DX人材を育成する際に便利なツールの一つがスキルマップです。スキルマップとは、業務に必要なスキルをリスト化し、それぞれの従業員が持つスキルやそのレベルを一目で把握できる一覧表を指します。スキルマップを活用すると、以下のような効果が期待できます。必要なスキルに基づいて効果的な育成プランを立てられる従業員が自身のスキルを客観的に理解でき、納得感を持って学習に取り組める本記事では、DX人材のスキルマップの作成手順や具体的な活用方法をわかりやすく解説します。実際の活用事例も併せて紹介しているため、DX人材育成の参考にしてください。DX人材のスキルマップとは?まずは、DX人材のスキルマップとはどういったものか、定義やDXリテラシー標準、DX推進スキル標準などとの関係性について解説します。スキルマップの定義スキルマップとは、従業員が持つスキルや習熟度を可視化し、人材育成や適材適所の配置に活用できる便利なツールです。企業・組織においてDXを効果的に推進するには、デジタル技術や変革を進める力を持つ「DX人材(※)」を育てることが求められます。※:DX推進に必要なスキルやマインドを持つ人材。DXの推進を構想・リードする能力やデジタル技術・データを活用して課題を解決し、新しい価値を生み出す役割を担う。詳細は、以下の記事を参照。DX人材とは?定義やスキル、7つの職種を解説DX人材を育成する際に参考となるのが、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発表した「デジタルスキル標準」です。これは、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルの変革を進めるために必要なスキルを体系化した指針で、DXの推進力を高める目的で策定されました。具体的には、「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」の2つから構成されており、基礎知識から専門スキルまでをカバーします。これをもとにスキルマップを作成することで、自社のDX目標に合った人材育成が可能になります。ただし、企業の業種や事業内容、規模などによってDX人材に必要なスキルは異なります。より効果的に活用するためには、自社の特性に合わせてスキルマップを柔軟にアレンジしましょう。デジタルスキル標準について、詳細は以下の記事で解説しています。デジタルスキル標準とは?策定された背景、対象人材、活用イメージDXリテラシー標準とDX推進スキル標準の概要続いて、デジタルスキル標準を構成する「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」について、順番に概要を解説します。DXリテラシー標準DXリテラシー標準は、DXを組織全体で推進するために必要な知識とマインドセットを定義したスキル指針です。具体的には、デジタル技術の理解やデータ分析能力、ITセキュリティへの対応力、新しい価値を創造するための発想力や課題解決力が求められます。これをスキルマップに組み込むことで、従業員全体のDX推進力を底上げできます。DXリテラシー標準は、大まかに以下4つの項目で構成されています。項目補足DXの背景DX推進の重要性を理解するうえで欠かせない、社会の動向や顧客・ユーザーのニーズ、競争環境の変化についての知識の指針。DXで活用されるデータ・技術実際にビジネスの現場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識の指針。データ・技術の利活用ビジネスの現場においてデータやデジタル技術を利用する方法や、活用事例、留意点に関する知識の指針。マインド・スタンス社会の変化の中で新しい価値を創造するために必要な意識、態度、行動の指針。DXリテラシー標準について理解を深めたい場合は、併せて以下の記事をご覧いただくことをおすすめします。DXリテラシー標準とは?必要性、学習の効果、活用イメージDX推進スキル標準DX推進スキル標準とは、DX人材の役割や習得すべきスキルの標準を定めた指針のことです。企業や組織のDXの推進において必要な人材のうち、代表的な人材を以下の5つの人材類型に区分・定義したうえで、各人材類型で必要なスキルを定めています。DX人材類型必要なスキル例ビジネスアーキテクトDX戦略立案、業務プロセス改善を行うスキルデザイナーUI/UX設計、ユーザー体験改善を行うスキルデータサイエンティストデータ解析、機械学習モデル構築を行うスキルソフトウェアエンジニアシステムソフトウェアの設計、実装、運用を行うスキルサイバーセキュリティサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を講じるスキルDX推進スキル標準をスキルマップに反映することで、DXプロジェクト推進に必要な高度な専門人材を育成・配置できます。例えば、ビジネスアーキテクトには「DX戦略立案」や「業務プロセス改善」、データサイエンティストには「データ解析」や「機械学習モデル構築」などのスキル項目を設定します。このように役割ごとに必要なスキルを整理し、具体的な習熟度を定めることで効率的な育成計画を立てられます。DX推進スキル標準について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。DX推進スキル標準とは?必要性、5つの人材類型、活用イメージスキルマップとデジタルスキル標準のつながりデジタルスキル標準にもとづいてスキルマップを作成することで、以下のようなメリットが得られます。メリット補足DX全体像をカバーDXリテラシー標準を活用して基礎的なスキルを向上させると同時に、DX推進スキル標準を取り入れて専門的な能力を強化できる。これにより、組織全体でバランスよくDX推進力を育成できる。スキル基準の明確化標準化されたスキル基準を活用することで、スキルマップ作成時に「どのスキルが必要か」「どの部分を強化すべきか」が具体的に把握できる。柔軟なカスタマイズデジタルスキル標準をベースに、自社の業界や事業内容に合わせてアレンジが可能。これにより、自社のビジネスニーズに最適化されたスキルマップを作成できる。DX人材のスキルマップの作り方DXを効果的に推進するためには、DX人材のスキルマップを適切に作成することが重要です。本章では、DX人材のスキルマップの作り方として、具体的なステップとアレンジの重要性について順番に解説します。必要なステップDX人材のスキルマップ作成は、以下の4つのステップで進めていくのが基本です。自社のDXビジョンの明確化必要なDX人材類型の特定スキル項目の定義レベル設定と評価基準の策定各ステップで行うことを中心に、順番に解説していきます。1.自社のDXビジョンの明確化自社のDXビジョンを明確にすることは、必要なDX人材を見極めるうえで欠かせません。DXビジョンは、以下のように定義される理念です。DXを通じて実現したいこと、企業の本来あるべき姿DXを通じた組織の将来像、目指す姿DX推進にあたって現時点で達成できていない目標例えば、顧客体験の向上をDXビジョンに掲げる場合は、デザイナーやデータサイエンティストなどが求められます。一方、業務効率化をDXビジョンに設定する場合は、ソフトウェアエンジニアが中心的な役割を担う必要があるでしょう。これからDXビジョンを定める場合は、以下の記事をご覧いただくとプロセスがスムーズに進みやすくなります。DXにビジョンは必須!内容と策定の手順を解説2.必要なDX人材類型の特定ビジョンに沿って自社に適したDX人材類型を見つけたら、それぞれのロールの明確化とスキルの整理を行いましょう。ロールとは、DX推進において各人材類型が担当する責任や主要な業務、そのために必要なスキルセットをもとに「DX推進スキル標準」が定めている役割のことです。例えば、デザイナーには「サービスデザイナー」や「UX/UIデザイナー」、データサイエンティストには「データビジネスストラテジスト」や「データサイエンスプロフェッショナル」などのロールが存在します。自社に必要なDX人材類型およびロールの特定を進める際は、以下のポイントを考慮することが重要です。考慮すべきポイント補足業務内容各部署の業務プロセスに必要なスキルを洗い出す。企業規模大企業ではロールを細分化する一方で、中小企業では複数の業務に対応できる汎用的なスキルを優先するのが基本。これにより、自社に最適なDX人材の育成と配置につながります。3.スキル項目の定義続いて、自社のDX人材に必要となるスキル項目を定義します。スキル項目は、「DXリテラシー」と「DX推進スキル」の2つの観点に分けて定義しましょう。DXリテラシーの観点では、デジタルやデータ活用の知識、セキュリティ意識などから必要なスキル項目を定義します。一方のDX推進スキルの観点では、DX人材類型のロールをもとに必要となるスキル項目を定義しましょう。例えば、ビジネスアーキテクトのロール「新規事業開発」には、以下のようなスキル項目が設定されています(一例)。ビジネス戦略策定・実行プロダクトマネジメント変革マネジメントこうしたスキル項目の中から、自社のDX人材に必要なものを選び取りましょう。4.レベル設定と評価基準の策定定義したスキル項目について、習熟度を以下のように段階的に分類し、具体的な評価基準を設けます。初級:基本的な知識を持ち、指示に従って業務を遂行できるレベル中級:自分で業務を完結できるだけでなく、改善提案を行えるレベル上級:戦略の立案やプロジェクトのリードを担当できるレベルこれにより、従業員のスキル習熟度を明確化し、適切な育成や評価を行いやすくなります。自社に合わせたアレンジの重要性IPAの「デジタルスキル標準」を活用してDX人材のスキルマップを作成する際は、自社の業務や戦略に応じたカスタマイズが重要です。以下のような調整により、自社の特性に合ったスキルマップを構築できます。製造業:スマート工場の運営やIoT関連のスキルを追加小売業:顧客データの分析やデジタルマーケティングスキルを強化IT企業:クラウド技術やセキュリティスキルを重点的に設定このように業種に合わせたスキルを加えることで、効果的なDX人材育成が可能です。DX人材スキルマップの活用方法DX人材育成や配置、評価を効率的に行うためには、以下の3つの方法でスキルマップを活用することが大切です。社内育成・教育の指針スキルマップにデジタルスキル標準を反映させることで、以下のような育成プランを策定できます。DXリテラシー研修:全社員に対してデジタル技術やデータ活用の基礎を教育する専門スキル研修:DX推進に関わる職種ごとに実践的なスキルを習得させる人材採用と配置スキルマップをもとにDX人材の採用基準を明確化すれば、適材適所の配置が可能です。例:データサイエンティストを採用する際に、デジタルスキル標準で定義されている「データ解析」や「機械学習」などのスキルを要件として設定する評価とキャリアパス設計スキルマップにデジタルスキル標準を反映させることで、スキル評価の基準を統一でき、評価の透明性を確保できます。また、個々のスキルレベルを段階的に可視化することで、従業員が自身のスキルアップ目標を明確にでき、公平で納得感のある評価とキャリアパスを設計できます。キャリアパスの例:まずDXリテラシーを習得し、その後にデータサイエンティストやビジネスアーキテクトとして専門スキルを高めるDX人材スキルマップの事例東京都では、DX戦略と人材育成方針を連携させたスキルマップの活用が進んでおり、好事例として注目されています。東京都が掲げる戦略ビジョンは、「デジタルの力で行政課題を解決する」です。この目標を実現するために「デジタル人材」の確保と育成に注力しており、東京都のデジタルサービス局と一般財団法人GovTech東京(2023年設立)が協力してDXを推進しています。まずDX推進をリードする専門職として「ICT職」を育成しているほか、一般職員にはリスキリングを実施し、デジタル技術への理解を深めています。また、各職場で「DXアンバサダー」を1人任命し、業務改善の中心的役割を担わせています。その中で、ICT職のスキル項目やレベルを可視化するツールとして、「デジタルスキルマップ」が活用されています。東京都では、職員の役割に応じて10のジョブタイプ(例:プロジェクトマネージャー、システムアーキテクト、データアナリストなど)を設定し、さらに各ジョブタイプに必要な22のスキル項目を細かく定義しています。これらのスキルは、基礎的なITリテラシーから、プロジェクト管理、データ分析、システム設計・運用まで多岐にわたります。また、それぞれのスキル項目について、未経験・要指導・自立・指導者レベルの4段階で評価されます。これにより、業務で必要なスキルと職員が持つスキルの過不足を可視化し、ICT職の能力開発や教育研修を具体的に計画することが可能です。さらに、DXアンバサダーのスキル評価や新たな指標の追加も検討されており、スキルマップの活用範囲は拡大しています。東京都では今後もスキルマップを継続的に更新し、適材適所の配置やタレントマネジメントを推進していく方針です。この取り組みは、DX人材の確保や育成を目指す企業にとっても有益な参考事例となるでしょう。参考:東京都デジタルサービス局「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver.2.0」まとめDX推進において、全社的なバランスを見ながら職種ごとに求められる能力やスキルを可視化するためには、スキルを一元管理できる「スキルマップ」が有効なツールです。スキルマップを作成する際は、以下の順番で進めると良いでしょう。自社のDXビジョンの明確化必要なDX人材類型の特定スキル項目の定義レベル設定と評価基準の策定IPAが発表した「デジタルスキル標準」や東京都が策定した「デジタルスキルマップ」などを参考に、自社独自のDX人材スキルマップの作成を検討してみてください。