企業がDXを進めていくためには、専門的なスキルを持つDX人材の確保が必要不可欠です。しかし、現在では多くの業界でDX人材が求められており、人材獲得競争が激化しています。DX人材を確保するためには、採用戦略全体の見直しが求められます。必要なスキルを持っているか、自社のビジョンや価値観に共感してくれるかなど、検討すべき要素が多く、理想的な人材を見つけて採用することは簡単ではありません。本記事では、DX人材の採用が難しい5つの理由を深掘りし、その背景を紹介するとともに、採用成功に向けた具体的な7つの対策について解説します。DX人材の重要性を再認識し、採用のハードルを乗り越えるためのポイントを押さえることで、DX化の波に乗り、持続的な成長を実現する一助となれば幸いです。DX人材採用が難しい5つの理由現在、主として以下の5つの理由によって、多くの企業でDX人材の採用が難しくなっている状況です。人材市場の競争激化適切なスキルセットの不足社内体制とのミスマッチ給与や待遇のギャップ社内での育成が追いつかないそれぞれの理由について順番に解説します。自社における人材採用の課題を改めて確認し、対処していくためにも、これら5つの理由について把握しておきましょう。1. 人材市場の競争激化DXを推進する人材に対する採用ニーズは、国内外問わず急速に高まっています。「DX人材」に統一的な定義はありませんが、経済産業省の資料「DXレポート2」では、DX人材を以下のように示しています。この定義を参考に、自社のDX推進に必要な人材像を具体的に設定することがポイントです。自社のビジネスを深く理解したうえで、データとデジタル技術を活用してそれをどのように改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描ける人材特にIT・デジタル技術の活用に長けている人材はDXを進めるうえで欠かせない存在として、多くの企業が積極的な採用を図っています。しかし、DX人材は非常に希少であり、大企業からスタートアップに至るまでさまざまな企業が競い合って採用しようとしています。そのため、優れたDX人材ほど多くの会社からオファーを受けており、給与や働き方の面で最も条件の良い企業を選ぶ傾向にあります。実際にIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が行ったアンケート調査(2023年実施)によると、DXを推進する人材の獲得・確保の課題として、「魅力的な処遇が提示できない(41.3%)」「魅力的な仕事を用意できない(24.1%)」「働く環境や就業形態などが応募者の条件に合わない(18.4%)」といった回答をする企業が多く見られました。このように、DX人材の採用競争が激化している現在は、企業が他社に勝ち抜くうえで、給与だけでなく魅力的なプロジェクトや成長機会などを提供する必要があります。スキルの高いDX人材は、報酬だけでなく、リモートワークを導入していたり、キャリアパスが明確化されていたりすることも重視するため、柔軟な働き方を提案できない企業は今後の市場競争で不利になりやすいでしょう。特に中小企業やリソースが限られている企業にとっては、優秀なDX人材を採用するのが一層難しくなっています。DX人材が不足している現状について、さらに詳細なデータを参照しながら理解を深めたい場合は、併せて以下の記事をご覧ください。DX人材の不足とは?現状と原因、対応策を解説 参考:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)、「DX 動向 2024 - 深刻化する DX を推進する人材不足と課題」2024年7月25日2. 適切なスキルセットの不足DXを推進する人材には、幅広いスキルが求められます。ITやデジタル技術の知識だけでなく、データ解析やAI、クラウド技術に関する理解、ビジネス戦略を立案し実行する能力などが必要です。こうした複数の分野にわたる専門知識を持つ人材は限られており、すべての条件を満たす完璧な候補者を見つけるのは非常に難しいのが現状です。多くの企業では、DX推進に必要なスキルセットを持つ人材不足に直面しており、そのため採用基準を柔軟に見直すなどの対応が求められています。また、経済産業省では「DX推進スキル標準(DSS-P)」を策定しており、DX人材に求められるスキルや役割を定義しています。企業はDX推進スキル標準を活用することで、DX実現に向けた人材の確保や育成計画を具体化しやすくなります。しかし、依然として必要なスキルを全て持つDX人材を見つけるのは大きな課題となっています。DX推進スキル標準の詳細は、以下の記事でまとめています。DX推進スキル標準とは?必要性、5つの人材類型、活用イメージ3. 社内体制とのミスマッチたとえDX人材の採用に成功したとしても、企業内のDX推進の仕組みが整っていなければ、その人材が力を十分に発揮できず、モチベーションが低下したり、最悪のケースでは早期に離職してしまったりする可能性があります。特に、既存のビジネスモデルや業務プロセスを引き続き採用している企業では、新たな技術や変革を導入しようとするDX人材がなじみにくいケースが多く見られます。例えば、レガシーシステム(※)を使用していたり、硬直的な企業文化が根強く残っていたりする職場では、DX人材が持つスキルや知識を生かせないばかりか、ストレスを感じやすくなります。その結果、短期間で辞めてしまうケースが増え、外部からのDX人材の確保を図るどころか社内人材の流出が起こってしまい、企業全体のDX推進に深刻な悪影響を与えかねません。※:主に技術革新による代替技術が広く普及した段階において、旧来の技術基盤により構築されているコンピュータシステムのこと4. 給与や待遇のギャップ採用市場で優れたDX人材を惹きつけるには、給与や待遇面で他社に引けを取らない条件を提示する必要があります。しかし、中小企業や人材採用に多くのリソースを割けない企業にとって、他社が提示する「高額な給与」や「柔軟な働き方」といった魅力的な条件に対抗するのは難しい現状です。DX人材はその希少性ゆえに、自身のスキルに見合う高額な報酬を求めるほか、リモートワークやフレックスタイムといった柔軟な勤務形態を重視する傾向があります。このような条件を満たせない企業では、候補者が他社へ流れてしまうリスクが高く、DX人材の獲得が難しくなります。待遇面での差が企業間の大きな優劣関係を生み出し、特にリソースが限られている企業は競争で不利な立場に立たされるケースが多くなっている状況です。なお、DX推進と働き方改革は、従業員の柔軟な働き方を支援しつつ、生産性や業務効率の向上を図るために相互に補完し合う関係にあります。DXが進むことで、リモートワークやフレックスタイムが導入しやすくなり、働き方改革が促進される一方で、働き方改革によってDX推進の重要性がさらに高まるのです。DXと働き方改革の関係について、詳しくは以下の記事で解説しています。DX推進で働き方改革を実現する方法とは?関係と流れを解説5. 社内での育成が追いつかないDX人材の外部採用が困難な場合、既存の社員を育成する方法もありますが、これにも課題が伴います。多くの企業では、DXの推進に必要なスキルを持つ社員を社内で育てるための時間やリソースが十分に確保されていません。特に中小企業においては、リスキリングやトレーニングのプログラムが整備されていないため、必要なスキルを持つ人材を内部で育成するのが非常に難しい状況です。こうした企業では、DX推進のために即戦力となる人材を外部から採用する必要がありますが、採用市場の競争激化のために優秀な人材を確保するのが非常に困難です。社内での育成体制が整っていない状況も、企業のDX推進を妨げる大きな要因となり得るのです。DX人材採用成功のコツ7選ここまでに紹介した理由を踏まえて、本章ではDX人材の採用を成功させるコツとして知っておきたい、以下の7つを取り上げます。DX戦略と目標の明確化必要なDX人材を明確にする柔軟な採用基準とリスキリングの活用採用チャネルの多様化社内外リソースの活用福利厚生やキャリアパスの整備テクノロジーを活用した採用プロセスの効率化それぞれのコツを順番に解説しますので、着手できるものから実践してみましょう。1. DX戦略と目標の明確化企業がDX推進を成功させるためには、まず自社のDX戦略を明確にすることが不可欠です。DX戦略とは、企業や個人がDXを推進・実現するための戦略を指します。DXの推進にあたっては企業活動そのものを全体的かつ抜本的に見直し変革していくことが求められるため、適切な戦略のもと組織全体で一体感を持って取り組んでいくことが大切です。DX戦略の立案は、以下のステップで進めるのが基本です。DX推進におけるビジョンの策定現状の把握と課題の抽出目標の設定ソリューションの選択と実行計画の策定評価と改善この中でも、DX人材の採用を目指すうえでは、目標の設定が大切です。自社の現状や抱えている課題、直近の外部環境をもとに目標を設定していきます。DX実現のためにどれほどの変革を目指すのか、どの部門で何を実行するのかといった目標を現実的かつ具体的に立てましょう。ここで設定する目標は、DX人材への効果的なアピールとなるよう、定量的な(数値化できる)内容にすることが望ましいです。採用市場でDX人材の興味を引くためには、企業がDXを通じてどのような成果を目指し、どの部分に変革を加えようとしているのか、目標を具体的に示すことが大切です。例えば、業務効率の改善、顧客体験の向上、データドリブン(※)による意思決定など、DX推進の目標をはっきりさせることで、DX人材はその企業における自身の役割をイメージしやすくなります。※:売上データやマーケティングデータ、WEB解析データなど、データに基づいて判断・アクションすることDX人材は、革新的・挑戦的なプロジェクトに参加することで、自身のスキルを実践的に活かし、また新たな成長機会を得られることに魅力を感じます。例えば、最新のデータ解析技術を用いた業務改善や、顧客体験向上のための新サービス開発といった、具体的な成果に貢献できるプロジェクトです。企業がどのようにDXを推進し、結果として何を得たいと考えているのかを伝えることで、優秀なDX人材にとって魅力的な職場環境としてアピールすることが可能です。また、目標を含めてDX戦略を明確に策定しておくことで、候補者にDX推進に対する本気度が伝わりやすくなると同時に、企業側でも採用基準やプロセスの一貫性を保ちやすくなります。DX推進における戦略の重要性や立案方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事をお読みください。DX戦略とは?意義、立案手順を解説【事例あり】2. 必要なDX人材を明確にする企業がDXを推進する際には、そのために必要なスキルや役割を具体的に設定することが不可欠です。DX人材には、ITの知識だけではなく、データ解析、AIの技術、クラウドの運用知識、さらにはビジネス戦略の実行能力などが求められるケースが多くあります。これらのスキル・役割を具体化することで、DX人材採用時の基準が明確になり、採用活動を効率化できます。ターゲットを絞った採用を進められるため、自社のDX推進に貢献してくれる人材を見つけやすくなります。また、企業に必要な人材像が明確になれば、候補者側としても自身のスキルがどのように企業に貢献できるかイメージしやすくなり、入社に対する興味・意欲を引き上げる効果も期待できます。3. 柔軟な採用基準とリスキリングの活用DX人材が持つべきスキルは多岐にわたるため、すべてを備えた理想的な人材を見つけるのは現実的に難しいことがあります。そのため、採用基準を柔軟に設定したうえで、入社後の成長性やポテンシャルに期待する方針を取るのも一つの手です。例えば、求めるITスキルを基礎的なレベルまで緩和しつつ、高い順応性やポテンシャルが期待できる人材を採用し、入社後にリスキリングに取り組んでもらうことで、DX人材を社内で育成するアプローチを取るケースが見受けられます。リスキリングは、社員が新たなスキル・知識を習得し、既存の職務や新しい業務に適応できるようにする取り組みです。リスキリングを実施することで、個々の企業のニーズに合わせたDX人材を育成できるうえに、外部からすでに一人前のDX人材を採用する場合と比べて、採用コストを抑えられる可能性もあります。リスキリングは、新規採用者だけでなく、既存の社員にも取り組んでもらうことで、企業全体のスキル向上と一体感が生まれ、DX推進を加速させる効果が期待できます。特に既存社員は業務プロセスや企業文化に精通しているため、リスキリングによって新たな技術やデジタル知識を習得することで、即戦力としての貢献度がさらに高まります。DX推進で効果的なリスキリングについて、詳しくは以下の記事でまとめています。DX推進にあたってリスキリング制度の導入を検討している方に役立つ情報を提供していますので、併せてご覧ください。DX推進におけるリスキリングとは?理由、メリット、進め方を解説4. 採用チャネルの多様化優れたDX人材を確保するためには、採用手段の幅を広げることも欠かせません。従来の求人サイトやリクルートエージェンシーなどの活用に加え、ソーシャルメディアや業界特化型の求人プラットフォーム、DX関連のカンファレンスやネットワーキングイベントなど、多種多様なチャネルで採用活動を進めることが大切です。特にデジタルネイティブ世代を狙う場合には、LinkedInやX(旧:Twitter)といったオンラインネットワーキングツールの活用も効果的です。これら複数の手段を組み合わせることで、幅広いバックグラウンドを持つ候補者にアプローチでき、理想のDX人材に出会う可能性が高まります。そのほか、特定のターゲット層に絞った採用を行いたい場合には、特定の技術や業界に焦点を当てたイベントへの参加も効果的です。5. 社内外リソースの活用効率的な採用活動を追求するうえでは、社内のリソースを活用し、リファラル採用によりDX人材の獲得を図る方法も有効です。リファラル採用は、自社の従業員や社外の取引先など、社内外で信頼できる人から自社に見合った人材を紹介してもらう採用手法です。現職の従業員や取引先が個々のネットワークを生かして候補者を紹介するため、企業文化に適応しやすく信頼性の高い人材を得やすい点が強みです。社内リソースの活用という観点では、既存社員に協力してもらい、候補者と面談を実施してもらうのも一つの手です。選考中に候補者とバックグラウンドが似た社員との面談を設定し、候補者が気になっていることを気軽に話してもらう場を作ることで、候補者の疑問や懸念を引き出して解消できます。結果として候補者の企業理解が深まり、自社に魅力を感じてもらえる可能性が高まるでしょう。また、外部のリクルーターやDX専門の人材紹介会社を利用するのも一つの選択肢です。人材採用の専門家は市場・業界に精通しており、個々の企業のニーズに合った候補者を素早く見つけ出すことを得意としています。社外リソースの活用は、外部からの人材採用だけでなく、社内の人材育成の観点でも大いに役立ちます。DX人材の育成に特化した外部機関からサポートを受けることで、社内にノウハウがなくてもDX人材を効果的かつ効率的に育成できます。社外リソースを活用したDX人材の育成方法としては、オンライン講座や研修の受講などが挙げられます。弊社ではデジタルスキル標準に完全対応で、DXスキルアセスメントから自社ケースの実践まで、学びと実務支援が一体となった教育プラットフォーム『SIGNATE Cloud』を運営しています。『SIGNATE Cloud』はDX人材の発掘から育成、そして学んだことを実際の業務につなげることが可能です。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら6. 福利厚生やキャリアパスの整備DX人材は、高額な報酬だけでなく、自己成長の機会やキャリアの発展などが期待できる環境も求めています。優秀なDX人材を引きつけるためには、リモートワークやフレックスタイム制度、育児や介護のサポートなど、柔軟な福利厚生を提供することが重要です。併せて、企業内でのキャリアプランを明確に示し、長期的な成長ビジョンを伝えることで、DX人材が長きにわたって企業に貢献してくれる可能性が高まります。特にDX人材は、新しい技術やビジネスに関するプロジェクトに積極的に取り組む意欲が強い傾向があるので、スキル向上やキャリアアップが可能な環境を整えておくことが欠かせません。このように福利厚生の充実やキャリアパスの設計は、優秀な人材の確保だけでなく、その後の定着率向上にも大きな効果をもたらすでしょう。7. テクノロジーを活用した採用プロセスの効率化DX人材の採用市場は競争が激化しており、優秀な候補者は複数社の選考を同時に受けている可能性が高いです。現職中の候補者の場合は面接に割ける時間が少ないため、先に他社で選考日時が決まってしまえば、そのまま他社で意思決定されてしまう可能性があります。そのため、DX人材の採用活動では、選考プロセスをスピーディーに進行させることを意識しましょう。採用プロセスのスピードを向上させるためには、AIやデータ分析ツールといったテクノロジーの活用が効果的です。例えば、AIを使って大量の応募者データを自動で処理し、適合する候補者をスクリーニングすることで、採用プロセスのスピードを飛躍的に向上させ、企業に最適なDX人材を迅速に見つけられるようになります。さらに、データ分析を通じて採用活動全体の効果を可視化すれば、「どのリクルートチャネルが最も成果を上げているのか」「どの部分に改善の余地があるのか」などを即座に把握できます。このようにテクノロジーを積極的に活用すれば、採用プロセスのスピードを最大限に早められます。そのうえコストを抑えつつ、質の高いDX人材の確保が実現できるでしょう。DX推進に役立つテクノロジーについて理解を深めたい場合は、併せて以下の記事をお読みいただくことをおすすめします。DX推進を支える7つの技術!一覧にして解説まとめDX人材の採用成功には、単に求人を出すだけではなく、明確なポジションの定義や市場の動向を踏まえた魅力的なオファー、スキル・企業文化の両面でのマッチングを重視した選考プロセスなど、複数の戦略を組み合わせることが必要です。また、外部のリソースを活用することや、社内のリスキリングを推進することも有効な手段となります。DX人材の採用・確保に成功し、その力を最大限に発揮してもらえれば、デジタル技術を活用した革新的なサービスの提供や業務プロセスの最適化などが実現し、持続的な成長への道が開かれます。DX人材の採用は決して簡単なことではありませんが、本記事の内容を参考にしながら、戦略的かつ柔軟に対応していくことが、成功へのカギとなるでしょう。