企業においてDXを実現させるためには、ビジョンを策定し、DXを通じて何を実現したいのか組織全体に明確に伝えなければなりません。実際に、DXの取り組みに成功している企業のほとんどは、経営者から組織全体に対して明確なビジョンが発信されています。本記事では、DXのビジョンとはどういったものなのか、必要性や具体的な内容、策定する手順を中心に分かりやすく解説します。ビジョンの策定がうまく進まない時の対処法についても紹介していますので、DXを効果的に推進していきたい場合にお役立てください。DXのビジョンとは?DXのビジョンとは、「DXを通じて実現したいこと、企業の本来あるべき姿」のことです。「DXを通じた組織の将来像、目指す姿」や「DX推進にあたって現時点で達成できていない目標」といった言葉で定義することも可能です。DXの定義や必要性について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説DXにビジョンが無かった場合ビジョンを策定しないままDXに取り組む場合、部分的な業務でデジタル技術が活用されるものの、DXの目的が「DXに取り組むこと」になってしまい、費用対効果が向上しないうえに、変革を進める動機が弱いことから、DXがうまく進んでいきません。このように、DXと称してDXのビジョンを策定しないままデジタル技術を既存の業務に取り入れても、DXの推進には至らず、IT化の取り組みに留まってしまうでしょう。DXのビジョンの内容ここまで読んで、DXのビジョンを策定する重要性を理解できたと思います。それでは、実際にDXのビジョンを策定する際は、どのような内容を盛り込めば良いのでしょうか。一般的に、DXのビジョンは、以下の内容で構成されています。策定の背景・目的あるべき姿推進体制変革のロードマップ記載する内容を順番に解説しますので、自社でのDXビジョンの策定にお役立てください。①策定の背景・目的はじめに、DXのビジョンを策定する背景・目的を記載します。DXを推進する目的には、企業ごとに様々な考え方があります。とはいえ、目的の根本にあるのは、「高度デジタル化社会において企業を存続させ、価値を提供し続けていくこと」だと言えます。上記を踏まえて、DXのビジョンを策定する背景・目的を考えると、事業環境および市場における競争原理の変化が挙げられます。現代の日本では、顧客の行動や市場においてデジタル化が急激に進んでいます。その状況下で、企業を存続させていくために組織全体に共有しておくべき外部・内部環境の変化を整理しましょう。また、競合他社の動きも共有しておき、従業員全体の危機意識や業界の変化に対する感度を高めることが大切です。②あるべき姿続いて、DXのビジョンに「新たな価値を提供するためのあるべき姿」を盛り込みましょう。具体的には、自社の経営理念やコアコンピタンス(他社に真似できない核となる要素)を踏まえて、DX推進にあたって目指すべき価値および提供手段の方向性を示します。また、新たな価値提供に向けて、「あるべき事業戦略」も策定しておくべきです。DX実現に向けた事業戦略の方向性を具体的に示すことで、ステークホルダーから深い理解・協力を得られるようになります。事業戦略の策定については、経営陣の主導で行う場合もあります。ただし、各部門に主体性を持たせている企業では、事業戦略の策定を各部門に任せて、経営陣はその上位概念にあたる「新たな価値を提供するためのあるべき姿」までを作成すると良いです。あるべき姿および事業戦略を策定する際は、以下のような予測も盛り込むことが大切です。10年〜20年先の未来にテクノロジーがどれだけ発展しているか上記に伴い顧客のニーズ・業界構造がどれほど変化しているのかどのような事業機会が新たに生まれているか未来の予測は簡単ではありませんが、長期的目線でビジョンを策定しておかないと、未来に備えて現在取り組むべき内容が不明瞭となり、間違った方向に進んでしまうおそれがあるため、決して疎かにはできない部分です。③推進体制企業のあるべき姿を定めたら、それを実現するための体制を記載していきます。まずは「あるべき姿を実現するための組織行動のあり方」の検討から始めると良いでしょう。あるべき姿を実現するために必要な組織行動のあり方を考えて、具体的に示します。次に、あるべき姿の実現に向けて変えるべき要素を明確にすることが大切です。ここでは、戦略、マネジメント、ガバナンス、組織行動などの側面から変革すべき要素を定めます。その後、変革すべきそれぞれの要素に応じて、責任体制と推進体制を明確に記載しましょう。④変革のロードマップ最後に、変革に向けたロードマップを盛り込みます。環境変化の進行状況を念頭に置いたうえで、実現までのステップと具体的なスケジュールを明示しましょう。ロードマップの作り方については、以下記事で8つの手順に分けて解説しています。その他マイルストーンとの違いや作成して推進していく際のポイントについても記載していますので、本記事と併せてご確認ください。DXを推進するためのロードマップの作り方、ポイントを解説!DXのビジョンを策定する手順実際にDXのビジョンの策定に取り組むためには、いくつかの準備が必要です。DXのビジョンを策定する際は、大まかに以下の手順で進めていきます。メンバー集めビジョンに記載する内容を共有内部環境分析と外部環境分析現状把握ビジョンを策定しはじめるそれぞれのステップでやるべきことを順番に詳しく解説します。メンバー集めDXのビジョンを経営陣を含めないメンバーで策定すると、策定が終わり経営陣に報告するタイミングで大幅な修正・変更を求められるおそれがあります。最悪の場合には、検討段階からやり直す必要性が生じて多大な労力がかかることもあるため、DXのビジョンはすべての経営陣を交えて策定しましょう。ビジョンに記載する内容を共有メンバーが集まったら、ビジョンに記載する内容を検討・共有します。DXのビジョンに記載すべき内容は、前章で示したとおりです。DXのビジョンを共有する際は、経営陣だけでなく、各部門のスタッフやステークホルダーなどにも共有し、積極的に意見を募ると良いでしょう。これにより、組織内外の期待やニーズを反映させたビジョンを策定できるようになります。内部環境分析と外部環境分析続いて、自社について「自社の資産・ブランド力・製品の価格や品質などの内部環境」および「競合・法律・市場トレンドなど自社を取り巻く外部環境」を分析します。内部・外部環境を正確に分析できていないと、DXビジョンをもとにDX戦略を策定・実行したとしても、事業のチャンスで最大限のリソースを投下できなかったり、顧客に受け入れられなかったりといった問題が生じるおそれがあります。DX戦略について、詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX戦略とは?意義、立案手順を解説【事例あり】内部環境分析と外部環境分析を行う際は、SWOT分析が活用できます。SWOT分析とは、内部環境と外部環境をプラス面・マイナス面に分けて分析するフレームワークのことです。以下4つの要素の頭文字から、その名が付けられました。Strength(強み:内部環境、プラス要因)Weakness(弱み:内部環境、マイナス要因)Opportunity(機会:外部環境、プラス要因)Threat(脅威:外部環境、マイナス要因)これら4要素の分析により、「強みを生かし、弱みを克服し、機会を利用し、どのようにして脅威を取り除くのか(あるいはは脅威から身を守るのか)」を判断するのに役立ちます。現状把握続いて、自社のDX推進状況が一般的にどのようなレベルに位置するのか、客観的に把握しましょう。自社のDX推進状況は、「推進ステップ」と「成熟度レベル」によりチェックできます。DXの推進ステップは、以下の3つに分かれます。ステップ概要デジタイゼーション・アナログ、物理データのデジタルデータ化(例:これまで紙で処理していた請求書をExcelで管理したり、スキャナーで取り込むことでデータで管理したりする段階)デジタライゼーション・個別の業務・製造プロセスのデジタル化(例:これまで手入力でExcelに入力していたものを、システム導入により自動的に情報が反映されるように変える段階)デジタルトランスフォーメーション・組織全体のデジタル化・デジタル技術を用いて企業全体に大きな影響を及ぼすような変革を起こす段階上記のうち、自社がどのステップに位置するのか、部門ごとに正確に捉えておきましょう。DXの成熟度レベルは、「DX推進指標」で0から5までの6段階で自己判断できます(章冒頭の図を参照)。DX推進指標は、経済産業省によって作成されたDXの進捗状況を評価するための指標です。DXの実現に向けて、自社はどこまで実施できているのかチェックしておきましょう。DX推進指標の詳細や活用方法などは以下に記事で解説しておりますので、併せてご確認ください。ビジョンを策定しはじめるここまでの内容をまとめて、実際にDXのビジョンを策定していきます。DX実現に向けた施策については、いつまでにやるのか、具体的なスケジュールも決めましょう。「〜〜年後にどのような状態になっていたいのか」といった将来の目標から逆算してスケジュールを決めるのも良いです。DXのビジョンを策定したら、社内全体に共有し、すべての従業員が理解し、行動規範として常に参照できる状態にしておきます。また、DXのビジョンを策定した後は、各部門で個別にアクションを議論し、変革のための戦略・活動を具体化します。現場での議論の結果、課題や違和感があれば、上長やDX推進チームなどを通じて、DXのビジョンとアクションの整合性や部門間の整合性、各施策の実現時期の整合性などをすり合わせ、DXの取り組みの実効性を担保することが大切です。DXのビジョンの策定が進まない時の対処法ここまでDXのビジョンを策定するために知っておくべき情報について解説してきましたが、実際に着手してみるとDXのビジョンの策定がなかなかうまく進まないといったケースも珍しくありません。「企業のあるべき姿をうまくイメージできない」といったように、DXのビジョンの策定が難しい場合には、個別の事業で先行して新たな価値を提供できるような事業戦略を検討・実践し、そこで得られた知見をもとにDXのビジョンを形成していくのも良いでしょう。まとめ本記事では、DXのビジョンに焦点を当てて、概要・必要性や具体的な内容、策定する手順、策定がうまく進まない時の対処法について解説しました。DXのビジョンの策定は、本記事で紹介した内容や手順を踏まえて進めていきましょう。ただし、DXのビジョンを策定したら終わりではなく、その後も日々変化する状況を踏まえて内容を柔軟に更新していくことが大切です。経営陣だけでなく従業員においても、DX成功までの道のりは長く険しいことを心に刻んだうえで、全社を巻き込んでDX推進に向けたビジョンの策定を目指しましょう。