企業においてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)のアイデアを出し、実現していくためには、それらを円滑に進めていけるような組織体制を構築しなければなりません。DXを効果的に推進するための環境を整備し、社内の各種制度やプロセスを変革していくためにも、それをけん引していく組織体制が求められるでしょう。とはいえ、「具体的にどのような体制でDX推進に取り組むべきか分からない」という方も少なくありません。そこで本記事では、DXを推進する組織のパターンや作り方のポイントを分かりやすく紹介します。DX推進の組織で求められるスキルについても解説していますので、今後のDX推進にお役立てください。DX推進の組織とは?独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)が東証一部上場企業を対象に行ったアンケート調査によると、DXを実現させるためには、DX推進の専門組織(部署)を設置して、そこが中心となってDXを推進していくことが効果的であることが分かっています。DXの専門組織を社内に作ることで、DXを進めるのに必要な人材・資金などのリソースを集中的に確保できます。さらに、この組織に特定の権限を与えることで、通常は時間のかかる社内の承認手続きや部門間の調整をスムーズに進めることが可能です。その結果、DXの取り組みを迅速に実行できるようになります。とはいえ、DXを成功させるには、全社で取り組まなければなりません。部署別にDXに取り組むと、部分最適にしかならないおそれがあるためです。企業内における多くの部署と連携し、全体最適化できるようプロジェクトを推進できるような組織が求められます。また、DXの推進にあたって、プロジェクトの途中で望ましい組織形態が変わるケースも考えられます。大幅な人員配置の見直しが必要になることも珍しくないでしょう。そのため、現状の組織形態に捉われず、柔軟に変化できる組織であることが求められます。当然ながら、DXを進めるには、技術的な知識も欠かせません。社内にDXに関して知見のある人材がいるならプロジェクトリーダーに任命し、専門組織をけん引するよう指示を出すことが望ましいでしょう。社内にふさわしい人材がいなければ、外部からアドバイザーを呼ぶことも検討する必要があります。参考:独立行政法人 情報処理推進機構「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」2019年5月17日DX推進の組織6パターンIPAは、DX推進のための組織内部の体制として、以下の6つのパターンがあることを示しています。▼組織新設型・独立事業部門・全社企画・支援・組織新設型▼既存組織推進・企画部門推進型・IT部門推進型・その他部門推進それぞれの組織体制のイメージは、本章の冒頭に示した図のとおりです。ここからは、上記の6パターンについて、それぞれの特徴を順番に解説します。DX推進の組織①独立事業部門このパターンの組織体制に見られる大きな特徴は、既存事業を担当する部門とは異なる組織が新たな事業・ビジネスモデルを生み出す役割を担う点です。DXの専門組織を設置する場合において、最も典型的なパターンであると位置付けられています。既存事業とは独立した組織が中心となってDXを効率的に進められるというメリットはある反面、既存事業部門との連携が課題となることもあります。また、成果が創出されるまでの評価が難しくなるという課題も存在します。そのほか、将来的に新たなビジネスが既存のビジネスを侵食・破壊する可能性が出てきた場合に、既存ビジネスにとって脅威となるおそれがある点も懸念点です。DX推進の組織②全社企画・支援 「独立事業部門型」が自らDXに関する取り組みを推進する役割を担っているのに対して、「全社企画・支援型」は実際の取り組みそのものは現場の事業部門に任せ、自らは戦略立案・コーディネート・サポートなどの役割を担う点に特徴のある組織体制です。「全社企画・支援型」は、社内の複数・多数の部門においてDXを推進する際に有効であると考えられています。特定の部門だけでなく企業全体としてDXに取り組む場合、非常に効果的な組織体制です。一方で、DX推進部門の関わり方が難しく、現場との間で調整が必要となる場面があるほか、現場部門に高い事業開発能力が備わっていなければならない点などは課題として挙げられます。DX推進の組織③DX企業新設「DX企業新設」は、新規でデジタルビジネスを推進するために別組織を設立する点に大きな特徴が見られます。DX推進に対して高いリテラシー・意識を持つ大企業に多く見られる組織体制であり、「独立事業部門型」をはじめ他の組織体制パターンと並行して採用されることも多いです。実際に、IT企業やコンサル企業などが自社の子会社としてDXを推進する企業を設立するケースのほか、複数の企業が共同でベンチャー企業を設立するケースなどが多く見られます。後者の場合は異業種連携の一つの方法とも言えるでしょう。いずれのケースにおいても、新企業を設立することで、既存の人材・制度といった制約の少ない状態で、デジタルビジネスの事業化に取り組めるようになるのは大きなメリットです。その反面、企業設立のために相応の資金力・時間が求められ、DX推進プロジェクトが失敗・頓挫した場合に被るリスクが高い点は課題として挙げられます。DX推進の組織④企画部門推進「企画部門推進型」 は、経営企画部門のような企画系の部門がDX推進を担う組織体制です。主に、DXの推進を試行的に実施するケースで見られます。DX専門組織が設置されていない企業では既存の組織がDXの推進を担うことになりますが、その典型的なパターンの一つとして「経営企画部」が位置付けられています。試行的な取り組みとしてDXを推進していく場合に効果的な組織体制です。一方で、DX推進にあたって本格的な事業化に乗り出す段階になった際は、別の体制づくりが求められる点はデメリットといえます。DX推進の組織⑤IT部門推進「IT部門推進型」は、IT・情報システム部門がDXの推進を担う点が特徴的です。既存の組織でDXを推進していく場合に、最も典型的なパターンといえます。とはいえ、このパターンでは、新規事業の創造ではなく既存業務効率化に重点が置かれる傾向があります。DX推進による新規事業創出を目指す他の体制とは、やや異なる体制として位置づけられている点を把握しておきましょう。「IT部門推進」は、既存業務の効率化を目指す場合に効果的な組織体制です。その反面、新規事業創出に取り組む際には、別途スキル・ノウハウなどが求められる点が課題として挙げられます。DX推進の組織⑥その他部門推進「企画部門推進」において企画部門以外が、「IT部門推進」においてIT部門以外がDXを推進する場合、「その他部門推進型」に分類されます。いずれのケースにおいても、既存業務の効率化よりも、新規事業創出を目指す傾向が見られます。例えば、先端技術の活用を行う場合で、すでにDXの目的に沿った部門(例:研究開発部門など)がある場合、新たに部門を設置することなくスムーズにDXを推進していけるでしょう。その反面、全社レベルでの成果の活用・波及に手間や時間がかかりやすい点が課題として挙げられます。DX推進の組織の作り方のポイント本章では、DX推進に欠かせない組織作りについて重要なポイントを5つご紹介します。自社の業態や社風、ビジョンに合った組織にするリーダーとしてCDOを置くメンバーはDX推進専任にする経営層と密に連携できるようにする業務経験が豊富な社員で構成するDXを推進する企業が組織を構築・設置するうえで知っておきたい重要事項を解説していますので、それぞれのポイントを把握したうえで組織作りに取り組むことが望ましいです。自社の業態や社風、ビジョンに合った組織にするDXを推進する組織は、自社の業態や社風、ビジョンに合った形で構築・設置しましょう。DXを効果的に推進するには、専門的な組織作りを行うと同時に、関連部署および全社においてもDX推進の目的や意義を理解してもらって協力体制を構築していく必要があります。これを実現するためには、DX推進の組織が自社の業態や社風、ビジョンに沿っていることが欠かせません推進組織へ協力する風土ができることで、業務プロセスの可視化や変更などの面でも協力体制が整い、スムーズなDX推進につながります。なお、DX推進組織を構築する前に、DXのビジョンを策定することが大切です。DXのビジョンとは、「DXを通じて実現したいこと、企業の本来あるべき姿」のことです。「DXを通じた組織の将来像、目指す姿」や「DX推進にあたって現時点で達成できていない目標」といった言葉でも定義できます。DXのビジョン策定について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DXにビジョンは必須!内容と策定の手順を解説リーダーとしてCDOを置くDX推進の組織は、専任の役員1名(執行責任者/CDO:Chief Digital Officer)をリーダーに据え、そのほか数名の推進メンバー(事業規模により人数を調整)を加えて構成することが望ましいです。CDOは、DX推進における執行責任と権限を持つ統括責任者を指します。実際に日本では「全社でDXを推進できるリーダーを強く求めている」ことを理由に、CDOのポジション設置を決める企業が増えています。DX推進にあたっては、新しいビジネスの立ち上げや、全社でのデータ活用などを実現するために、企業の組織体制やビジネスの仕組み自体を変えていかなければなりません。このような大規模な変革を成功させるためには、DX推進に対して強い権限を持つリーダー「CDO」の存在が必要不可欠です。CDOについて理解を深めたい方は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。CDO(最高デジタル責任者)とは?DX推進における役割、CIOとの違いメンバーはDX推進専任にするDXを推進するメンバーを既存の事業体制と兼任にしてしまうと、目先の業務を優先してしまいやすくなります。これにより、円滑なDX推進を妨げるおそれがあるため、DX推進専任にすることが望ましいです。経営層と密に連携できるようにする企業がDXを成功させるためには、経営層としっかりと話し合い、一丸となって進めていくことが大切です。企業としての取り組みである以上、DXの実現によってどのような価値を生み出したいのか、経営層としっかり合意を形成する必要があります。特にDXのビジョンについて十分に共有できていない場合、プロジェクトの方向性がぶれる可能性があります。また、DX推進チームでは部門間の利害調整や経営資源の共有など、経営トップの介入が必要となる調整事項も多いです。そのため、DX推進の組織を経営トップの直下に設置したうえで、経営トップと密に連携できるように状況報告会を定例化しましょう。社内全体の意識改革のためには、DX推進の組織だけでなく経営層による主導が求められることもあります。DXは組織や企業文化・風土の変革にも関わるため、トップから現場の社員に向けて効果的な呼びかけを行えるような連携体制を構築することが大切です。業務経験が豊富な社員で構成するDX推進の組織に所属するメンバーの年齢は不問ですが、社内での人脈や業務知見を考慮すると、一般的な目安として4~5年の業務経験があることが望まれます。人選をする際は、「社内で手が空いているから」といった理由で採用するのではなく、やる気を重視することが大切です。DXについて興味・関心が強く、自社の将来的な企業価値向上を担えるような人材を招集しましょう。DX推進の組織で求められるスキルDX推進の組織に所属するメンバーに求められる主なスキルとしては、コミュニケーション力のほか、その企業のDX推進に関わる業務やデジタル技術に対する知見などが挙げられます。確かに、デジタル技術の知見を補ううえでは、外部人材を取り入れることも有効策の一つでしょう。しかし、最も有効的な施策となるのは、社内の人間関係や業務に精通する人材をメンバーに加えたうえで、各部門と良好な関係を築きながら活動していける組織を構築することです。このことから、DX推進の組織に所属するメンバーには、現場の課題を聞き取ったり、取り除いたりしながら部門間の潤滑油となり、変革を加速させていく役割も求められます。まとめ本記事では、DXを推進する組織のパターンや作り方のポイント、所属するメンバーに求められるスキルなどを幅広く紹介しました。企業におけるDX推進は長期的なプロジェクトとなるケースがほとんどで、組織変革を伴う形で推進していくことが必要不可欠です。本記事の内容を参考に、DXを効果的に推進していける組織を構築し、企業のDX実現につなげましょう。