近年、DXを推進する企業の増加に伴い、「ICT」という言葉が積極的に使われるようになってきました。以前から使われていたITに変わって、ICTが広く活用されるようになっており、最近の企業システムでは「IoT」という言葉も見られるようになってきています。そこで本記事では、ICTという言葉の意味や、DX・デジタルディスラプションとの関係性、IoTとの違いを中心に分かりやすく解説します。ICTとは?ICTとは、「Information and Communication Technology」の略であり、日本語で「情報通信技術」と訳される言葉です。単なるデジタル技術ではなく、コミュニケーションを主体としている点に大きな特徴があります。簡単に言えば、ICTは「人とインターネットをつないで情報のやり取りを行う技術」です。以前はデジタルデータを利用する技術・機器のことを「IT」と呼んでいましたが、近年ではインターネットなどの普及により、デジタルデータをやりとりする通信量が膨大になったことから、ITに「通信(Communication)」を加えた「ICT」の言葉を用いる機会が増えていると考えられます。ICTでは、ITよりも通信によるコミュニケーションの重要性が強調されており、単なる情報処理にとどまらず、ネットワーク通信を利用した情報・知識の共有が重視されています。スマートフォンやIoTが普及し、さまざまなものがネットワークにつながって手軽に情報の伝達、共有が行える環境ならではの概念だと言えるでしょう。DXとICTの関係DX(デジタルトランスフォーメーション)とICTには、「手段と目的」の関係性が見られます。以下に、それぞれの意味をまとめました。DX:先端的なデジタル技術を活用し、事業・経営・業務プロセス・サービスを変革することICT:デジタル技術の一つで、人とインターネットをつないで情報のやり取りを行う技術つまり、「DXの目的を果たすために、ICTを用いる」という関係にあります。例えば、製造業におけるDXの例としては、これまで従事していた人材を新たな事業に配置することを目的に、製造設備の稼働データをシステムに集約した上でPCから遠隔監視を行い、監視業務を省人化する取り組みが挙げられます。こうしたDXの取り組みにおいて、ICTとして以下のような技術を用いることが多いです。倉庫内にWebカメラを設置し、遠隔地にあるオフィスから監視するオンライン会議ツールを導入し、PCやタブレットで会議を行うなお、DX推進にあたっては、企業内でデータを利活用できる仕組みを構築する必要があります。そのためには、PCやタブレットなどをインターネットにつなげる通信インフラの構築が欠かせません。ICTは、こうした通信インフラを構築するために必要な技術であり、DX実現を下支えする役割を果たします。DXについて理解を深めたい方は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や必要性、IT化との違いを解説ICTによるデジタルディスラプションとDXDXは、単にICTを利活用して企業のビジネスを改善するのではなく、企業に組織・事業モデル自体の変革を求める取り組みです。DXによる変革を果たせない企業は、デジタルディスラプションによって市場からの退出を余儀なくされます。デジタルディスラプションとは、新たなデジタル技術の登場により新しい製品・サービスが誕生したことで、既存の製品・サービスの価値が変わり、市場が破壊される現象のことです。日本語で「デジタルによる破壊」「創造的破壊」などと訳されます。最近では、DX推進にあたってICTを利活用する企業が市場に新規参入することで、伝統的な企業が市場からの退出を余儀なくされる事例が数多く報告されています。例えば、アメリカでは「ブロックバスター」「Toys “ R” Us(トイザらス)」「シアーズ」といった大企業・有名企業がICT企業による市場参入への対応ができなかったことで経営破綻しました。企業名業態経営破綻理由、時期ブロックバスタービデオ・DVDのレンタルチェーン店オンライン事業への着手の遅れ(2010年)Toys “ R” Usおもちゃの総合専門店インターネット通販事業を行う競合企業の拡大(2017年)シアーズ百貨店インターネット通販事業を行う競合企業の拡大(2018年)実際に、ICTはあらゆる経済活動の根本にあるコスト構造を変えており、ICT企業は新たなコスト構造に適した形のビジネスモデルを構築してあらゆる産業に進出しています。一方で、すでに市場に存在する企業としては、ICTを利活用し、新たなコスト構造に適した形へ組織・事業を変えていくことが求められています。これこそが、企業がDXを推進しなければならない理由の一つです。つまり、ICT企業の市場参入によって生じるデジタルディスラプションに対応し、既存の市場に存続していくためには、DXを実現させる必要があります。参考:総務省「 令和元年版 情報通信白書」ICTとIoTの違いIoT(Internet of Things)とは、日本語で「モノのインターネット」と訳される言葉です。一般的に、「デジタル技術の一つで、日々の生活をより豊かにするために、さまざまなモノをインターネットに接続させること」を意味します。ICTとIoTは「情報を伝達する」という側面では類似しており、DX推進部署の担当者の方であっても混同しやすいので注意しましょう。両者の大きな相違点としては、「モノが関わっているかどうか」という点が挙げられます。ICTは、人と人をつなげることを前提としています。なので、一般的には「通信技術によって人と人のコミュニケーションが発生するもの」をICTと呼ぶ傾向が強いです。これに対して、IoTはモノを主体として捉えています。たとえ人が大きく関わっている技術であっても、モノが主体となっているケースではIoTと呼ばれる傾向が強いです。一例を挙げると、スマートデバイスで家電を操作するシステムは人が操作を行うものの、影響を受けるのは家電(モノ)なので、IoTに該当するのが一般的です。基本的に、ICTとIoTの違いは、「ICTは人が主体であり、IoTはモノが主体である」と理解しておいて間違いはないでしょう。なお、オンラインゲームのように、ICTとIoTのいずれにも該当する技術も存在します。オンラインゲームの場合、ゲーム機同士がつながり、起動状況やプレイ時間などがやり取りされます。ときにはスマートデバイスなどともデータをやり取りすることから、IoTの性質を持っています。とはいえ、オンラインゲームの中には他者と協力してプレイするコンテンツも多く、「人と人をつなげるオンラインシステム」という側面では、ICTに該当すると考えられるのです。IoTについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。ICTとIoTについて深く理解し、IoTとの違いを明確にしたうえでDXを効果的に推進していくためにも、併せてお読みいただくことをおすすめします。DXとIoTの関係とは?違いや活用のメリット、事例を紹介まとめICTは、デジタルデータを持つあらゆるモノや人が通信でつながる現代において、必要不可欠な技術です。そして、ICTやIoTは、DXを実現するための手段・技術の一つとして位置付けられます。どちらもDXを実現するうえで重要な要素となるため、DXを推進する企業では包括的に取り組む必要があるでしょう。DXは、単純にICTやIoTを活用すれば実現できるものではありません。DXを推進し、社会的優位性をもって企業を存続させていくためには、計画を策定し着実に段階を踏んでいく必要があります。また、それを実行するためには企業が一致団結して取り組む覚悟が必要です。