生産年齢人口の減少に加えて、AIやIoT、5Gといったデジタル技術の発展、新型コロナウイルスの影響などを受けて、2020年以降は DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が企業にとって最大の関心事となっています。しかし、ひとことにDXと言っても、関連する技術はさまざまです。DXの実現を目指す企業では、業務内容・目的などを踏まえて検討したうえで自社に適した技術を導入し、それに精通した人材確保を行うことが必要不可欠です。そこで本記事では、DX推進を支える7つの代表的な技術について、活用するメリットの観点からそれぞれ順番に解説します。DX推進を支える技術DX推進を支える技術には、主に以下の7つが挙げられます。技術定義ICT「Information and Communication Technology」の略で、日本語で「情報通信技術」と訳される。「人とインターネットをつないで情報のやり取りを行う技術」のことで、コミュニケーションを主体としている点に大きな特徴がある。IoT「Internet of Things」の略で、日本語で「モノのインターネット」と訳される。デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること。ビッグデータ総務省の資料によると、ビッグデータの定義は以下のとおり。・事業に役立つ知見を導出するためのデータ・典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータAI「Artificial Intelligence」の略で、日本語で「人工知能」と訳される。AIは、「特化型AI」と「汎用型AI」に分類される。特化型AIは、別の分野・領域に特化しており、決まった役割の中で限定された範囲の処理を行うAIのこと。汎用型AIは、役割が限定されず、さまざまな役割・課題を処理できるAIのこと。5G「5th Generation」の略で、高速・大容量の通信を実現する第5世代移動通信システムのこと。クラウド正式名称は、クラウドコンピューティング。インターネットを通じて外部のクラウド事業者(ベンダー)が提供するITサービスを利用するシステム運用方法のこと。RPA「Robotic Process Automation」の略。従来は人間のみが対応できると考えられてきた作業(あるいは高度な作業)を、人間の代わりに実施できるルールエンジン・AI・機械学習などの認知技術を活用して代行・代替する取り組みのこと。次章より、上表に取り上げた7つの技術がどのようにしてDX推進に貢献するのかを順番に解説していきます。参考:総務省「平成24年版 情報通信白書」DX推進を支える技術①ICTDX推進を支える技術であるICTとは、人とインターネットをつないで情報のやり取りを行う技術のことです。身近な例を挙げると、X(旧:Twitter)やLINEなどのSNSもICTの一部だと言えます。DXとICTには、「手段と目的」の関係性が見られます。つまり、「DXの目的を果たすために、ICTを用いる」という関係です。製造業におけるDXを例に挙げると、これまで従事していた人材を新たな事業に配置するために、製造設備の稼働データをシステムに集約したうえでPCによる遠隔監視を行い、監視業務を省人化する取り組みを推進する動きが見られます。こうしたケースでは、具体的に「倉庫内にWebカメラを設置し、遠隔地にあるオフィスから監視する」といった形でICTを導入することが多いです。なお、DX推進にあたっては、企業内でデータを利活用できる仕組みを構築しなければなりません。これを実現するうえで、PCやタブレットなどをインターネットにつなげる通信インフラの構築が不可欠です。ICTは、こうした通信インフラを構築するために必要な技術であり、DX実現を下支えする役割を果たします。ICTについてさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので併せてご覧ください。ICTとは?DXとの関係、IoTとの違いを解説DX推進を支える技術②IoTIoTとは、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させるデジタル技術のことです。IoTも、DXを実現するための手段の一つです。IoTの技術を活用すればDX推進につながります。例えば、GPS機能を搭載したIoTデバイスの活用によって、リアルタイムかつ高精度にモノの位置を確認できるようになります。物流・運送業界を例に挙げると、荷物や車両をリアルタイムに追跡することで、配送の効率化や最適なルートの選定が可能です。紛失や盗難といったトラブルを防止したり、スムーズな解決を助けたりして、顧客満足度の向上にも寄与します。そのほか、業界を問わないメリットとして、企業が保有する経営資源の位置情報をリアルタイムで把握することで、資産管理の精度が向上し、不要な購入や無駄使いなどを防げるでしょう。このようにIoTを活用すれば、DXの主な目的である「変化する環境への適応」や「競争力の向上」などを目指すことが可能です。IoTの詳細は、以下の記事にまとめています。併せてお読みいただくと、DX推進にあたってIoTがいかに寄与するのかについて理解を深められますので、ぜひご覧ください。DXとIoTの関係とは?違いや活用のメリット、事例を紹介DX推進を支える技術③ビッグデータビッグデータとは、以下のように定義されるものです。事業に役立つ知見を導出するためのデータ典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータビッグデータは、DXを実現するうえで大いに役立つ技術です。ビッグデータとDXの間にも、「手段と目的」の関係が見られます。DX推進の一環としてビッグデータを活用すると、企業は膨大な量のデータから有益な洞察を得られるようになります。例えば、市場のトレンドや顧客の行動、財務パフォーマンスなどの情報をもとに、客観的で正確な意思決定を下すことが可能です。DX推進にあたって、ビッグデータを用いて新たな製品・サービス・ビジネスモデルを構築することは、競争優位性を高めていくうえで必要不可欠です。ビジネス上の戦略・計画の策定やリスク管理の側面でも、ビッグデータは重要な役割を果たすでしょう。ビッグデータについて理解を深めたい場合は、以下の記事をご覧ください。ビッグデータの詳細な定義やDX推進にあたって知っておきたい利点・注意点などをまとめています。ビッグデータとは?DX推進に活用するメリット・デメリットDX推進を支える技術④AIAIとは、「Artificial Intelligence」の略で、日本語で「人工知能」のことです。このAIも、DX推進を支える技術の一つに数えられます。企業のDXを成功させるうえでさまざまな効果をもたらすことから、ここまで取り上げたものと同様に、AIも重要な技術であると考えられています。下表に、DX推進にAIを活用するうえで期待される代表的なメリットをまとめました。メリット補足顧客体験価値の向上AIを活用した高度な分析によって、ユーザーの要望や利便性をより深く理解できるようになる。例えば、スマートフォンの顔認識機能を使ってセキュリティを強化したり、通販サイトでユーザーの好みに合わせた商品を推薦することで購買体験を向上させたりなどの事例が挙げられる。高精度な作業の実現AIにより大量のデータを迅速かつ正確に処理できるようになり、企業は洗練された意思決定を行うことが可能。AIの高度なデータ処理能力により、エラーの削減や品質向上が期待できる。精度の高い予測が可能人間の手では処理しきれない大量のデータを効率的に分析し、将来の行動やトレンドを予測できるよう支援する。高精度で大量のデータを分析することで、企業は有益な情報を抽出し、新たなビジネスチャンスを見つけられる。省力化の実現これまで人間が行っていた作業を機械に任せることで、効率化と省力化が実現する。単純作業を自動化することで、人間は判断や創造的な作業により多くの時間を割けるようになる。参入障壁として機能データの蓄積には手間と時間がかかるため、新規参入企業が既存企業と同等のデータ量を持つことは難しい。既存企業がAIにより蓄積したビッグデータを分析し、サービスを強化することで、新規参入企業にとって大きな障壁となる。AIについては、以下記事で詳細に解説しておりますので、DX推進にAIを活用することを検討されておりましたら、併せてご確認いただくことでより理解が深まります。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】DX推進を支える技術⑤5G5Gとは、高速・大容量の通信を実現する第5世代移動通信システムのことです。これまでに紹介したビッグデータやIoT、AIなどの技術と組み合わせることで、DX推進に大いに寄与する技術です。5Gが普及すれば、IoTデバイスの受発信にもとづく膨大なデータ通信にも耐えられるようになります。その結果、AI開発に欠かせないビッグデータを効率良く収集することが可能です。多数の端末からビッグデータを効率良く収集できれば、AIシステムの精度向上が期待できるでしょう。5Gを利用して、多数同時接続や遠隔地からのリアルタイム通信が可能になれば、企業のIoT化が促進されます。5GとIoTを組み合わせて、遠隔地からのリアルタイムな操作・監視などが実現すれば、業務の効率化につながるでしょう。5Gの特徴の一つ「高信頼・低遅延通信」によって、ロボット操作による遠隔手術や自動運転など極めて精密な動作も可能となります。このように、5Gとビッグデータ・IoT・AIは、相互に関係しながらDX推進に貢献する技術なのです。5GとDX推進の関係性や活用事例について、さらに詳しく知りたい場合は以下の記事で解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。DXは5Gで加速!3つの特徴や可能になること、普及への課題DX推進を支える技術⑥クラウドクラウドとは、インターネットを通じて外部のクラウド事業者の提供するITサービスを利用できるようにするシステム運用方法であり、DX推進を支える技術の一つです。クラウドの身近な例としては、Webメール(Gmail、hotmailなど)が挙げられます。DX推進にクラウドが必要となる最大の理由は、クラウドが得意とするアジリティ(敏捷性)が、新たな価値を創造するうえで非常に重要であるためです。クラウドでインターネット上のIT資産を利用することで、物理的なサーバー類の管理運用業務から解放されるうえに、サービスをスピーディーに開始・終了し、市場・ユーザーの需要変動に応じてリソースを容易に増減するといった形で敏捷性を高められます。そのため、クラウドは、新サービスの創出にあたって敏捷性を重視する場合に欠かせない技術です。また、クラウドサービスの中には、すぐに成果が見えるものも少なくありません。例えば、自動で消込処理をしてくれるクラウド経理ソフトを活用すれば、消込処理にかかる時間の短縮をすぐに実感できます。成果がすぐに見えることで、さらなるDX推進への機運・モチベーションにもつながるので、クラウドの導入はDXの第一歩として適しています。クラウドの詳細は、以下の記事にまとめています。併せてお読みいただくと、DX推進にあたってクラウドがいかに貢献するのかについて理解を深められますので、ぜひご覧ください。DXにクラウドはなぜ必要なのか?理由やメリット、種類を解説DX推進を支える技術⑦RPA最後に紹介するDX推進を支える技術のRPAとは、従来は人間のみが対応できると考えられてきた作業(あるいは高度な作業)を、人間に代わりに実施できるルールエンジン・AI・機械学習といった認知技術を用いて代行・代替する取り組みのことです。RPAには、「人間がPC上で日常的に行っている作業を、人間が実行するのと同じ形で自動化する」という機能が備わっています。RPAに人間が行う処理手順を登録しておけば、ユーザー・インターフェースを通じて、人間が操作するのと同様に複数のシステムやアプリケーションを操作・実行できます。こうした特徴のあるRPAをDX推進に活用すれば、人的ミス削減による作業品質の向上に加えて、処理速度の向上も期待できます。結果として、顧客対応の迅速化やサービスレベル全体の向上が期待でき、顧客満足度の向上につながるでしょう。また、RPA導入により、従業員がクリエイティブな仕事、付加価値の高い仕事に専念できるようになります。単純作業をRPAに任せれば、従業員はやりがいある業務に多くの時間を充てられるようになり、DX推進の目的の一つ「新たな経済価値創出」への注力が可能です。従業員のモチベーション維持にもつながり、企業全体の労働生産性を向上させられます。RPAに関してさらに理解を深めたい方は、以下の記事をご覧ください。RPAの詳細な定義やDX推進にあたって導入する際に知っておきたい利点・注意点などをまとめています。DX推進でRPAを導入するメリット・デメリット、ポイントや事例まとめDXの実現のためには必要不可欠な技術があることを、正しく理解しておく必要があります。今後、顧客体験価値や生産性の向上、業務効率化などを目指す多くの企業が、DXにより一層注力していくであろうことは、容易に想像できます。とはいえ、DX推進にあたって実際に自社への技術導入を検討した際に、ビジネスモデルの変革や新しいデジタル技術への対応は一朝一夕に行えるものではありません。将来的にDXの実現によって業務改善や業績向上を狙うのであれば、自社に必要な技術の選定や導入方法、抱えている事業課題などを慎重に検討する必要があります。DX推進のためには、同業他社の成功事例を参考にするのも一つの手です。ポイントを押さえた戦略的なDXの推進により、業務効率化や新しい事業モデルの創出を実現しましょう。