現在、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいますが、その主な目的は業務の改善や効率化、ひいては生産性の向上です。しかし、これを実現するためには、ただ闇雲にDXを進めるのではなく、まず自社内の業務課題を特定することが必要です。そこでカギとなるのが、「業務プロセスの可視化」です。そこで本記事では、業務プロセスの可視化とは具体的にどういったことを指すのか、取り組みが必要な理由と併せて分かりやすく解説します。実際に業務プロセスを可視化していく際の方法や役立つツールも紹介していますので、DXの効果的な推進を目指す際にお役立てください。業務プロセスの可視化とは?業務プロセスの可視化とは、社内・部署内で実施されている業務が、どのような手順で進行して最終的な成果物に至るのか、その流れを言葉や図で明確に示し、誰にでもわかるようにすることです。多くの業務には一定の進め方がありますが、その中には担当者の判断や感覚に依存している部分が多いです。プロセスそのものが意識されていないケースもあります。その結果、同じ業務であっても担当者ごとに手順や方法が異なることがよく見られます。しかし、企業側から見ると、次のようなリスクが伴う可能性があります。実際には必要のない手順が含まれ、無駄な時間がかかっている担当者の異動・退職が決まっても、業務が属人化していて円滑な引き継ぎが難しいプロセスが可視化されていない、つまりブラックボックス化している状況では、見えない部分で無駄が生じ、生産性の低下につながる可能性があります。ここで言う「ブラックボックス化」とは、業務プロセスや手順が外部から見えず、どのように業務が進行しているのかが明確でない状態を指します。この状態では、どの部分に問題があるのか判断しづらく、業務改善が難航することがあります。例えば、担当者のみが業務の詳細を把握しており、他のメンバーが手を出しづらい状況がブラックボックス化の典型です。現場で日々業務を行っている従業員にとっては、普段の業務の中で無駄なプロセスが発生していたり、隠れた課題があったりすることに気づくのは難しいものです。そのため、企業が前述のリスクを回避するには、業務プロセスの可視化が欠かせません。業務プロセスの可視化は、業務の改善や効率化、自動化を実現するための最初のステップです。プロセスを視覚的に表すことで、客観的に業務を分析でき、これまで見過ごされていた問題点や改善の余地が明確になります。そこで初めて、具体的な解決策を検討できるようになるのです。業務プロセスの可視化が必要な理由業務プロセスの可視化は、組織の業務効率向上や生産性の向上に不可欠な手段です。本章では、組織の業務効率向上や生産性の向上を果たすうえで、業務プロセスの可視化が必要とされる主な理由として、4つの内容をピックアップして解説します。担当業務の明確化業務プロセスを可視化することで、誰がどの業務をどのように進めているかを、同じ部署の上司や同僚だけでなく、他の部署の従業員も把握できるようになります。これにより、各自が担当している業務内容や役割が明確になり、相互理解を深めることができます。なお、可視化されたプロセスは、マニュアル化しておくと良いでしょう。言葉だけでは伝わりにくい場合には、図や表を活用し、誰でも理解しやすいマニュアルを作成することが重要です。こうすることで、業務内容・担当領域に対する認識のズレを解消し、さらに相互理解が促進されます。部署内や部署間での理解が深まることで、協力が必要な際の問い合わせ先が明確になり、コミュニケーションもスムーズになります。その結果、業務を効率的に進めることが可能となります。ボトルネックや課題の特定業務は一連の流れの中で進行するため、途中で何か問題が発生すると、その後のすべてのプロセスに影響を及ぼし、業務が停滞したり、生産性が低下したりするおそれがあります。こうした問題の発生箇所を「ボトルネック」と呼びます。ビジネスでは、ボトルネックを特定して改善することが重要です。業務フローが単純であればボトルネックの発見は比較的容易ですが、プロセスが多く複雑な場合には特定が非常に困難です。そこで、業務プロセスの可視化が求められます。各業務を細かく分解することで、ボトルネックを見つけやすくなります。さらに、業務プロセスを可視化することで、業務の無駄や解決すべき課題が明確になります。事業責任者や各部門のマネージャー、担当者などへのヒアリングを通じて業務内容の詳細・プロセスの連携方法を把握し、それらをグラフ・フローチャートにまとめて可視化します。これにより、無駄な部分が具体的に見えるようになり、業務フローの改善点が浮き彫りになるでしょう。これまで漠然と「無駄かもしれない」と感じていた点が明確になるだけでなく、潜在的な無駄や見過ごされていた課題も明確になることがあります。可視化されたデータをもとに人員配置の再検討やプロセスの見直し、経営リソースの最適化を進めることで、業務効率の大幅な向上が期待できます。属人化の解消従業員の少ない企業では、特定の業務を一人の従業員が長期間担当するケースがよくあります。このような場合、他の従業員がその業務の詳細を把握できず、その人しかできない業務になってしまうことがあります。このような状況を「属人化」と言います。属人化が進むと、担当者が突然の退職や長期休職した際に、その業務を引き継げる人が社内におらず、業務が完全に停止するリスクが生じます。さらに、作業手順が担当者の判断に依存しているため、無駄やミスが発生しても他の人が気づかないままになる可能性もあります。しかし、業務プロセスを可視化しておけば、担当者以外の従業員も業務の内容や進行方法を理解できるようになります。誰もが同じ手順で仕事を進められるようになり、結果としてオペレーションの品質を一定レベル以上に維持しやすくなるのです。属人化の解消は、特に工程が複雑な業務で大きな効果を発揮します。例えば、「この仕事はこの人でなければ」という属人的な仕事が業務フロー内に存在すると、当該人物の病欠、急な退職などの理由で、業務全体が停滞してしまうリスクがあります。その点、属人化を解消しておけば、上記のようなケースでも、緊急時には他の従業員が担当者の役割を引き継ぐことが可能です。事業全体のコスト削減例えば、事業部内で行われているすべての業務プロセスを可視化することで、その事業にどれだけの時間が費やされているかを把握できます。これにより、毎月の人件費がどのくらいかかっているかを算出することが可能です。さらに、各業務の内容を詳細に書き出すことで、人件費だけでなく、具体的にどの業務にどれだけのコストがかかっているかを明確にできます。こうして可視化されたデータをもとに、その事業にかかるコストが適切かどうかを評価して、もしコストが高すぎる場合には、どの業務を見直すことでコスト削減が可能かを分析することで、改善策を実行しやすくなるでしょう。業務プロセスを可視化する方法業務プロセスの可視化は、業務改善や効率化を進めるための第一歩です。この取り組みを丁寧に実施すれば、後の改善効果に大きな影響を与えることは間違いありません。ただし、業務プロセスの可視化に過度に時間をかけすぎると、元々の目的を見失う可能性があります。そこで、本章では業務プロセスを可視化する際に押さえておくべき基本的な手順を、3つのステップに分けてご紹介します。①業務内容や無駄・課題の洗い出しまずは、業務の洗い出しから始めます。その作業を実際に担当していない人が業務プロセスの可視化を進める場合、担当者に細かくヒアリングすることが不可欠です。業務内容だけでなく、日々の作業手順についても一つひとつ丁寧に聞き取り、できる限り詳細に洗い出しましょう。担当者が複数いる場合は、それぞれの手順に違いがないかもチェックすることが重要です。これに加えて、業務の中で生じている無駄・課題の洗い出しも行います。担当者へのヒアリングを通じて、現場で困っていることや改善が求められている点を明らかにしたうえで、カテゴリーごとに整理・リスト化して可視化します。こうして問題点がリストアップされると、従業員同士が改善すべき課題を共有しやすくなります。組織全体で、前向きに改善に取り組む意識を持つきっかけとなるでしょう。②業務マニュアルの作成・整備業務内容の洗い出しが完了したら、その内容をもとに業務マニュアルを作成しましょう。全体の流れはもちろん、具体的な手順やルールを誰でも理解できるように明確に記載し、作業を標準化して他の従業員と共有できるようにします。文字だけでなく、表や図を用いて業務の流れを視覚的に表現することも重要です。このように業務マニュアルを整備しておくことで、担当者が異動や退職する際にも、業務の引き継ぎがスムーズにできるようになります。業務はマニュアルに従って進めた後、一定期間が経過したら、再度問題がないかチェックすることが重要です。この際、マニュアルを基準に改善点を検討すれば、新たにヒアリングを行う手間をカットできます。③進捗表・業務棚卸表を用いた業務実態の把握マニュアル作成と同時に、業務内容や進捗状況を部署内外のスタッフと共有できる仕組みを整えることも、業務プロセスの可視化に有効です。担当者以外の従業員もチェックできる進捗表や業務棚卸表などを作成しておけば、情報共有が円滑になります。これにより、業務の現状を把握しやすくなり、第三者の視点で無駄なプロセスがないかをチェックすることが可能です。担当者に過度な負担をかけていないかチェックできるため、過労などのリスク防止にも寄与するでしょう。また、従業員の働き過ぎを防ぐためには、勤怠管理を徹底し、労働状況を適切に把握することも重要です。労働状況を把握するには、勤怠管理システムやタイムカード、ICカードなどを利用する方法が一般的です。長時間労働が常態化していないか、適切に休みが取れているかを労務管理部門がチェックし、従業員の健康をケアしましょう。労働時間の管理は企業にとっての義務ですが、業務プロセスの可視化にもつながる取り組みです。無理のない業務フローを維持するために、定期的な見直しが必要です。業務プロセスを可視化するツール前章で紹介した3つのステップを実践すれば、業務プロセスの可視化を進められます。とはいえ、慣れていない場合には、想定以上に多くの時間を費やしたり、従業員との連携がうまく取れずに軋轢を生んでしまったりするおそれもあるでしょう。こうしたリスクを回避するためには、業務プロセスの可視化に役立つツール・サービスの活用がおすすめです。例えば、従業員のPCの操作ログを収集してサーバーで集計したうえで、情報をもとに改善点を洗い出す作業を行えます。昨今リモートワークの比率が増え、従業員の労働環境が把握しづらい状況は、大きな経営課題です。業務プロセスの可視化に役立つツール・サービスは、多様な環境で働く従業員の就業状況を把握し、問題点を改善策に変えるうえで大きな効果を発揮します。PCの操作ログを情報源として分析するので、特にデスクワークがメインの企業では、大きな効果を発揮するでしょう。本章では、業務プロセスの可視化に役立つ代表的なツール・サービスを2つ紹介します。BacklogBacklog(バックログ)は、メンバーの作業を1ヶ所に集約した上で担当者や期限を設定し、優先順位を決めて作業を進められるプロジェクト・タスク管理ツールです。ガントチャートでタスクを可視化できるため、進捗を把握したり、作業遅延を早期フォローしたりすることも可能です。また、デザインがシンプルで直感的操作が可能なため、ウェブ制作やソフトウェア開発、広告代理店や新聞社など、企業規模を問わず多くの企業で採用実績を誇ります。2023年12月時点で、有料契約数が14,000件以上、サービス継続率は98.8%です。参考:株式会社ヌーラボ「Backlog」ConfluenceConfluence(コンフルエンス)は、組織単位での情報共有ツールです。文書ファイルを作成するように、簡単にページを作成できます。マクロも充実しており、リンクやオブジェクトの挿入も柔軟に対応可能です。作成したページは検索できるので、社内のナレッジ管理ツールとして活用できます。階層的な権限設定も可能です。文書校正ツールのように本文にコメントしたり、SNSのようにページに対してコメントしたりもできます。一般的なチャットツールが次々に流れていくフロー型の情報共有ツールであるのに対して、Confluenceは情報を蓄積するストック型の情報共有ツールとして情報資産管理を実現できる点が特徴です。参考:リックソフト株式会社「Confluence(コンフルエンス)-情報共有ツール」SIGNATE 生成AI活用スキル習得ワークショップの活用も有効業務プロセスの可視化や最適化は、生成AIを活用することで、より効果的・効率的に行えるようになります。生成AIとは、人工知能の一種であり、テキスト・画像・音楽・映像などのコンテンツを生成する能力を持つものです。生成AIのビジネスへの導入効果について、詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。生成AIのメリットとデメリットとは?デメリットの対策も解説弊社、株式会社SIGNATEでは、生成AIに関するリテラシー及び活用スキルを座学とワークショップのハイブリッド形式で習得できるサービス『生成AI活用スキル習得ワークショップ』を提供しています。生成AI活用のボトルネックである「生成AIを活用すべき業務プロセスの特定」と実務を題材にした「ChatGPTカスタムプロンプト開発」経験の蓄積に特化し、社内で生成AIを適切に活用かつ推進できる人材の発掘・育成を実現します。ご興味のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちらまとめ業務プロセスの可視化は、組織の業務効率向上や生産性の向上に不可欠な手段です。適切に行うことで業務の流れや問題点が一目でわかり、迅速な改善策を講じることが可能です。また、業務プロセスを関係者全員が共有できるため、チーム全体での理解が深まり、スムーズなコミュニケーションが促進されます。特に、DXが進む現代において、業務プロセスの可視化は、競争力を維持するための重要な取り組みと言えます。適切な方法や役立つツール・サービスを把握したうえで、継続的なプロセス改善を図りましょう。それが、企業の成長と成功へのカギとなります。