最近「ITリテラシー」という言葉を耳にする機会が増えていますが、その具体的な意味をしっかりと理解している人は実はそれほど多くありません。現代社会では、ビジネスだけでなく日常生活においてもITツールの利用が増えており、ITリテラシーの向上がますます重要になっています。特に企業がDXを推進していく中で、従業員のITリテラシー向上は欠かせない要素です。高いITリテラシーを持つことで、新しい技術を柔軟に取り入れ、業務効率の向上やイノベーションの創出につながります。そこで本記事では、ITリテラシーの定義、低い会社の特徴や起きうる問題を分かりやすく紹介します。ITリテラシーを高める方法も解説していますので、今後のDX推進にお役立てください。ITリテラシーとは?ITリテラシーとは、IT(Information Technology:情報技術)の知識を身につけ、使いこなす能力を指すのが一般的です。「デジタルリテラシー」と近い意味を持つ言葉であると考えられています。近年、官民におけるデジタル化機運の高まりやDX推進の重要性が叫ばれる中で、ITリテラシーの必要性や教育への関心が高まっており、改めてITリテラシーの定義付けに関する議論がなされています。例えば、厚生労働省が2017年に発表した資料では、「基礎的ITリテラシー」を以下のように定義付けています。現在入手・利用可能なITを使いこなして、企業・業務の生産性向上やビジネスチャンスの創出・拡大に結び付けるのに必要な土台となる能力のこといわゆるIT企業で働く者だけでなく、ITを活用する企業で働く者を含め、全てのビジネスパーソンが今後標準的に装備することを期待されるものなお、ITリテラシーと似た言葉に、「DXリテラシー標準」があります。DXリテラシー標準とは、ビジネスパーソン一人ひとりがDXリテラシーを身につけるための学びの指針です。それぞれの働き手がDXの推進に積極的に参加し、その成果を仕事や日常生活で活用するために必要な考え方、知識、スキルが記されています。DXリテラシー標準について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXリテラシー標準とは?必要性、学習の効果、活用イメージ参考:厚生労働省「平成29年度基礎的ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書」ITリテラシーの3要素ITリテラシーは、以下の3つの要素で構成されていると一般的に考えられています。要素補足情報基礎リテラシー・情報を探し、見つけた情報の真偽を見極め活用していく能力のこと。・情報基礎リテラシーが高ければ、適切な情報を取捨選択できたり、うわさ話やデマを見極めたりできる。コンピュータリテラシー・デジタル端末を使いこなすための能力のこと。・PCやタブレットなどのデバイスだけでなく、ソフトやアプリ、クレジットカードの読み取り機や、バーコードリーダーの使い方なども含まれる。・コンピュータリテラシーが高いと、上記の誤操作を防げるようになるほか、情報漏えいのリスクを下げられる。ネットワークリテラシー・ネットワークやセキュリティ、モラルに関する知識を身につけて活用する能力のこと。・ネットワークリテラシーが高いと、ステークホルダーに対する誹謗中傷を避けられる。ITリテラシーが低い会社の特徴ITリテラシーが低い会社に見られる代表的な特徴は以下の3つです。安全性に懸念がある非効率的である整頓されていないそれぞれの特徴について順番に解説します。安全性に懸念がある従業員のITに関する理解や操作スキルが不足していると、企業のセキュリティリスクが大幅に高まります。個人情報の漏えいやランサムウェアによる感染といったセキュリティ面のトラブルが発生しやすくなるでしょう。例えば、従業員がITの基礎教育を受けていない場合、以下のような問題が生じるおそれがあります。スパムメールやフィッシング詐欺に気づかずに引っかかってしまう重要な情報が入ったデバイスを公共の場に置き忘れる意図せずに重要な個人情報を外部に漏えいさせてしまうこれらの問題は「セキュリティ上、何が危険な行為か」を知らないために起こりえます。従業員のITリテラシーを向上させることで、セキュリティリスクを大きく減らせるでしょう。非効率的である最近ではツールやソフトウェアを活用することで、書類作成や請求書管理などの繁雑な業務を容易に処理できるようになりました。しかし、これらのツールやソフトウェアを効率良く使用するための知識やスキルが不足していると、その恩恵を受けられず、結局は手間のかかる方法で業務を行うことになります。例えば、表計算ソフトを使えば、複雑な計算やグラフの作成を容易に行えますが、これを使わずに電卓や紙を使っていると、非効率的です。また、従業員の住所変更などの業務も、専用のソフトウェアを使用すれば簡単に処理できますが、紙ベースで行うと余計な手間がかかります。こうした会社では、ITリテラシーを向上させて、適切なツールやソフトウェアを活用できるようになれば、これらの業務効率化の問題を解決し、よりスムーズな業務運営が可能になるでしょう。整頓されていないITリテラシーが低い企業では、情報が整然と管理されていない状況が見られることがあります。具体的には、以下のような特徴が見られることが多いです。ファイルの保存場所が社内で共有されておらず、必要なファイルを見つけるのに多くの時間がかかる新入社員がPCの基本設定を完了するまでに多くの時間をかけているこれらの問題を解決するには、ファイルの保存場所を社内で明確に共有し、どこにどの情報があるのかを一目で分かるようにすることが有効です。また、PCの設定手順を事前に定義し、新入社員が迅速に作業を開始できるようにすることも重要です。このように手順・ルールを明確にすることで、情報の管理がスムーズになり、教育コストの削減にもつながるでしょう。ITリテラシーが低い会社で起きうる問題ITリテラシーの低い会社では、ツールやソフトウェアの利用を最大限に生かせないため、仕事の効率が落ちることがあります。このような状況は、生産性の低下だけでなく、情報の安全管理が不十分になり、情報漏えいという深刻な問題を引き起こすリスクも伴います。結果として、企業の信用や業績に大きな損害を与えるおそれもあるでしょう。ITリテラシーが低い会社で起きうる問題としては、主に以下の4つが挙げられます。DX推進が難しい業務効率が上がらない情報漏えい会社のイメージダウンそれぞれの問題について順番に解説します。DX推進が難しいITリテラシーの低さは、DX推進の遅れに直結します。DXは、デジタル技術を駆使して業務プロセスやビジネスモデルを一新し、企業の価値を向上させる取り組みです。効率化やビジネスの革新を実現するためには、IT技術の理解と活用が欠かせません。ITリテラシーが低ければ、新たに導入された便利なツールを活用せず、古い方法に固執してしまうことがあります。こうした状況では、DX推進が妨げられてしまうでしょう。業務効率が上がらないデジタル機器やIT技術を職場に導入しても、これらをうまく扱えない従業員が多い場合、企業全体としての業務の効率化は見込めません。場合によっては、現場の反発によって、新しいITツールやシステムの導入そのものが滞ることもあります。デジタル技術やITツールに対して不安や苦手意識を持つ従業員がいると、「環境の変化によって従来の方法で業務ができなくなる」や「ITが苦手だから変わらない方が良い」といった理由で、業務改善の障害になることがあります。ITリテラシーの低い従業員の存在が他のスタッフに影響を及ぼし、全員が新しいデジタル技術やITツールを十分に活用できない状況になれば大きな問題です。結果的に業務効率化の機会を逃し、企業全体の生産性向上が阻害されます。人口減少が進む日本でDXを推進していくためには、限られた人材を最大限に活用し、生産性を上げることが重要です。これを達成するには、従業員一人ひとりのITリテラシーを向上させる取り組みが求められます。情報漏えい従業員のITリテラシーが不十分だと、安全でないWebサイトにアクセスしてしまい、マルウェアに感染するリスクが高まります。マルウェアへの感染は、重要な情報が盗まれる原因にもなるでしょう。知らない発信者からのメールに添付されたファイルを開いてシステムがマルウェアに感染し、大切なデータが外部に漏れるといったトラブルは珍しくありません。公共のWi-Fiを使った重要情報のやり取りも、情報漏えいの一因になり得ます。多くの公共Wi-Fiは通信が暗号化されていないため、第三者が情報を盗み取ることも容易です。情報漏えいは企業にとって深刻な問題を引き起こします。顧客情報の流出は企業の信頼性を著しく損ない、技術情報が漏れれば市場競争力を失うことになります。結果として、情報管理が不十分な企業とみなされ、事業の継続が困難になりかねません。会社のイメージダウン従業員がITスキルに疎いことから生じる問題も多岐にわたります。例えば、ツールの使い方を誤解して顧客情報を漏えいさせたり、SNSに不適切な内容を投稿したりして、企業の信頼とイメージを大きく損ねるケースが代表的です。最近では、特にアルバイトスタッフによるSNSでの不適切な投稿が企業に危機をもたらす事例が増加しています。このような問題は、従業員がSNSの使用におけるリスクを理解していないために起こり、企業イメージの悪化を引き起こします。企業イメージが損なわれると、直接業績への打撃となります。評判の落ちた企業から商品・サービスを購入しようとする消費者は減り、これまで支持してくれたリピーター顧客も離れてしまうかもしれません。その結果、利益の減少につながり、企業の存続さえ危ぶまれる状況に陥ることがあります。DX推進にはITリテラシーの向上は必須ITリテラシーの向上は、DXを推進しやすい社内体制の構築につながります。経営層を含めた従業員全員がITリテラシーを持つことで、DXの実現がよりスムーズになります。ITリテラシーを全社員が高めることで、DX人材の育成もスムーズに進めやすくなるでしょう。また、全社的なITリテラシーの向上により、業務フローの見直し・改善の習慣が組織全体に根付きます。従業員がこれまで気づかなかった無駄な作業を自分で発見し、無駄の削減によって空きが出た労力を重要な業務へ移行できるでしょう。このように、従業員が自主的に業務効率化を図ることが期待できます。ITリテラシーの向上は、新しいことにチャレンジする文化の醸成にもつながります。従業員がITリテラシーを持ち、デジタル技術活用の必要性を理解できていれば、新たな知識を積極的に身につけたり、先駆的な技術を活用したシステム導入のために積極的に取り組めたりする可能性があります。以上の理由から、DX推進にあたって、ITリテラシーの向上は必須です。ITリテラシーをDX推進に向けて高める7つの方法と順序ここまで読んで、DX推進にあたってITリテラシーを向上させる必要性を理解できたはずです。実際に全社でDX推進を高めていくためには、以下の方法・順序で進めていくことが推奨されます。環境を整備積極的にITツールを活用研修を実施メンター制度の導入オンライン学習プラットフォームの活用ITリテラシーレベルの評価とフィードバック資格取得を推奨それぞれのステップでやるべきことを順番に解説していきますので、DX推進に向けてITリテラシーをDX推進に向けて高める際にお役立てください。①環境を整備たとえITリテラシー向上のための取り組みを進めても、社内にIT環境が整備されていなければ意味がありません。社内のネット環境が悪かったり、業務をアナログで進める文化が根付いていたりしては、従業員はITリテラシー向上のきっかけを掴めません。そのため、ITリテラシーを効率的に向上させるには、まず快適で効率的な学習・作業環境を整えましょう。具体的には、必要なハードウェア(コンピュータ、タブレットなど)の確保や、適切なソフトウェア(オフィスアプリケーション、セキュリティソフトなど)のインストール、高速なインターネット接続の確保などを行います。上記の観点で環境を整備することで、ITツール・ソフトウェアへのアクセスが容易になるために学習・作業の効率が高まり、ITリテラシーの向上を実感しやすくなるでしょう。②積極的にITツールを活用次に、従業員に対して積極的なITツール活用を促しましょう。ITツール・サービスを実際の業務・学習に積極的に取り入れることで、従業員はその利用価値を理解し、ITの活用について次第に慣れていくものです。具体的には、 電子メールの利用のほか、文書作成ソフトウェアでの文書作成、クラウドサービスを使ったファイル共有や協働作業などを実践させます。実践を通じてITの知識を習得することで、実用的なスキルが身につきやすくなるでしょう。③研修を実施専門的なIT知識や技術を体系的に学ぶうえで、研修の実施は非常に効果的です。研修を通じて体系的かつ段階的に学習することで、効率よく知識・スキルのレベルアップができます。例えば、ITツールの基本操作、インターネットとセキュリティ、オフィスアプリケーションの高度な利用方法など、自社の業務や従業員からのニーズに応じて研修プログラムを用意すると良いでしょう。④メンター制度の導入研修と併せて、メンター制度の導入を導入しましょう。ここでいうメンター制度は、経験豊富なITスキルを持つ社員が、初心者やスキルアップを目指す社員を個別に支援していく仕組みです。直接的な指導とフィードバックにより、学習者の理解が深まるうえに、モチベーションの維持が期待できます。また、メンター制度の導入は、自社内にIT学習に関するコミュニティを作る手段としても効果的です。具体的には、ITリテラシーの高い社員をメンターとして指名し、定期的なミーティングや学習サポートを行っていく体制を作りましょう。⑤オンライン学習プラットフォームの活用従業員のITリテラシー向上のためには、オンライン学習プラットフォームの活用も大いに効果的です。オンライン学習プラットフォームを活用すれば、個々の学習ニーズに合わせて柔軟なコース・スケジュール選びが可能で、自分のペースで学習を進められるでしょう。ITリテラシーを学べるプラットフォームの一例としては、UdemyやCoursera、LinkedIn Learningなどが挙げられます。なお、DXを推進する企業では、ITリテラシーだけでなくDXリテラシーの向上も必要不可欠です。弊社では『SIGNATE Cloud』という、実務に直結するDX人材教育プラットフォームを運営しています。デジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった育成クラウドサービスです。DXリテラシーを学びたいという場合、『SIGNATE Cloud』が提供しているDXリテラシー認定プログラムの活用をおすすめします。これは、全社員にDXの基礎知識を学ばせることで、全社的なDX戦略への理解や協力の下地を作るプログラムです。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。⑥ITリテラシーレベルの評価とフィードバック従業員それぞれの現在のITリテラシーレベルを把握し、個々の学習計画を立てていくためには、ITリテラシーレベルの評価とフィードバックが大切です。具体的には、定期的なスキルアセスメントやサーベイを実施しましょう。ITリテラシーに関するテスト(例:ITパスポートや基本情報技術者など)を受験してもらうのも一つの手です。これにより、従業員のITリテラシーのレベル感やスキルギャップを明確にでき、効果的な学習計画の策定につなげられます。⑦資格取得を推奨従業員に資格取得を推奨することで、専門的な知識や技能の証明になるとともに、モチベーションの維持・向上が期待できます。資格取得は学習のゴール設定になるだけでなく、組織内外での信頼性やキャリアアップにもつながるでしょう。具体的には、ITリテラシーに関連する資格(例:Microsoft Office Specialist (MOS)、CompTIA IT Fundamentalsなど)の取得を従業員に対して推奨します。その際、資格取得における従業員へのインセンティブとして、以下のような制度を用意すると効果的です。受験料を補助する資格を取得したときに一時金を支給する資格取得を昇進条件の一つに掲げる企業のDX推進に役立つ資格について知りたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。DX資格14選!DX推進に役立つおすすめ資格を紹介まとめ昨今、多くの企業が取り組んでいるDX推進において、従業員のITリテラシーは基礎になります。ITリテラシーの向上を怠れば、DXを推進できないだけでなく、情報漏えいのリスクが増加したり、業務効率や生産性の低下を招いたりするため注意が必要です。ITリテラシーが低い会社の特徴が自社に当てはまったという場合は、すぐに改善をおこないましょう。従業員に任せっきりにするのではなく、会社側がしっかりサポートを行うことで、全社でのITリテラシー向上を目指しましょう。自社だけでの取り組みが難しい場合には、外部の研修やオンライン学習プラットフォームなどを活用するのも一つの手です。