXを推進する企業には、結果的にITシステムの構築や組織体制の整備といった変化がもたらされます。しかし、これらの取り組みが独り歩きすると、それぞれの事業部門からDXに適した事業計画・業務企画を円滑に吸い上げられなくなり、DX推進が足踏み状態に陥るおそれがあります。DXを成功させるためには、各事業部門がDXに関して責任感を持ち、積極的に取り組む姿勢が必要です。9.IT資産の分析・評価ここからは、「実行プロセス」に振り分けられている3つの項目を順番に紹介します。IT資産の分析と評価が適切な形で実施されない場合、レガシー化した基幹システムの更新時期を見落とし、企業は大きな損失を被るおそれがあります。一企業の損失が業界全体や社会に悪影響を及ぼす可能性もあるため、IT資産の適切な分析と評価は欠かせないプロセスです。10.IT資産の仕分けとプランニングIT資産の分析と評価を行った後、どのIT資産を残し、どれを更新するのかを決定することが大切です。そして残すIT資産については、その特性を深く理解し、全社的にデータを活用できるシステムに統合できるかどうかを検討することも重要です。ただし、すべてのIT資産を必ずしも連携させる必要はありません。必要に応じて、特定の資産を一時的に使用しない「塩漬け」状態にし、必要に応じて後から活用するという選択肢も考慮に入れましょう。11.刷新後のITシステム:変化への追従力ただ単純にITシステムを導入するだけでは、根本的な問題解決につながらず、刷新した後で再びレガシー化してくるリスクもあります。システムの導入そのものをDXの目標とみなしている場合、システム刷新の成果は得にくいでしょう。このような事態に陥らないためにITシステムの刷新がビジネスにどのようなプラスの影響を与えるかを評価できるような体制を整えることが重要です。まとめDX推進ガイドラインを活用することで、企業は自社のDXの現状を把握し、具体的な施策を検討できるようになります。ただし、DX推進ガイドラインを効果的に活用するためには、経営者だけでなく、事業部門やIT部門の人材もDXに関する知識・スキルを身につけなければなりません。しかし、多くの企業では、DXに対する理解・教育が不十分であるという課題を抱えています。そのため、まずはDX人材の育成を支援するサービスの活用を検討すると良いでしょう。弊社では『SIGNATE Cloud』という、デジタル変革をトータルにサポートするDX教育サービスを提供しています。『SIGNATE Cloud』は座学だけでなく、学んだことを実際の業務につなげることができる実践的なDX人材育成プラットフォームです。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。