生成AIが誤った情報や存在しない内容を生成する「ハルシネーション」は、AI活用において避けられない課題です。この記事では、ハルシネーションを防ぐための効果的な5つの対策と、よくある質問に答えるFAQをご紹介します。正確な情報を生成するためのポイントを押さえ、生成AIを安全に活用しましょう。ハルシネーションの対策とは?ハルシネーションとは、生成AIが学習データに基づいて事実とは異なる情報や架空の内容を生成してしまう現象のことです。主として、大規模言語モデル(※)や画像生成モデルなどで頻繁に見られます。※:LLM(Large Language Models)と呼ばれる、大量のテキストデータを使ってトレーニングされた自然言語処理のモデルのこと。現在の技術では、生成AIが学習データに依存して情報を生成する仕組み上、ハルシネーションを完全になくすことは難しいです。これは、学習データに含まれる不正確な情報や偏り、未知の情報に対応できないモデルの特性によるものです。しかし、適切な対策を講じることでリスクを大幅に軽減させることは可能です。次章で紹介する5つの対策を実施し、生成AIの出力精度を向上させましょう。以下の記事では、ハルシネーションの概要や種類、発生の要因と考えられるリスクについて詳しく解説しています。ハルシネーションへの理解は深め、生成AIを安全かつ適切に活用するうえで併せてご覧ください。ハルシネーションとは?発生原因や種類、生成AIのリスクを解説ハルシネーションの対策5選本章では、ハルシネーション軽減に向けた対策として以下の5つを紹介します。学習データの見直し・改善プロンプトエンジニアリングファクトチェックの組み込み(RAGの活用)モデルの再学習・ファインチューニングAIと人間の協働(ヒューマンインザループ)それぞれの方法について、ハルシネーションの対策を講じるうえで役立つプロンプト(指示・質問)の例文も交えて順番に詳しく解説していきます。対策①:学習データの見直し・改善生成AIが出力する内容は、学習データの質に大きく依存します。そもそも学習データに誤情報や偏りがあると、生成AIが誤った内容を生成しやすくなります。これを防ぐためには、下表のような方法で学習データの見直しと改善を図りましょう。対策補足データの精査古い情報や不正確な内容を取り除き、最新の正確なデータを確保する。正確・信頼性の高いソースの利用信頼性が高く、エラーや矛盾が少ないデータを学習させる(例:学術論文、政府の統計データ、専門書籍など)。多様な情報源の活用偏りを避けるため、異なる分野や複数の信頼できる情報源からデータを集める(例:同じトピックにおいて異なる国や言語の情報を集める)。定期的なデータ更新最新情報を反映し、AIが古いデータに基づいた誤情報を生成しないようにする。また、生成AIに対するプロンプトを以下のように工夫することも効果的な対策です。2023年までの正確なデータを基に回答してください。最新情報に基づいた内容を提供し、不確かな場合は「わかりません」と答えてください。対策②:プロンプトエンジニアリングプロンプトエンジニアリングとは、生成AIから望ましい出力を得るために、指示や命令を設計・最適化する技術のことです。適切に設計されたプロンプトを使用することで、AIが意図どおりの回答を生成しやすくなり、ハルシネーションの発生を抑えられます。下表に、プロンプトエンジニアリングを進める際のポイントをまとめました。対策補足質問の具体化「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように」を明確にしたプロンプトを作成する。また、曖昧な表現を避け、詳細な指示を行う。悪い例:〇〇のテーマについて教えてください。良い例:2023年に日本政府が発表した再生可能エネルギー政策について3つのポイントを挙げてください。背景情報の提供プロンプトに必要な背景や前提条件を加える。例:現在、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が主導する国際的な取り組みが進行中である。これを考慮し、国際的な温室効果ガス削減の課題を3つ挙げてください。出力形式(条件)の指定「箇条書き」「要約」「3文以内で」「簡潔に」といった条件を提示する。例:ハルシネーションに関する事実だけを200文字以内で簡潔に説明してください。推測や主観は含めないでください。例:最新のノーベル平和賞を受賞した人物と、その理由を2〜3文で教えてください。対策③:ファクトチェックの組み込み(RAGの活用)生成AIが正確な情報を提供するためには、回答の正確性を保証する仕組みを組み込むことが重要です。その一環として注目されているのが、RAG(※)の活用です※:Retrieval-Augmented Generationの略。生成AIによるテキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術のこと。RAGの活用により、生成AIは事前に学習したデータだけでなく、最新の外部データベースやAPIからリアルタイムで情報を取得します。このプロセスでは、AIが質問を分析し、関連する情報を外部から検索して組み込むことで、古い情報に基づく回答のリスクを低減し、最新かつ正確な情報を提供できるようになります。また、専門の外部データベースを使用することで、誤情報の生成リスクが低減するほか、専門性の高い回答が期待できます。RAGの活用によって、大まかに以下のプロセスを経て回答が生成されます。プロセス補足①質問の分析生成AIがプロンプトを解析し、必要な情報を特定する。②外部データベースからの情報取得指定された信頼性の高いデータベースやAPIから関連情報を検索する。③情報にもとづく回答生成取得した情報をもとに、不要な推測や誤情報の生成を抑制しつつ回答を生成する。以下に、RAGの活用におけるプロンプト設計例をまとめました。信頼できる外部データベースを使用して、次の質問に答えてください。回答には参照元の情報を含めてください。対策④:モデルの再学習・ファインチューニング生成AIにおけるハルシネーションを防ぐための対策の一つに、モデルの再学習やファインチューニング(※)があります。※:既存のモデルに特定のタスクやドメインに関するデータを追加で学習させ、精度や信頼性を向上させるプロセス。AIモデルが誤った回答を生成する背景には、元の学習データの質(例:古いデータや偏った情報の含有)や構造(例:データのカテゴリ分けや関係性の欠如)の問題があります。再学習やファインチューニングを実施することで、特定の用途やデータセットに適したAIモデルを作り、ハルシネーションを抑制することが可能です。以下に、具体的な対策ポイントをまとめました。対策補足定期的な再学習新たに高品質で信頼性の高いデータセットを収集する。そのうえで、ノイズや偏りを排除し、AIモデルが誤った情報を学習しないようにする。このようにして用意した新しいデータセットをもとに、AIモデルを再トレーニングする。専門分野への特化各業界に応じたデータセットでファインチューニングする。例:法務分野において、法律や判例データを用いてファインチューニングを行い、法務専門の回答が可能なモデルを構築する。フィードバックループの構築ユーザーによる修正をAIモデルに反映する。再学習やファインチューニングは手間とコストを要しますが、結果として信頼性の高いモデルを構築でき、長期的な成果を期待できます。対策⑤: AIと人間の協働(ヒューマンインザループ)生成AIの活用が進む一方で、ハルシネーションを完全に防ぐことは難しい現状があります。その中で可能な限りハルシネーションを軽減させるうえで重要な役割を果たすのが、ヒューマンインザループ(※)です。※:AIが生成した結果を人間が検証・修正するプロセスを組み込むことで、誤情報のリスクを軽減し、AIの性能を補完する仕組み。ヒューマンインザループの導入によって、人間が直接チェックするようになれば、たとえ生成AIが誤情報を生成したとしても正しい内容に訂正できます。特にAIは大量のデータを処理できる一方で、判断基準や倫理的解釈には限界があるため、人間による監視と修正が不可欠です。このプロセスを取り入れることで、AIの回答精度と信頼性を大幅に向上させることができます。また、人間の判断を取り入れることで、倫理的な問題を回避できるうえに、生成AIの出力した内容に公正性を加えることも可能です。特に重要な意思決定や倫理的な問題が起こりやすい分野などでは、ヒューマンインザループを通じた生成AIと人間の協働が必要不可欠です。以下に、ハルシネーション対策のためにヒューマンインザループを進める際のポイントをまとめました。対策補足確認フローの設定データ収集や前処理、モデルの訓練、運用監視、継続的なアップデートなどのプロセスにおいて、人間がチェックする仕組みを作る。フィードバックの活用ヒューマンインザループの一環として、人間がAIモデルの予測結果を検証し、その妥当性を評価することがある(例:画像認識モデルが正しく分類できているかどうかをチェックする)。人間の専門知識を活用することで、AIモデルの性能を客観的に評価し、必要に応じて修正や改善を加えられる。リスク管理医療や法律など専門性の高い分野については、専門家に最終判断を行ってもらう。以下の記事では、生成AIの利用・開発におけるヒューマンインザループの意義やメリット、実例などを詳しく解説しています。ヒューマンインザループ(HITL)とは?AI開発で重要な理由、メリットハルシネーションの対策についてFAQ最後に、ハルシネーションの対策についてよくある質問と回答をまとめました。Q1:ハルシネーションを完全になくすことは可能ですか?現時点では、ハルシネーションを完全に防ぐのは難しいと言えます。しかし、適切な対策を講じることで、その発生頻度を大幅に減らすことは可能です。具体的には、以下の方法が効果的です。学習データの改善:データの質や多様性を向上させるプロンプトエンジニアリング:質問文や指示文を明確かつ具体的にするRAGの導入:外部データベースを活用して正確性を補完するファクトチェック:生成された内容を検証する仕組みを導入人間による確認:最終的なチェックを人が行うこれらの対策を組み合わせることで、ハルシネーションによるリスクを最小限に抑えることが可能です。Q2:ハルシネーションはどのような場面で問題になりますか?特にハルシネーションが問題となりやすい場面は次のとおりです。場面補足ビジネス文書の作成・活用誤った情報が意思決定の基盤となると、業務に深刻な影響を及ぼす可能性がある。医療・法律分野不正確な情報が患者の健康や法的判断に悪影響を与えるリスクがある。教育・学習支援誤った内容を学習者がそのまま信じてしまうことで、誤解や誤った知識の定着につながるおそれがある。特にこれらの場面では情報の正確性が強く求められるため、ハルシネーションの対策を講じる必要性が高いと言えます。Q3:RAG(Retrieval-Augmented Generation)はどうやってハルシネーションを防ぎますか?RAGは、生成AIが回答を作成する際に外部の信頼性の高いデータソースをリアルタイムで参照する仕組みです。RAGの活用により、生成AIが自身の学習データだけをもとに回答するのではなく、最新かつ正確な情報を外部から取得できるようになるため、回答の精度が向上し、誤った情報を生成するリスクが軽減します。Q4:プロンプトエンジニアリングを行う際のコツは何ですか?以下に、効果的なプロンプトエンジニアリングのコツを簡単にまとめました。コツ補足具体的な指示を出す質問内容を明確にし、曖昧さをなくす(例:2020年にノーベル平和賞を受賞したのは誰ですか?)。出力形式を指定する回答を箇条書きや要約形式など、希望する形で生成するよう指示する。背景情報を提供する質問に関連する背景や補足情報を加え、生成AIが文脈をより理解しやすくする。Q5:AIのハルシネーションはどのくらいの頻度で発生しますか?ハルシネーションの発生頻度は、使用するAIモデルの種類や学習データの質、タスクの内容などによって異なります。例えば、ChatGPT(※)のような生成AIチャットサービスの場合、曖昧な質問やAIモデルが未知の分野に関する質問を受けた際に起こりやすいです。特に正確性が求められる専門分野については、ハルシネーションの発生頻度が高まる傾向にあります。※:OpenAI社によって開発された会話タイプの生成AIサービス。自然言語生成に特化した生成AIサービスである点が大きな特徴。ChatGPTについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。ChatGPTの仕組みとは?基本からわかりやすく解説まとめ生成AIの進化により私たちの生活やビジネスの効率が大幅に向上している中で、ハルシネーションがAI活用の信頼性を左右する深刻な課題として位置づけられています。ハルシネーションの防止・軽減に向けた対策は、生成AI技術を安全かつ効果的に活用するための基盤を築くうえで非常に重要です。これらの対策を実施することで、AIの信頼性を向上させるだけでなく、ビジネスや医療、教育など幅広い分野での誤情報リスクを減らし、より正確な意思決定やサポートを可能にします。生成AIを取り巻く課題を乗り越え、社会に役立つツールとして最大限に活用するために、本記事で紹介した5つの対策を実践してください。