2023年2月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、DXを推進する際の課題と進むべき道を示す資料「DX白書2023」を公開しました。DX白書2023には「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」というサブタイトルが付けられており、日本企業におけるDXが進んでいない状況が記されています。日本企業でDXがなかなか進まない理由はいくつか考えられますが、本記事では主要な内容をピックアップして解説します。企業にてDXが効果的に進まないときの対策についても紹介していますので、DXに関する課題を抱えている方はぜひお役立てください。参考:情報処理推進機構「プレス発表 日米企業におけるDXの最新動向を解説する「DX白書2023」を公開」DXが進まない理由とは?DX白書2023にて公開された日米企業へのアンケート調査結果を見ると、DXに取り組んでいる日本企業は69.3%であり、昨年度と比較して13.5%増加しています。この結果から、日本企業においてDXは一定程度進んでいることが見て取れます。ただし、全社戦略にもとづいて取り組んでいる企業の割合を日米で比較すると、日本企業が54.2%であるのに対してアメリカ企業は68.1%と、13.9%の差を付けられている状況です。また、スイスのビジネススクールIMDの世界競争力センター(IMD World Competitiveness Centre)が発表した2023年のデジタル競争力において、日本は32位(前年から3つ順位が低下)で過去最低を記録しています。こうした結果から「デジタル後進国」と呼ばれることもあり、決して楽観視できる状況ではありません。日本企業においてDXが進まない主な理由としては、以下の5つがあると考えられています。経営層がITに弱いDXを全社で推進する体制がないDX人材の不足レガシーシステムの存在ベンダーロックイン(ベンダーへの依存)それぞれの理由について、次章以降で順番に詳しく解説していきます。参考:IMD「World Digital Competitiveness Ranking」DXが進まない理由①経営層がITに弱いDX白書2023によると、IT分野に見識がある役員の割合について「3割以上いる」と回答した企業は日本では27.8%であるのに対して、アメリカでは60.9%と、実に2倍以上の差がありました。DX推進には経営層によるリーダシップが不可欠であるため、日本でも経営層のITに対する理解度を高めていくことが求められています。日本において経営層のITに対する理解度が低い要因として考えられているものの一つに、経営層の高齢化が挙げられます。日本では人口減少に対応した定年の引き上げを受けて、経営層の平均年齢が上昇を続けている状況です。いうなれば、現在ほどデジタル技術が普及していない時代の競争原理を学び、それをもとにビジネスを成功させてきた人たちが、依然として多くの組織でトップに立っています。その結果、日本企業においては、デジタル技術に対する理解が不足し、現在の環境に適応した新たなビジネスモデルを構築できる経営層が少なくなっている状況です。DXが進まない理由②DXを全社で推進する体制がない経営層のDXに対する理解不足も問題ですが、社員全体のDXリテラシーが低い状態のままでも、企業のDXは加速していきません。DX推進にあたって具体的な施策を実行していく従業員たちが、そもそもAIや先進技術を用いてどのような価値を生み出せるのかについて理解していなければ、上層部が意図する結果を得ることは難しいでしょう。確かに、DXを推進するためにはトップダウンの施策実行が重要ですが、フェーズが進むにつれて現場社員たちの声・提案を取り入れていく必要もあるため、社員のDXリテラシーの向上は急務と言えます。前述のとおり、全社戦略にもとづいてDXに取り組んでいる企業の割合は、日本よりもアメリカの方が13.9%も高いのが現状です。こうした状況を改善していくためには、全社的にDXリテラシーの向上を図って、「なぜこの施策を実施するのか?」「他に改善の余地はないのか?」といった当事者意識を持てる社員を増やしていくことが大切です。そのための指針として「DXリテラシー標準」が経済産業省によって策定されています。DXリテラシーの向上を図る上で見逃せませんので、ぜひ併せてご一読ください。DXリテラシー標準とは?必要性、学習の効果、活用イメージDXが進まない理由③DX人材の不足「社員全体のDXリテラシーを向上させることが大切」といっても、企業の中でDXを推進していけるような社員を十分に確保できていなければ元も子もありません。DX白書2023では、DXを推進する人材の量に関する調査結果も公開されています。この調査によると、「DXを推進する人材が充足している」と回答した企業の割合は、日本で10.9%であったのに対して、アメリカでは73.4%と非常に大きな差があることが分かっています。アメリカでは「大幅に不足している」 と回答した企業の割合が前年度調査の20.9%から3.3%まで低下している一方、日本では30.6%から49.6%にまで増加しており、DXを推進する人材の「量」の不足が拡大している現状が窺い知れます。また、DXを推進する人材像の設定状況に関する調査結果を見ると、人材像を「設定し、社内に周知している」企業の割合は日本では18.4%、アメリカでは48.2%でした。DXを推進する人材像について「設定していない」企業の割合は、日本では40.0%を占めているのに対して、アメリカではわずか2.7%と非常に大きな差があります。DXを実現させるための人材の獲得・確保を進めるにあたって、漠然と人材の獲得・育成に取り組むのではなく、まず自社にとって必要な人材の量と質を明確にすることが重要です。DXが進まない理由④レガシーシステムの存在日本企業においてDXが進まない理由の一つとして、老朽化した既存システムを都度カスタマイズしながら使い続けたことで複雑・ブラックボックス化してしまった「レガシーシステム」の存在も挙げられます。経済産業省の資料「DXレポート」では、約8割の企業がレガシーシステムを抱えており、この保守・運用に人員・コストを割かれてしまっていること、保守運用者の不足によるデータ流出・システムトラブルのリスクが高まっていることなどが指摘されています。多くの日本企業では、営業所・業務ごとに構築されている専用システムを多く活用しており、全社横断的なデータ活用が難しいという問題にも直面しています。DX推進にあたってスピーディな方針転換やグローバル展開への対応が遅れると、デジタル競争の敗者になってしまいかねません。参考:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)」2018年9月7日DXが進まない理由⑤ベンダーロックイン(ベンダーへの依存)日本企業の中には、長期間にわたって自社基幹システムの保守運用を特定のベンダーに任せっきりになっている会社が多くあります。よく見られるのは、システムやプラットフォームの設計・構築から数年先までの保守・運用を一括して契約しているようなケースです。こうしたケースで陥りやすい問題が、ベンダーロックインです。ベンダーロックインとは、ベンダー企業の独自技術を採用した製品・システムに依然することで、他社製品への乗り換えが難しくなってしまう現象を言います。具体的には、基幹システムからDXに活用できるデータを取り出せなくなったり、データそのものが蓄積されていなかったりといった問題が生じるおそれがあります。DX推進にあたって他社製品・システムの導入・連携を行う際に、足かせとなる可能性が高いので注意しましょう。DXが進まない理由への対策ここまでDXが進まない5つの理由を解説してきました。これら5つの問題を解決するための対策として何よりも大切なのが、経営トップが問題意識を持つことです。経営者がリーダーとなってDX戦略を進めていくことで、5つの問題を克服しつつ、DXを全社で効果的に進めていけるようになります。DXを効果的に推進していくためには、まずDX戦略(DXを推進・実現するための戦略)を立案することが大切です。DX戦略の立案によって、DXを通じて実現すべきビジョンや目標を明確にでき、行うべき施策や必要となるツールなどを検討できるようになります。自社に適したDX戦略を立案するためには、経営陣自らがDXに対する理解を深めたうえで、リーダーシップを発揮していくことが大切です。DXとは、組織文化を含めた企業内の多岐にわたる分野を変革することです。そのため、DXはシステム部や一部の業務担当者のみで推進するのではなく、組織のリーダーのもとで全社一丸となって同じ方向に向かって取り組んでいきましょう。DX戦略の概要や立案方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。DX戦略とは?意義、立案手順を解説【事例あり】まとめ企業においてDXが進まない理由の多くは、経営層のコミットメントが得られないことに起因しますが、続々と表面化してくる問題を後回しにしてしまっては変化の激しい昨今の市場を生き抜くことは難しいでしょう。まずは経営層が重い腰を上げて、1つずつ着実に問題を解決していくことが大切です。DXが進まない理由への対処にあたって、DX人材の不足を補う際は、採用だけでなく自社内で育てていくことも検討すると良いでしょう。弊社では『SIGNATE Cloud』というデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォームを運営しています。『SIGNATE Cloud』は人材の発掘から、育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。