DX認定制度とは、国が策定した指針を踏まえて、DX推進において優良な取り組みを行う事業者を、申請に基づいて認定する制度のことです。現在、DX認定制度は、企業規模や業種に関わらず認定が受けられて、税額控除のような魅力的なメリットがある制度として注目を集めています。本記事では、働き方改革やデジタル化を進めたい企業がチェックしておきたいDX認定制度について、制度の概要や認定基準、申請の流れなどを分かりやすく解説します。DX認定制度とは?DX認定制度とは、国が策定した指針を踏まえてDX推進に関する優良な取り組みを実施している事業者について、事業者の申請にもとづいて国が認定を行っている制度のことです。デジタル技術による社会変革にあたって、経営者に要求される内容を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」に対応し、DX推進の準備が整っていると認められた事業者が国から認定を受けられます。DX認定を受けた事業者は、税制優遇や助成など様々なメリットを享受することができます。DX認定制度が開始された背景には、2018年に経済産業省が公開した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」の存在が大きく関係しています。このレポートでは、企業が老朽化した基幹システムを使い続けることで競争力が低下していくことが指摘されており、今後もDXが進まなかった場合には、2025年以降に年間最大約12兆円もの経済損失が生じるおそれがあると警鐘が鳴らされています。12兆円の経済損失がどのように算出しているか、「2025年の崖」が生じる背景などを以下の記事で解説しておりますので、併せてご一読ください。2025年の崖とは?経済産業省のDXレポートを解説2025年が目前に迫っている現在、DX認定制度はDXが進まない状況を改善するための施策として注目されています。DX認定制度の対象は、すべての事業者(法人と個人事業者)です。法人については会社だけではなく、公益法人等(例:学校法人、一般社団法人、社会福祉法人、宗教法人など)も含まれます。なお、DX認定制度における申請手続きや認定適用を受ける際だけでなく、認定の維持にも費用はかかりません。参考:経済産業省「DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)」経済産業省「D X レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」2018年9月7日DX認定を受ける7つメリットDX認定を受けることには、さまざまなメリットがあります。実際に、直近1年間(2023年9月時点)で全認定事業者数が約1.7倍増加しています。特に中小企業等では約2.7倍に急増しており、DX認定制度の活用が拡大していることが分かります。事業者がDX認定を受ける代表的なメリットは、以下の7つです。税制優遇が受けられる中小企業を対象とした金融支援措置人材育成について助成を受けられる自社のDX推進について課題が整理できる企業イメージを向上できるDX認定制度ロゴマークの使用できるDX銘柄に応募可能になる(上場企業のみ)それぞれのメリットを把握し、DX認定制度の活用を検討する際の参考としてください。メリット①:税制優遇が受けられるまずは、事業者がDX認定を受ける金銭的なメリットを合計3つ紹介します。1つ目の金銭的なメリットは、税制優遇が受けられることです。DX認定を取得した事業者は、DX投資促進税制による税額控除を受けられる可能性があります。DX投資促進税制は、全社規模でDXに取り組む企業を税務面で優遇する制度です。具体的には、制度の趣旨に沿ったデジタル関連投資に対して、5%あるいは3%の税額控除を受けられる、もしくは30%の特別償却が可能となります。DX投資促進税制を利用するためには、いくつかの条件をクリアする必要がありますが、その中でDX認定の取得は必須条件として位置付けられています。参考:経済産業省「産業競争力強化法における事業適応計画について」メリット②:中小企業を対象とした金融支援措置DX認定を取得した中小企業は、金融支援措置の対象に該当します。例えば、日本政策金融公庫による「IT活用促進資金」における金利優遇を受けられます。具体的には、DX認定を受けた中小企業者が行う設備投資等に必要な資金について、基準利率(1.2%)よりも低い特別利率(0.55%)で融資を受けることが可能です。また、中小企業信用保険法の特例が適用されます。これにより、DX認定を取得した中小企業が、情報処理システムの良好な状態での維持や戦略的な利用のために求められる設備資金等について民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証・保証枠の拡大を受けることが可能です。これらの支援措置には別途申請要件が設けられています。詳しくは、各制度の公式HPでご確認ください。参考:日本政策金融公庫「IT活用促進資金」 日本政策金融公庫「中小企業信用保険制度の概要(令和5年10月1日現在)」メリット③:人材育成について助成を受けられるDX認定を受けた事業者は、人材育成のための訓練に対する支援措置「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)」を受けられます。DX認定を受けた事業者は高度デジタル人材訓練の対象事業主としての要件を満たし、訓練経費(最大75%)や訓練期間中の賃金の一部(最大960円/時間)について、助成を受けることが可能です。参考:厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」メリット④:自社のDX推進について課題が整理できるDX認定を受けるメリットは、その過程にも存在します。DX認定を受ける審査の過程では、自社の状況について自己診断し、DX推進における課題を把握しなければなりません。例えば、申請時に記載する「DX認定制度 申請チェックシート」には、「デジタル技術が社会・自社の競争環境にいかなる影響を及ぼすかについて認識し、その内容について公表しているか」といった自社の取り組みをチェックする設問が盛り込まれています。こうした設問への回答を通じて、自社におけるDX推進に向けた課題を整理できます。結果として、DX戦略の策定や実行などがスムーズに進みやすくなるでしょう。実際に、DX認定制度の認定事業者に対するアンケートを見ると、回答した認定事業者のうち約80%がDX戦略の推進に効果があったと考えており、顧客との関係や人材確保の面でも良い効果があったと実感していることがわかっています。参考:経済産業省「DX認定事業者アンケート結果(2023年)」メリット⑤:企業イメージを向上できる出典:経済産業省「DX認定事業者アンケート結果(2023年)DX認定を取得すると、DX認定事業者としてDX推進ポータル(DXを推進する申請手続きの窓口となるサイト)で公開されます。経済産業省からDXや働き方改革に積極的な企業として認められることで、取引先や顧客などからの信頼度を向上させることが可能です。実際に、経済産業省発表のDX認定事業者のアンケート結果を見ても、DX認定取得のメリットとして上位に「顧客に対する企業イメージ向上」が挙げられており、大企業では2番目、中小企業では1番目に多い回答となっています。また、大企業・中小企業ともに「人材確保に向けた企業イメージ向上」を挙げる企業も多く、DX認定事業者であると社会に認知されることが、人材確保の面でもメリットに働く可能性が高いことが見て取れます。メリット⑥:DX認定制度ロゴマークを使用できるDX認定を取得した事業者は、「DX認定制度ロゴマーク」を使用できます。このロゴマークを自社のWebサイト・パンフレット・名刺などに使用することで、「自社がDXに積極的に取り組んでいる企業」であることを広くアピールすることが可能です(ロゴマークを使用する際は、使用規約を遵守する必要があります)。参考:経済産業省「情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定(DX認定制度)ロゴマーク使用規約」メリット⑦:DX銘柄に応募可能になる(上場企業のみ)東京証券取引所に上場している企業の場合、DX認定制度に取り組めば、DX銘柄への応募資格が得られます。DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定するものです。経営ビジョン・ビジネスモデルや戦略といった6つの評価項目をもとに毎年選定されており、選定企業は一覧として企業名が掲載されることから、顧客や取引先などへの強いアピールポイントの一つとなるでしょう。2023年の実績では、32社がDX銘柄として選定されました。優れたビジネスモデルを社内外にアピールするため、DXによる体制強化を検討している上場企業であれば、目指したい称号といえます。参考:独立行政法人 情報処理推進機構「DX銘柄」2023年10月6日 経済産業省「「DX銘柄2023」「DX注目企業2023」「DXプラチナ企業2023-2025」を選定しました!」2023年5月31日DX認定の基準DX認定制度で認定されるのは、「デジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている状態(=DX-Ready)」の事業者です。つまり、現時点ではまだDXを実現できておらず、これから推進していくという企業も認定される可能性があります。DX認定の基準を深く理解するためには、「DXにおける4つの段階」と「デジタルガバナンス・コード」について知っておく必要があります。ここからは、それぞれの内容を順番にわかりやすく解説します。参考:経済産業省「DX認定制度概要~認定基準改訂及び申請のポイント~」2022年10月1日4つの段階(レベル)出典:経済産業省「「DX認定制度概要~認定基準改訂及び申請のポイント~」2022年10月1日をもとに作成経済産業省の「DX認定制度概要」によると、企業のDXレベルは以下4つの段階に分類されます。DX-ExcellentレベルDX-EmergingレベルDX-ReadyレベルDX-Ready以前レベルこのうちDX認定制度の対象に該当するのは、「DX-Readyレベル」以上の事業者です。それぞれのレベルについて、順番に詳しく解説します。DX-Excellentレベル認定事業者のうち、ステークホルダーとの対話・情報開示を積極的に実施しており、優れたプラクティスとなるとともに、デジタル活用についてすでに優れた実績を出している事業者がDX-Excellentレベルとして認定されます。他のレベルがDX推進の準備や期待値などが評価軸とされているのに対して、DX-Excellentレベルでは、DXによる業務フローの改善や実績などが評価軸とされているのが特徴的です。優れたビジネスモデルを有する証として付与される「DX銘柄」や「DX Selection※」は、DX-Excellentレベルから選ばれます。(※)DXに取り組む中堅・中小企業等のモデルケースとなるような優良事例を選定して紹介するものDX-EmergingレベルDX認定事業者のうち、ステークホルダーとの対話・情報開示を積極的に実施しており、優れたプラクティスとなる(将来性を評価できる)事業者が、DX-Emergingレベルとして認定されます。すでにDXの準備が整っている状態で積極的なアクションを起こすことで、まだ成果が出ていない状況でもDX-Emergingの評価対象となります。DX-ExcellentだけでなくDX-Emergingからも、「DX銘柄」や「DX Selection」に選ばれる可能性があります。DX-Readyレベルビジョンの策定や戦略・体制の整備などをすでに実施しており、ステークホルダーとの対話を通じてデジタル変革を進めてデジタルガバナンスの向上を図る体制が構築できている事業者が、この段階に該当します。DX認定制度において基礎的なレベルに位置しており、取得することでDX認定が付与されます。DX-Ready以前レベルビジョンの策定や戦略・体制などの整備にこれから取り掛かる事業者は、DX-Ready以前レベルに該当します。DX推進に向けた取り組みが十分でなく、改善の余地がある事業者も含まれます。DX認定を受けるためには、まずDXの進捗状況をDX推進指標(※)を用いて自己診断し、DX推進の方向性を定めていくところから着手していく必要があります。(※)独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)により提供されており、経営者や社内の関係者がデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を得るためのもの。参考:独立行政法人 情報処理推進機構「DX推進指標のご案内」2023年10月18日DX推進指標については、以下記事でまとめておりますので、気になる方はご一読ください。DX推進指標とは?メリット、活用方法・手順、注意点を解説デジタルガバナンス・コード出典:経済産業省/独立行政法人 情報処理推進機構「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」2022年9月13日をもとに作成経済産業省はDX推進のための指標として、「デジタルガバナンス・コード」を公開しています。デジタルガバナンス・コードとは、経済産業省が企業のDXに関する自主的な取り組みを促進するために、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応の内容をまとめたものです。詳しくは、以下記事で最新の内容や実践の手引きについて解説していますのでご一読ください。デジタルガバナンス・コード|最新の2.0と実践の手引き2.0も解説経営者には、デジタルガバナンス・コードにもとづくDX推進が求められています。デジタルガバナンス・コードは「経営ビジョン・ビジネスモデル」や「戦略」「ガバナンスシステム」といった全6項目で構成されており、各項目がDX認定制度の申請項目に対応しています(上図を参照)。参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」DX認定の流れ下表に「DX認定制度 申請要項」をもとに、DX認定を取得するまでの大まかな流れをまとめました。プロセス補足説明①経営ビジョンの策定・自社のビジネス状況や経営環境を整理し、デジタル技術の台頭による社会や自社の競争環境への影響を分析する。・上記を前提に経営ビジョンを検討する。※経営ビジョン策定後は、取締役会等の機関承認を取ったうえで公表する。②DX戦略の策定▼DX戦略には以下の3点が含まれる。【DX戦略】・経営ビジョンにもとづくビジネスモデルを実現するための戦略を検討する。・戦略立案においては、デジタル技術によるデータ活用を組み込むことを考慮する。【体制・組織および人材の育成・確保案】・戦略推進に求められる体制や組織、人材の育成や確保案などに関して検討する。・体制や組織の実現に向けて求められる人材の確保や育成、外部組織との関係構築や協業などに関して具体的に検討する。【ITシステムの整備に向けた方策】・ITシステムやデジタル技術活用の環境を整えるための方法を検討する。※DX戦略策定後は、取締役会等の機関承認を取ったうえで公表する。③DX戦略の達成度測定・指標の決定・戦略の推進管理体制を策定し、KPIを検討する。・戦略の推進状況を管理するための仕組みを検討する。※達成度測定や指標の決定を行ったら公表する。④経営者による「DX戦略」の推進状況等の対外発信-⑤DX推進指標等による自己分析・課題の把握-⑥サイバーセキュリティ対策の推進・セキュリティ監査の実施概要をまとめる。⑦認定申請書と添付書類の提出・認定書類一式を、IPAの「DX推進ポータル」から提出する。・書類に不備があった場合、不備内容を整えたうえで再提出が可能。・認定に必要な書類は、「認定申請書」「申請チェックシート」「必要に応じた補足資料」「戦略に関する補足資料」「課題把握に関する証跡資料」など。上表の6つのプロセスを済ませたら、申請し審査を受けたうえで、DX認定の取得に至るという流れです。参考:経済産業省/独立行政法人 情報処理推進機構「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」2022年9月13日DX認定の申請方法DX認定制度の申請および審査に関する事務は、IPAが担当しています。DX認定の申請方法を大まかに説明すると、以下の流れです。申請の準備や手順がまとめられた「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」をチェックする申請書類「DX認定制度 認定申請書」「DX認定制度 申請チェックシート」をダウンロードする申請書の記入および補足資料を準備するDX推進ポータル上で申請を行う(システム利用時はGビズIDが必要)審査のうえで認定されるとDX推進ポータルの「DX認定制度 認定事業者の一覧」に掲載される新規申請を行った場合、申請が受理されてから認定結果の通知までの期間は60日です。60日の審査期間を経て、メールで通知されます。この審査期間には土日祝日が含まれないため、実質的には約3か月かかり、内容や混雑具合により60日を超えることもあるため注意しましょう。DX認定制度で認定された事業者一覧DX認定を取得した事業者は、DX推進ポータル内の「DX認定制度 認定事業者の一覧」に掲載されます。DX推進ポータルに掲載されるのは、認定事業者に関する以下のような情報です。手続き番号法人番号事業者名(企業名)代表者の氏名従業員数業種認定の期間認定の適用日事業者の規模上記のほか、各事業者が作成した申請書も公開されています。申請を行う前にダウンロードして、各社の取り組みを参考にするのも良いでしょう。DX推進ポータルでは、当月の認定事業者一覧が確認できるほか、過去の認定事業者を「企業名」「法人番号」「手続き番号」などで検索することも可能です。参考:DX推進ポータル「DX認定制度 認定事業者の一覧」まとめDX認定制度とは、国が策定した指針を踏まえてDX推進に関する優良な取り組みを実施している事業者について、事業者の申請にもとづいて国が認定を行っている制度のことです。DX認定の取得には税制優遇や人材育成の助成などさまざまなメリットがあり、直近1年間で全認定事業者数が約1.7倍増加しています(2023年9月時点)。DX認定制度の対象に該当するのは、「DX-Readyレベル」以上の事業者です。DX認定を受けるためには、まずDXの進捗状況をDX推進指標を用いて自己診断し、DX推進の方向性を定めていくことから着手しましょう。DX認定の申請を行う際は、「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」を確認のうえ、申請書類をダウンロードし必要事項を記入します。補足資料の準備も忘れないようご注意ください。