日本でも日常生活の中で、「DX」 という言葉を耳にしたり、目にしたりする機会が増えてきています。しかし、なぜ「DX」は「X」と表記するのでしょうか?「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、英語で「Digital Transformation」と表記されます。本来、この頭文字を取って「DT」と表記されると考えるのが通常ですが、実際には「DX」と表記されるため、疑問に思う方が多くいます。そこで本記事では、なぜ「DX」は「X」なのか、「T」ではなく「X」になった理由について分かりやすく解説します。 DXなぜX?一般的に、「Digital Transformation」の略記には、「DX」が使用されています。それでは、なぜ「DT」ではなく、「DX」と表記されるのでしょうか。もともと「Transformation (変形、変質)」は、「Trans-+Formation」という2つの言葉から形成されています。「Trans-」はラテン語の接頭辞が由来の単語であると言われており、英語でいうところの「Across」や「Through」に相当します。つまり、「Trans-」そのものに「〜を超えて(突き抜けて)」という意味が含まれるため、「変化・変形・変革・変換・変異」などを表す言葉と意味的に相性が良いとされています。実際に、「Transcend」「Transfer」「Transfigure」「Transit」「Translate」「Transmit」「Transport」「Transpose」などさまざまな言葉にTransが使用されています。そして、「Across」は、接頭辞「A-」に「十字(架)」を意味する「Cross」を付加した言葉です。この十字をかたどった文字として登場するのが、「X」なのです。そこで、以下のような理屈によって、「Trans-」が「X」として表記される慣習が生まれたと考えられています。「X」といえば「Cross」「Cross」といえば「Across」「Across」といえばラテン語の接頭辞「Trans-」それに加えて、「DT」はプログラミング用語(「definition team」の略で、定義語を表すタグ)としてすでに使用されていた事情も相まって、「DX」という略語が使用されるようになったと言われています。なお、「X」の文字は、「XMIT (= transmit)」や「X-ing (= crossing)」などでも、「DX」と同じような使われ方がされています。DXの歴史・定義ここまで読んで、DXでなぜXが使用されているのかを理解した後は、そもそもデジタルトランスフォーメーションとはどういった意味を持つ言葉なのか、改めて定義を確認しておきましょう。DXとは、日本語に直訳すると「デジタルによる変容」のことです。社会・行政・企業がDXを推進していく重要性については、様々な意見が存在します。デジタル変革を実現するDX人材育成クラウドサービスを運営し、DXに取り組む多くの企業の支援をさせていただいている当社としては、「生産性を上げて人口に依存しない経済成長を実現する」ために、DXの推進が重要であると考えています。DXは、これまでに様々な立場から定義がなされてきた歴史があります。ここからは、以下の立場・概念からなされたDXの定義を順番に紹介しながら、DXの歴史について振り返っていきます。エリック・ストルターマン教授(2004年)デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション(2010年代)経済産業省(2018年)DXの本質的な意味を理解するためにも、DXの定義や歴史を把握しておきましょう。2004年エリック・ストルターマン教授もともとDXの概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された以下の定義に端を発します。人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化のことこの論文では、デジタル技術の進歩が大衆の生活を向上させるという視点が提示されており、研究者たちは、このような変化を適切に分析し、議論するための新しいアプローチ方法を編み出す必要があると述べられています。論文では、ビジネスとITの関係についても触れられており、企業がITを利用して「事業の業績や対象範囲を根底から変化させる段階」「技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる段階」「人々の生活をよりよい方向に変化させる段階」があると説明されています。以上を踏まえて、エリック・ストルターマン教授は、DXを「デジタルがもたらす社会的な変化のトレンド」を示す学問的な用語として提唱しました。引用:デジタルトランスフォーメーション研究所「【DXの定義の解説②】エリックストルターマン氏定義(2004年)」2010年代デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション2010年代になると、さまざまなデジタル機器やソーシャルメディアなどがビジネスで取り入れられるようになりました。こうした変化を受けて、IT企業のガートナーやIDC、IMDの教授であるマイケル・ウェイドらは、「デジタルが前提の社会に適応するためには、企業はビジネスを変革しなければならない」と説きました。そして、これを「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」と呼ぶことを提唱しています。この解釈には、ストルターマンらのものとは違い、経営や事業の視点でデジタルを捉えた点に特徴があります。彼らは、デジタル・テクノロジーに主体的かつ積極的に取り組むことの必要性を訴え、これに対処できない事業の継続は難しいと警鐘を鳴らしています。つまり、デジタル技術の進展に伴い、競争環境 ・ビジネスモデル・組織・体制を作り変えたうえで、企業の文化や体質も変革する必要があると促したのです。これは、「ビジネス変革としてのDX」とも呼べる考え方です。デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションについては、マイケル・ウェイドらが、著書『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』において、以下の解釈を記しています。デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善することまた、本書では、以下のような記載もされています。デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションにはテクノロジーよりもはるかに多くのものが関与しているどれほど優れた(最先端の)テクノロジーを駆使したとしても、組織のあり方やビジネスプロセス、人間の思考や行動様式を、デジタル技術を使いこなすのに相応しい形に変革しなければ、業績の改善は不可能であることを説いたのです。参考:マイケル・ウェイドほか『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』日本経済新聞出版、2019年2018年経済産業省経済産業省は、2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(通称:DX推進ガイドライン)」を公開し、DXを以下のように定義しています。企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること上記の定義は、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションの解釈に沿うもので、現在これをDXと呼んでいます。言葉だけ見るとエリック・ストルターマン教授の定義と変わりませんが、その解釈は同じではないので注意しましょう。DXの定義や必要性について、詳しく知りたい方は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」2022年9⽉13⽇改訂