近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、企業の間で大きな注目を集めています。DXは単なるIT化やデジタル化を超え、ビジネスモデルそのものを革新する取り組みを指します。一方、働き方改革は労働環境や雇用形態を見直し、労働者の生産性向上やワークライフバランスを実現するための施策です。DXと働き方改革は一見別々の概念に見えるかもしれませんが、実は深い関連性があります。本記事では、DX推進によってどのように働き方改革が進むのか、その関係性や具体的な流れと併せてわかりやすく解説します。今後のDXおよび働き方改革の推進にお役立てください。DX推進と働き方改革の関係はじめに結論から述べると、DX推進と働き方改革は互いに補完し合う関係にあります。このことを深く理解するために、本章ではDX推進と働き方改革それぞれの概要から解説していきます。DX推進とは?DX推進とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを革新し、競争力を高める取り組みを指します。単なるIT導入やIT化とは異なり、DXでは企業全体の変革を目指します。DXを推進する際は、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった最新のデジタル技術を積極的に活用します。これにより、データの収集・分析が迅速かつ正確に行えて、業務効率化や新しいビジネス・サービスの提供が実現可能となります。ただし、DX推進を成功させるためには、組織全体の文化や働き方も変える必要があります。例えば、柔軟な働き方やイノベーションを促進する環境づくりが求められるでしょう。DX推進によって生じるメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説していますので併せてご覧ください。DX推進の9つのメリットとは?4つのデメリットについても解説働き方改革とは?働き方改革とは、日本において問題視されている労働力不足や労働者の要望などに対応するための取り組み全般を指します。働く人々がそれぞれの状況に応じて多様な働き方を選べるようにするための改革とも言い換えられます。働き方改革は、主として以下の目的で推進されています。労働時間の改善多様で柔軟な働き方の実現労働生産性の向上働き方改革を推進せずに現在の働き方を続けていると、事業の継続が難しくなったり、市場でのシェアを失ったりするリスクが高まるとされています。以下では、それぞれの目的について詳しく説明します。労働時間の是正日本では長時間労働が日常化しており、定められた労働時間を超える残業が頻繁に行われています。極端な場合には、労働災害の申請や過労死といった深刻な問題も発生しています。日本社会では長時間働くことを良しとする文化や習慣も根強く残っており、多くの企業では依然として残業や休日出勤が避けられない状況です。このような働き方は、育児や介護といった家庭の責任と仕事の両立を難しくしています。その結果、企業の売上や規模が縮小する原因にもなり得るため、企業が成長し続けるためには、働き方改革を通じて労働時間の見直しが必要とされています。多様で柔軟な働き方の実現日本では、企業に勤めて平日の朝から夕方まで働くのが一般的な働き方です。しかし、急速な高齢化と少子化が同時に進行し労働力が減少している日本では、従来の働き方に対応できる人が減少しています。つまり、従来の働き方に固執していると、必要な人材を確保するのが難しくなるのです。そのため、企業は多様な働き方を導入し、多様な人材を受け入れていくべきであると考えられています。労働生産性の向上日本の労働生産性の低さも、働き方改革が必要とされる理由の一つです。労働生産性とは、労働者一人がどれだけ効率的に成果を出しているかを示す指標で、労働力あたりの生産量で表されます。2022年のOECDデータによると、日本の一人あたりの労働生産性は85,329ドル(購買力平価換算で約833万円)でした。この数値は他の主要経済国と比べると低く、1970年以降で最も低い31位(OECD加盟38カ国中)に位置しています。少子高齢化が進み、労働力が減少する中で、労働生産性を向上させるためにも、働き方改革の推進が求められます。参考:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」DX推進と働き方改革が補完し合う冒頭でもお伝えしたとおり、DX推進と働き方改革は補完し合う関係にあり、どちらか一方がもう一方の推進力となります。「働き方改革を実現するためにはDX推進が必要」であり、これと同時に「DX推進によって働き方改革が実現する」という関係性です。上記の関係性を深く理解するために、まず「DX推進により働き方改革が実現できる理由」を説明します。DX推進の一環として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化やクラウドサービス・コミュニケーションツール導入によるリモートワークの促進などが図れます。これにより、業務の効率化と自動化が可能になり、従業員がより付加価値の高い仕事に集中できます。結果として、労働時間の是正や多様で柔軟な働き方の実現、労働生産性の向上が叶い、働き方改革の実現につながるのです。次に、「働き方改革を実現するためにDX推進が求められる理由」を説明します。働き方改革を進めるためには、まず現行の業務プロセスを見直し、改善点を洗い出す必要がありますが、そこでDX推進の必要性が浮かび上がります。例えば、働き方改革の一環として従業員のエンゲージメント強化を図るために、従業員満足度の測定や分析、向上に役立つシステムを導入するケースが挙げられます。具体的には、以下のようなデジタルツールの導入が考えられますが、これを最大限に活用するためにはDX推進が求められます。社員向けポータルサイトの導入エンゲージメントツール(※)の導入※エンゲージメントを改善させるためのツールで、「エンゲージメント度合いを測定するツール」や「エンゲージメントを向上させるためのツール」が存在するまた、働き方改革の一環として多様で柔軟な働き方を実現するには、リモートワーク環境の整備やフレックスタイム制度の導入が有効です。これらの実行にはクラウドサービス・コミュニケーションツールの導入が欠かせず、結果的にDX推進の施策が求められます。DX推進で働き方改革を実現する方法DX推進にあたって働き方改革の実現を目指す際は、主に以下の方法が採用されます。業務プロセスの可視化と最適化自動化ツールの導入クラウドサービスの活用データ分析とAIの活用リモートワーク環境の整備それぞれの方法について順番に解説します。業務プロセスの可視化と最適化DX推進の第一歩は、現在の業務プロセスを細かく把握し、可視化することです。これにより、業務の無駄や非効率な部分を特定し、改善すべきポイントを明確にします。現状の業務プロセスの把握・可視化には、業務のフローチャートを作成できるツール(例:Lucidchart、Microsoft Visio)の活用が効果的です。また、業務プロセスの改善方法としては、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)やLSS(リーンシックスシグマ)などを活用し、プロセスの再設計・最適化を進めると良いでしょう。なお、業務プロセスの可視化・最適化は、生成AIを活用することで、より効果的・効率的に行えるようになります。弊社、株式会社SIGNATEでは、生成AIに関するリテラシー及び活用スキルを座学とワークショップのハイブリッド形式で習得できる『生成AI活用スキル習得ワークショップ』を提供しています。生成AI活用のボトルネックである「生成AIを活用すべき業務プロセスの特定」と実務を題材にした「ChatGPTカスタムプロンプト開発」経験の蓄積に特化し、社内で生成AIを適切に活用かつ推進できる人材の発掘・育成を実現します。ご興味のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら自動化ツールの導入DX推進にあたって、以下のようなツールを導入することで、定型業務や繰り返し作業を自動化できます。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション):UiPathやBlue Prismなどの利用で、日常業務の自動化を実現できるチャットボット:ZendeskやIntercomなどの導入で、カスタマーサポートや内部コミュニケーションを自動化できるこれにより、従業員の負担を軽減し、より戦略的でクリエイティブな業務に集中できる環境を整えられます。その結果、労働時間の改善や労働生産性の向上が実現します。DX推進におけるRPA導入について、詳しくは以下の記事で解説しています。DX推進でRPAを導入するメリット・デメリット、ポイントや事例クラウドサービスの活用DX推進にあたって、以下のようなクラウドサービスを活用することで、データの共有やアクセスが容易になります。クラウドストレージ:Google DriveやDropboxなどの使用で、ファイルの共有・アクセスを簡便化できるコラボレーションツール:Microsoft TeamsやSlackなどの導入で、チーム間のコミュニケーションが円滑になるこれにより、リモートワークやフレックスワークが推進されます。結果として、多様で柔軟な働き方の実現につながります。DX推進におけるクラウド活用の必要性やメリットの詳細は、以下の記事で取り上げています。DXにクラウドはなぜ必要なのか?理由やメリット、種類を解説データ分析とAIの活用DX推進の一環として以下のようなツールを導入すれば、AI技術を活用したリアルタイムでのデータ分析が行えます。BIツール:TableauやPower BIなどの使用で、ビジネスインサイトを得るためのデータ分析を行えるAIツール:IBM WatsonやGoogle AIなどの使用で、データドリブンな意思決定をサポートするこれにより、業務の効率化や組織の意思決定の迅速化が図れます。結果的に、労働時間の是正や労働生産性の向上につながるでしょう。DXとAIの関係性や、DX推進にあたって効果的にAIを活用するポイント・注意点について、詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧いただくことをおすすめします。DXでAIは重要な技術!関係性、活用のポイント、注意点【事例あり】リモートワーク環境の整備DX推進の一環として、以下のような技術を活用すれば、リモートワークを導入するための環境整備を行えます。リモートアクセスソリューション:TeamViewerやAnyDeskなどの導入で、リモートアクセスを実現するセキュリティ対策:VPN(インターネット上に仮想の専用回線を設ける接続方式)や二要素認証(2FA)などの実装で、リモートワーク環境のセキュリティを確保するこれらの技術は、働き方改革の一つの目的である「多様で柔軟な働き方の実現」をサポートするものでもあります。DX推進で働き方改革を実現する流れ本章では、働き方改革を実現するためのDX推進の大まかな流れを、5つのステップに分けて説明します。現状把握と課題抽出DXビジョンの策定と推進計画の立案予算確保とツール選定DX施策の実行とモニタリング継続的な改善と適応なお、本記事で紹介するプロセスは、以下の記事「DXの進め方」で取り上げているステップと密接に関連しています。併せて把握することで、DX推進による働き方改革の実現をより効果的に目指せますので、以下の記事もご覧いただくことをおすすめします。DXの進め方とは?7つのステップと成功のポイントを解説ステップ1: 現状把握と課題抽出はじめに、業務プロセス・働き方の現状を把握・分析し、課題を特定します。これにより、DX推進および働き方改革における具体的な目標が明確になります。具体的には、まずフローチャート作図ツールや業務プロセスマッピングツールなどを活用して、現行の業務フローを可視化しましょう。その後、従業員からのフィードバックや業務データの分析などを踏まえて、現状の問題点や改善すべき箇所を特定します。本ステップの詳細は、「DXの進め方」記事の「ステップ2(現状把握と課題抽出)」で取り上げています。ステップ2: DXビジョンの策定と推進計画の立案前のステップで特定した課題を解決するためのDXビジョンを策定し、それを推進するための具体的な計画を立案します。DXビジョンの策定にあたって、まず自社におけるDX推進の具体的な目標(例:業務効率の向上、リモートワークの拡充)を設定しましょう。そのうえで、業務プロセスの自動化やクラウドサービスの導入など、DXの具体的な施策を決定します。これらに伴い、DX推進チームを編成し、役割・責任を明確にしておくことも大切です。本ステップを進める際は、「DXの進め方」記事の「ステップ1(DXのビジョンを策定)」と「ステップ3(推進チームの組織化とロードマップ策定)」も併せてご覧ください。ステップ3: 予算確保とツール選定策定した推進計画にもとづき、必要な予算を確保し、DX推進に役立つツールや技術を選定・導入します。当然ながら、DX推進の予算を確保した後は、適切な配分が肝要です。また、RPA、クラウドストレージ、コラボレーションツールなど、さまざまなツール・技術がありますが、自社のDXに必要なものを選定しましょう。本ステップの着手にあたっては、「DXの進め方」記事のステップ4(予算確保とITシステム・ベンダーの選定)をご参照ください。ステップ4: DX施策の実行とモニタリングDXに役立つツールおよび、推進計画にもとづく新たな業務プロセスを実際に運用し、その効果をモニタリングします。モニタリングを行う際は、KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に効果を測定・評価しましょう。併せて従業員からのツール使用や業務プロセス運用に関するフィードバックを収集し、必要に応じて改善を行うことが大切です。本ステップに取り組む際は、併せて「DXの進め方」記事のステップ5(DX施策の実行)とステップ6(評価と改善)もご覧いただくことをおすすめします。ステップ5: 継続的な改善と適応DX推進を通じた働き方改革実現のための取り組みは、一度実施しただけで成功するものではありません。継続的な改善を行い、最適な働き方を常に追求し続けることが、成功のカギを握っています。継続的な改善を図る際は、PDCAサイクル(※)を取り入れることが効果的です。※Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証型プロセスを循環させ、マネジメントの品質を高めようという概念。また、新しい技術やツールが登場した際には、適宜導入を検討するなど、最新技術の導入・活用に対する感度を高めておくことも大切です。併せて、継続的なトレーニングを実施し、DX人材として十分に活躍できるよう、従業員のスキルアップを図りましょう。これにより、全社でDX推進に取り組めるようになり、働き方改革の実現までのスピードを速められます。本ステップの詳細は、「DXの進め方」記事の「ステップ7(継続的な改善と適応)」でまとめています。まとめDX推進と働き方改革は相互補完の関係にあり、どちらか一方がもう一方の推進力となります。働き方改革を実現するためにはDX推進が必要であり、なおかつDX推進によって働き方改革が実現するという関係性です。今後、さらに多くの企業がDXおよび働き方改革を推進していくことで、より競争力のある経済環境が形成されることが期待されます。デジタル技術の進化はますます加速し、新しい働き方やビジネスモデルが次々と登場するでしょう。しかし、DXと働き方改革は一朝一夕に実現できるものではありません。企業全体での継続的な取り組みと、従業員一人ひとりの意識改革が求められます。そのためにも、常に最新の情報をキャッチし、柔軟に対応していく姿勢が重要です。