デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む今、企業が競争力を高め、収益性や市場シェアを維持・拡大するために、社員のデジタルスキル向上が不可欠です。これにより、新技術の導入や業務プロセスの改善を迅速に進めることができ、生産性向上やコスト削減を通じて競争力強化につながります。その中で、効率的かつ柔軟に学習を進められる方法として注目されているのが、eラーニングシステムの導入です。DXを推進する企業だけでなく、新入社員研修や資格取得支援、業務プロセス改善を目指す企業にとっても、効果的な研修を実施するためには、自社の目的や社員の学習スタイルに適したeラーニングシステムを選ぶことが重要です。しかし、eラーニングシステムにはさまざまな種類があり、どのような基準で選べば良いのか悩む研修担当者も少なくありません。本記事では、eラーニングシステムを選ぶ際のポイントや導入ステップを詳しく解説します。これからシステムを導入しようとしている方や、すでに導入しているシステムの見直しを検討している方はぜひ参考にしてください。eラーニングシステムとは?eラーニングシステムとは、インターネットを活用して、受講者が自由な時間・場所で学べる環境を提供するプラットフォームのことです。企業・組織で研修や学習を効率化するために使用されており、研修担当者や講師が学習者の進捗を管理・評価するうえで役立つ機能も備えています。eラーニングシステムの導入によって、受講者は自身のペースで場所や時間に縛られず学習できるようになります。多忙な社員や遠方に出張・出向している社員なども無理なく効率的に学習を進められるでしょう。また、eラーニングシステムは、企業・組織のニーズに応じて、コンテンツや学習プロセスを自由に設計できます。進捗状況やテスト結果、受講完了状況などを一元管理できるうえに、研修効果をリアルタイムで把握できるなど、研修担当者の管理の手間を軽減する点もメリットです。eラーニングシステムを選ぶ前に考えるべきポイント自社に適したeラーニングシステムを選ぶためには、事前に考慮すべきポイントがあります。本章では、事前準備や基準設定などに焦点を当てて、eラーニングシステムを選ぶ前の検討ポイントを3つ紹介します。導入目的の明確化eラーニングシステムを選ぶ前に、まず導入目的を明確にしましょう。eラーニングシステムは、多機能で多目的に使用できるツールです。そのため、目的が曖昧なまま選定を進めてしまうと、以下のような問題が発生する可能性があります。必要以上に導入・運用にコストがかかる使用されない機能を含むシステムを選んでしまう実際の運用で期待する成果が得られないeラーニングシステムの導入目的を明確化することで、自社のニーズに合った機能を持つシステムを選びやすくなります。結果として、期待する効果を得やすくなるでしょう。以下に、eラーニングシステムの導入目的を明確に設定するうえで検討すべきポイントをまとめました。検討ポイント補足・具体例どのような課題を解決したいか?社員のスキルアップ、研修のコスト削減、研修参加率の向上など。誰が利用するのか?対象者を特定する(例:全社員、特定部署、新入社員など)。どのような成果を目指すのか?定量的、定性的な目標を設定する。具体例は以下のとおり。・一定のDXスキル(※)の習得率を80%にする・新人研修を効率化し、期間を短縮する・社員の資格取得を促進する・リモートワーク中のスキルアップを支援する※:デジタルリテラシーやデータリテラシー、コミュニケーションスキルなどが該当する。詳しくは以下の記事を参照。DXに必要なスキルとは?企業が求めるスキルとその習得方法を解説このように、自社におけるeラーニングシステムの導入目的を明確にすれば、必要な機能やコンテンツが見えてきます。結果として、自社に適切なシステムを選定でき、必要な機能を最適に活用することで、研修の成果を高められます。対象者の学習スタイルと環境実際に利用する人の学習スタイルや環境も、eラーニングシステム選定において考慮すべきポイントの一つです。受講対象者の学習スタイルや環境に応じたeラーニングシステムを選ぶことで、満足度や学習効果を高められます。具体的には、以下のポイントを検討することで、「受講対象者に合ったeラーニングシステムを選定することで、受講者の学習意欲や習熟度を高める環境を整えられます。たとえば、インタラクティブ教材を取り入れることで、能動的な学習姿勢を促し、理解度を深める効果が期待できます。検討ポイント補足デバイスの種類受講者が研修受講にあたって使用するデバイス(スマートフォン、タブレット、PCなど)はどれか。学習環境受講者が学習を行う場所(オフィス、現場、リモートワーク)に適したシステムか。学習のタイミング受講者が学習を行うタイミングはいつか(例:業務時間内、隙間時間など)。上記のポイントを踏まえて受講対象者のニーズに合ったシステムを選ぶことで、学習の習慣化にもつながります。たとえば、スマートフォンやタブレットを活用することで、通勤時間や休憩時間などの隙間時間を使った学習が可能になるためです。必要なコンテンツと機能要件eラーニングシステムを選定する際は、導入目的を達成するために必要なコンテンツと機能要件を明確にしておくことも重要です。これにより、システム導入後に無駄な機能や不足が生じるリスクを防げます。eラーニングシステムで提供されるコンテンツは、そのまま受講者の学習内容となります。そのため、受講者に学ばせたい内容が含まれたeラーニングシステムを選びましょう。また、以下を参考に、受講対象者に合ったコンテンツの提供形式を明確にすることも大切です。コンテンツの提供形式補足(適している研修内容の例)動画視覚と聴覚を活用し、わかりやすく情報を伝える。(研修例:操作方法の説明)テキスト資料詳細な情報やマニュアルを提供する。(研修例:理論的な学習、復習)インタラクティブ教材学習者が何らかの行動を行い、それに反応してフィードバックが返される教材のこと。受講者が積極的に操作することで理解を深められる。(研修例:シミュレーション研修、ケーススタディ)クイズやテスト学習効果を測定し、理解度をチェックできる。(研修例:資格試験の対策、知識定着の確認)ライブ配信リアルタイムでの講義や質疑応答が可能。(研修例:グループディスカッション、重要トピックの解説)さらに、eラーニングシステムに求める機能をリスト化することで、自社のニーズに合ったシステムを選びやすくなります。下表に、eラーニングシステムに一般的に用意されている機能をまとめました。機能補足進捗管理受講者の学習進捗やコンテンツの完了状況をリアルタイムで把握可能。テスト結果の分析クイズや試験の結果を分析し、理解度や学習成果を可視化する。マルチデバイス対応PC、スマートフォン、タブレットなど複数デバイスで利用可能。コンテンツ作成動画やテキスト資料、クイズなどを簡単に作成・アップロードできる。レポート学習状況や成果を自動生成したレポートとして出力可能。パーソナライズ受講者のスキルや学習履歴に基づいてカリキュラムをカスタマイズできる。オフライン学習ネット接続がない環境でも学習可能。多言語対応グローバル企業向けに複数言語でのコンテンツ提供をサポートする。ゲーミフィケーション学習モチベーション向上のためにバッジやポイントなどを用意している。API連携他のシステムやツールと連携し、データを効率的に活用可能。必要な機能が揃っているシステムを選ぶことで、効果的な学習環境を構築できます。全ての機能を持つシステムを選ぶことは理想的ですが、コストや運用の複雑さを考慮すると優先順位を付けることが重要です。そのうえで、優先順位の高い機能を多く備えたシステムを選ぶと良いでしょう。eラーニングシステムの選び方eラーニングシステムを選ぶ際は、以下の5つのステップで進めていくのが基本です。要件定義とゴール設定候補システムのリサーチと比較コストと運用の検討セキュリティとシステムの信頼性導入後の運用計画と評価体制の整備それぞれのステップで行うべきことを中心に、順番に詳しく解説します。ステップ1:要件定義とゴール設定eラーニングシステムを選ぶ際、最初に行うべきは要件定義とゴール設定です。導入の目的を明確にし、達成したい学習目標や必要な機能を具体的にリストアップしましょう。以下はその例です。目的:新入社員研修を効率化する学習目標:3ヶ月以内に基本業務を習得し、自立して業務をこなせるようにする必要な機能:動画講義の配信、クイズ機能、学習進捗の管理などこのように要件を明確にすることで、システム選定の基準がはっきりし、適切なシステムを選びやすくなります。ステップ2:候補システムのリサーチと比較2つ目のステップでは、候補となるeラーニングシステムを複数ピックアップし、特徴を調査・比較します。以下のポイントを基準に調査・比較すると良いでしょう。機能の比較:要件定義で挙げた必要な機能が揃っているか操作性:インターフェースが直感的で、誰でも簡単に使える設計になっているか導入事例:似た業界や企業規模での導入実績があるかサポート体制:導入後のサポートが十分に整備されているか加えて、eラーニングシステムの選定で失敗を防ぐためには、比較の段階でデモ版や無料トライアルなどを活用し、実際の操作感を確かめておくことも大切です。ステップ3:コストと運用の検討システムの候補を絞り込んだ後は、コストと運用面について検討しましょう。確認すべきポイントは以下のとおりです。初期費用:導入時のセットアップ費用やライセンス料金を把握するランニングコスト:毎月の利用料金やメンテナンス費用を確認する追加コスト:カスタマイズ料金、追加機能の費用、サポート料金など、隠れたコストが発生する可能性も検討するまた、本ステップでシステムを運用する担当者を配置し、定期的なメンテナンス体制を計画しておくことで、スムーズな運用が可能になります。ステップ4:セキュリティとシステムの信頼性eラーニングシステムでは、学習者の個人情報や学習データを扱うため、セキュリティと信頼性の検討も非常に重要です。具体的には、以下の点を確認しましょう。データ保護:個人情報や学習データが適切に管理・保護されているかセキュリティ対策:不正アクセスやデータ漏洩を防ぐための対策が施されているか稼働実績:システムが安定して稼働した実績があるかどうかバックアップと復旧体制:トラブル発生時にデータを迅速に復旧できる体制が整っているかセキュリティ対策が厚いシステムを選ぶことで、安心して運用を進めることが可能です。ステップ5:導入後の運用計画と評価体制の整備導入するeラーニングシステムが決まったら、運用計画と評価体制を整えることが重要です。システム導入を成功させるためには、継続的な運用と効果の評価が欠かせません。以下のような観点で、運用計画と評価体制をそれぞれ整備しましょう。検討ポイント具体例運用計画・操作説明会や研修を実施し、利用者の理解を深める・運用担当者を配置して、円滑な管理体制を構築する・学習者向けのサポート体制を整備し、問い合わせやトラブルに迅速対応する評価体制・学習進捗や理解度を定期的に確認し、成果を把握する・受講者からフィードバックを収集し、現場の声を反映する・洗い出した改善点をシステム運用に反映し、継続的な改善を図るこれらを徹底することで、eラーニングシステムの導入効果を最大化し、運用の成功につなげることができます。eラーニングシステム選びでよくある失敗例とその対策eラーニングシステムを導入する際、適切な選定プロセスを経ずに進めてしまうと、期待した効果が得られなかったり、コストや時間が無駄になったりすることがあります。ここでは、よくある失敗例を挙げ、その具体的な対策を解説します。導入目的が曖昧なままシステムを選定した導入目的が明確でないままeラーニングシステムを導入した結果、学習内容が現場のニーズに合わず、効果が得られなかったという失敗例が多く報告されています。このような失敗を回避するには、導入前に具体的な目的と学習ゴールを設定しましょう。例えば、資格取得や新人教育、スキル向上など、達成したい目標を明確にすることで、必要なシステムの方向性が見えてきます。必要な機能が不足しているシステムを選んだこれは、eラーニングシステムの導入後に「クイズ機能がない」「動画がアップロードできない」といった問題点に気づき、再選定とそれに伴う追加費用が発生してしまったという失敗例です。このような失敗を回避するには、事前に要件定義をしっかり行い、必要な機能が揃っているか確認したうえでeラーニングシステムを導入しましょう。その際は、必須機能のリストアップに加えて、デモ版や無料トライアル期間にて動作確認を行っておくこともおすすめします。以上の対策を講じれば、システム導入後の「機能不足」を防ぐことが可能です。対象者の学習スタイルや環境に合っていない現場作業員向けに導入したeラーニングシステムの仕様がPC専用であったため、スマートフォンで学習できず、利用が進まなかったという失敗例も目立ちます。こうした失敗を回避するには、受講対象者の学習環境やデバイスに対応したシステムを選定しましょう。例えば、以下の点をチェックすることが大切です。スマートフォンやタブレットに対応しているかオフライン学習機能を備えているか受講対象者にとって使いやすい環境を整えることが、eラーニング制度の定着率向上につながります。サポート体制が不十分なシステムを選んだ「システムの不具合や操作に困ったときのサポートが遅く、業務に支障が出た」という失敗例も多く報告されています。導入前にサポート体制が充実しているか確認することで、上記の失敗を回避できます。具体的には、以下の点をチェックしましょう。サポート対応時間:24時間対応なのか、平日のみなのかサポート手段:チャットや電話、メール対応など豊富な手段が用意されているかFAQやヘルプセンターの案内はわかりやすく充実しているかしっかりしたサポートがあれば、トラブル発生時も安心してシステムを運用できます。以下の記事では、DX人材育成の方法・手順を詳しく紹介しています。eラーニングシステム導入を通じたDX人材育成を検討している場合には、併せてご覧ください。DX人材育成の方法をわかりやすく解説【育成事例あり】まとめeラーニングシステムの導入は、企業・組織における研修や学習の効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、自社の目的やニーズに合ったシステムを慎重に選定することが不可欠です。eラーニングシステムの選定は一見すると難しいプロセスに思えるかもしれません。しかし、本記事でご紹介したポイントを参考にすれば、自社にとって最適な選定につながります。最適なeラーニングシステムの導入によって、受講者の効率的なスキルアップを実現し、組織全体の成長に寄与することを目指しましょう。