DX推進スキル標準とは、DX推進を担う人材の役割および習得すべきスキルに関する指標のことです。DXが注目されて数年が経過していますが、その浸透はまだ限られており、多くの企業や個人がDX推進に関して明確な道筋を見出せていません。しばしば「必要なスキルが不明瞭」「習得したスキルを実務に生かせない」といった問題が生じています。この記事では、DX推進に欠かせない「DX推進スキル標準」について、概要や必要性、把握しておくべき5つの人材類型、活用イメージなどを中心に分かりやすく解説します。企業の人材育成担当者、経営者、マネジメント層の方々にとって、「DX推進スキル標準」を用いた人材獲得・育成プランの作成に役立つ内容となっています。DX推進スキル標準とは?DX推進スキル標準(DSS-P)とは、DX推進を担う人材の役割および習得すべきスキルに関する指標のことです。経済産業省は、DX推進スキル標準を策定したねらいについて、下記のように述べています。DX推進を担う人材の役割や習得すべき知識・スキルを示し、それらを育成の仕組みに結び付けることで、リスキリングの促進や実践的な学びの場の創出、能力・スキルの見える化などを実現する参考:独立行政法人 情報処理推進機構 経済産業省「デジタルスキル標準ver.1.2」2024年7月 独立行政法人 情報処理推進機構「DX推進スキル標準(DSS-P)概要」デジタルスキル標準、DXリテラシー標準DX推進スキル標準と関連する指標に、「デジタルスキル標準」および「DXリテラシー標準」の2つが挙げられます。デジタルスキル標準は、DXの人材育成に必要な能力やスキルを定めた指標で、DX推進スキル標準とDXリテラシー標準の2つから構成されています。DXリテラシー標準は、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力とスキルを集約した指標です。この指標が策定された目的は、各ビジネスパーソンがDXに関する知識やスキルを習得し、DXを自分の仕事や生活に関連する重要な事柄として捉え、変革に向けて積極的に行動できるようになることにあります。デジタルスキル標準およびDXリテラシー標準の詳細は、以下の記事で解説しています。それぞれの定義や重要性など、詳しく知りたい場合はぜひご覧ください。デジタルスキル標準とは?策定された背景、対象人材、活用イメージDXリテラシー標準とは?必要性、学びによる効果、活用イメージDX推進スキル標準の必要性最近、日本の多くの企業がDXを推進するための人材不足に直面しています。この主な理由は、日本における少子高齢化の進行に伴う人材獲得競争の激化や、IT業界におけるマイナスイメージ(例:仕事がきつい、長時間労働になりがちなど)のほか、自社のDXの方向性を定めたり、必要な人材を特定したりすることが難しい状況にあることなども要因として挙げられます。こうした状況に陥っている企業がDXを推進していくためには、各企業がDXを通じて何を達成したいかのビジョンと、その実現に向けた戦略を明確にすることが重要です。そのうえで、DX実現に必要な人材の確保や育成について適切な計画を立てることも大切です。この過程において、DX推進を担う人材の役割や習得すべきスキルなどが示されているDX推進スキル標準は参考になるでしょう。もし、DX推進スキル標準が無かった場合、適切な人材が社内に居たとしても気づかなかったり、必要となるスキルがわからなかったりするなど、DXを推進するにあたって人材面で課題に直面します。DX推進スキル標準を活用すれば、DX推進にあたって必要な知識やスキルを明確化できるので、これまでは隠れてしまっていたDXを推進する人材を発掘できたり、自社の研修コンテンツの見直しが可能になります。また、社内で育成が難しい人材も特定できるため、採用につなげることも可能になり、人材面での課題を克服が期待でき、DX実現に向けて前進できます。DX推進スキル標準は、主に以下のような対象者に利用されることを目的としています。事業の規模やDXの推進段階に関わらず、データやデジタル技術を活用して競争力を高めようとする企業や組織。企業や組織内で、データやデジタル技術を用いた変革を推進する個人DX推進スキル標準の5つの人材類型DX推進スキル標準では、DXを推進する代表的な人材として、5つの人材類型を定義しています。DXを推進する人材には、他の専門分野の人材と積極的に関係を築くことが求められています。これには、他の専門分野の人材をDXの取り組みに巻き込むことや、必要に応じて彼らを支援するといったことも含まれます。また、社内外を問わず、DX推進に適した人材を積極的に探し出し、協力関係を構築することも重要です。ここからは、それぞれの人材類型の定義や期待される役割を中心に、順番に分かりやすく解説します。ビジネスアーキテクトDXの取り組み(例:新規事業開発、既存事業の高度化、社内業務の効率化など)にあたって重要な役割を果たす人材です。ビジネスや業務の変革を目指し、その目的を達成するためのプロセスを設定・推進します。また、関係者をまとめ、協働関係を構築するリーダーシップを発揮することも期待されています。ビジネスアーキテクトには、デジタル技術を活用したビジネスモデルを設計し、それを現実化するための一貫した取り組みをリードする責任があります。さらに、関係者間の協力を促進し、協働関係を築くための調整役も担います。なお、弊社(株式会社SIGNATE)が2023年11月〜12月に行った調査において、大企業の人事・教育・DX推進担当者が育成を強化したいロールの第1位が、ビジネスアーキテクトでした。本調査のレポートダウンロードはこちら下表に、他の人材類型と連携して進める業務の例をまとめました。連携相手業務内容デザイナー顧客やユーザーの調査結果から得られた洞察をもとにした製品やサービスのアイデアの検討データサイエンティストデータ分析から得られる知見をもとにした製品やサービスのアイデアの検討ビジネスアーキテクトの詳細については以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。ビジネスアーキテクトとは?役割、業務、必要なスキル|DX推進スキル標準デザイナービジネスと顧客・ユーザーの両方の視点を総合的に考慮しながら、製品やサービスの方針や開発プロセスを策定する専門家です。策定した基準にもとづいて、製品やサービスのデザインを担当します。デザイナーの役割には、DXの取り組みにあたって、顧客やユーザーの視点が欠落しないよう意識することも含まれます。関係者が顧客・ユーザー中心のアプローチで取り組むことができるようにサポートするほか、倫理的な観点を考慮し、顧客・ユーザーとの関係性をデザインすることも期待されています。他の人材類型と連携して進める業務の例は以下のとおりです。連携相手業務内容データサイエンティスト顧客やユーザーの理解と製品・サービスの検証のための調査、データの取得・分析、分析結果の表示方法の検討ソフトウェアエンジニアデザインガイドライン、ユーザビリティ、倫理的適切性を考慮した製品・サービスの開発、評価、検証データサイエンティストDXの推進にあたって、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に重要な役割を果たす人材です。データの収集・解析および、これらの仕組みの設計、実装、運用を担当します。データ活用が中心となるDX推進にあたって、彼らは中核的な役割を果たすとされています。データサイエンティストの主な責任は、データの探求と活用を通じてDXの取り組みを進め、企業や組織の競争力を向上させることです。また、DXにおけるデータ活用の重要な領域を担い、必要に応じて他の職種や部門と柔軟に連携することも期待されます。下表に、他の人材類型と連携して進める業務の例をまとめました。連携相手業務内容ソフトウェアエンジニア新しいデータの収集、蓄積、分析、可視化の仕組みおよび既存システムとの連携の検討サイバーセキュリティデータ管理とプライバシー保護に関する方針の検討データサイエンティストの詳細については以下の記事でまとめていますので、より深く知りたい方はご一読ください。DX推進スキル標準のデータサイエンティスト|役割、業務、必要なスキルソフトウェアエンジニアデジタル技術を活用した製品やサービスを提供するためのシステムソフトウェアの設計、実装、運用を行います。彼らの役割は、新しい製品やサービスの開発や業務変革の際、企画段階から具体的な形へと進化させることにあります。ソフトウェアエンジニアは製品の実装、導入、運用において、そのプロセスの中心的な役割を果たします。ソフトウェアエンジニアは、ITおよびデジタル分野の高度な技術力を活用して、DXの取り組みを推進し、企業や組織の競争力を高める重要な役割を担っています。さらに、以下のような役割も期待されています。変化が激しい環境の中でも、他のステークホルダーと柔軟に連携し、価値を創出すること高水準の技術力を維持し、自らが競争力のあるソフトウェアを開発できる能力を持つこと他の人材類型と連携して進める業務の例は以下のとおりです。連携相手業務内容ビジネスアーキテクトユーザーの要望にもとづいた開発要件の定義とソフトウェアアーキテクチャの設計サイバーセキュリティ新製品・サービスのリスクに応じたセキュリティに関する決まりおよび対策の策定サイバーセキュリティデジタル環境で発生するサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材です。DXの推進にあたって、IT部門だけでなく、他の事業部門もセキュリティ対策の責任を負うことが増えています。さまざまなキャリアを持つ人材がサイバーセキュリティのスキルを習得し、インシデントの未然防止や被害の抑制に取り組むことが求められています。サイバーセキュリティの役割には、DXプロジェクトや業務改革の進行中に情報漏えいをはじめとする被害を防ぐためのセキュリティ対策を主導することも含まれます。外部の専門事業者の活用や、他の職種との連携によってデジタル環境におけるリスクから被害を抑制することも役割の一部です。下表に、他の人材類型と連携して進める業務の例をまとめました。連携相手業務内容ビジネスアーキテクト製品・サービスのリスクへの最適な対応策を、コストとリスクのバランスを考慮して検討デザイナーセキュリティを強化しつつユーザーの利便性を損なわないUIの検討DX推進スキル標準の15個のロールDX推進スキル標準が定める人材類型は、それぞれの業務の違いによって「ロール」に区分されています。本章では、人材類型ごとに細分化されているロールの概要について、順番に解説します。ビジネスアーキテクトのロール下表に、ビジネスアーキテクトの中で区分されている3つのロールの概要をまとめました。ロール求められる役割ビジネスアーキテクト(新規事業開発)新しい事業や製品・サービスの目的を特定し、その目的を達成する方法を策定する。その後、関係者をまとめて協力関係を構築し、目的の達成に向けて一貫してプロセスを推進する。ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化)既存の事業や製品・サービスの目的を見直し、新たに定義した目的を達成する方法を策定する。この目的の実現に向けて、関係者間の協力関係をリードしながら、一貫したプロセスを推進する。ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化)社内の業務における課題解決の目的を設定し、その目的を達成する方法を策定する。関係者と協力し、関係者間の協働関係を築きながら、目的の実現に向けて一貫してプロセスを進める。デザイナーのロールデザイナーにおいて区分されている3つのロールの概要は以下のとおりです。ロール求められる役割サービスデザイナー社会的課題や顧客・ユーザーのニーズを把握し、これらを基に顧客価値を定義して製品やサービスの方針(コンセプト)を策定する。また、これを継続的に実現するためのシステムや仕組みをデザインする。UX/UIデザイナーバリュープロポジションに基づき、顧客・ユーザーの体験を設計する。製品やサービスの情報構造、機能、情報の配置、外観、動的要素などのデザインに取り組む。グラフィックデザイナーブランドのイメージを形にし、ブランドとしての統一感を持ったデジタルグラフィックやマーケティング媒体などのデザインを行う。データサイエンティストのロール下表に、データサイエンティストの中で区分されている3つのロールの概要をまとめました。ロール求められる役割データビジネスストラテジスト事業戦略に沿ってデータ活用戦略を立案し、その戦略を具体化して実行をリードする。これにより、顧客価値を高める業務改革や新しいビジネスの創出を目指す。データサイエンスプロフェッショナルデータの処理や分析を通じて、顧客価値を高める業務改革や新しいビジネスアイデアにつながる有益な情報を見つけ出す。データエンジニア効率的なデータ分析環境を設計、実装、そして運用することで、顧客価値を高める業務改革や新しいビジネス機会の創出を実現する。ソフトウェアエンジニアのロールソフトウェアエンジニアにおいて区分されている4つのロールの概要は以下のとおりです。ロール求められる役割フロントエンドエンジニアデジタル技術を用いたサービス提供において、ユーザーインターフェース(クライアントサイド)の機能開発を主に担当する。バックエンドエンジニア上記と同様のサービスにおいて、サーバサイドの機能開発を主に担当する。クラウドエンジニア/SREデジタル技術を用いたサービスのソフトウェア開発と運用環境の最適化や信頼性の向上を担当する。フィジカルコンピューティングエンジニアデジタル技術にもとづくサービスの実現において、現実世界のデジタル化(物理領域)を担当し、デバイスを含むソフトウェア機能の開発を担う。サイバーセキュリティのロール下表に、サイバーセキュリティの中で区分されている2つのロールの概要をまとめました。ロール求められる役割サイバーセキュリティマネージャービジネスの企画立案時にデジタル技術の使用に伴うサイバーセキュリティリスクを検討し、評価する。このリスクを抑制する対策を管理し、これにより顧客に価値の高いビジネスとしての信頼を築くことに貢献する。サイバーセキュリティエンジニアビジネス実施においてデジタル技術の使用に関連するサイバーセキュリティリスクを軽減するための対策を導入し、保守し、運用する。これにより、顧客に価値の高いビジネスを安定して提供することに貢献する。※企業は全てのロールを最初から用意する必要はなく、事業の規模やDXの進め方に合わせて、一部のロールから揃えていけば良いです。共通スキルリスト共通スキルリストとは、DXを推進するすべての人材類型に共通して求められるもので、5つのカテゴリーと12のサブカテゴリーで整理されています。それぞれのカテゴリーに対して2つ以上のサブカテゴリーに分かれており、1つ目が主要な活動、2つ目以降が主要な活動に対する要素技術や手法が整理されているという仕組みです。共通スキルリストの内容について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。DX人材とは?定義やスキル、7つの職種を解説DX推進スキル標準の活用イメージ最後に、DX推進スキル標準の活用イメージを3つの対象に分けて、順番に解説します。組織・企業組織・企業として、具体的には以下が活用主体として想定されています。DX推進の取り組み実施を図る経営者DXを推進する人材の育成・採用を図る組織(企業の人事部門、人材紹介会社など)下表に、組織・企業における活用のイメージと具体例をまとめました。活用イメージ活用の具体例社会の変化に応じて、自社に必要なDXを推進するための戦略を策定する。その上で、スキル標準を参考にしてDX推進に必要な人材の確保に取り組む。・スキル標準を活用し、DX推進に必要な人材のスキルや知識が自社内でどれだけ不足しているかを明確にする。・DX推進に必要な人材を育成すべく、スキル項目や学習項目例をもとに自社の研修ラインナップを改善する。・DX推進に必要な人材を採用すべく、ロールの定義・スキル項目・学習項目例をもとに職務記述書を作成する。個人個人として、具体的には以下が活用主体として想定されています。社内のDX推進プロジェクトにアサインされた人DXを推進する人材としてのキャリアを志向する人個人における活用のイメージと具体例は以下のとおりです。活用イメージ活用の具体例・所属する組織のDXの方針や自身のキャリアを考慮し、スキル標準を必要な知識やスキルを理解するためのガイドとして使用する。・自分の仕事やキャリアにおける具体的な実践イメージを持ち、関連する研修コンテンツに参加する。・スキル標準を基に、自分が目指すべき役割や現在担っている役割がスキル標準のどの範疇に該当するかを考える。・学習項目例をもとに、研修コンテンツ関連の情報を集め(例:マナビDXへのアクセス、自社の研修コンテンツのチェックなど)、必要な知識・スキル関連のコンテンツを選び取って学ぶ。教育コンテンツ提供事業者下表に、教育コンテンツ提供事業者における活用のイメージと具体例をまとめました。活用イメージ活用の具体例スキル習得に必要な学習項目を明示し、それらの内容を組織や個人に向けて説明する。また、実際にスキルを実践するための機会を提供する。知識やスキルを習得するために必要な学習項目を示し、学習効果を高めることに重点を置いた研修コンテンツを提供する。これには、知識の定着を確認するためのテスト、ワークショップ、実践機会など、様々な形式での学習機会が含まれる。まとめ本記事では、DX推進スキル標準について、定義から必要性、人材類型ごとの役割や活用イメージまでを幅広く紹介いたしました。DX推進では、求められる人材像をいかにして具体化し育成していくかが大切です。DX推進スキル標準は、そのための指針となるでしょう。本記事の内容を参考に、DX推進スキルが身についた人材を育成すべく行動に移してみてください。弊社では『SIGNATE Cloud』というデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務が一体となった教育プラットフォームを運営しています。『SIGNATE Cloud』は人材の発掘から、座学、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。