2022年11月30日にChatGPTが公開されて以来、生成AIサービスへの関心が急速に高まっており、個人だけでなく企業でもその利用が検討されています。しかし、生成AIには技術的なセキュリティリスクが指摘されており、データ漏洩やAIモデルの脆弱性を狙ったサイバー攻撃などが懸念されています。例えば、外部からの攻撃や内部の不正アクセス、生成AIが誤って偽情報を生成するリスク、さらには悪意のあるユーザーが意図的に偽情報を拡散するリスクが存在します。これらのリスクに対処するためには、利用者が事前にセキュリティリスクを十分に把握し、適切な対策を講じることが重要です。この記事では、生成AIの利用に伴うセキュリティリスクを具体的な事例とともに解説し、安全に活用するために知っておくべき対策方法についても紹介しています。生成AIを活用する際の参考にしてください。生成AIのセキュリティリスクとは?生成AIのセキュリティリスクとは、不正なアクセスや操作などによってデータが漏洩したり、AIモデル(※)が悪用されたりするリスクを指します。生成AIは、従来のAIとの比較の中で、過去のデータをもとに新たなコンテンツを生成する技術であるのが特徴的です。しかし、その普及とともに技術的なセキュリティリスクが浮上しています。具体的には、データ漏洩やプロンプトインジェクション、AIモデルの脆弱性などが主要なセキュリティリスクとして挙げられます。上記のような生成AIのセキュリティリスクを軽減するためには、技術的な対策が必要不可欠です。生成AIのメリット・デメリットについて、詳しくは以下の記事で解説しています。生成AIのメリットとデメリットとは?デメリットの対策も解説※:人工知能がデータを分析し、予測や判別を行うための仕組みのこと。生成AIのセキュリティリスクの具体例ひとことに生成AIにはテキスト生成や画像生成、音声生成などさまざまな種類があり、想定されるセキュリティリスクも多種多様です。本章では、生成AI活用におけるセキュリティリスクの具体例として、以下の3つのケースをピックアップして取り上げます。データ漏洩とプライバシー侵害プロンプトインジェクション攻撃AIモデルのセキュリティ脆弱性それぞれのケースを順番に解説しますので、生成AIのセキュリティリスクに対する理解を深めましょう。具体例①:データ漏洩とプライバシー侵害生成AIが取り扱うデータには個人情報や機密データが含まれることが多く、セキュリティ対策が不十分だと不正アクセスや情報漏洩によってこれらが悪用されるリスクがあります。生成AIは大量のデータを処理するため、適切な保護が施されていない場合に、データが誤って公開されたり、第三者に悪用されたりするリスクが高まります。プライバシーの侵害やデータ漏洩が発生した企業では、社会的な信頼の失墜や顧客との関係悪化など深刻な影響を受けるリスクが懸念されます。さらに、個人情報保護法に違反すれば、企業は多額の罰金や損害賠償を支払うことになり、財政面でも大きな打撃を受けるリスクがあります。具体例②:プロンプトインジェクション攻撃プロンプトインジェクションとは、生成AIに意図的に誤作動を起こさせるような指令入力を与え、提供側が出力を禁止している情報(例:開発に関する情報、犯罪に使われうる情報など)を生成させる攻撃のことです。この手法は、ユーザーが生成AIに対して不正な命令を送り、AIに通常許可されていないデータや結果を出力させることが目的です。これにより、攻撃者はシステムの制御を奪ったり、機密情報を盗んだり、不正な操作を行ったりすることが可能となるため、非常に深刻なリスクとして考えられています。プロンプトインジェクション攻撃は、特に生成AIを意思決定支援システムとして利用する場合、その信頼性や安全性を著しく損なう可能性があります。このような攻撃に対しては、フィルタリングや入力データの検証など、生成AI特有の対策を行う必要があります。例えば、入力プロンプトを厳密に監視・フィルタリングする仕組みや、異常な入力が検出された場合にアラートを発するシステムを導入することで、プロンプトインジェクションのリスクを低減できます。具体例③:AIモデルのセキュリティ脆弱性生成AIのモデルに対して、セキュリティ脆弱性が指摘されています。生成AIのモデルに関する更新・保守が不十分な場合、攻撃者に悪用されるリスクが高いです。例えば、生成AIのモデルに対して不正アクセスが行われ、意図的に誤ったデータが入力されると、生成AIは誤った結論を出し、企業の意思決定に重大な影響を与えることがあります。また、生成AIのモデル設計が適切でない場合、外部からの攻撃に対して脆弱性が高まり、セキュリティホール(※)を突かれることが考えられます。こうした脆弱性が放置されると、生成AIを使用したシステムが簡単に攻撃対象となり、ビジネスや社会的な影響が甚大になるリスクがある点を把握しておきましょう。※:プログラムに生じた不具合や、設計上のミスによって発生する情報セキュリティの穴(欠陥)のこと。生成AIのセキュリティリスクに対する対策生成AIは高度な技術により、多くの分野で革新をもたらしていますが、その反面、セキュリティリスクも存在します。そのため、セキュリティリスクに対して適切に対策を講じることが不可欠です。本章では、生成AIのセキュリティリスクに対する代表的な対策を3つ紹介します。データ保護の強化AIモデルの防御策生成AIのセキュリティ監視それぞれの方法について順番に解説しますので、生成AIのセキュリティ対策にお役立てください。対策①:データ保護の強化生成AIは、大量のデータを学習することで高度な生成能力を発揮します。しかし、このデータが不正に利用されたり漏洩したりする恐れがあります。そのため、データ保護を強化することが、生成AIのセキュリティ対策において重要な課題だといえます。生成AIの運用では、大量のデータがネットワーク上を行き来します。この通信経路でのデータ漏洩を防ぐためには、データを暗号化することが基本的な対策です。以下に、データの暗号化にあたって意識しておくべきポイントをまとめました。ポイント補足通信経路の暗号化生成AIがクラウド上で運用される場合、データがサーバー間を移動する際に通信内容が第三者に盗み見されるリスクがあります。これを防ぐため、データが移動する際には「SSL/TLS」などの暗号化技術を用いて、データを保護します。データストレージの暗号化生成AIが学習するために保存されるデータも暗号化する必要があります。これにより、もしストレージへの不正アクセスが発生しても、暗号化されたデータは解読が困難な状態となります。また、アクセス権限を厳密に管理し、データを扱える人員を必要最低限に制限することも不可欠です。アクセス権限の管理ポイントとしては、以下の対策が有効です。ポイント補足認証と認可の徹底生成AIにアクセスできるユーザーやシステムを制限するため、適切な認証(誰がアクセスしているのかを確認する)と認可(アクセス権を持つ者にのみ許可する)を実施します。これにより、正当な権限を持つユーザーのみがデータにアクセスできるようになります。役割ベースアクセス制御(RBAC)ユーザーごとに異なる権限を設定し、必要最小限のデータにのみアクセスできるようにする仕組みです。例えば、管理者はすべてのデータにアクセスできる一方、一般ユーザーは特定のデータにしかアクセスできないように設定することが可能です。企業は、GDPR(※)や日本の個人情報保護法などの法規制を遵守する必要があります。定期的なセキュリティ監査を実施して、保護対策が効果的かどうかを確認することで、潜在的な脅威に対する防御力を強化することが可能です。※:「EU一般データ保護規則」を指し、個人データ保護やその取り扱いについて詳細に定められたEU域内の各国に適用される法令のこと。特にEUに子会社や支店、営業所を持つ企業などについては、現地法人の従業員や顧客の個人データをGDPRの原則に基づいて適切に扱う必要性が指摘されている。対策②:AIモデルの防御策プロンプトインジェクションをはじめとする攻撃から生成AIのモデルを守るためには、入力データの検証を徹底し、悪意のあるプロンプトがAIに影響を与えないようにすることが重要です。また、生成AIの特性上、AIモデル自体の更新やセキュリティパッチの適用を定期的に行うことも欠かせません。AIモデルが常に最新の状態で保たれていないと、脆弱性が放置されることになり、攻撃者に悪用されるリスクが高まります。これを実現するには、不正な入力を検出・除去するための技術的なフィルタリングや、入力データの正当性を確認するプロセスの導入が必要です。また、生成AIのモデルに対する攻撃が確認された場合は、迅速に対応できる仕組みを整えることが重要です。例えば、OpenAI社の「GPT-4 System Card」では、AIモデルに関連するセキュリティや倫理リスクへの対策が説明されており、フィードバックループと継続的な監視の重要性が強調されています。生成AIを活用する企業は、このようなモニタリングとフィードバックの仕組みを導入し、常にセキュリティリスクを管理することで、生成AIの安全性を確保することが求められます。対策③:生成AIのセキュリティ監視生成AIのセキュリティを守るためには、システムの動作を常に監視し、異常な動作や出力が発生した際にすぐに対応できる体制・システムを整えることが重要です。セキュリティインシデント(※)を早期に発見することで、リスクを最小限に抑えることができます。※:サイバー攻撃によるサービスの停止やヒューマンエラーによる情報漏えい、自然災害などによる事故など、企業の安全性を揺るがすような情報セキュリティに関する事象を指します。リアルタイム監視システムの導入ポイントは、以下のとおりです。ポイント補足不正アクセスの検知生成AIにアクセスするユーザーやシステムの挙動を監視し、通常とは異なるアクセスや操作があった場合にアラートを発する仕組みが必要です。例えば、深夜に大量のデータを不自然に操作する動作が検出された場合、不正アクセスの兆候とみなし即座に対応できます。異常な生成物の監視生成AIが予期せぬ不適切なコンテンツや不正確な情報を生成する場合もあります。これらをリアルタイムでチェックし、問題があれば自動的に修正やブロックを行う仕組みも有効です。また、生成AIのシステムでは、アクセスや操作に関するログを常に記録・監査することも大切です。定期的なログの見直しにより、潜在的なリスクや脆弱性を特定できます。以下に、ログ監査の強化にあたって把握しておきたいポイントをまとめました。ポイント補足アクセスログの定期的な確認生成AIにアクセスするユーザー、アクセス日時、操作内容などを記録したアクセスログを定期的に監査し、不正な行為や異常な挙動がなかったかを確認します。異常行動のパターン分析ログを分析し、通常の利用パターンから外れた異常行動の兆候を発見することも重要です。これにより、潜在的なセキュリティ脅威を早期に検知できます。このようなポイントを踏まえて定期的なモニタリングと検査を行うことで、生成AIの安全性を継続的に確保していくことが求められます。以上、生成AIのセキュリティリスクに対する代表的な対策を3つ紹介しました。生成AIの活用にあたっては、セキュリティ面以外にもさまざまなリスクが懸念されています。セキュリティ面以外の生成AI活用のリスクについて知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。生成AIのリスクとは?法的・倫理的・技術的リスクと対策まとめ生成AIは、私たちの日常生活やビジネスに大きな革新をもたらす一方で、セキュリティリスクも伴います。本記事で見てきたように、生成AIのセキュリティ対策には、データ保護、アクセス制御、リアルタイム監視、そして外部からの攻撃に備えることが重要です。特に、データの暗号化や匿名化、ログの監視など、基本的なセキュリティ対策をしっかりと実施することが、生成AIを安全に運用するカギとなります。さらに、リアルタイムの異常検知システムや、AI自体の動作監視など、生成AIならではの特有のリスクにも対応する仕組みが求められます。生成AIのセキュリティリスクによる影響やその対策について不安があれば、生成AI活用に関する専門知識を備えた外部の研修・教育機関のサポートを受けるのも一つの方法です。弊社株式会社SIGNATEでは、セキュリティリスクを含めた、生成AIに関するリテラシーと実践的なスキルを学べる『生成AI活用スキル習得ワークショップ』を提供しています。本プログラムは座学とワークショップを組み合わせたハイブリッド形式で、参加者が効率的に学べる構成となっています。特に、生成AIの導入において課題となる「どの業務で生成AIを活用すべきかの特定」や、実務に基づいた「ChatGPTカスタムプロンプトの開発」に重点を置いており、社内で生成AIの活用を推進できる人材の発掘・育成をサポートします。ご興味のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら